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あなたの正しい時間になりたい
トラブル
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澪緒は全速力で転がるように会社の打ち合わせ室に入る。
部屋に入るとすでに手前の席に柏木、奥に氷室が座っていた。
「ハァ、ハァ、お疲れ、さまです。ウッ、遅くなってすいません」
「すみません、呼び出してしまって」
「全然です。他社が参入してきたってどういうことですか」
どうにか自分を奮い立たせて澪緒は倒れ込むように柏木の隣に着席する。
遅れて副島が入ってくる。
「柏木、説明してくれるか」
副島が難しい顔をして口火を切った。
「はい。本日11時半頃『MINAXIS』広報部の高山さんから電話をいただきました。昨日、広報の方々とMINAXISが懇意にしている広告代理店の方が別件で打ち合わせをしていた中で新作発表会の話題が出たそうです。そこでワインボトルの話をしたところ、その代理店が今日の朝イチでボトルのラベルのデザイン10案と各案に付随する見積書をメールで送ってきたようです。金額も、我々が出しているものより若干安いようです」
「10案!?」
これには澪緒がびっくりした。
案件を横取りされそうな危機感とか提案の多さで驚いたのではない。
明確なコンセプトもポリシー何もない数打てば当たる方式のやり方のものが、何日もかけて考え抜いた自分の企画のライバルになりそうだったからだ。
「はい。10案です。我々は眉をしかめるような数ですが、先方の上司である佐伯部長が質より量的な考え方をされるようで、喜んでいるということです。電話をくださった高山さんは新人のためその場で佐伯部長を説き伏せることができず、でもワインボトルは有川デザインオフィスが提案して進めてくれてる企画なのに他社に横取りさせるのは忍びないと言って急いで自分宛てに連絡をくださいました」
「新人らしい正義感だな。こっちの進捗はどうだったんだ?」
「配布するワインが決定してました。先週、MINAXISへ行って実際に数種類のワインをワインクーラーに入れてみて…あの時は佐伯部長も協力的だったのですが」
「なるほどな…で、MINAXISからの要望は?」
「はい。その上司から1日猶予をもらったので本日中に有川デザインオフィス側からも3案デザイン案をくれという要求でした。モノを見れば佐伯部長の気持ちも変わるかもしれないと」
「今日!?」
澪緒は慌てる。本来の締切はあと1週間も先だ。
「澪緒ちゃん、進捗は?」
「全然です…今週から本腰入れてやろうと思ってました。メーカーの太いゴシックのロゴと、新作発表会の華やかさを出すデザインがどうしても噛み合わなくて苦戦中です」
「あ、いま高山さんから他社の制作した10案のpdfと案別の見積書が送られてきました」
柏木がPCの画面を、上座に座る副島と氷室に向ける。
「凡庸だな」
副島の率直な意見に全員が無言で同調する。
澪緒が見ても凡庸だった。
無料のデザインテンプレートにロゴを当てはめただけのような案。
しかし自分たちから見て凡庸であっても、先方も同じように感じてるとは限らない。
数式と違って確実な正解がないのがデザインだ。
「澁澤さんの頭の中にあるプランを教えてください」
柏木が質問してきた。
「あ、はい。まず新作発表会という晴れの日に華やかさを添えるもの。そしてどこかにHINAXISの思いや歴史を感じるもの。そういう案が、作りたいと思ってました」
「思いや歴史…」
「柏木、今日中と言ってもリミットは何時だ」
「18時です」
「あと6時間か。手分けするか、澁澤。俺が1案、澁澤が2案」
澪緒の本来の予定では珠玉の1案を提出する予定だった。デザイン案をpdfで送るだけじゃなくて、出来上がったデザイン案。会社のプリンターで印刷して、ワインボトルに仮留めして先方も実際のイメージがつきやすいようにした上で再度MINAXIS広報部に足を運ぶつもりだった。
数でごまかすようなやり方は好きじゃない。
でもクライアントの要望ならやるしかない。
澪緒は副島に向けて深々とお辞儀をする。
「お願いします。お忙しいところすみません」
6時間。
手慣れたデザインでそれっぽく作り上げてしまうことは余裕でできる。
でもそんなものを作りたくないしデザイナーとしてのプライドが許さない。
制作室のデスクに戻る。
「澁澤、生きているか?」
「死んでます…」
半泣きでPCを起動し、すぐラベルのデータを開く。
作業画面の端に配置してるメーカーのロゴ。
太字の黒で『MINAXIS』。そのロゴを選択して、あらかじめデザインしていた金色の五角形の枠の中に入れてみる。
「やっぱり全然合わない…」
