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真里編:第4章 願望
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一番近い建屋の出入り口から表通りに飛び出た、左右を確認すると街灯に照らされ、行き交う人の中にトボトボと歩く聖華の背中を見つけた。
「聖華!」
声を掛けると聖華は横道に逃げ込んだ、それを急いで見失わないように追いかける。
どうしても、もう少し話したかった、聖華はあの場ではユキを諦めさせる為に言っていたのだと思う。それなら地位だなんだと言っていたのは、聖華の本心とは限らないのではないだろうか。
幸いなことに聖華はあまり足が速くなかった、息が上がって止まってしまった聖華に容易に追いついた。
「ごめん聖華、君を傷付けたくて言った言葉じゃなかったんだ」
「そんな事わざわざ言う為に追いかけてきたの? バッカじゃないの!」
「それだけじゃなくて……聖華ともっと話したいと思って」
「アンタのおしゃべりに付き合ってやるほど暇じゃないの」
聖華は呆れたように鼻で笑ってから、路地の奥へと進み出した。
「まって!」
追いかける様に二歩踏み出した、その足元が淡く光る。なにかの罠だと、しまったと思った瞬間に、既に自分の周りの風景は畳の一室にすり替わっていた。
「……なんの躊躇もなく引っかかったわね」
「ここどこ!?」
「安心して、アタシの部屋よ」
今度の聖華は本気で呆れた声だった……。
純粋な和室、和風の家だ。新品同様の緑の畳にい草の香り……白い襖の下半分は赤く艶やかな和紙で装飾されている。聖華の見た目の派手さとは反対に、静かで落ち着いた部屋だった。
「アタシの部屋は事務所から遠いの、だから転移陣の使用が許可されてるのよ。まぁ、こんなにあっさり踏んでくれるとは思わなかったけど」
聖華が品良くその場でブーツを脱ぐ、何も言わずに僕の靴を見た後、鋭い目つきで見据えられて、僕もいそいそと靴を脱いだ。
「汚れないって分かってるけど、畳の上に靴っていうのがなんか嫌なのよね」
「……うん、わかる」
ふふっと聖華が僕の靴を受け取って、黒い箪笥の上に並べて置いた。
「真里みたいにお人好しで純朴な子が、なんで悪魔なんかになってんのか純粋に興味あるわ……人を恨むことなんてあるの?」
「……あるよ」
一瞬あの女の顔が頭を過ぎった、結局捕まった後どう裁かれるのか、見届けられないままここにいるのは心残りだ。
「いい眼つきするね、ますます興味が湧くんだけど」
今のは自分でも胸の内が濁ったのがよく分かった。しかしユキといい聖華といい、人が嫌がる顔がなぜこうも好きなのか……悪魔だから?
「ここに連れてきたのはね、見て欲しいものがあるの」
そう言いながら聖華は、スッとしゃがみスルスルと柔らかい兵児帯を解いていく。
「え! え、ちょっ!?」
「見てて」
帯を全て解き終わる頃、聖華が纏っていたキラキラと光る全身の魔力が解除された。聖華が立ち上がると、見下ろしていた筈の聖華の顔は、見上げなければならなかった。
ユキよりは高くはないと思うけど、それでも170後半くらいあるだろうか……着ていた着物の丈も短くなってしまっている。
「これが本来の姿だよ、みっともないから着替えるね」
そう言ってくるっと回ると、クリーム色の男物の着物に、黒い羽織といった落ち着いた雰囲気へと早変わりした。
顔を袖で隠したかと思うと、袖から現れた顔からは濃い化粧が消えていて素顔だった。それでも目鼻立ちのしっかりした顔は整っていて、むしろ素顔の方が好感が持てる。
「どう? 驚いた?」
「お、驚いた! すごいね! 見た目を変えちゃうことが出来るなんて!」
声も少し低くなっている、それでも聖華の声は高めで綺麗な声だ。
「こんなのちっとも可愛くないでしょ、だからすごく魔力消費しちゃうんだけど、年齢操作を常用してるんだ」
「……可愛いは違うかもだけど、聖華は綺麗なんじゃない? 素のままの方がいいと思うけど」
「——……アンタに褒められても嬉しくないっ!」
そう言いつつも、口を尖らせながら髪をくるくると弄る聖華は、少し照れたようだった。
「ユキさんもね、そう言ってくれたんだけど……この身長と見た目は、アタシにとって劣等感を感じるものなの」
中性的なハーフ顔、ブラウンの髪に緑がかった瞳の色……現代なら芸能人でもおかしくない。しかしコンプレックスというのは人それぞれだ……僕だってこの低い身長と、色素の薄い髪が大っ嫌いだった。
「だからアタシには沢山の魔力が必要なの、魔力を潤沢に使える直血悪魔に……ユキさんの眷属になりたい、そういう下心は当然あった」
鼻をフンッと鳴らしながら、聖華はプイッと横を向いた。
「眷属になれないのなら、アタシには魔力の安定供給が必要なの! 真里もユキさんに抱かれたならわかるでしょ、あの魔力を直接注ぎ込まれて満たされる高揚感が……」
「いや、ちょっと……」
わからないよー!! 聖華は両頬に手を当ててくねくねしているが、僕にとってこの内容はハードモードだ!
