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魔界編:第4章 与太話
転向
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ここで現在の伊澄さんの立場を振り返る。
情報管理課の長というポジション、僕と聖華の上司だ……これに関して給料の他、特に利益はないという。
次に兼任している商業地区の組合長という役職だ、元々こちらが本業らしい。伊澄さん曰く、個性も主張も強い商売人たちをまとめなければいけない、面倒くさい立場だけでいい事なんて何もない。代わりがいるなら代わって欲しいくらいだ、なんて言っていたけれども……。
「商業地区は市街地の四分の一を占める、商業地区外の商店も加入しているのを考えると、所属人数としては魔界の中ではかなり大規模になる団体だ」
伊澄さんの説明だけだと、大変な役職なんだなぁくらいの印象だったのが、ユキの説明で急に伊澄さんが魔界の重鎮のように見えてくる。
「伊澄が商人たちを先導して、集団で何か行動を起こすのであれば……看過できないものはあるな」
「やらねぇよ……そんな面倒くさいこと」
話を聞く限り、伊澄さんの役職は簡単に人に委譲出来るようなものではない。伊澄さんだからこそこなせているところは大きいだろう、その役職を当人を消すことによって取って変われるなんて、一体どこから出てきた噂なのかが問題だ。
「それで、お前が原因ってどう言うことなんだ?」
ユキの問いかけに全員が聖華の顔を見る、ユキの横の1人掛けの椅子には、先程帰ってきたカズヤさんが座っていて、視線は一人分増えている。
「少し前に真里と廊下を歩いてた時だったんだけど」
……え、僕と歩いてた時? いつの話だ!?
「伊澄は最弱の役職者だから、消したら後釜……狙えるかもって、冗談で話してたつもりなんだけど」
「うん、言ってたね……」
思い出した……確かに言っていた。僕に例の媚薬を無理やり渡そうとしてきたあの日、人の往来のある中でそんな事を! 苦笑いしながら聖華を見ると、聖華も引きつりながら僕の顔を見ていた、なんだか僕まで共犯になった気分だ。
「ほるほどー、何気なく言ったひとことに尾ひれがついて、今に至るってワケだ!」
飛翔さんと一緒に遠巻きにこちらを窺っていたルイさんが、いつものニコニコ笑顔で明るく言う。明るく言っても生死(?)に関わる噂なので、正直洒落にならない。
「要所の役職者は、殆どが実力的に上位の者が占めてるからな……今まで伊澄も強いもんだと思われてたんだろう」
そう言ってユキまで可笑しそうに笑い出す、なんとなく全員の顔を見渡すと、反省している聖華と、当事者の伊澄さん以外は全く深刻な顔をしていなかった。
「俺は暗黙の了解で助かってただけなのか」
「役職者が最弱だなんて、知ってても言って回りませんからね、普通は」
カズヤさんの一言が刺さったのか、不本意そうな顔をした聖華がカズヤさんを睨むように見る……完全に逆ギレだ。
「噂が落ち着くまで、あまり出歩かない方がいいでしょう」
「毎日管理課と転生院と組合会を行き来してんのどうしよう……」
カズヤさんから笑顔で言われた僕の上司は、心底困った様子で頭を抱えていた。
「転生院に関しては吉助から来てもらえばいいだろ、管理課は真里がいるし、問題は組合会だな」
ユキが長い足を組み替えながら提案しているが、僕はその何気無く言われた一言が嬉しかった。ユキからみて僕は、伊澄さんを守れるって思って貰えてるんだ。
「あの、組合会は僕が護衛に付きましょうか?」
伊澄さんは僕の上司だし、管理課から組合会へ向かうのなら行動も共にできるはずだ。それに何より、噂の発端の現場に居合わせていたのがなんだか後ろめたい。
「……伊澄のために真里がわざわざ動くのは解せんな」
綺麗に整った眉を中央に寄せて、ユキがムスッとした顔で僕を見る。こんな時に思いっきり私情を挟んでいいのだろうか……一応ここ、警察みたいな組織なんだよね?
