死が二人を分かたない世界

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魔界編:第3章 お仕事

眩暈

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 ユキが縛られた状態で性交渉をした……? それが示すものなんて一つしかないじゃないか。
「それって、無理やり……?」
 聞くとユキは少し困った顔をして眉尻を下げている、けど否定はしない……。
 ぐわんと頭が揺れるような感覚だ、僕の知っているユキは……雪景は、こと恋愛において疎く、僕がそういう意味で君を好きだった事さえ、全く気付いてくれなかったというのに……。

 そんな、純粋無垢な雪景が……僕の知らないところで誰かとなんて……ダメだ、倒れそう。

「なんで、言ってくれなかっ……」
 目眩がして、それを誤魔化すようにユキへ体を預けた。こみ上げてきた感情が涙になって溢れ出る、何に対しての涙なのか自分でもよく分からない……ユキに起った出来事に対してなのか、それとも何も知らない自分の不甲斐なさに対してなのか。

「こればかりはな……当主として、神憑きとして、一族はなんとしても俺の子を作りたかったらしいから」

 ……っ!?

「ユキの……子供?」

 今度は胸がぐちゃぐちゃになりそうだった、相手が女性であった事も、子という単語がユキから出てきた事も……。
 自分がどんな顔をしているのか分からない、ただユキの顔を見るのが怖くて、俯いて硬直していた。

 ユキが両手で僕の顔を上げて、真っ直ぐに目を見てから、ゆっくりと首を横に振った。
「俺は一族を滅ぼしたかった、そんな俺が命を繋ぐような真似する筈ないだろ」
「うっ……」
「そもそも俺が子持ちなんて柄か!? あり得ないだろ」
「うん……」
 遠慮せずに肯定すると、ユキが嬉しそうに笑った……そこ喜ぶところじゃ無いと思うんだけど。

 よかった……ただその一言が自分の胸を満たした。ユキの過去が知りたいとは常々思っているけど、聞くたびに僕は自分の無力さを知る事になる。
 今更何が出来るわけでもないけど、それでも彼の為に何かしてあげたい……少しでも幸せにしてあげたいんだ、きっとそれが僕がユキと出会った理由だから。

 ユキの首元に手を差し込んで、ぎゅっと抱き寄せた……思い出させてしまった記憶も、僕で上書きできればいいのに。
「それで、真里は縛りたい? 縛られたい?」
「なっ……どっちもやだよ!」
「俺は真里を拘束してトロトロにしたいけどな」
 ユキが僕の両手を捕まえていとも簡単に後ろ手に片手で拘束する、抵抗して動かしてもピクリともしない!
「ちょっ……ユキ!?」
 浴衣の襟から手が差し込まれて着崩される、胸に触れるか触れないかのくすぐったい指の感触から、胸の突起を指先で弄ばれるのに必死で耐える。

「まって……!」
「嬉しそうな匂いさせてる」
「もう嗅がないで……」
 瞑った目を少し開いてユキを見ると、意地悪く笑う。僕は別にこんな事されるのが好きなわけじゃない……と、思う……自信ないけど!

「ユキ、痛いよ」
「えっ、あ! すまない!」
 痛そうなフリをして顔をしかめるとユキは焦って手を離す、ユキは本当に僕に優しくて甘い。
 僕の拘束を解いたユキの手を捕まえて、逃げられないように自分の太腿の上に押しつけた。捕まえてやったと得意げにユキを見ると、さっきよりずっと楽しそうな顔で僕を見ていた。

「ユキだって嬉しそうな顔してるよ!」
「当たり前だろ、今日足首を掴まれたのとは訳が違う、真里になら何をされても嬉しい」
 ユキが僕の頬にチュッとキスするが、僕の脳裏にはユキの足に絡んだあの黒い手が浮かぶ。門の中へ引き摺り込もうとするあの手は、僕とユキを引き裂こうとするとても恐ろしいものだった。

「あの時、ユキが門の中に連れて行かれるかと思って……怖かった」
 ユキの事だから、僕が動かなくても自力でなんとかしてたかもしれないけど、もしもあのまま……なんて考えたらゾッとした。
 安心したくて……押さえつけていたユキの手の中に、指を差し入れるように撫でる。
「真里のおかげで無事だったな」
 ユキが僕の指に応えるように指を絡ませてくる、目を瞑ればキスをくれる。
「ユキが無事で良かった」
 あの時ユキの危機を伝える声が聞こえた、あの声があったから反応できたし、怖気付かずに飛び込めた。

 あの声はユキを守りたいがための声だった……。

「ねぇユキ、ユキを護ってる"雪代"とは会話はする?」
 夢の中では見かけていた、黒くて大きなユキを護る犬の神様。この世界に来て一度も見ては居ないけど、存在は度々強く感じる。
 今回の件も雪代の声なのかと思った、ユキを生前からずっと護ってきた存在だから……だけど府に落ちない。声をかけるならば僕ではなく、本人に伝えるのが一番効果的なはずだ。