「……まさか、まだヤってないの!?」
「うぅっ……」
「あのユキさんが!? 信じられない!」
妖怪かUMAでも見るような目で見られた!
「とにかく!ユキさんからの魔力供給が無くなるのは、アタシにとっては死活問題なのよ! それを真里、アンタはどっちも奪っていこうとしてるの!」
「……それだけ? 聖華は建前を並べてるようにしか聞こえないよ、眷属にしてくれるなら誰でもいいように聞こえる」
聖華に胸ぐらを掴まれて後ろの壁に押し付けられた、自分でも煽ったと思ってる。
「いいわけないだろ! お前が俺とユキさんの何を知ってるって言うんだよ! まだ会って間もない新参の癖に!」
両手で壁に押し付けられて苦しい、でも聖華とは腹を割って話さないと分かり合えないと思うから……!
「ユキさんは言ってくれたんだ……そのままでいいって」
聖華の両手の力が緩む、僕の服を掴んだままズルズルと落ちていく聖華に、引っ張られるように僕も畳に座り込むことになった。
「悪魔になったばかりの頃、若返れるのが嬉しくて……色々試していじくって、魔力は二日で枯渇したんだ」
聖華の鼻がスンッと鳴る。
「年齢操作をやめろって散々怒られたんだけど、やめられなくて……終いには若さも保てなくなって、動けなくなって……ユキさんが助けてくれたんだ」
ポタポタ落ちる雫が、僕の服に染み込んでいく。
「そのままでいいって、可愛いって……俺がずっと欲しかった言葉を何度も何度も言ってくれて……それまでのどの男よりも優しく抱いてくれて、もうそんなの惚れるしかないでしょ……でもね、伝えちゃダメなんだよ! あの人に本気になったら捨てられる」
「聖華……」
「なんでユキさんが選んだのが真里なんだろう、なんで俺じゃダメだったんだろう」
聖華の震える声に、僕まで胸が苦しくなった。
「聖華!」
声を掛けると聖華は横道に逃げ込んだ、それを急いで見失わないように追いかける。
どうしても、もう少し話したかった、聖華はあの場ではユキを諦めさせる為に言っていたのだと思う。それなら地位だなんだと言っていたのは、聖華の本心とは限らないのではないだろうか。
幸いなことに聖華はあまり足が速くなかった、息が上がって止まってしまった聖華に容易に追いついた。
「ごめん聖華、君を傷付けたくて言った言葉じゃなかったんだ」
「そんな事わざわざ言う為に追いかけてきたの? バッカじゃないの!」
「それだけじゃなくて……聖華ともっと話したいと思って」
「アンタのおしゃべりに付き合ってやるほど暇じゃないの」
聖華は呆れたように鼻で笑ってから、路地の奥へと進み出した。
「まって!」
追いかける様に二歩踏み出した、その足元が淡く光る。なにかの罠だと、しまったと思った瞬間に、既に自分の周りの風景は畳の一室にすり替わっていた。
「……なんの躊躇もなく引っかかったわね」
「ここどこ!?」
「安心して、アタシの部屋よ」
今度の聖華は本気で呆れた声だった……。
純粋な和室、和風の家だ。新品同様の緑の畳にい草の香り……白い襖の下半分は赤く艶やかな和紙で装飾されている。聖華の見た目の派手さとは反対に、静かで落ち着いた部屋だった。
「アタシの部屋は事務所から遠いの、だから転移陣の使用が許可されてるのよ。まぁ、こんなにあっさり踏んでくれるとは思わなかったけど」
聖華が品良くその場でブーツを脱ぐ、何も言わずに僕の靴を見た後、鋭い目つきで見据えられて、僕もいそいそと靴を脱いだ。
「汚れないって分かってるけど、畳の上に靴っていうのがなんか嫌なのよね」
「……うん、わかる」
ふふっと聖華が僕の靴を受け取って、黒い箪笥の上に並べて置いた。
「真里みたいにお人好しで純朴な子が、なんで悪魔なんかになってんのか純粋に興味あるわ……人を恨むことなんてあるの?」
「……あるよ」
一瞬あの女の顔が頭を過ぎった、結局捕まった後どう裁かれるのか、見届けられないままここにいるのは心残りだ。
「いい眼つきするね、ますます興味が湧くんだけど」
今のは自分でも胸の内が濁ったのがよく分かった。しかしユキといい聖華といい、人が嫌がる顔がなぜこうも好きなのか……悪魔だから?
