死が二人を分かたない世界

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真里編:第2章 別れ

復讐の対価

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「嘘だ……」

 彼の名を呼ぶと明らかに動揺した、しかしこの表情は嬉しさではない、恐怖だ。
 どうして……僕は君を失っていなかった嬉しさで、こんなに高揚しているのに。

「どこでその名を……」
「君が教えてくれたじゃないか、夢の中で」
「急に思い出したのか? なんで……」

 さっきまで覚えていたはずの夢の内容は、また霞がかかった様に朧げだ。
「何かこう、君を追いかけてた気がする……でも届かなくて」
「届かなくて?」
「目を覚ましたら君がいた」
「ふむ……で?」
「で、捕まえちゃった?」
「ブフッ! なんだそれ! 鬼ごっこの夢か?」
「君は覚えてないの!?」
「鬼ごっこなんて沢山しただろ! どの夢かなんて分からんな!」
「やっぱり雪景ゆきかげなんだね……」
 よかった彼は存在していた、しかもこんな近くに!
 思わず涙腺が緩みそうになるのをぐっと堪えた、堪えた分だけ僕の心は高揚して震えた、彼と会えたという事実に感動していた。

「っていうか、なんで最初に言ってくれないのさ!」

 そして少し怒っていた、だってずっと夢で想い続けていた相手なのに、あの時……教えてくれれば、僕は両手を広げて君を受け止められたのに……と。

 あ! そういえばファーストキスはユキ……雪景とって事になるのか! それどころかあんなことや、そんなことまで! なんか急に恥ずかしくなって来た!
 しまった! 僕、雪景の事蹴り上げちゃったの……!? 知らないとはいえ憧憬していた本人を足蹴にしてしまった! いやでも、あれはユキが悪くない?

 何せ10年以上片想いし続けた相手だ、僕は完全に舞い上がり赤くなったり青くなったりしていた。

「顔を見せたら、気付いてくれないかと……期待していなかったといえば嘘になるな、しかし夢なんてのはそんなものだ、曖昧であやふやで、起きてしまえばすぐ忘れる、そんなものの話をしても混乱するだけだろう」

 舞い上がって気付かなかった……彼からしてみればやっと会えたと思ったら、僕は気付きもしなかったんだ。何だそれ、最低じゃないか。
「そんなものじゃないよ! 僕にとってはずっと心の支えだったし、君との時間は大切な宝物だった……ずっと、ずっと……会いたかった」
「俺も会いたかったよ」

 今度は我慢できずに視界がぼやけて揺れた、本当はぎゅっと抱きしめたかったんだけど、僕が小さいばっかりに……ベッドの上で彼の首元に縋り付くような不格好な抱擁になった。あぁ、夢の中ではあんまりサイズ変わらなかったのになぁ、大きくなりたい……。

「本当は飛びついて、そのまま攫ってしまいたかった」
 そう言って額にキスされた、ううなんか恥ずかしい! っていうか成長しすぎだし、キャラ変わりすぎなんだよ! ちゃんとは覚えてないけど、もっと清楚で、物静かで儚げで、かわいらしいイメージだったんだけど……。
 ユキは……なんかこう、手馴れてる感が凄い! そりゃ千年もあったら色々あっただろうけど、なんだか心の中がモヤッとする。

「そういえば、どっちの名前で呼んだらいいの? ユキ? 雪景?」
「ユキでいい……というかそうしてくれ。生前にはあまりいい思い出がないし、他の仲間も俺の諱は知らない……知っているのは魔王様と真里だけだ」

 特別感がして敢えて雪景と呼びたくなるけど、本人が嫌がってるからやめておこう。
 外を見たらもう明るかった、僕が夢を見ている間に朝になっていたようだ。……あれ? そういば両親を送り出してから、自分がベッドで寝るまでの記憶が全く無い。何かが起こった気がしたんだけど、思い出せない。
 うーん……?

「じゃあ、真里の願いを叶えようか」
 僕が考え込んでいるとユキが声をかけてきた、そうか戻ったらって言ってた……。
 これが終わったら、ユキは僕の前から居なくなってしまうのだろうか……もし人間と悪魔が一緒に居られる道があるのなら、できる事はなんだってしたいと思ってる。
 何故かは分からないけど、はじめて会ったふりをしてまでスカウトしに来た訳だし……一緒に居たいと思ってくれてるんだよね?

 本当はそんな話をしたいんだけど、僕が死んでまであの女に復讐するというのは無しなんだ。そしてあの女を捕まえたいって願いも、僕が今叶えたいことには違いない。それならばまずあの女を捕まえる事に専念しよう、決着をつけて改めて僕の気持ちを伝えたい……。

「……周りに迷惑をかけない、具体的な方法で捕まえなければいけないって事だよね」
「真里には悪いが結果に関する事には助言できない、そういう決まりだ」
「そっか、ずっとどこかに隠れているのは無理だろうから、外に出た時に警官に見つかって、その場で押さえられればベストかな」
「なるほどな……」
 ユキが大きめの黒い手帳を取り出して、口元に手を当てながら考え事をしている。あの手帳なにが書いてあるんだろ、ちょっと気になる。あ、少し眉間にシワが寄ってきた。

「真里は……少しも復讐してやろうという気はないのか? お前のことを思い出しもせず、捕まえるだけで満足か?」
 そう言われるとズキっとした、そうか……あの女は僕がどうなったかなんて、気にも留めてないのか。
「確かに……僕から恨まれてることくらい分かって欲しいところだけど、そもそも僕が生きていることすら知らないかもしれないね」
 捕まったら面会に行ってみようかな、僕が胸糞悪くなって帰ってくるだけな気もするけど……。

「命を懸ける以外の対価で、少し怖い目に合わせる事はできる?」
「やろうと思えば精神疾患を患う程の地獄を見せられるぞ、対価で真里を生きながら天国に連れていってやれるしな」
 ユキは僕を見ながら下世話にニヤニヤしていた。

「それって……またその、僕のはじめてを……とかいう話なの?」
 長年片想いしていた相手だと認識した上でこういう事を言われると……すごく恥ずかしい! 耳まで熱い! 本当に恥ずかしい! だって初恋の人なんだ! そんな憧れの人に、そんな恥ずかしい事言われたら、どうしたらいいのかわからない!

「そういう反応は男を期待させるだけだからな?」
 えぇ、そんなつもりは無い……って言おうとしてユキを見たら、ユキも真っ赤になって口元を隠していた、耳は少し困ったように垂れてるし、かっ……可愛い!

「……真面目な話、真里の血を媒体にして、少し恨み言を言うなんて事もできるぞ」
「対価は僕の血になるの?」
「あとは頑張れってキスしてくれれば完璧だな」

 ハハハと軽く笑うユキの襟ぐりを掴んで下に引き寄せ、唇にキスした。
「頑張って!」
「ガ……ガンバリマス!」
 僕も恥ずかしくて赤くなっただろうけど、ユキも真っ赤になってた、照れるユキは最高に可愛い。
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