死が二人を分かたない世界

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真里編:第4章 願望

任命式と不安感

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 それは夢だったのか、起きる前のまどろみの中思い出した記憶なのか、過去に見たユキと……雪景と夢で会ったあの記憶。蘇ったのは楽しい思い出ばかり、そういえば君は運動音痴だったね。
 鬼ごっこをしても転ぶ、かけっこをしても転ぶで、その度に僕が慰めたんだ。
 腕相撲だって僕が負けたことは一度もなかった、やっぱり悔しくて泣く君を慰めるんだ……僕が辛かった時の心の支え、可愛い大好きな雪景。

 起きたら目の前にユキの顔があった、おはようと頭を撫でられて本当に一晩中見られていたのかと、くすぐったくなった。今度は起きても忘れてない、君との記憶をもっと思い出したい。

「じゃあ、行こうか」
 そう言ってユキに手を引かれ、僕はベッドから降りた。

ーーーーー

 朝になったが、魔界はやっぱり暗かった。
 噴水広場から幅が4、5車線分程ありそうな大きな石畳の通りをまっすぐ歩く。左手は居住区なのか家の様な建物が多い、右手は商業地区なのか出入り口が開け放たれて、様々な店が通りを歩く人を迎え入れている様だ。
 夜の街を歩くように通りを進むと、途中からパタリと家も店も無くなり、両サイドは松林の様になった。突き当たりまで歩くと思わず口をポカンとあけてしまう程の、黒くて大きな門が目の前に待ち構えていた。
 人工的な明るさが頼りの風景で完全に闇に溶け込んでいる、よく見ると鬼や武者などの厳つい彫りがビッチリだ、ちょっと尻込んでしまう。

「ここから先が魔王様の直轄地区だ」
 ユキはそう言いながら当然のように中に入る、守衛の人もいない様子だし無用心じゃないだろうか。
「魔王様から許可された悪魔しか入れないようになってる」
「あ! そうなんだ!」
 人を探す様にキョロキョロしていたせいか、胸の内を見透かす様に応えられてしまった、僕は一応魔王様から許可が出ているらしい……門で僕だけ入れませんなんてならなくて本当に良かった。

 石畳を歩きながら脇には白い玉砂利が敷かれた道を進む、正面には高い塀に木造風の大きな門が構えてあり、石畳はこの門に向かって一直線だ、その先は謁見の間になっているらしい。

「なんか、お城とか神社みたいだね」
「魔王様は魔界の創造主だからかな」
「……ユキってそういう情報、本当後出しだよね」
「そうか? 分からない事があれば何でも聞け」

 僕は創造主に嫉妬していたのか、とたんに自分がバカバカしくなってきた。
 創造主という大それた人物にしては、普通に会話できるし、かなり親しみやすいのでは……? とスケールの大きさと比較して、魔王様に好感を持とうと努力する。

 門にかなり近付いたところで気づいた、門番として立っていたのは、既に2回ほど遭遇している覇戸部はとべという大男だ、この人いつも魔王様の近くに居るんだな。

「ユキ、あの人は?」
「あー……アレは魔王様の護衛だ」
 ユキがすっごい嫌そうに答えた、仲が悪いのだろうか?
 そしてさっきから僕は、またあの人から睨まれている……睨まれるようなことをした覚えはない。

「気にしなくていい、無視しろ」
「うん……」
 相手の目線に気付いたのか、ユキが無視しろと言うけど……自分に向けられた敵意のようなものは、そうそう無視できるものではないと思う。

「魔王様に挨拶に来た、開けてくれ」
 覇戸部という男はユキが声を掛けると、僕を睨み続けた目線をユキに向けて無言で頷いた。
 ユキは嫌そうにしていたけど、向こうはそうでもないように見える……いや寧ろ逆だろう、ユキを見る視線に胸がソワッとした。

 ギギィと音を立てて大きな門が開かれると、中には大きな御殿が建っていた、太い柱が何本も支える建物だ。
 幅広い階段の最上段には豪奢な椅子、魔王様はそこに腰掛けていた、今は大きいバージョンだ。
 魔王様の隣には顔の上半分だけ狐の面にスーツ姿という、アンバランスな組み合わせの人が立っていた。スーツの人もなかなかの存在感で気になるけれど、僕としては、真後ろからすっごいガン飛ばしてくる人が気になって仕方ない。
 近いし、威圧感凄いし、三白眼で眼力が強いし!  正直かなり怖い!

