死が二人を分かたない世界

ASK.R

文字の大きさ
139 / 191
魔界編:第10章

欲しいもの

しおりを挟む
「真里、帰ろう」
「帰ってるけ……どっ!?」
 立ち止まったユキを見上げようとしたら、僕の視界はぐんっと高くなって、ユキに抱き上げられたと理解した時には、もう家の玄関だった。
 家まで転移した……!? またユキの魔力の無駄遣い!!

「また! 緊急時でもないのに!」
「緊急だろ、真里が抱きしめて欲しそうにしてるんだから」
 確かにもっと触れたいと思ったけど……! 平時に人前で転移陣を使うと、ユキがハルキさんから色々言われるし……。

「……転移する前、なんで不安になった?」
「えっ……」
 やっぱりバレてた、隠せるわけなかった。
 ユキが突然帰ろうなんて言うから、しかも僕が現世の家を恋しく思った後だから……だから、変なこと考えてしまったんだ。

 僕はもう、この世界の人間なんだから……! 気持ちを切り替えなくちゃいけないのに……。

 そうは思っても、両親の姿を見れば感情が揺れた。ユキと一緒にいると決めた時から、叶わない事だとは分かっているけど……両親の本当の子供として生まれたかったって気持ちは、薄れてなんかいないから。

「また揺れてる……どうした?」
「ごめん、一瞬でもバカなこと考えたなって、自己嫌悪中なだけ」
「そういう事は口に出せ、俺には何でも言えるだろ?」
 靴を脱がすために肩に担ぎ上げられて、脱いだ後はお姫様抱っこにされる。
 ユキは僕を抱えて離さない気らしい、僕の心が不安定だから?

「今日はどっちに行く? ベッドか? ソファーか……」
「あ……ベッドで」
「真里が安心するまで、愛してやるからな」
 口の端にチュッとキスされて、くすぐったいような気分になる。

「それで、バカな事ってなんだ?」
 ユキが寝室に続く扉を手も使わずに開けると、うっすらと照明のついている部屋に入る。

「ユキが不安に思った通り……やっぱり僕は現世に未練を感じてしまったよ」
 自嘲するように伝えれば、ユキは少し乱暴に僕をベッドの上に置いて、両肩を掴んで迫ってきた。

「……転生、したいのか?」
「したくないよ」
 ユキが不安にならないように即答すれば、ホッと安心したような表情を見せた。

「僕が未練がましいから、ユキに呆れられたらどうしようって……そんな事なら転生しろって言われやしないか、不安だったんだ」
「言うわけないだろ」
「そう、だからバカなことって言ったじゃないか」
 なんでもない事のように笑いながら、僕の肩に置かれた手に自分の手を重ねた。

「悲しむ両親を見ても、それでもユキの側に居たいって思っちゃった……僕って薄情なのかも」
「何言ってるんだ、真里が薄情なわけないだろ? 俺はめちゃくちゃ愛されてる」
 ユキが後頭部から頸を撫でて、引き寄せられて、唇を合わせた。
 少しだけ絡められた舌が離れて、名残惜しさを感じる。

「まだ揺れてるな、何かしてほしい事はあるか? 胸の中で甘えるでも、膝枕でも、なんでもしてやるぞ?」
「ひ、ひざまくら!?」
 ユキの膝を枕にする!? そんな贅沢許されるんだろうか……!
「なんだ、嫌か? 膝枕……俺は真里にしてもらうの好きだけどな」
「イヤじゃない、して欲しい!」
 身を乗り出すようにユキに返事をしたら、ユキはベッドの上で座って、おいで……と、優しい声で僕を呼んだ。

 あぁ、なんて甘い誘惑なんだろう。
 ユキに膝枕する事は何度かあったけど、してもらうのは初めてだ!
 あの頭の重さと温かさが好きで、僕のものって感じがして、僕はユキを膝に抱くのが好きなんだけど……ユキもそんな風に思ってくれるだろうか。

「失礼します……」
「ハハッ、なんで緊張してるんだ?」
 枕の近くに座ったユキの膝に、ガチガチに緊張して、ぎこちない動作で頭を置く。ユキは結構細いけど、骨張ってたり、貧相ってほどじゃなくて、太ももは背の高さもあるから意外と質量を感じる。

