死が二人を分かたない世界

ASK.R

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魔界編:第3章 お仕事

はじめての対価

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 ユキが旅館に備え付けてある浴衣を着て、窓際に設置してある籐椅子に片足を上げて腰掛けている。

 普段は洋服しか着ないユキだけど、背も高いし浴衣姿も似合っている、何より色気が増してる気がする。そして行儀は悪いのだけど何故か絵になるその様を、僕はニヤニヤしながら少し離れたところから眺めていた。

「なんだ? 顔が緩んでるぞ?」
「カッコいいなぁって思って」
 僕も同じ浴衣を着ているはずなのに、どうしてこうも違うのか……今は二人きりだから、正直僕の見た目なんてどうでもいいんだけど。
「どうした? おだてなくても、まだ抱いてやるぞ?」
 ニコニコと嬉しそうに笑いながら両手を広げるユキに、もう少し休ませて欲しいな……なんて本音なんだか建前なんだか分からない声で呟きながら、その両腕に抱かれに向かう。

「まだ少し顔が赤くて可愛いな」
 ユキの前に立つと目の前の愛しい人が僕を見上げる、頬を撫でる手が温かい……多分赤いのはのぼせたせいじゃない。
 ユキの座っている椅子に片膝を乗せてユキの膝を跨ぐと、僕の腰にユキの手がかかる。
「ユキは動かないでいてくれる?」
「ん? このままか?」
「うん……いつもされてばかりだから」

 ユキの前髪をかきあげると、白くて綺麗な額が現れる。本当に肌が綺麗だな、真っ黒の髪に真っ白の肌なんて白雪姫みたいだ。
 そんな事を思いながらユキの額にキスした、そのままユキの頭を抱きしめて、ふわふわの耳を少し触ったり撫でたり……サラサラの髪に指を通したりする。

 はぁ……楽しい……! もうずっとこうしていられる!

「真里……? これ、生殺しなんだが」
「ダメ……もっと可愛がりたい」
「!? 俺を可愛がってるのか!?」
 ユキの耳が後ろに伏せって、なんとも愛らしい様相になる。どんな顔をしているのか気になって、少し腕から離して覗き込むと、ユキは恥ずかしそうに顔を背けた。

「俺を可愛がるなんて言うのは真里くらいだぞ」
「ダメ……?」
「いや、ダメじゃない……が」
 ユキの頭を撫でて、ユキの髪に鼻を埋める……良い匂い!
「続けるのか!?」
「うん」
 またユキの髪に指を入れようとしたところで、ユキが僕を両腕で抱きしめてそれを阻止した。

「もう終わりだ」
「えぇっ、なんで!」
「恥ずかしくなってきたからだ!」
 ユキが僕の肩口に顔を埋めて、ぐりぐりとしてくる。可愛い……ユキの背中をポンポンと叩くと、甘えてくるように頬と頬をすり寄せた。
「なんか真里と居ると怖いな」
「なんで?」
 ユキの声は言ってることとは裏腹に嬉しそうで、僕も思わず少し笑いながら答える。

「もうずっと……人に甘えたいなんて思わなかったのに」
 それは僕には甘えたいって事で……そんな事言われたら嬉しくて胸が熱くなる。なんて可愛いこと言うんだろう、ずっと甘やかしてあげたい。
 ユキの頭を胸に抱いてギュッと抱きしめた、僕がこんなにも嬉しくて堪らないのが、少しでも伝われば良いのに。

「僕はユキにいっぱい甘えて欲しいよ」
「カッコ悪くないか?」
「ないよ、大好き」
 ユキの頬に口付けると、ユキがへにゃっと笑う……あぁもう、本当に可愛いな! 感極まって涙が出てくるレベルだ。
「なんか、長年保った矜恃とかどうでもよくなるな」
 ユキが吹っ切れたような顔で呟いたかと思うと、二人で視線を合わせて笑い合う、僕の前だけでは何も繕わない君でいて欲しい。
 頬に手を当てると僕の手に押し付けてくる感触にまた嬉しくなる、こんな可愛いことしてくれるのはきっと僕にだけだよね? 愛しいって感情が胸にいっぱい溢れてきて、こんな気持ちになるのはユキが初めてだから……感情を抑えるなんて出来そうにない。

「こんなに幸せだって思えるの、きっと初めてだ……僕はユキに初めての事いっぱいして貰ってるな」
「昨日は真里の初めて貰ったしな」
 ユキが僕の口に軽くチュッと口付ける、僕のたくさんの初めてがユキで良かった……。

