死が二人を分かたない世界

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魔界編:第10章

全部俺のモノ

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 お盆も明けた8月17日、今日はユキがハルキさんと約束をした日だ。

 懐古祭の日から他の人が祝日として休みを取る中、僕たちは相変わらず維持部隊の仕事をしていたわけだけど……夜はユキと二人でゆっくりと過ごせたので、僕の内面的な揺らぎはかなり落ち着き、いつも通りに戻っていた。

「そういえば、飛翔さんと瑠衣さんは懐古祭の会場には行ったんですか?」
 僕があの場に居座った時間の中では、二人は来なかったみたいだから、維持部隊の軽い朝礼の後に聞いてみた。

「オレはもう見たい家族がいないからさー、あそこには行かないんだ」
 ケロッと明るく答えた瑠衣さんは、何でもないような素振りだった。
 でも瑠衣さんって亡くなったのは14歳で、それから24年……家族がいないというには早すぎるのではないだろうか……。

 そんな疑問を持った僕の考えを察してか、瑠衣さんはいつものニコニコとした笑顔を崩さずに、巡回の準備をしながら話してくれた。

「母親はオレが小さいときに死んじゃってさー、コレ遺骨が入ってんだ……レプリカだけどね」
 そう言って、いつも首からかけていたネックレスを親指で弾いた。
「親父が一人で育ててくれたけど、オレのせいでもう現世にはいないんだ……だからもう見たい家族なんていねーの」
 いつもの目を細めた笑顔の目元が、一瞬開かれて……開けば鋭い目つきの瑠衣さんだけど、今日は少し寂しそうな雰囲気を感じた。

「す、すみません……無神経に」
「なんで謝んのー? オレが勝手に話したんジャン?」
 懐古祭で僕は人の役に立てた気がしていたから、だから瑠衣さんや飛翔さんの役にも立てるかもって……そんな軽い気持ちで聞いてしまったから。

 申し訳ない気持ちになっていたところで、無言のままカズヤさんが瑠衣さんの横についた。
 カズヤさんは何を言うわけでもないけど、ただ隣に腕が少し触れるように立って、今日の巡回で使うであろう捕縛道具の手入れなんかをしている。

 そんなカズヤさんを一瞬見上げて、照れくさそうに笑いながら、瑠衣さんも巡回の準備に戻っていて……あぁ、みんな支えてくれる人と一緒にいるんだなぁ、なんて一人勝手にホッとした。

 飛翔さんにも、無遠慮に聞く内容ではなかったと謝罪しなければ……。
「すみませんプライベートな事なのに踏み込んでしまって」
「大丈夫、大丈夫! ここはそういうの気にしないぜ? 俺もあそこは行かないって決めてんだ」
 飛翔さんは、ケラケラッと明るく笑い飛ばしてくれた。

「決めてるんですか?」
「見るとやっぱり会いたくなるからな」
 飛翔さんは現世に恋人を残してきているから、毎年見に行っているものだと思ってた。でもそれは、僕も実際に現世の様子を見る前にそう思っていたって話で……。

「……わかります」
「だよな」
 二人で苦笑いをして、みなまで言わなくても共感するものがあった。
「そのうち元気な姿見て笑い飛ばせるようになるさ、そんなやつらばっかりだっただろ?」
 ユキが僕と飛翔さんの背中をパンッと叩いて、間に割って入って左右順番に顔を覗き込んでくる。
「大丈夫そうだな」
 ヨシヨシと何か一人納得して、いつものソファーの席へと戻っていった。

「では、真里には留守番お願いしますね、何かあったら頼りにしていますよ」
 先に巡回の支度を終えた瑠衣さんとカズヤさんが、事務所を出るところで立ち止まった。

「いつの間にか転移陣使えるんだもんなー? すでに追い抜かれた感ハンパねーんだけど!」
 ヒャヒャッと笑った瑠衣さんは、面白がっているみたいだ。
「真里はしっかり練習していましたからね、急に伸びた感はありますが、努力の賜物でしょう」
 カズヤさんすみません……転移陣は複雑すぎて自力で理解できず、菖寿丸に頭に直接構築式をぶっ込まれたので、チートなんです。僕の力じゃないんです! なんだか後ろめたい気分だ。