 仰向けになってユキを見上げれば、僕の顔を覗き込んだユキの髪が、サラッと落ちてきた。
 優しく微笑みながら、ゆっくりとおでこから頭を撫でられて……あぁ、なんて心地いいんだろう。

「されるのもいいが、する側もなかなか……」
「ユキはあまりした事ない?」
「俺が他のやつに膝枕なんてすると思うか?」
「僕だけなんだね」
 そしてこれから先もずっと僕だけのものだ。
 やっぱりユキに膝枕をしてもらうなんて贅沢だ、思わずニヤニヤと頬が緩むのが止まらない。

「はぁ……幸せ……」
 思わずユキが撫でる手に擦り寄ると、目を細めて、口の端を少し上げて、すごく優しい表情をするから……胸の奥がキュッとするほどときめいてしまう。
「甘えた顔になってるな、可愛い」
「次は交代する?」
「いいや、このまま真里の気持ち、全部聞いてやるから……全部話せ」
 頭を撫でられ続けて、母さんにもこうしてもらった事があるのを思い出した。

「――今日、自分の家を見たんだ……家を外から見ただけで、泣きそうになっちゃった」
「うん……」
「リビングを見たら、僕の仏壇なんかあってさ……あぁ、僕は本当に死んでしまったんだなって、実感しちゃったんだ。もうこの家に僕は帰れないんだって、分かってたはずなのに」
 自分の死に顔だって見たはずなのに、なのに僕は自分の死をどこか他人事のように感じていた。

「母さんが『会いたい』って言ったのが分かったんだ、そしたら……僕も、すごく会いたいって……思っちゃって……」
 ユキが不安になるから、泣かないようにしようって思ってたのに……なのに、あの震える母さんの背中を思い出しただけで、溢れる涙が止まらなかった。
 思わず両手で顔を覆うと、ユキはただ優しく頭を撫でてくれた。

「僕っ……もっと、生きたかっ……た!」
「うん……」
 僕を励ますようなものでも、責めるようなものでもなく、ユキはただ相槌を打つだけだった。

 濡れた目元を拭って、震える口で息を吐き出してユキを見上げたら、ユキの目元からも、熱い滴がぽたたっと落ちてきた。
「俺も……もっと生かしてあげたかった」
 相変わらず綺麗な泣き顔に、見惚れて思わず手を伸ばすと、ユキが体勢を低くしてその首元にしがみついた。

 僕の気持ちを汲んでくれるのも、一緒に泣いてくれるのも嬉しい……。ユキが不安になるからとか、いつまでも未練がましいとか、そんな事ばかり考えてしまってた……ユキに素直に気持ちを話せてよかった。

「ユキ……なんでもしてくれるんだよね?」
「あぁ、真里のためなら何でもする」
 ユキがおでこをコツンと合わせて来て、ただそれだけなのに、ユキのことが愛しくてたまらなくなる。

「あのね……ユキ……僕を……」
「うん?」
「僕を……欲しがって」

 ユキの目がパチッと開いて、体を少し持ち上げて、僕の方を驚いたように見た。
 目が合ったその視線に恥ずかしくなって、思わず目を逸らすと、ぐっとアゴを掴まれてユキとまた視線が絡み合う。

「いっぱい欲しがるから、真里も好きなだけ俺を欲しがって、甘えればいい」
 親指で口を開くように促されて、早く欲しいと言わんばかりに従うと、貪るように舌が絡められて……。

 ユキはいつも僕がしてほしい事をしてくれる。

 ユキに求めてほしい、僕に居場所を作ってほしい。両親が僕に作ってくれたような、温かくてずっとそこにいたいと思えるような居場所を。

 僕もユキにとってそんな存在になりたい。
 幼馴染で、親友で、恋人で、守ってあげたい人で、守って欲しい人で、そうやって支え合ったり、家族みたいな……。

「思い出したら泣いていい、何度でも拭ってやるから」
 いつの間にか溜まっていた涙を、ユキが親指で拭ってそこにキスを落とした。

 絶対に離れないようにねっとりと唇と舌を絡ませながら、服が脱がされて行く一方で……直接触れ合って、温かい場所が増えていく感覚に安心した。

 こうやって寂しい気持ちを何度も思い出しては、ユキに慰められて、僕は乗り越えて行くことになるんだろう。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

処理中です...