「……」
「どうした? 急に黙って」
「ユキ……その昨日の対価の話なんだけど」
「なんだ、決まったか?」
 ユキは最高のわがままを言えって言ってた……それならちょっと無茶振りも聞いてもらえるだろうか。
「僕はユキの初めてが欲しい、なんでも良いんだ、僕だけしか知らないユキが欲しい……んだけど」
「……俺の?」
 ユキは千年以上の時間を経験しているんだから、無理難題を言っているのは分かってるんだけど……。
「真里しか知らない俺なら、今この状態がそうだし……俺の子供の頃を知っているのも真里だけだが」
「うん……まぁそうなんだけど」
「前にも言ったが、ここを触らせるのも真里がはじめてだぞ?」
 そう言ってユキは僕の手を自分の首の傷跡に導いた。そう言えばさっき舐めてしまったのを思い出して、少し照れてしまう。

「そういう事じゃないんだろうな、真里が言いたい初めては……」
「ユキの特別な……初めてが僕であったらと、思ったんだよね」
 ユキが考え込むように額に手を当てて、次にその手を口元に、最終的に目元に当てて……よし! と、意気込むように僕を見た。

「真里にとっておきを教えてやろう」
「え……とっておき?」
 ユキがワクワクするような、少し悪戯っぽい笑みを浮かべていて、一体何を教えてくれるのかと、僕も期待でソワソワしてしまう。

「真里のファーストキスは誰が貰った?」
「それは、ユキだけど……」
 貰った? 奪われたの間違いな気もするけど……不満はないけど。

「じゃぁ、俺のは誰だと思う?」
「え……そんな」
 誰って、僕が知ってる人なの……なんて言おうかと思って、思いとどまった。

「……え、えっ!? うそ……僕なの!?」
 少し照れるようニヤッと笑ったユキに……言葉にならない! すごく嬉しい……!

「でもそれって、君との最後の夢だよね……?」
 泣いて僕にまた会いにきて欲しいと、そう願った君にキスされて目が覚めた……あの夢がユキのファーストキスだったと言うなら嬉しい反面、それはユキにとっては悲しい記憶でもあるわけで……。
「暗い顔するなよ、喜んで欲しくて言ったのに」
「うん……嬉しい」
 ユキが僕の目元を親指で拭った、いろんな感情がごちゃ混ぜになって、また涙が溢れてたんだ。

「これからずっと一緒に居るんだろ? 俺が初めて体験することは、全部真里と一緒にしよう」
「うん……」
「だから俺の過去にヤキモチなんて妬かなくていいんだぞ?」
「うん……っ!」
 ユキが指で拭った後の目元に唇を落とす、どうやったって取り戻せない千年の時間を……その間にユキに起こった出来事を、僕が共有することは出来ない。
 僕はその事に後ろめたさやヤキモチを妬いていたのか……自分の感情なのに、ユキの方がよくわかってる。

「はじめてねぇ……やった事ないエッチなんてあったかな?」
「……えっ?」
「青姦どころか人に見せつけながらとかも、やった事あるしなぁ」
「なんの話……なの?」
「俺の初体験が欲しいんだろ?」
 ユキがニヤニヤしながら僕の顎をくすぐる、さっきまで感動的な話をしてたのに! なんですぐエロい方向に持っていくんだ!

「暴力は嫌だしな、汚いのも好みじゃない……」
「それは僕も嫌だけど」
「真里好みなら、縛りプレイか?」
「なっ!」
 なんで僕好みだとそうなるんだよ! そんなの好きなんて一度も言ったことない!

「しかし縛りながらヤった事はあるからなぁ……俺が縛られる側ならないぞ? 死んでからは……だが、しかしそれじゃあ真里の……」
「……っ!!?」
 ちょっと待って! 今のは!?
 椅子がひっくり返るかと思ったくらい、勢いをつけて膝立ちでユキに迫ってしまった。
「な、なんだ!? もしかして俺を縛りたいのか!? 真里になら悪くない気もするが」
 僕を受け止めたユキが、若干引き気味に聞いてくる……が、そこじゃ無い! 今のはそこじゃ無いだろ!

「それ、生きてる生身の身体で……ってことだよね」
 今ので脳裏に走った夢の断片がある、彼の身体には時々縄の痕が付いていた。小さい頃も何度かあったけど、確か十四、五歳の頃の雪景は酷く荒れていて、一度縄の跡がくっきりと……残っていた日があった気がして……まさかそれが!?
 僕が知ってるはずの雪景の姿に、僕の知らない雪景の話が重なっていく……知らない、知らないよそんな話。
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