「ここに連れてきたのはね、見て欲しいものがあるの」
そう言いながら聖華は、スッとしゃがみスルスルと柔らかい兵児帯を解いていく。
「え! え、ちょっ!?」
「見てて」
帯を全て解き終わる頃、聖華が纏っていたキラキラと光る全身の魔力が解除された。聖華が立ち上がると、見下ろしていた筈の聖華の顔は、見上げなければならなかった。
ユキよりは高くはないと思うけど、それでも170後半くらいあるだろうか……着ていた着物の丈も短くなってしまっている。
「これが本来の姿だよ、みっともないから着替えるね」
そう言ってくるっと回ると、クリーム色の男物の着物に、黒い羽織といった落ち着いた雰囲気へと早変わりした。
顔を袖で隠したかと思うと、袖から現れた顔からは濃い化粧が消えていて素顔だった。それでも目鼻立ちのしっかりした顔は整っていて、むしろ素顔の方が好感が持てる。
「どう? 驚いた?」
「お、驚いた! すごいね! 見た目を変えちゃうことが出来るなんて!」
声も少し低くなっている、それでも聖華の声は高めで綺麗な声だ。
「こんなのちっとも可愛くないでしょ、だからすごく魔力消費しちゃうんだけど、年齢操作を常用してるんだ」
「……可愛いは違うかもだけど、聖華は綺麗なんじゃない? 素のままの方がいいと思うけど」
「——……アンタに褒められても嬉しくないっ!」
そう言いつつも、口を尖らせながら髪をくるくると弄る聖華は、少し照れたようだった。
「ユキさんもね、そう言ってくれたんだけど……この身長と見た目は、アタシにとって劣等感を感じるものなの」
中性的なハーフ顔、ブラウンの髪に緑がかった瞳の色……現代なら芸能人でもおかしくない。しかしコンプレックスというのは人それぞれだ……僕だってこの低い身長と、色素の薄い髪が大っ嫌いだった。
「だからアタシには沢山の魔力が必要なの、魔力を潤沢に使える直血悪魔に……ユキさんの眷属になりたい、そういう下心は当然あった」
鼻をフンッと鳴らしながら、聖華はプイッと横を向いた。
「眷属になれないのなら、アタシには魔力の安定供給が必要なの! 真里もユキさんに抱かれたならわかるでしょ、あの魔力を直接注ぎ込まれて満たされる高揚感が……」
「いや、ちょっと……」
わからないよー!! 聖華は両頬に手を当ててくねくねしているが、僕にとってこの内容はハードモードだ!
「……まさか、まだヤってないの!?」
「うぅっ……」
「あのユキさんが!? 信じられない!」
妖怪かUMAでも見るような目で見られた!
「とにかく!ユキさんからの魔力供給が無くなるのは、アタシにとっては死活問題なのよ! それを真里、アンタはどっちも奪っていこうとしてるの!」
「……それだけ? 聖華は建前を並べてるようにしか聞こえないよ、眷属にしてくれるなら誰でもいいように聞こえる」
聖華に胸ぐらを掴まれて後ろの壁に押し付けられた、自分でも煽ったと思ってる。
「いいわけないだろ! お前が俺とユキさんの何を知ってるって言うんだよ! まだ会って間もない新参の癖に!」
両手で壁に押し付けられて苦しい、でも聖華とは腹を割って話さないと分かり合えないと思うから……!
「ユキさんは言ってくれたんだ……そのままでいいって」
聖華の両手の力が緩む、僕の服を掴んだままズルズルと落ちていく聖華に、引っ張られるように僕も畳に座り込むことになった。
「悪魔になったばかりの頃、若返れるのが嬉しくて……色々試していじくって、魔力は二日で枯渇したんだ」
聖華の鼻がスンッと鳴る。
「年齢操作をやめろって散々怒られたんだけど、やめられなくて……終いには若さも保てなくなって、動けなくなって……ユキさんが助けてくれたんだ」
ポタポタ落ちる雫が、僕の服に染み込んでいく。
「そのままでいいって、可愛いって……俺がずっと欲しかった言葉を何度も何度も言ってくれて……それまでのどの男よりも優しく抱いてくれて、もうそんなの惚れるしかないでしょ……でもね、伝えちゃダメなんだよ! あの人に本気になったら捨てられる」
「聖華……」
「なんでユキさんが選んだのが真里なんだろう、なんで俺じゃダメだったんだろう」
聖華の震える声に、僕まで胸が苦しくなった。
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