模様の繊細さがロゴに負けているしそもそも合わない。
「澁澤、これ参考にできそうだったら。あと俺いま手ェ空いてるから何かあったら言え?」
先輩の井上が数冊のデザイン指南書を持ってきてくれた。
「澁澤さん、これ、ラベルの紙見本!ファイト!」
後輩女子の三谷さんが分厚い紙見本を広げてくれる。
「みんなありがとうございますぅ…」
震える指で指南書のページをめくる。
太字のロゴを使ったデザインを見てみるとやはり太字のカッコ良さを生かした案が多い。
考え方が間違えているんだろうか。
太字のロゴを生かした案にすべきなんだろうか。でもそれじゃマッチしすぎて『MINAXIS』がサイドビジネスでワインの製造に乗り出したようなへんてこな印象がある。
焦る。
頭がこんがらがる。
足元から迫り上がってくるような不安をどうすることもできない。
「澪緒」
デスクをかき分けて柏木がやって来る。
「6時間で2案は、現実的に作れるものなのか?」
「できなくはないけど…こういうコンセプチュアルなものは普段ならもう少し時間かける…」
すでに泣きそうだ。柏木の目が澪緒のPCの画面にロックオンする。
最近澪緒の影響でデザインの一端を理解するようになった柏木は、PCの画面にあるロゴが澪緒の作りたいものと掛け離れていることを察知する。
「井上さん」
柏木の鋭い目が井上を捉える。普段あまり柏木と交流のない井上は名前を呼ばれその迫力に一歩身を引く。
「お、おう?どした?」
柏木が椅子から立ち上がる。
そして軍隊のような90度のお辞儀をする。
ビシッ!と音がしそうな迫力。
「澁澤さんが作る予定の2案の内の1案、井上さんに作っていただけないでしょうか!」
「えっ」
突然の申し出に井上だけでなく澪緒も驚く。
「は?俺?なんで?いやいや、やりたくないなわけじゃないよ?澁澤じゃなくていいの?てか理由は?」
「澁澤さんには残り5時間50分、澁澤さんのビジョンに忠実な1案を集中して作ってほしいんです。2案だとどうしても無駄なリソースが発生する」
柏木は90度のお辞儀をしたまま井上に願い出る。
「そういう事なら大丈夫だけど、澁澤的にはそれオッケーなの?」
「先輩の案が採用されたら、やっぱ井上パイセン、俺の師匠って思うことにますぅ…」
「いつも思っとけ!分かった。じゃあ俺はカッコいい系のでいく。澁澤の案と被らないか?」
「はい。俺の案は柔らかめなんで被らないです」
「了解!」
井上は快諾してすぐに自分のデスクに戻る。
1案に集中できるのはいいけど、分業すれば他人の案が採用される可能性もある。
それでも、1案に集中できるのはありがたかった。
再度PCに向き合う。
さっきロゴを配置したものを見る。
自分の中にあるプランとは掛け離れているそれを思い切って全消去する。
一旦デザインから離れ、MINAXISのホームページを開くき企業情報に目を通す。
初めて依頼のあった会社には、その会社を知るためにには必ず読む箇所だ。
会社の経営理念、『感謝の心で創造』
手元にロッキー状を広げてキーワードになる単語を書き出していく。
ペンで感謝、と信頼、と描く。
感謝の心ーー『ありがとう』?
そう思ってノートにフリーハンドで描いた四角の上にMINAXISのロゴを書き、その下に『ありがとう』とラフスケッチをしてみる。
なんかコワイ。
速攻却下する。
社史をクリックし会社の歴史に目を通す。
プレゼンの前にも目を通してはいたが、今度はデザインのヒントを探す視点から目を通す。
MINAXISの創業は1900年代初頭。
家電メーカーのイメージが強いMINAXISだが、創業当時は樹脂の生産という今とは全く異なる事業から始めていた。
1930年代、日本初の家庭用電気冷蔵庫を製造。当時はまだ高価で一般市民の手に届くような商品ではなかった。
日本初。
国内初家製品のパイオニア。
白物家電でトップシェア。
ちなみに今回の冷蔵庫は徹底的にリサーチを重ね生み出した待望のモデルチェンジバージョン。
事前打ち合わせの時、広報部の人は初心に戻ってまっさらな気持ちで挑みたいと言っていた。
『白物家電』と『まっさら』を丸で囲み線でつなぐ。
ラベルの紙見本の上に特色の白の色チップを置いてみる。
紙の白の上に白の特色。
「あっ」
手ごたえはあった。アイデアとしては面白い。
だが視認性が悪い。
もう一度紙見本を開く。
残念ながら、何も思い浮かばない。
アイディアのヒントになる要素がまだ少ないのか。
時間だけがどんどん過ぎていく。
ぎゅっと目を閉じてもう一度開けると、近くのカフェから買ってきたと思われる大好きなカフェラテが澪緒のデスクに載っていた。
「澪緒、調子はどうだ?」
柏木が買ってきてくれたものだった。
「理緋都…ありがとう。まだ全然」