「昼はそうやって誰かが護衛できても、夜は結局一人ですからね……私達もずっと伊澄さんを監視するわけにはいきませんし」
カズヤさんは維持部隊の誰かを護衛に就かせるつもりだったのだろう……そっか、夜の事は考えてなかった。
「……いるじゃないか、適任のやつが」
そう言葉を発したユキを見て、その視線の先を追うと……どう見ても聖華だ。
「あ、アタシぃ!?」
「お前の無駄に全身に使ってる魔力、全て護衛するための魔力に転用すればそれなりになるぞ? 伊澄と家も近いし、決まったな」
話は終わりとでも言うようにユキが席を立つ、ハッとしたように聖華が顔を上げて、頭を何度も横に振った。
「無理ですっ! アタシ真里に負けちゃうんですよ!?」
「元はと言えばお前が原因だろ、落とし前は自分でつけろ。伊澄は何か問題あるか?」
ニヤッとユキが不適に笑いかける、仲が悪い二人を仲裁しようとでもいうのだろうか。
「俺は構わない、コイツとの約束もあるしな」
そう言った伊澄さんは聖華を見て、フワッと優しく微笑んでいて……え! 待って! 二人絶対なんかあったよね!?
ユキまで、ほぅ……と何か感心するように息を吐いた、多分間違いない。
伊澄さんの方を見てその表情を確認した聖華が、血相を変えて伊澄さんの肩を結構本気で殴りつける。
「お前調子に乗るなよ! このクソどっ……ハゲッ!」
「今度はハゲかよ! ハゲてねぇだろ!」
こんなの犬も食わない。
「カズヤ、聖華に必要最低限の護身術を叩き込んでやれ」
「「え゛っ」」
同時に心から嫌そうな声を出したのは聖華とカズヤさんだ……何となくこの二人、険悪そうな雰囲気は感じていたけれど、そんなにあからさまに嫌いあっているのか……。
「こんなチャラチャラした格好の人に教える護身術なんてありませんよ」
「アタシの方が年・上! いつもいつも! 遠慮なさすぎなんだけどっ!」
カズヤさんの発言に、ムキィと地団駄を踏むように聖華が怒っている。そっか! 聖華の方が年上なんだ……なんか見た目と落ち着き方から逆のイメージだったけど、聖華はこれでも200歳超えの悪魔だった。
----
「まずその服ですが、動きやすいものに着替えてください」
いつも優しい雰囲気のカズヤさんが、かなりぶっきらぼうに言い放った。
聖華はツンとして不本意な顔をしているので、僕が仲裁する事にした……僕もいい機会なのでカズヤさんに指導してもらうことになったのだ。
「カズヤさんみたいに着物の裾を上げてしまうのはどうなの?」
カズヤさんは下は黒いタイトな現代風のズボンに、黒いハイネック のインナー、その上から着物を着ている。着物の裾は後ろの腰帯の中に入れて上げており、動きやすそうな格好だ。これなら着替えなくてもいいし、聖華も納得しないだろうか……。
「私に尻端折りしろっての!? 嫌よ! ダサイ!」
「……。」
カズヤさんが無表情で聖華をジトッと見た。聖華の好き嫌いは知った事ではないけど、それをやってる本人の目の前で言う無神経さがダメだと思う。この二人仲良くなるどころか、歩み寄る気配すらない。
聖華はため息をつきつつお得意の早着替えで渋々袴姿になった、もちろん道着タイプなどではなく、上着には花柄が付いている。最初に着替えたのは振袖で、ヤル気はあるのかとかなり怖い顔でカズヤさんから凄まれた。またもや渋々小袖に切り替えて、やっと本題入る。
「さて……真里に魔力での身体強化についてお伝えしたいのですが」
カズヤさんがそう切り出した時、事務所の奥に引きずられるように連れて行かれた伊澄さんと、連れて行った張本人のユキが応接間まで帰ってきた。
ユキが妙にニヤニヤしていて、なんとなく下世話な話をして来たような雰囲気がある。
「なんの制約も制限もなく戦闘をした場合、ここにいる中で一番強いのはユキですが」
二人を意に介する事なくカズヤさんは言葉を続ける。
「魔力使用を禁止して、人間時の力量だけで力比べした場合はどうなると思いますか?」
「えっ……それは」
そんなの僕からすれば答えは一つしかない。
「ユキが一番弱いんじゃないですか?」
「なっ……!」
さっきまで一番強いと言われて誇らしげにしたユキが、僕の言葉で取り乱す。
「実は自力ならユキに勝つ自信あるんですよね」
「じゃあやるか?」
ノリ気な顔をしたユキが、応接間のソファーにドカッと座り込んで、テーブルの上に肘を立てた。
「一回ユキとやってみたかったんだよね」
その手を握ってユキと目を合わせると、子供のように楽しそうな顔をしていた。
「本気でやっていい?」
「いいぞ、さすがに真里には負けないと思うがな」
ユキは忘れてるかもしれないけど、僕は夢の中で君に一度も負けた事が無いんだよ? ユキも自信満々って顔をしているけど、多分僕も負けないくらいの顔をしていると思う。
勝てるものなら勝ってみたい、僕の闘争心に少しの火がついた。