 ちょっと助けて欲しくてユキを見ようとしたら、スッと位置を代わってくれた、これで僕の真後ろではなくなったけど、絶賛斜めから睨まれている……刺されるような視線が痛い。
 一方ユキは嫌そうな顔をしたまま魔王様に顔を向けた、魔王様は口元を微笑ませたままユキに軽く頷く。

「覇戸部、出ていなさい」
「……はっ」
 
 後ろからの威圧感が消え去った……やっと人心地が付いたので、ふぅ……とため息で緊張を吐き出すと、魔王様がクスクスと笑い始めた。

「ユキ? 自分で言えばいいじゃない」
「アイツに指示を出す権限は、俺には無いでしょう?」
「君の言うことなら喜んで聞くと思うけどね」
「それが嫌なんですよ、分かってて言ってるでしょ」
 
 はぁーと深いため息をつきながらユキが腰に手を当てる。
 僕はどうしたらいいんだろう、ユキは何も言わなかったけど、あの時僕を痛めつけてくれた二人は平伏していたし、ボーッと立っていては失礼なのでは!? 小声でユキに聞くと、そのままで大丈夫だと言われた。

「魔王様、"眷属けんぞく"に迎えました真里に勅命を賜りたく、改めて挨拶に伺いました」
「魔王様直属秘書のハルキです、ユキ様この度は"眷属"をお決めになられたとの事、心よりお祝い申し上げます」
「おー! ハルキありがとー!」
 狐面スーツの人が喋った! しかも様付けだ、そしてユキのノリは軽い。

「真里様はパソコンでデータ入力はできますか?」
「え! あ……はい、人並には」
 様付けで急に質問されたのでびっくりした、ってかなんでパソコン!?
「最近魔界ではアナログデータを、デジタルに切り替えているのですが、作業をできる人が少なくて困っているのです」
「はぁ……」
「ということで"情報管理課"にしばらく所属頂き、今いるメンバーに作業方法を教えて欲しいのですが、如何でしょう」
「……拒否権はあるんですか?」
「あると思いますか?」
「YESしかないわけですね、わかりました」
 狐面に覆われていない口元がにっこりと微笑んだ、この人は声色に強制力がある……逆らえない。

「ユキと一緒じゃなくて残念だったね、昨日顔合わせまでしたのにさ」
 魔王様がまたクスクスと笑っている、完全に人をバカにした顔だ、思わず眉間にシワが寄る。
 横のユキを見ると、"なんでそこ?" と呟きながら、額に手を当てて若干引きつり笑いである。魔王様の態度より、僕の配属先が気になる様だ……もしかして変なところなの!?

「ちゃんと手袋を着けてきたね、作業の邪魔になるから指先は取り払ってあげるよ」
 魔王様が指先を軽く動かすと、着けていたグローブの指の部分がスッと消えて無くなった。不思議だ、この世界はしっかりとしたイメージさえあればなんでもできる。

 今見た限り魔王様は僕にくれた手袋と、全く同じデザインのものを今も着用しているみたいだ。何枚持ってるんだというのは置いといて、ユキに続いて魔王様ともペアルックである……。
 この手袋、手の平に交差する赤いラインが入っている、これを見せつけられると、恐怖や絶望の様なプレッシャーを感じるというのは、自分の部屋で経験済みだ。
 僕が着用して同じ効果があるのかは分からないけど、また昨日みたいに絡まれたら、牽制くらいには使えるだろうか。

 魔王様とお揃いというのは全然全く嬉しくないけども、お礼を言って頭を下げた。

「そう堅くならなくていい、この場に居るのは表の覇戸部を含めて、みんな私の血を分けた我が子なんだから」

 一瞬魔王様の朗らかな笑顔に気が緩みそうになった、だけど相変わらずこの人のプレッシャーは、油断できるものではない。

「だからもっと私を楽しませて、ね?」

 ほらね、何か企んでニヤつきが止まらないって顔だ、やっぱり僕は魔王様を好きになれそうにない。

 所属する部署も決まったので、そこまでユキに案内してもらうことになった。
 謁見の間を出る為に門が開かれると、相変わらず目付きの悪いあの人がこちらを睨め付けている。ユキが僕を庇うようにあの人との間入り、遮るように通り過ぎようとした。

 そして見てしまった。
 通り過ぎるユキに手を伸ばそうとして、止めたその手を……焦がれるようなその目線を。

 なんとなく分かっていた、あの人にとって僕は邪魔者だったのだ。
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