「そうか。さっき副島部長から1案上がってきた。とりあえず今日MINAXISに出せるものはできたから安心しろ」
A4用紙にプリントされた副島のデザイン案。
澪緒の視点とはまた違ったもの。
配る予定のワインを全て白ワインにするのではなく、白と赤の半々にして、赤ワインのラベルはMINAXISのロゴが薄い紫、白ワインの方はロゴが水色になってるという、受け取る側の嗜好に焦点を当てた案だった。
この短時間で澪緒の案とかぶらないようにしつつ新作発表会の意図に合った企画。
「すごい…」
澪緒は思わずうなる。
さっき澪緒から別れを告げられたことなど微塵も感じさせないクオリティ。
心は大荒れであるはずなのに、一切私情を挟まない芯の通った副島の案を目にして先程の別れを後悔するような気持ちが澪緒を襲う。
やはり自分はもう少しあの人の側にいて学びを得るべきなのではないか。
いや、でも副島の体を受け入れることはできなかった。
でもーー。
「澪緒」
凛々しい声が澪緒を呼ぶ。
「副島部長の案は素晴らしい。でも俺はお前の“MINAXISの思いや歴史を感じるもの“という案が見たい」
「……」
「超えられないと思うのはお前の思い込みだ。超えられないものを超えてこそ、人間は成長する。それでようやくお前は独り立ちできる」
「思い込み?」
「そうだ」
難破船で漂流しているような澪緒を導くような柏木。
ここで堂々と不倫なんて言えないからオブラートに包んだ表現で澪緒を励ましてくれるバディ。
澪緒はカフェラテを一口飲む。
柔らかい甘さが喉を駆け抜けていく。
澪緒は柏木に支えられながら副島にも寄りかかろうとする自分を思いきり叱咤する。
これが終わったらどんな罰でも受ける。
心を正して、今は柏木のバディとして心を切り替える。
「理緋都は…理緋都は最近嬉しかったことってある?何でもいい。出来事でも、言われたことでも」
「あるぞ」
「何?」
「澪緒に愛してると言ったら、お前がありがとうと答えてくれたことだ」
「ブッ!!!!」
隣の井上がコーヒーを吹いた。キーボードに落ちた茶色い水滴を慌てて近くのティッシュで拭き取る。
目の高さのパーテーションの向こうにいる三谷さんから「こちらこそありがとうございます!」と声がかかる。
「ありがとう?」
「そうだ。愛してると言うのはとても勇気がいることだ。付き合う、付き合わないの答えは出ないけど同性の俺の気持ちを受け止めてもらえたことが、とても嬉しかった」
「ありがとう…」
なぜか三谷が泣きそうだ。
澪緒はさっきのラフスケッチに視線を落とす。意識を集中させる。
白物家電、感謝、白の紙の上に白いインク。
もう少しでたどり着けそうだ。
柏木の家に遊びに行って、最寄り駅で別れた日のことを思い出す。
愛してる。
ありがとう。
とてもシンプルな気持ちだった。
あの時も、もう何もいらないと思えるくらいまっさらな気持ちになった。
「あっ…なぁ、ラベルにはロゴを使わないと、って思ってたんだけど、ロゴを使えっていう指示なかったよな?」
「無いぞ。指示らしい指示と言えば、澁澤さんにお任せ!ってことだけだ」
考え方が間違っていたのは、デザインではなく発想そのものだった。
「じゃあ例えばラベルのメインにthank youって入ってても問題ないわけだよな」
「ああ、問題ない。メルシーでも謝謝でも穴開けても、煮ても焼いてもOKだ」
「そっか。でもこれみよがしにthank youって入ってるのは目立ちすぎだ。なんかもうちょっとこう…控えめに」
「炙ったら出てくるとか?」
「それ行き詰まったデザイナーがよく言うやつ。でもそのくらいの控えめな感じが理想。やりたいのは、紙の『白』を強調して白物家電を連想させたい。白物家電のパイオニアである歴史を強調しつつ、今日発表会に来てくれてありがとうって気持ちと、経営理念の『感謝の心で創造』という二つの意味の『ありがとう』をデザインに落とし込みたい」
「素敵!白ワインなら全体的な統一感もありますもんね」
三谷が拍手する。
「白ずくめだから白無垢やウェディングドレスっぽい華やかさ感じる。澪緒が言ってた新作発表会に華を添えるもの、というコンセプトも満たしてるじゃないか」
意外に乙女な感想は柏木。
澪緒は考える。
ウェディングドレス。
ティアラ。リボン。
レース。
「きたぁぁぁぁっっっ!!」
そしてそれはついに、降ってきた。
ウェディングドレス、PCで検索して華やかなレース模様のパターンを次々と頭に叩き込む。
興奮で呼吸が浅くなる。
クロッキー帳にラフスケッチをする。
縦に回転させた『Thank you』の周囲にレース模様を描き込んでみる。
いける。
試しに日本語の『ありがとう』でもスケッチしてみる。一気に結婚式の引き出物感が出てしまう。
やっぱりここは『Thank you』一択だろう。
