死が二人を分かたない世界

ASK.R

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魔界編:第4章 与太話

お触り禁止!

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 まずはゆっくりスタートした、僕が軽くユキの手のひらにタッチするように拳を合わせると、ユキがそれを受ける。
 次は魔力で強化して合わせる、その次はユキが僕の魔力を相殺するから、すぐに解除された魔力の再装填をする。

 ユキが軽く僕に拳を出すのを受ける、次は魔力強化されたユキの拳の魔力を僕が解除する。

 そんな事を繰り返すうちに、だんだん役割があやふやになって、次第に速くなっていった。力を強化するより速さを高める強化を施すけれど、それはユキによって解除され……次にユキの拳を受けるのに急いで再装填する。

「まって! 速いよ!」
「まだこんなのは速いうちに入らないぞ?」
 かなり集中してないとユキの手が追えないレベルになってきた、しかもさっきからユキの手が僕の胸の中心部を狙ってきてて……!
 さっき"可愛がる"と言われた意味を理解した。

 ヌッと伸びるように僕の胸元に来た手を弾いて、ユキのもう片方の手に相殺させる為の魔力を打ち込んだ……つもりだったんだけど、焦って魔力量を誤った、これじゃ少ない! そう分かっていたのに、僕の手は止められなかった。
 パンッと手が弾かれて一瞬怯んだ隙に、ユキが僕の胸の中心を二回クリクリっと触って……!
「んぅっ!?」
 咄嗟に両腕で隠すように胸をおさえたけど、全然間に合わなかった! 悔しくてキッとユキを睨むと、嬉しそうな顔を返してくる。

「頑張らないと、もっといやらしく触るぞ?」
「まじめにやってよ!」
「真面目にしてるだろ?」
 背後をとられたかと思うと、僕のお尻を撫でていく。ブンッと腕を振ると軽く避けられて、冗談まじりに怖い怖いと言う……思ってもないくせに!

 ユキがノックでもするように手の甲で軽く打ってくる拳を、自分の手のひらの強度を上げて受け止める。ユキはかなり手加減してくれてるらしく、相殺するより確実に防御できるのだけど、そこから攻めに転じるのは難しい。
 綺麗に相殺して衝撃を発生させたところに打ち込む、もしくはユキの相殺を狙ってカウンター……それともここは避けるべきか? そんな判断を一瞬でしなければいけない。

 一瞬ユキの手が止まって、つられて僕も手を止めた。指をクイクイッとしてかかってこいと挑発されて、それに乗るように遠慮なく強化した拳を打ち込む。
 相殺されるか防御されるか……どっちにせよ大きな衝撃が生まれるように、かなり強めに強化した。もしこれがユキに当たってしまえばかなり痛いだろう……けど、今までのやり取りを見ただけでも、ユキがそんなヘマをするはずがなかった。
 思い切り振りかざした拳は相殺されず、受け止められることもせず、手首を掴まれて上に持ち上げられた……!
「隙あり」
「あっ……! やっ!」
 ユキが僕の内股を撫でて、そのままお尻を揉まれた! それもかなりいやらしく!!

「可愛い声、アイツらに聞こえるぞ?」
「もぅ……体を触るのはやめて」
 僕の腕を掴み上げたまま耳元で囁いてくる……言われた内容も恥ずかしくて、一気に顔が火照った。
「やめたら俺が楽しくないだろ? 真里にいやらしい事でもしないとやってられない」
 くそぅ……ユキに何か教えて貰うなら、セクハラは甘んじて受けなければいけないと言うことなのか……!?
 そもそも僕が失敗しなければいい話なんだけど、百戦錬磨のユキ相手に、失敗しないようにするのは至難の技だ。

 ユキの手首を狙って掴み返そうと腕を伸ばすと、拘束されていた僕の手首は解放された。楽しそうに笑って挑発してくるユキに向かって、そのまま連続でスピードを乗せて当てようとするけど、全て軽く受け流される。
 どうやってもユキを捕まえることも、一発入れることも出来る気がしない!
 流れる水のような動きは、いっそ芸術的な美しさを感じるほどのしなやかさだ……何をやってても美人なんて、天はユキに何物を与えているのだろうか。

 本来の目的を見失って、いっそユキの動きの艶やかさに見惚れてしまおうかと思った時……ユキが大振りの構えをした! 隙が見えた気がした、ずっと僕に対して弱めの強化しかしなかったユキが、しっかり手に魔力を乗せて振りかぶったんだ……これは決め手として繰り出されたものだ……これを相殺すれば隙が生まれるはずだと……!

