【完結】あなたの正しい時間になりたい〜上司に囚われた俺が本当の時間を見つけるまで〜

栄多

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あなたの正しい時間になりたい

双方向 澪緒

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 澪緒が10時半に目を覚ますと隣で柏木が規則正しく寝息を立てていた。
朝方柏木が起きていた気がしたが、二度寝をしたんだろう。
よほど疲労が溜まっているのか微動だにしない。学生時代に掛け持ちのバイトをしてた時このぐらい爆睡してたがそれを思い出すような深い睡眠だった。

柏木の顔をじっと見続けていると、気配で気づいたのか柏木がゆっくりまぶたを上げた。
「おはよ、理緋都」
「おはよう…すごく寝た気がする。…おおっ、10時半!」
「なんか予定あったか?」
「いや、普段この時間まで寝ることってないから。よほど澪緒の隣が居心地よかったんだな」
「離れがたかったんだよ」
「そうとも言う」
澪緒がキッチンで朝食をつくる間、柏木は外へ出て近所のパン屋へ行き焼きたてのパンを買ってきた。
昨夜の幸せの余韻が残るダイニングテーブルで他愛無いおしゃべりを楽しむ。
「このパン屋よく知ってたな?知る人ぞ知るオシャレベーカリーショップって感じなのに」
「…ああ。昨日電車の中で周辺を調べたから。澪緒と一緒に食べたかった」
「ぐふふふふふふふふふふ」

テレビをつけると台風が直撃する時間が迫っているというニュースで渋々柏木は帰り支度を始めた。
澪緒の方も、まだ土曜だし今日も泊まれば?と言いたかったが、今は新作発表会のこと以外にリソースを割かない!と誓い、渋々柏木を送り出す。
「またな」
「ああ。最高の誕生日をありがとう。ケーキ、美味しかった」
「本当?じゃあ来年の誕生日も作る」
「来年。…澪緒」
「ん?」
「これ、俺からの感謝の気持ち」
花でも渡されるかと思いきや、澪緒の手に載せられたのは真っ白な小さな箱。銀色の細い紐で小包のようにラッピングされている。空気のように軽い。
もしや左手の薬指にはめるやつ…?澪緒はそう思いながらリボンを解いて箱を開けて出てきたのはゴールドのイヤーカフス。
しかし澪緒は別の意味で驚く。
「いやいやいや怖い怖い怖い、これパン屋の隣のアクセサリー屋のやつ!いくらしたんだよ!」
澪緒の記憶だとあの店は古民家を改装したナチュラルセレクトショップ風の外観だが扱っている商品はどれも5万以上というパンチの強い店。
「昨日の夕飯とケーキのお礼だ」
「金額見合わねぇ!しかも一粒ダイヤついてるし!」
「澪緒も昨日言ってただろう。気持ちだ」
「それに関しましてはごもっともだけど」
「俺が嬉しかった気持ちを、形で残したかった」
柏木の長い指が澪緒の金髪をかき分けながら耳を優しく引っ張りイヤーカフスを装着する。
澪緒は玄関の横の鏡で姿を確認する。
「自分で言うのもなんだけど、似合ってる」
「同感だ」
「ありがとう…ございます?」
「それでいい」
鏡に並んで映る自分たちをそれぞれのスマホで自撮りする。

最後に澪緒の唇にキスをして柏木は出て行った。
ドアが閉まる。
姿が見えなくなる。
廊下を歩く足音が遠くなる。
ベランダから見送ろうとして窓を開けると麦がいた。
「いてくれたのか!麦、一緒にお見送りしよ?」
「ニャン」
麦と一緒に眼下の道に目を凝らす。
誕生日を祝えてよかった。
不倫をやめてホントよった。
マンションから柏木が出てくる。
澪緒が柏木の名を呼ぼうとしたタイミングで柏木もくるりと振り向いて澪緒と麦を見上げて手を振る。
澪緒は柏木の笑顔に向けて麦と一緒に手を振る。
柏木が背中をむけて歩き出す。
いつまでもその背を見守る。
また柏木が振り向く。
また手を振る。
澪緒は心の中で彼へ向かって叫ぶ。

愛してる、
理緋都。
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