生まれたての小鹿のような足取りで制作室の壁一面にの本棚から活版印刷の見本帳を取り出す。
印刷で文字を表現するんじゃない。
紙をプレスして凹凸で表現するんだ。
見本帳のページをめくる。凹凸の手触り。
これだ。
「きたか?」
井上が澪緒に問いかける。
「きました。あの、先輩、この活版印刷みたいに、文字や模様をボコって出す感じの加工って、この世に存在しますか?」
「落ち着け、澁澤。文字や模様をボコって出す感じの加工はこの世に存在する。活版印刷の他にはエンボス加工が近いと思う」
「活版印刷とエンボス加工両方やってる印刷所って我が国にありますかね?」
「我が国になかったらどの国にも無い。とりあえず島村印刷の夏目さんに電話してみよう。もし夏目さんのところで活版印刷やってなくても活版印刷やってるとこを紹介してもらえるかもしれないし」
「電話してみます」
それまで静かに澪緒を見守っていた柏木がその場で夏目に電話をかけ始める。
白で風合いがある紙に、太めのフォントで縦書きでThank youと入れる。
Thank youの文字は印刷しない。
紙をプレスして『Thank you』という文字と文字を囲むようなレース模様に凹ませるか浮き立たせるかのどちらかで控えめながらも豪華な見栄えにする。
その手法と紙の厚みの最適解を印刷所と相談する。またそれをラベルシールにできるのかも。シールにできないとしたら、代替案になりそうなものはあるのかも。
そして紙袋にも同じ加工をして統一感を出す。
頭の中で想像してみる。
うん、いける。
「夏目さん電話つながりました。ちょうど営業周り中で有川デザインオフィスの近くにいるから今から来てくれるそうです」
柏木が叫んだ。
電話で事情を聞いた島村印刷の夏目が駆け込んでくるように有川デザインオフィスにやってきた。
夏目は営業車から大量のラベルの紙見本や実際の制作物を持ってきて打ち合わせ室の机の上に置き、怒涛の打ち合わせが始まる。
有川デザインオフィス側の参加者は澪緒、副島、井上。本来なら参加しなくてもよい柏木。
しかし柏木の同席に異論を唱えるものなどいなかった。緊急事態すぎてそれどころではないからだ。
柏木は『勉強させていただきます』と夏目に断って紙見本に触れながら打ち合わせに耳を傾けた。
「…なるほど。澁澤さんの案は理解いたしました。大変素敵だと思います。この場合、レース模様部分は加熱型押し加工がいいと思います」
「加熱型押し加工…とは?」
澪緒が身を乗り出す。
「そうですね、たとえば…たい焼きの型ってあるじゃないですか。魚の模様がつく金型。ああいう感じで模様の入った金型で紙をプレスするんです。そうすると金型の部分だけに立体感のある模様が出ます。正式に言うと加熱された凸版でで特殊紙にギュっと圧力をかけ凸凹をつくる加工方法ですね。出来上がりはこの見本帳にあるように表現されます。選ぶ紙によっては少し透過したようにすることもできます。とても綺麗ですよ」
そう言って加工の見本帳の中から加熱型押し加工を探し出し澪緒に提示した。
「うわっ!綺麗!」
和風の菊の模様の花びらの部分が凹んでいて、村山の言う通りデザイナーではない柏木が見ても心から『綺麗』と感想が出るものだった。
柏木の目にその美しさは澪緒の美しさとも重なった。美しい人間は発想も美しいと心の隅で思う。
「しかし澁澤さん。問題は、本日中にラベルと紙袋の加工のサンプルが作れないところです。クライアント様にこの印刷の良さが伝わるかどうか」
「ですよね…」
「とりあえず黒一色でデザインを作って、それに加熱型押し加工のサンプル画像やURLを送ろう。インクでなく凹凸で模様を表すことを説明できれば、十分魅力は伝わる。これを見ても他社の案に即決するような事態には、さすがにならないんじゃないか?」
肩を落とす澪緒に副島が助言する。
紙を触っていた柏木が挙手する。
「そこは私が頑張ります。こんな事態もあるかなと思って、17時にMINAXIS広報部の高山さんとアポ取ってます」
「えっ!?」
「ブッ!!!!」
澪緒の隣で井上がまたコーヒーを吹いた。
「柏木さん!案ができなかったら空振りじゃないですか。どうするつもりだったんですか!」
「澁澤さんと副島部長の才能ある2人がいて何も案が出せないってことはないと思いまして。普通にメールじゃなく、実物持って行くつもりでいました」
褒められたにも関わらず副島は勝負に負けたような顔をして黙っていた。
「柏木さん…ちょっと凄すぎて気持ち悪いですね」
「よく言われます。澪緒、作業時間が若干少なくなるけど大丈夫か?」
「もちろん!あと1時間でなんとかいける。模様部分の詰めの作業は案が通ってから…」
「自信を持て。この案はいける。なんなら17時のアポ一緒に行くか?他社が量で勝負ならこっちは質で勝負だ、相棒」
「行く!」