「俺も頼りにしてるからな! 今度やり方教えてくれよ!」
 飛翔さんが長い脚で二人に小走りで追いついて、三人一緒に事務所を出て行った。

 今日はユキが直轄領に呼ばれているから、僕はユキの代わりに事務所で留守番になった。
 転移陣が使えるようになったと伝えた時、瑠衣さんがすごいすごいと褒めてくれたのが嬉しかったけど……なんだか嘘をついてるみたいな気分だ。
 使えるようになったのは本当だけど。

「そういえば、アイツら少し進展したみたいだな」
 二人きりになった事務所で、ユキが唐突にそう切り出してきた。
「アイツらって……」
 誰の事かと聞こうと思ったら、騒がしくバタバタと足音が聞こえてきて、乱雑に事務所の引戸がバンッと大きな音を立てて開かれた。

 こんなうるさい登場の仕方をするのは一人しかいない。
 今日は白の着物にピンクの羽織を羽織った、茶髪にグリーンの瞳、耳や髪を飾り立てて、ワーンと泣きまねしながら入ってくる聖華だ。

「真里もユキさんもひどぉ~い!! アタシ待ってたのに!」
「……何の話?」
 ユキは取り合う気もないらしく無視を決め込んでいて、仕方なく僕が対応する。

「15日の夜よ! 盆踊り会場見に来てって言ったでしょー!? まさか、聞いてなかった!?」
 そういえば、僕が巡回中に偶然遭遇した時、隣でずっと喋ってた日があったな。
 仕事中にずっと喋り続けられて、うるさいなーって思ってたけど、そんな事話をしてたのか。

「盆踊り会場で何してたの? 盆踊り?」
「本当に聞いてない!! ライブするっていったんだけど!」
「ライブぅ!?」
 アイドルかなんかなの? いや、そうだ、一般悪魔からすれば聖華はアイドル枠だった……。

「ゆっくりと二人で過ごせる時間を、お前のために割くわけないだろ」
「あぁんユキさんのいけずぅ! でもそこが好きッ!」
 ズカズカと事務所の中に入ってきて、シレッとユキの横に座ろうとした聖華の首元の衿を掴んだ。
 腕の強化をした僕に、聖華は足を縮めて素直に持ち上げられる。
 うーん……こうして欲しかったと言わんばかりだな。なんて思いながら、ユキの向かい側の席に落とした。
「で? 今日は何か用事があった?」
 聖華に座られないように、ユキの横に腰を下ろしながら聖華の方を見た。

「もう用事は終わったよ! 埋め合わせしてほしいものだわ!」
「話を聞いてなかったのは悪かったよ、ごめんね」
 聞いていても行ったとは限らないから、行かなかったことについて謝る気は無いけど。ライブ会場に来なかった僕たちに対して、文句を言うためだけにここまで来たんだろうか。

「真里の童貞くれるなら、許してあ・げ・る」
「……あぁ?」
 僕よりも早く反応したのはユキで、それこそ嫌悪感を隠すことなく、苛立ちを一切抑えないプレッシャーで聖華を睨みつけた。
 その様子を一言で言い表すならば、まさに『大人げない』だ。

「アァッ♡ ゾクゾクする! たまんない!」
 だめだコイツ喜んでる。その辺の一般悪魔の人たちなら、震えて動けなくなるくらいの怒りをぶつけられているのに……これだけ喜んでいられるんだから、聖華はやっぱり大物なんだろう。

「あんまりふざけてると、ユキに本気で怒られるよ」
 さすがに聖華の身が少し心配になって、忠告したつもりだったんだけど……これがとんでもない話に発展した。

「アタシだって本気だから! だってこのままじゃ真里はずっと童貞のままなんですよ!? 男としてそれは可哀想でしょう!」
 余計なお世話だ、ちょっと黙っててくれないだろうか。

「だったら、浮気の心配もない、後腐れもない、初めてでも気持ちよーくご奉仕してあげられるアタシが適任だと思いません? 真里の筆おろ……」
 ガタッとユキがソファーから立ち上がって、聖華の胸ぐらを乱暴につかんだ。

 ほら、めちゃくちゃ怒ってる! ユキは前から僕と聖華が仲がいいのに妬いてる節があったから……!
 ユキを止めようと立ち上がった僕は、それを聞いて完全に思考が停止した。

「真里の初めては、全部俺のモノに決まってんだろ!」

 ……えッ!!!!???
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