情報管理課の長というポジション、僕と聖華の上司だ……これに関して給料の他、特に利益はないという。
次に兼任している商業地区の組合長という役職だ、元々こちらが本業らしい。伊澄さん曰く、個性も主張も強い商売人たちをまとめなければいけない、面倒くさい立場だけでいい事なんて何もない。代わりがいるなら代わって欲しいくらいだ、なんて言っていたけれども……。
「商業地区は市街地の四分の一を占める、商業地区外の商店も加入しているのを考えると、所属人数としては魔界の中ではかなり大規模になる団体だ」
伊澄さんの説明だけだと、大変な役職なんだなぁくらいの印象だったのが、ユキの説明で急に伊澄さんが魔界の重鎮のように見えてくる。
「伊澄が商人たちを先導して、集団で何か行動を起こすのであれば……看過できないものはあるな」
「やらねぇよ……そんな面倒くさいこと」
話を聞く限り、伊澄さんの役職は簡単に人に委譲出来るようなものではない。伊澄さんだからこそこなせているところは大きいだろう、その役職を当人を消すことによって取って変われるなんて、一体どこから出てきた噂なのかが問題だ。
「それで、お前が原因ってどう言うことなんだ?」
ユキの問いかけに全員が聖華の顔を見る、ユキの横の1人掛けの椅子には、先程帰ってきたカズヤさんが座っていて、視線は一人分増えている。
「少し前に真里と廊下を歩いてた時だったんだけど」
……え、僕と歩いてた時? いつの話だ!?
「伊澄は最弱の役職者だから、消したら後釜……狙えるかもって、冗談で話してたつもりなんだけど」
「うん、言ってたね……」
思い出した……確かに言っていた。僕に例の媚薬を無理やり渡そうとしてきたあの日、人の往来のある中でそんな事を! 苦笑いしながら聖華を見ると、聖華も引きつりながら僕の顔を見ていた、なんだか僕まで共犯になった気分だ。
「ほるほどー、何気なく言ったひとことに尾ひれがついて、今に至るってワケだ!」
飛翔さんと一緒に遠巻きにこちらを窺っていたルイさんが、いつものニコニコ笑顔で明るく言う。明るく言っても生死(?)に関わる噂なので、正直洒落にならない。
「要所の役職者は、殆どが実力的に上位の者が占めてるからな……今まで伊澄も強いもんだと思われてたんだろう」
そう言ってユキまで可笑しそうに笑い出す、なんとなく全員の顔を見渡すと、反省している聖華と、当事者の伊澄さん以外は全く深刻な顔をしていなかった。
「俺は暗黙の了解で助かってただけなのか」
「役職者が最弱だなんて、知ってても言って回りませんからね、普通は」
カズヤさんの一言が刺さったのか、不本意そうな顔をした聖華がカズヤさんを睨むように見る……完全に逆ギレだ。
「噂が落ち着くまで、あまり出歩かない方がいいでしょう」
「毎日管理課と転生院と組合会を行き来してんのどうしよう……」
カズヤさんから笑顔で言われた僕の上司は、心底困った様子で頭を抱えていた。
「転生院に関しては吉助から来てもらえばいいだろ、管理課は真里がいるし、問題は組合会だな」
ユキが長い足を組み替えながら提案しているが、僕はその何気無く言われた一言が嬉しかった。ユキからみて僕は、伊澄さんを守れるって思って貰えてるんだ。
「あの、組合会は僕が護衛に付きましょうか?」
伊澄さんは僕の上司だし、管理課から組合会へ向かうのなら行動も共にできるはずだ。それに何より、噂の発端の現場に居合わせていたのがなんだか後ろめたい。
「……伊澄のために真里がわざわざ動くのは解せんな」
綺麗に整った眉を中央に寄せて、ユキがムスッとした顔で僕を見る。こんな時に思いっきり私情を挟んでいいのだろうか……一応ここ、警察みたいな組織なんだよね?
「昼はそうやって誰かが護衛できても、夜は結局一人ですからね……私達もずっと伊澄さんを監視するわけにはいきませんし」
カズヤさんは維持部隊の誰かを護衛に就かせるつもりだったのだろう……そっか、夜の事は考えてなかった。
「……いるじゃないか、適任のやつが」
そう言葉を発したユキを見て、その視線の先を追うと……どう見ても聖華だ。
「あ、アタシぃ!?」
「お前の無駄に全身に使ってる魔力、全て護衛するための魔力に転用すればそれなりになるぞ? 伊澄と家も近いし、決まったな」
話は終わりとでも言うようにユキが席を立つ、ハッとしたように聖華が顔を上げて、頭を何度も横に振った。
「無理ですっ! アタシ真里に負けちゃうんですよ!?」
「元はと言えばお前が原因だろ、落とし前は自分でつけろ。伊澄は何か問題あるか?」
ニヤッとユキが不適に笑いかける、仲が悪い二人を仲裁しようとでもいうのだろうか。
「俺は構わない、コイツとの約束もあるしな」
そう言った伊澄さんは聖華を見て、フワッと優しく微笑んでいて……え! 待って! 二人絶対なんかあったよね!?