柏木が拳を出す。澪緒はその拳に自分の拳を当てる。
残りあと2時間半。
結果は、天に任せる。
部屋に入るとすでに手前の席に柏木、奥に氷室が座っていた。
「ハァ、ハァ、お疲れ、さまです。ウッ、遅くなってすいません」
「すみません、呼び出してしまって」
「全然です。他社が参入してきたってどういうことですか」
どうにか自分を奮い立たせて澪緒は倒れ込むように柏木の隣に着席する。
遅れて副島が入ってくる。
「柏木、説明してくれるか」
副島が難しい顔をして口火を切った。
「はい。本日11時半頃『MINAXIS』広報部の高山さんから電話をいただきました。昨日、広報の方々とMINAXISが懇意にしている広告代理店の方が別件で打ち合わせをしていた中で新作発表会の話題が出たそうです。そこでワインボトルの話をしたところ、その代理店が今日の朝イチでボトルのラベルのデザイン10案と各案に付随する見積書をメールで送ってきたようです。金額も、我々が出しているものより若干安いようです」
「10案!?」
これには澪緒がびっくりした。
案件を横取りされそうな危機感とか提案の多さで驚いたのではない。
明確なコンセプトもポリシー何もない数打てば当たる方式のやり方のものが、何日もかけて考え抜いた自分の企画のライバルになりそうだったからだ。
「はい。10案です。我々は眉をしかめるような数ですが、先方の上司である佐伯部長が質より量的な考え方をされるようで、喜んでいるということです。電話をくださった高山さんは新人のためその場で佐伯部長を説き伏せることができず、でもワインボトルは有川デザインオフィスが提案して進めてくれてる企画なのに他社に横取りさせるのは忍びないと言って急いで自分宛てに連絡をくださいました」
「新人らしい正義感だな。こっちの進捗はどうだったんだ?」
「配布するワインが決定してました。先週、MINAXISへ行って実際に数種類のワインをワインクーラーに入れてみて…あの時は佐伯部長も協力的だったのですが」
「なるほどな…で、MINAXISからの要望は?」
「はい。その上司から1日猶予をもらったので本日中に有川デザインオフィス側からも3案デザイン案をくれという要求でした。モノを見れば佐伯部長の気持ちも変わるかもしれないと」
「今日!?」
澪緒は慌てる。本来の締切はあと1週間も先だ。
「澪緒ちゃん、進捗は?」
「全然です…今週から本腰入れてやろうと思ってました。メーカーの太いゴシックのロゴと、新作発表会の華やかさを出すデザインがどうしても噛み合わなくて苦戦中です」
「あ、いま高山さんから他社の制作した10案のpdfと案別の見積書が送られてきました」
柏木がPCの画面を、上座に座る副島と氷室に向ける。
「凡庸だな」
副島の率直な意見に全員が無言で同調する。
澪緒が見ても凡庸だった。
無料のデザインテンプレートにロゴを当てはめただけのような案。
しかし自分たちから見て凡庸であっても、先方も同じように感じてるとは限らない。
数式と違って確実な正解がないのがデザインだ。
「澁澤さんの頭の中にあるプランを教えてください」
柏木が質問してきた。
「あ、はい。まず新作発表会という晴れの日に華やかさを添えるもの。そしてどこかにHINAXISの思いや歴史を感じるもの。そういう案が、作りたいと思ってました」
「思いや歴史…」
「柏木、今日中と言ってもリミットは何時だ」
「18時です」
「あと6時間か。手分けするか、澁澤。俺が1案、澁澤が2案」
澪緒の本来の予定では珠玉の1案を提出する予定だった。デザイン案をpdfで送るだけじゃなくて、出来上がったデザイン案。会社のプリンターで印刷して、ワインボトルに仮留めして先方も実際のイメージがつきやすいようにした上で再度MINAXIS広報部に足を運ぶつもりだった。
数でごまかすようなやり方は好きじゃない。
でもクライアントの要望ならやるしかない。
澪緒は副島に向けて深々とお辞儀をする。
「お願いします。お忙しいところすみません」
6時間。
手慣れたデザインでそれっぽく作り上げてしまうことは余裕でできる。
でもそんなものを作りたくないしデザイナーとしてのプライドが許さない。
制作室のデスクに戻る。
「澁澤、生きているか?」
「死んでます…」
半泣きでPCを起動し、すぐラベルのデータを開く。
作業画面の端に配置してるメーカーのロゴ。
太字の黒で『MINAXIS』。そのロゴを選択して、あらかじめデザインしていた金色の五角形の枠の中に入れてみる。
「やっぱり全然合わない…」
模様の繊細さがロゴに負けているしそもそも合わない。
「澁澤、これ参考にできそうだったら。あと俺いま手ェ空いてるから何かあったら言え?」
先輩の井上が数冊のデザイン指南書を持ってきてくれた。