「会話……はないな、感情が伝わってくる時はあるが」
「雪代は喋らないの?」
「あぁ、犬だからな」
 いやいや、こんな世界だから僕は犬が喋っても驚かないよ。
「意思疎通出来たのも、一番最近で二百年前だ…… ここに居るのは分かるんだけどな」
「雪代の意思が分かりにくくなった……?」
 だから僕に声をかけた……? そう考察するが、なんだかしっくりこない。

「いや、元々主張してくるようなやつじゃないんだ……出来るだけ空気の様に俺を護ってるつもりらしい」
「そっか、僕も雪代にお礼がしたいのにな」
 雪代が居るであろうユキの背後に目を向けても、それらしい姿は見えない。

 あの声の主が雪代ではないとなると一体誰のものなのか、ユキの味方であるなら僕としては誰でも構わない、ただ一つ気になることがあるとすれば……。

 あの声は、まるで僕の声だった。

「どうした? 難しい顔をして」
「ううん、何でもないよ」
 ユキが絡めた指から僕の太ももへと指を移動させ、優しく撫でられる感触に僕の意識はその手の動きに傾く。

「さっきから太ももと下着がチラチラ見えてて、エロいんだけど」
「——っ!」
 ユキの手が太腿を撫であげて、足の付け根に指がかかると、どうしても体が感じてしまう。
 優しく触れるだけかと思えば、太腿の肉に指を沈ませたり、グリグリと刺激されたりすると声が漏れてしまう。
「ユキ……またするの?」
「俺の上に跨ってきたのは真里からだろ?」
 うっ……そう言われると、確かにそうなんだけど!

「普通、こんなに何度も……したりするものなのかな?」
「他のやつの事なんて知らん、俺は真里としたいからする……何度繋がっても足りないくらいだ」
 ユキは真っ直ぐ僕を見てそう言い切るから、目が逸らせなくなる。そんな真剣に求められたら嬉しくなって、身体の中から熱くなってしまう。

「真里の中は熱くて柔らかくてずっと中に居たくなる、俺ので真里を満たしてると思うと堪らなく気持ちいい」
「うっ……恥ずかしっ……」
 そんな事を恥ずかしげも無く耳元で囁く、右手は相変わらず僕の太腿を撫でて、左手で腰を強く引き寄せる。
「それに真里が俺に好き好き言うのが可愛くて……もっと聞きたいし、応えたい」
「なっ、そんなに言ってる!?」
「言ってる、昨日も今日も……俺を蕩けさせるつもりか?」
 甘い声で言われたら、蕩けそうなのは僕の方だ。ユキが触れる場所が熱い、触られるだけじゃ足りない。

「布団に連れて行って欲しい?」
 ユキの手が太ももから僕の頬へと移動する、優しく微笑まれたら、僕はもう頷くことしかできなかった。

 その晩遅く、いつの間にか気を失うようにして寝てしまった僕は、朝食が用意されてからユキに起こされた。
 初めて一緒に朝食を摂ると、共に生活して、一緒の時間を過ごしている実感が一層湧いてきた。

 旅館のご飯はすごく美味しくて、僕はぺろりと平らげてしまったのだけど、ユキはやっぱり食べること自体好きでは無いのか、あまり食は進まないようだった。
 次は僕が作ったご飯で、美味しいって顔が見たい……そんな願望を胸に抱いて、ユキには内緒で料理を練習しようと心に決めた。

 温泉街から直接職場に出勤すると、聖華がそれはもうあからさまにニヤニヤしながら絡んできた。
「ねぇどうだった? 使ったんでしょ?」
「使ってないよ!」
 "聖華が勝手に入れてきた媚薬は"使ってない、嘘は言ってない。

「こんなも濃厚にユキさんの匂い漂わせといて!? 素でそれだけヤれるなら真里もなかなかの……」
「はっ!? 匂い!?」
 聖華までユキみたいな事を言う! 自分の袖を嗅いでみても、ちっともわからない! ユキの匂いは好きなのに……。

「よし、じゃあ次はアタシをつまみ食いしてみない?」
「してみないね」
 ウィンクしてくる聖華に冷ややかな視線を浴びせてから、自分のデスクへと歩みを進めた。

 何となく外が騒がしい気がして事務所の出入り口に意識をやると、少し遠くの方から声が聞こえてくる。その声は少しずつ近づいてきているような、そして、なんとなくその声に呼ばれて……いるような?

「真里く~ん、助けてぇ~!」
 この気の抜けるような声は、吉助きちすけさん!? 助けを求める声に慌てて事務所の外に飛び出すと、吉助さんが誰かを脇に抱えてこっちに走ってきている。
 よく見るとその濃い着物を着た抱えられてる人物は伊澄さんで……何!? どういう状況!?
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