ユキまで、ほぅ……と何か感心するように息を吐いた、多分間違いない。
伊澄さんの方を見てその表情を確認した聖華が、血相を変えて伊澄さんの肩を結構本気で殴りつける。
「お前調子に乗るなよ! このクソどっ……ハゲッ!」
「今度はハゲかよ! ハゲてねぇだろ!」
こんなの犬も食わない。
「カズヤ、聖華に必要最低限の護身術を叩き込んでやれ」
「「え゛っ」」
同時に心から嫌そうな声を出したのは聖華とカズヤさんだ……何となくこの二人、険悪そうな雰囲気は感じていたけれど、そんなにあからさまに嫌いあっているのか……。
「こんなチャラチャラした格好の人に教える護身術なんてありませんよ」
「アタシの方が年・上! いつもいつも! 遠慮なさすぎなんだけどっ!」
カズヤさんの発言に、ムキィと地団駄を踏むように聖華が怒っている。そっか! 聖華の方が年上なんだ……なんか見た目と落ち着き方から逆のイメージだったけど、聖華はこれでも200歳超えの悪魔だった。
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「まずその服ですが、動きやすいものに着替えてください」
いつも優しい雰囲気のカズヤさんが、かなりぶっきらぼうに言い放った。
聖華はツンとして不本意な顔をしているので、僕が仲裁する事にした……僕もいい機会なのでカズヤさんに指導してもらうことになったのだ。
「カズヤさんみたいに着物の裾を上げてしまうのはどうなの?」
カズヤさんは下は黒いタイトな現代風のズボンに、黒いハイネック のインナー、その上から着物を着ている。着物の裾は後ろの腰帯の中に入れて上げており、動きやすそうな格好だ。これなら着替えなくてもいいし、聖華も納得しないだろうか……。
「私に尻端折りしろっての!? 嫌よ! ダサイ!」
「……。」
カズヤさんが無表情で聖華をジトッと見た。聖華の好き嫌いは知った事ではないけど、それをやってる本人の目の前で言う無神経さがダメだと思う。この二人仲良くなるどころか、歩み寄る気配すらない。
聖華はため息をつきつつお得意の早着替えで渋々袴姿になった、もちろん道着タイプなどではなく、上着には花柄が付いている。最初に着替えたのは振袖で、ヤル気はあるのかとかなり怖い顔でカズヤさんから凄まれた。またもや渋々小袖に切り替えて、やっと本題入る。
「さて……真里に魔力での身体強化についてお伝えしたいのですが」
カズヤさんがそう切り出した時、事務所の奥に引きずられるように連れて行かれた伊澄さんと、連れて行った張本人のユキが応接間まで帰ってきた。
ユキが妙にニヤニヤしていて、なんとなく下世話な話をして来たような雰囲気がある。
「なんの制約も制限もなく戦闘をした場合、ここにいる中で一番強いのはユキですが」
二人を意に介する事なくカズヤさんは言葉を続ける。
「魔力使用を禁止して、人間時の力量だけで力比べした場合はどうなると思いますか?」
「えっ……それは」
そんなの僕からすれば答えは一つしかない。
「ユキが一番弱いんじゃないですか?」
「なっ……!」
さっきまで一番強いと言われて誇らしげにしたユキが、僕の言葉で取り乱す。
「実は自力ならユキに勝つ自信あるんですよね」
「じゃあやるか?」
ノリ気な顔をしたユキが、応接間のソファーにドカッと座り込んで、テーブルの上に肘を立てた。
「一回ユキとやってみたかったんだよね」
その手を握ってユキと目を合わせると、子供のように楽しそうな顔をしていた。
「本気でやっていい?」
「いいぞ、さすがに真里には負けないと思うがな」
ユキは忘れてるかもしれないけど、僕は夢の中で君に一度も負けた事が無いんだよ? ユキも自信満々って顔をしているけど、多分僕も負けないくらいの顔をしていると思う。
勝てるものなら勝ってみたい、僕の闘争心に少しの火がついた。
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