「澁澤さん、これ、ラベルの紙見本!ファイト!」
後輩女子の三谷さんが分厚い紙見本を広げてくれる。
「みんなありがとうございますぅ…」
震える指で指南書のページをめくる。
太字のロゴを使ったデザインを見てみるとやはり太字のカッコ良さを生かした案が多い。
考え方が間違えているんだろうか。
太字のロゴを生かした案にすべきなんだろうか。でもそれじゃマッチしすぎて『MINAXIS』がサイドビジネスでワインの製造に乗り出したようなへんてこな印象がある。
焦る。
頭がこんがらがる。
足元から迫り上がってくるような不安をどうすることもできない。
「澪緒」
デスクをかき分けて柏木がやって来る。
「6時間で2案は、現実的に作れるものなのか?」
「できなくはないけど…こういうコンセプチュアルなものは普段ならもう少し時間かける…」
すでに泣きそうだ。柏木の目が澪緒のPCの画面にロックオンする。
最近澪緒の影響でデザインの一端を理解するようになった柏木は、PCの画面にあるロゴが澪緒の作りたいものと掛け離れていることを察知する。
「井上さん」
柏木の鋭い目が井上を捉える。普段あまり柏木と交流のない井上は名前を呼ばれその迫力に一歩身を引く。
「お、おう?どした?」
柏木が椅子から立ち上がる。
そして軍隊のような90度のお辞儀をする。
ビシッ!と音がしそうな迫力。
「澁澤さんが作る予定の2案の内の1案、井上さんに作っていただけないでしょうか!」
「えっ」
突然の申し出に井上だけでなく澪緒も驚く。
「は?俺?なんで?いやいや、やりたくないなわけじゃないよ?澁澤じゃなくていいの?てか理由は?」
「澁澤さんには残り5時間50分、澁澤さんのビジョンに忠実な1案を集中して作ってほしいんです。2案だとどうしても無駄なリソースが発生する」
柏木は90度のお辞儀をしたまま井上に願い出る。
「そういう事なら大丈夫だけど、澁澤的にはそれオッケーなの?」
「先輩の案が採用されたら、やっぱ井上パイセン、俺の師匠って思うことにますぅ…」
「いつも思っとけ!分かった。じゃあ俺はカッコいい系のでいく。澁澤の案と被らないか?」
「はい。俺の案は柔らかめなんで被らないです」
「了解!」
井上は快諾してすぐに自分のデスクに戻る。
1案に集中できるのはいいけど、分業すれば他人の案が採用される可能性もある。
それでも、1案に集中できるのはありがたかった。
再度PCに向き合う。
さっきロゴを配置したものを見る。
自分の中にあるプランとは掛け離れているそれを思い切って全消去する。
一旦デザインから離れ、MINAXISのホームページを開くき企業情報に目を通す。
初めて依頼のあった会社には、その会社を知るためにには必ず読む箇所だ。
会社の経営理念、『感謝の心で創造』
手元にロッキー状を広げてキーワードになる単語を書き出していく。
ペンで感謝、と信頼、と描く。
感謝の心ーー『ありがとう』?
そう思ってノートにフリーハンドで描いた四角の上にMINAXISのロゴを書き、その下に『ありがとう』とラフスケッチをしてみる。
なんかコワイ。
速攻却下する。
社史をクリックし会社の歴史に目を通す。
プレゼンの前にも目を通してはいたが、今度はデザインのヒントを探す視点から目を通す。
MINAXISの創業は1900年代初頭。
家電メーカーのイメージが強いMINAXISだが、創業当時は樹脂の生産という今とは全く異なる事業から始めていた。
1930年代、日本初の家庭用電気冷蔵庫を製造。当時はまだ高価で一般市民の手に届くような商品ではなかった。
日本初。
国内初家製品のパイオニア。
白物家電でトップシェア。
ちなみに今回の冷蔵庫は徹底的にリサーチを重ね生み出した待望のモデルチェンジバージョン。
事前打ち合わせの時、広報部の人は初心に戻ってまっさらな気持ちで挑みたいと言っていた。
『白物家電』と『まっさら』を丸で囲み線でつなぐ。
ラベルの紙見本の上に特色の白の色チップを置いてみる。
紙の白の上に白の特色。
「あっ」
手ごたえはあった。アイデアとしては面白い。
だが視認性が悪い。
もう一度紙見本を開く。
残念ながら、何も思い浮かばない。
アイディアのヒントになる要素がまだ少ないのか。
時間だけがどんどん過ぎていく。
ぎゅっと目を閉じてもう一度開けると、近くのカフェから買ってきたと思われる大好きなカフェラテが澪緒のデスクに載っていた。
「澪緒、調子はどうだ?」
柏木が買ってきてくれたものだった。
「理緋都…ありがとう。まだ全然」
「そうか。さっき副島部長から1案上がってきた。とりあえず今日MINAXISに出せるものはできたから安心しろ」
A4用紙にプリントされた副島のデザイン案。
澪緒の視点とはまた違ったもの。
