死が二人を分かたない世界

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魔界編:第4章 与太話

やる気スイッチ

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 夢の中のユキは、まともに走る事も出来ないほどに非力で、折れそうな程に細かった。

 今も腕を見れば細く筋肉なんてどこについてるの? って感じで、僕の腕と並べても太さ的にはそんなに差が無い。身長が高い分余計に、ユキはひょろっとしているように見える。

「ユキが魔力なしの腕相撲やるなんて珍しーね!」
「俺、レフェリーやる!」
 ルイさんと飛翔さんがワクワクしながらこっちに寄って来て、飛翔さんが僕達の間に立って手を添える。

「レディー……ゴーッ!」

 飛翔さんがパッと手を離して、スタートで自分の得意なポジションに持ち込んだ僕は、一瞬このままいけると思ったのも束の間、ユキの巻き返しにあい呆気なく負けてしまった。
「うそっ!??」
 驚いてユキの顔を見ると、ニッとそれはもう嬉しそうに笑う。ええっ、可愛いっ……! じゃなくて、いつの間にそんなに強くなって!?
「俺もあの頃のままじゃないんだな、これが」
 ユキは僕と握り合った手をにぎにぎとしながら、得意げな顔になる。

 "あの頃のまま"……僕はユキの生前の姿を知っているようで、その実知っているのは最後に夢で見た16歳までの姿だ。こうして何気なく過ごしていると、僕の中のユキが……雪景が、どんどん大人の姿になっていく。
 それは庇護欲を抱いていた幼い昔の彼から、強くて頼り甲斐のある大人の彼に上書きされて……カッコよくてドキドキしてしまう反面、ほんの少しの寂しさがあった。

「真里? なんでそんな悲しそうな匂い……そんなに勝ちたかったのか?」
「うん……勝ちたかった」
 さも悲しそうに言うとユキは困った様にあたふたする、それを見てふふっと思わず笑った。
 昔の君の面影を忘れてしまいそうで悲しくなったなんて……言えるはずもなかった。

飛翔さんがハッとしたように、ユキの勝ちーっと僕と繋いでない方のユキの手を掲げた。

「真里もスタートすげぇ良かったな! そのままいくかと思った!」
 飛翔さんが眩しいくらいのいい笑顔で、傷心している風の僕を慰めてくれる。
「父さんとよくやってて、コツを教えてもらってたので……無理してでももう少し鍛えてれば良かったなぁ」
「……筋肉質な真里も愛せる自信はあるが、今くらいが俺好みだぞ」
 ユキがとても自信があるとは思えないような表情をしている、僕としてはもっと男らしい体型に憧れるのだけど、ユキ好みというなら満更でもない。

「真里ーっ! 次オレっ! オレとやろーっ!」
 ルイさんが僕の座っているソファーの横に乗り込んできて、ユキと繋いでない方の僕の手をがっしりと掴んだ。ニコニコ笑顔のまま迫ってくるそんなルイさんの頭を、カズヤさんが背もたれ越しにわしわしと雑に撫でた。
「ルイ、腕相撲対決はまた今度にしますよ」
「ちぇーっ」
 子供っぽく拗ねた顔を見せるルイさんは、見た目相応……いやむしろ幼いくらいの反応をしている。が、中身は38歳だ……わざとなんだろうな、多分。

「真里の見立てはそんなに悪くないですよ、ユキは自力で手合わせするとルイにも負けることがありますからね」
「バラすな! 俺は接近戦向きじゃないんだよ」
 身を乗り出して抗議するユキに、カズヤさんが柔らかく笑っている。カズヤさんは表情はあまり変わらない人だけど、楽しそうにしているのはなんとなくわかった。
「もちろん魔力使用をして腕相撲すれば、ユキのひとり勝ちですよ」
「えっ、そうなんですか!?」
 飛翔さんにも勝っちゃうって事だよね……腕の太さが2倍くらい違う相手に勝つ様は、アンバランスで面白そう……ちょっと見てみたい気もする。