 同量の魔力を貯めて、打ち消すつもりで合わせにいった、触れる瞬間……ユキの魔力がキュッと一気に小さくなった! ハメられた!
 パァンッとかなり強烈な衝撃に、後ろにバランスを崩して倒れそうになる。
「おっと、危ない」
 思わず目をギュッと瞑ったところを、ふわっと両腕に優しく抱き留められた。

 腰を抱き留めた手は、そのまま僕のお尻の割れ目をなぞって、その中心を服の上から擦ってきて……!
「ふあぁぁっ!?」
 ビクビクっと体が反応して、上擦った声が広い空間に響いた……。

 咄嗟に両手を口に当てて塞いだけど、恐る恐る遠くにいる二人を見ると……少し興奮気味な顔をした聖華と、若干呆れ気味のカズヤさんが視界に入った。

 ううぅ……恥ずかしすぎて泣きたい。

「よく響いたな!」
「もう……やめてって言ったのに……」
 口元を隠した手をそのまま上に上げて、熱くてたまらない顔を隠した。

「辱めを受けたくないなら、本気で来い」
 その場で立たされてまたユキが距離を取る……なんで今日はこんなに執拗に意地悪なんだろうか。

「真里が1番速いと思うスピードで連続で打ってこい、全部解除してやるから、怯まず再装填できるな?」
「分かった……」
 それとスパルタだ、こうして直々に相手してくれるのは嬉しいんだけど……。

 恥ずかしさを誤魔化す様に、ユキに向かって全身を強化した状態で突っ込んだ。僕が空いていると思った所に打ち込んでも、もれなくユキの手が受け止めにきて魔力を解除される。
 リズミカルにパンパンッと魔力が相殺解除される音が響いて、だんだんユキも受けるだけじゃなく打ち込んでくるようになる。ユキに釣られてそれを相殺すると、今度は相殺解除の応酬になる……スピードが速くて気が抜けない!

「慣れてくるとこういう打ち合いに発展する事はよくある」
 解除して受けたはずのユキの手が、手のひらを返して僕の胸元をサラッと撫でていく。
「——っ!」
「次に隙が見えたら直に触ろうかな」
「絶対いやだ!」
 今日は本当に意地悪だ! 何なんだ!?
 少し頭にきつつ奥歯を噛み締めて対応してると、感情に精度を乱されて相殺に失敗した、パンッとユキの手に弾かれて、まずいと思った瞬間には床に押し倒されていた。

「それともアイツらに見せ付けたいのか?」
「そんなわけないだろ!」
 押し除けるように腕を払うと、ユキが上から飛び退いた。その言い草が頭にきて、いい加減にしろって感情が表に出てくるように、背中から熱いものが湧き出すのを感じた。

「やれば出来るじゃないか」
 嬉しそうに笑ったユキに、もしかして僕を怒らせようとわざと……? そんな事を思ったら、一瞬気が抜けそうになる。

「そのままだ、維持できなければ次は脱がす」
 また意地悪な顔で煽られて、指先で挑発される。そんな挑発に釣られるように背中の熱いものが増して、僕は俯いて拳を強く握り込んだ。

「ヴゥゥゥ……」
「——っ!?」
 低い唸り声と共にズンッと寒気がするほどの重いプレッシャーに体が竦んだ。体が金縛りにでもあったみたい動かない……!
 完全に制止した体で恐る恐る顔を上げると、ユキの肩から人間の2倍はあるような大きな黒い犬が、身を乗り出すようにして牙を向いていた。

 これはもしかして、ユキを守る"犬神"……?
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