配る予定のワインを全て白ワインにするのではなく、白と赤の半々にして、赤ワインのラベルはMINAXISのロゴが薄い紫、白ワインの方はロゴが水色になってるという、受け取る側の嗜好に焦点を当てた案だった。
この短時間で澪緒の案とかぶらないようにしつつ新作発表会の意図に合った企画。
「すごい…」
澪緒は思わずうなる。
さっき澪緒から別れを告げられたことなど微塵も感じさせないクオリティ。
心は大荒れであるはずなのに、一切私情を挟まない芯の通った副島の案を目にして先程の別れを後悔するような気持ちが澪緒を襲う。
やはり自分はもう少しあの人の側にいて学びを得るべきなのではないか。
いや、でも副島の体を受け入れることはできなかった。
でもーー。
「澪緒」
凛々しい声が澪緒を呼ぶ。
「副島部長の案は素晴らしい。でも俺はお前の“MINAXISの思いや歴史を感じるもの“という案が見たい」
「……」
「超えられないと思うのはお前の思い込みだ。超えられないものを超えてこそ、人間は成長する。それでようやくお前は独り立ちできる」
「思い込み?」
「そうだ」
難破船で漂流しているような澪緒を導くような柏木。
ここで堂々と不倫なんて言えないからオブラートに包んだ表現で澪緒を励ましてくれるバディ。
澪緒はカフェラテを一口飲む。
柔らかい甘さが喉を駆け抜けていく。
澪緒は柏木に支えられながら副島にも寄りかかろうとする自分を思いきり叱咤する。
これが終わったらどんな罰でも受ける。
心を正して、今は柏木のバディとして心を切り替える。
「理緋都は…理緋都は最近嬉しかったことってある?何でもいい。出来事でも、言われたことでも」
「あるぞ」
「何?」
「澪緒に愛してると言ったら、お前がありがとうと答えてくれたことだ」
「ブッ!!!!」
隣の井上がコーヒーを吹いた。キーボードに落ちた茶色い水滴を慌てて近くのティッシュで拭き取る。
目の高さのパーテーションの向こうにいる三谷さんから「こちらこそありがとうございます!」と声がかかる。
「ありがとう?」
「そうだ。愛してると言うのはとても勇気がいることだ。付き合う、付き合わないの答えは出ないけど同性の俺の気持ちを受け止めてもらえたことが、とても嬉しかった」
「ありがとう…」
なぜか三谷が泣きそうだ。
澪緒はさっきのラフスケッチに視線を落とす。意識を集中させる。
白物家電、感謝、白の紙の上に白いインク。
もう少しでたどり着けそうだ。
柏木の家に遊びに行って、最寄り駅で別れた日のことを思い出す。
愛してる。
ありがとう。
とてもシンプルな気持ちだった。
あの時も、もう何もいらないと思えるくらいまっさらな気持ちになった。
「あっ…なぁ、ラベルにはロゴを使わないと、って思ってたんだけど、ロゴを使えっていう指示なかったよな?」
「無いぞ。指示らしい指示と言えば、澁澤さんにお任せ!ってことだけだ」
考え方が間違っていたのは、デザインではなく発想そのものだった。
「じゃあ例えばラベルのメインにthank youって入ってても問題ないわけだよな」
「ああ、問題ない。メルシーでも謝謝でも穴開けても、煮ても焼いてもOKだ」
「そっか。でもこれみよがしにthank youって入ってるのは目立ちすぎだ。なんかもうちょっとこう…控えめに」
「炙ったら出てくるとか?」
「それ行き詰まったデザイナーがよく言うやつ。でもそのくらいの控えめな感じが理想。やりたいのは、紙の『白』を強調して白物家電を連想させたい。白物家電のパイオニアである歴史を強調しつつ、今日発表会に来てくれてありがとうって気持ちと、経営理念の『感謝の心で創造』という二つの意味の『ありがとう』をデザインに落とし込みたい」
「素敵!白ワインなら全体的な統一感もありますもんね」
三谷が拍手する。
「白ずくめだから白無垢やウェディングドレスっぽい華やかさ感じる。澪緒が言ってた新作発表会に華を添えるもの、というコンセプトも満たしてるじゃないか」
意外に乙女な感想は柏木。
澪緒は考える。
ウェディングドレス。
ティアラ。リボン。
レース。
「きたぁぁぁぁっっっ!!」
そしてそれはついに、降ってきた。
ウェディングドレス、PCで検索して華やかなレース模様のパターンを次々と頭に叩き込む。
興奮で呼吸が浅くなる。
クロッキー帳にラフスケッチをする。
縦に回転させた『Thank you』の周囲にレース模様を描き込んでみる。
いける。
試しに日本語の『ありがとう』でもスケッチしてみる。一気に結婚式の引き出物感が出てしまう。
やっぱりここは『Thank you』一択だろう。
生まれたての小鹿のような足取りで制作室の壁一面にの本棚から活版印刷の見本帳を取り出す。
印刷で文字を表現するんじゃない。
紙をプレスして凹凸で表現するんだ。
見本帳のページをめくる。凹凸の手触り。
これだ。
「きたか?」