「みんな男の子ねぇ、かわいい♡」
 少し離れたところからこちらを窺っていた聖華が、片頬に手をあてて他人事のように見ている……お前も男だろう、というツッコミはした方がいいんだろうか。
 そんな聖華をカズヤさんが一瞥して、真顔でフッと目を逸らした。

「アレは置いておいて、先ほどの話の続きですが……」
「ちょっと! 置いちゃダメでしょ!? そもそもアイツの護衛の為の話じゃなかったの!?」
 確かに、聖華を使えるようにするのが本来の目的だったはずなのに、気づけばそれも忘れて僕も遊んでしまっていた。

「護衛するなら、見た目も大事だと思いますがね」
 カズヤさんがウンザリといった様子で、片手から通常サイズよりも大きく、重そうな警棒を生成した。そのスピードはかなり速く、まるで手の平を鞘にして抜刀したかのようだ。

 カズヤさんがその警棒を飛翔さんに向かって投ると、飛翔さんも緑の髪を揺らしてその重そうな物質を軽々と受け取った。見れば二人とも自然と腕に魔力で身体強化を施している、ユキもそうだけどあまりにも自然にその力を使うのだ。

「アレを見て襲いたいと思いますか?」
 そうカズヤさんは飛翔さんを手で示すと、飛翔さんが伊澄さんの横でわざとらしくムンッといかつい顔をして、腕の筋肉を見せつけるようにポーズをとる。半袖のティシャツから覗く二の腕だけでも、結構な太さだ……側にいるだけで護衛になる、まさにそんな感じだ。

「あんなの襲おうなんて余程の自信家かバカでしょ」
「ではあなたがその見た目で横に並んでいた場合どうです」
「うぐぅ……」
「襲わせないのが一番なんです、まずその年齢操作をやめては如何か」

 率直な意見をカズヤさんに言われてしまい、聖華がぐぅっと奥歯を噛み締めている。詳しくは分からないけど、聖華にとって年齢操作はコンプレックスを隠すために欠かせない事らしい……それを常に解除するというのは、なかなか辛い選択ではないだろうか。

 流石に聖華が可哀想になってしまって、年齢操作だけは……そんなお節介をしようとした時、伊澄さんが聖華の肩に手を置いた。
「そんなことまでする必要はない」
「……なっ! あんたの護衛する為の話なのよ? 必要あるでしょ!」
「尚更必要ない、二百年なんとかなってきたんだ、これからもなんとかなるさ」
 伊澄さんが聖華の肩をポンポンと二回叩いて、フッと優しく笑いかけた。

「相談しに来ておいて悪いが俺は帰るよ、邪魔して悪かったな」
 背中を向けて出入り口まで歩みを進める伊澄さんを見て、聖華が眉尻を下げて、眉間を寄せて、一瞬泣きそうな顔をして、そして瞳に光が宿るように強い意志を見せる。
「待ちなさいよっ!」
 追いかけるようにして伊澄さんの手を掴んだ聖華は、既に伊澄さんより背が高くなっていた。年齢操作を解除すると、聖華の身長はユキより少し低いくらいになる。

「聖華……?」
「アタシが原因なんだからアタシがなんとかする……アンタの為とかじゃないから」
 聖華が掴んだ伊澄さんの手を投げるように放すと、こちらを向いて両手を腰に当てて胸を張った。
「他に何したらいいのか教えなさいよ!」
 それは人に教えを請う態度ではなかったが、カズヤさんは不快ではなかったらしく、初めて聖華に向けて微笑みかけた。

「ここでは狭いですから、移動しましょう」
 カズヤさんが事務所の一番奥の扉を開くと、そこには半畳ほどのクローゼットみたいなスペースがあった。
 そこの方が狭くないですか!? そんなツッコミを思わず心の中で入れてしまったが、その半畳ほどの床に転移陣が設置してあるのが見えて納得した。

「この先はウチの道場です、実戦訓練しましょう」
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