井上が澪緒に問いかける。
「きました。あの、先輩、この活版印刷みたいに、文字や模様をボコって出す感じの加工って、この世に存在しますか?」
「落ち着け、澁澤。文字や模様をボコって出す感じの加工はこの世に存在する。活版印刷の他にはエンボス加工が近いと思う」
「活版印刷とエンボス加工両方やってる印刷所って我が国にありますかね?」
「我が国になかったらどの国にも無い。とりあえず島村印刷の夏目さんに電話してみよう。もし夏目さんのところで活版印刷やってなくても活版印刷やってるとこを紹介してもらえるかもしれないし」
「電話してみます」
それまで静かに澪緒を見守っていた柏木がその場で夏目に電話をかけ始める。
白で風合いがある紙に、太めのフォントで縦書きでThank youと入れる。
Thank youの文字は印刷しない。
紙をプレスして『Thank you』という文字と文字を囲むようなレース模様に凹ませるか浮き立たせるかのどちらかで控えめながらも豪華な見栄えにする。
その手法と紙の厚みの最適解を印刷所と相談する。またそれをラベルシールにできるのかも。シールにできないとしたら、代替案になりそうなものはあるのかも。
そして紙袋にも同じ加工をして統一感を出す。
頭の中で想像してみる。
うん、いける。
「夏目さん電話つながりました。ちょうど営業周り中で有川デザインオフィスの近くにいるから今から来てくれるそうです」
柏木が叫んだ。
電話で事情を聞いた島村印刷の夏目が駆け込んでくるように有川デザインオフィスにやってきた。
夏目は営業車から大量のラベルの紙見本や実際の制作物を持ってきて打ち合わせ室の机の上に置き、怒涛の打ち合わせが始まる。
有川デザインオフィス側の参加者は澪緒、副島、井上。本来なら参加しなくてもよい柏木。
しかし柏木の同席に異論を唱えるものなどいなかった。緊急事態すぎてそれどころではないからだ。
柏木は『勉強させていただきます』と夏目に断って紙見本に触れながら打ち合わせに耳を傾けた。
「…なるほど。澁澤さんの案は理解いたしました。大変素敵だと思います。この場合、レース模様部分は加熱型押し加工がいいと思います」
「加熱型押し加工…とは?」
澪緒が身を乗り出す。
「そうですね、たとえば…たい焼きの型ってあるじゃないですか。魚の模様がつく金型。ああいう感じで模様の入った金型で紙をプレスするんです。そうすると金型の部分だけに立体感のある模様が出ます。正式に言うと加熱された凸版でで特殊紙にギュっと圧力をかけ凸凹をつくる加工方法ですね。出来上がりはこの見本帳にあるように表現されます。選ぶ紙によっては少し透過したようにすることもできます。とても綺麗ですよ」
そう言って加工の見本帳の中から加熱型押し加工を探し出し澪緒に提示した。
「うわっ!綺麗!」
和風の菊の模様の花びらの部分が凹んでいて、村山の言う通りデザイナーではない柏木が見ても心から『綺麗』と感想が出るものだった。
柏木の目にその美しさは澪緒の美しさとも重なった。美しい人間は発想も美しいと心の隅で思う。
「しかし澁澤さん。問題は、本日中にラベルと紙袋の加工のサンプルが作れないところです。クライアント様にこの印刷の良さが伝わるかどうか」
「ですよね…」
「とりあえず黒一色でデザインを作って、それに加熱型押し加工のサンプル画像やURLを送ろう。インクでなく凹凸で模様を表すことを説明できれば、十分魅力は伝わる。これを見ても他社の案に即決するような事態には、さすがにならないんじゃないか?」
肩を落とす澪緒に副島が助言する。
紙を触っていた柏木が挙手する。
「そこは私が頑張ります。こんな事態もあるかなと思って、17時にMINAXIS広報部の高山さんとアポ取ってます」
「えっ!?」
「ブッ!!!!」
澪緒の隣で井上がまたコーヒーを吹いた。
「柏木さん!案ができなかったら空振りじゃないですか。どうするつもりだったんですか!」
「澁澤さんと副島部長の才能ある2人がいて何も案が出せないってことはないと思いまして。普通にメールじゃなく、実物持って行くつもりでいました」
褒められたにも関わらず副島は勝負に負けたような顔をして黙っていた。
「柏木さん…ちょっと凄すぎて気持ち悪いですね」
「よく言われます。澪緒、作業時間が若干少なくなるけど大丈夫か?」
「もちろん!あと1時間でなんとかいける。模様部分の詰めの作業は案が通ってから…」
「自信を持て。この案はいける。なんなら17時のアポ一緒に行くか?他社が量で勝負ならこっちは質で勝負だ、相棒」
「行く!」
柏木が拳を出す。澪緒はその拳に自分の拳を当てる。
残りあと2時間半。
結果は、天に任せる。
10
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