死が二人を分かたない世界

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魔界編:第12章

本当の目的

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『キョウ』

 その名前は、この世界では腫物のように扱われていた。その人物や百年前の事件について、僕は資料で見たものと、少しだけ聞いた話でしか知らない。

 キョウは僕たちと同じ魔王様の眷属、直血悪魔だったらしい。大衆を扇動して、魔王様への抗議活動を行ったって内容だったと思う……。

 魔王様には僕も不満は多いから、一切蜂起なんてされても納得がいくというか、あり得るなって思ってしまうけど……その鎮圧方法がまずかった。
 民衆が押し寄せた中央の大路で、ユキは全員を輪廻に押し流してしまったらしい。

 そのせいで、魔界の人口は約八割減ったとか。

「その人って、百年前にユキが輪廻に還した……んだよね?」
 そう聞いていた、でもユキのさっきの口振りはまるでキョウがまだ存在しているような言い方だった。

「そう思っていた、だからまだ確証はないが」
 ユキの表情は暗く、ハルキさんは口元を押さえたまま黙っている。
 キョウという人の存在は、直血悪魔の中でどれだけタブーなのかというのを身に沁みて感じる。

「だからあの拠点に設置してある仕掛けは、俺が取りに行く……他のやつに任せて壊されたら敵わん」
「分かりました、お願いします」
 ハルキさんは素直にユキに仕事を託した。
 ユキが襲われた現場にもう一度足を運ぶなんて……って思ってたけど、そんな事考えてたなんて気付きもしなかった。

「本当にキョウがまだ存在しているなら……狙いは間違いなく魔王様だ」
「えっ……百年前の事件って、抗議活動じゃないの!?」
 資料には確か、『死者の魂の管理に対する活動』ってあった気がするんだけど。僕のイメージだと、駅前とかを集団で歩いたり、プラカード出してデモ活動してるようなものだとばかり……。

「理由なんてアイツにとってはどうでもいい、ただ煽り易い謳い文句を掲げただけ、本当の狙いは魔王様の暗殺だ」
 暗殺……!? この世界の創造主を殺すって事!? 話があまりにも大きくなって、とっさに言葉が出てこない。

「もし覇戸部が俺をレイプした場合、俺は間違いなくコイツを輪廻門に叩き込んだだろう」
「……っ!」
 当事者があまりにもあっけらかんと、そんな事を言うから……ユキ以外の全員が硬直した。

「未遂だったとしても俺がコイツに報復しないわけがない、魔王様を取り巻く俺たちの分断を謀ったんだろうな」
 ユキは魔王様に次ぐ実力のNo.2だ、覇戸部はNo.3……この二人のどちらかが消える、もしくは手を組めない状態にするのは、魔王様を狙っているなら当然の手だ。

「例の仕掛けは拠点の入り口から見て左回りにある棚にあった……お前と覇戸部が組んだ場合の捜索手順は?」
 ユキが腕を組んで眉根を寄せたままこちらを向いた……正しくは、僕の隣にいるハルキさんを見た。
「私が右手から、覇戸部さんは……左手からです」
「いつも同じでバレてるんじゃないか?」
 ハルキさんは面をしていてもわかるくらい、青ざめていた。

「……まぁ、ここまでは俺の憶測だからな。そこでお前に聞くことがあるんだが」
 ユキはおもむろに独房の中でしゃがみ込んで、後ろ手に縛られている覇戸部を鋭い眼光で睨んでいるんだけど……近い! 近いよ……!! もっと離れて!! 正直、重要な話よりそっちが気になって仕方ない。

「お前、あの仕掛け……どこで知った?」
「制圧の時、顔にかけられて」
「なぜ報告しなかった」
「何ともなかった」
 全員が呆れたようにはぁ……とため息をついた。

「なんともあっただろうが……アレは遅効性で長く効果が続く、依存性も高く繰り返し欲しくなる物だ、常人ならとっくに理性が吹っ飛んでたぞ」
 いや、実際に吹っ飛んでるからユキを襲ったんだけど……。

「覇戸部さんはメンタル鋼ですからね、効きが弱かったのかもしれません……私がもっと気にして見ていれば」
「お前はコイツの保護者か?」
 とにかく自分のせいにしようとするハルキさんを、ユキはハンッと鼻で笑った。

「それで、お前は自分の思考がおかしいのは分かってたよな? それでも報告もせず放置して、欲求の赴くままもう一度浴びに行った訳だ」
「……そうだ」
 覇戸部はユキとまっすぐに目を合わせたまま、悪びれもなく肯定した。

「ユキが欲しかった」
 そんな事を僕の目の前で堂々と……! ユキが解毒したからもう薬物の効果は残っていないのに!
 頭に血が昇って、体が熱くなるのを感じた。

「うぐっ……!」
 覇戸部がまたうずくまって苦しみはじめた。目の前に居るから見える、アイツの魂の中核が赤黒く燻っているのが。
 自分が目の前のコイツを苦しめている、その自覚はあったけど、やっぱり許す気になんてならない!

「真里、落ち着け」
「無理だ、ユキを傷つけて悪びれもなく……!」
 感情を抑えようと拳を強く握り込んでも、感情の昂りは抑えられそうになかった。

「覇戸部さん! 謝罪を……!!」
 焦ったようにハルキさんが独房に半身を突っ込んで、覇戸部の肩を揺すっていた。
 謝罪うんぬんじゃないんだ、謝られたって許せることと許せないことがある……!

「……ッ、俺は……ユキが欲しかった……だから、謝らない」
 ガタガタと震えながら魂を焦がされる痛みに耐える人物を、僕は憎まずにはいられない。
 独房の中からユキが出てきて、思わず顔を伏せた。

 相手を憎悪する表情を見られたくなかった……あの日鏡で見た僕の顔はひどく醜かったから、あんな顔をユキに見せたくない。
「真里、こっちを向け……ほら」
 ユキから頬を撫でられて、顎を引き寄せられそうになるけど、振り切って顔を向けなかった。

「その顔が見たい、俺は真里のドロドロに黒く染まった魂が好きだ」
「……ッ、趣味が悪いよ」
 今度は両頬を掴まれて、ユキの力に抗えなかった……。それは無理矢理じゃない、好きだと言われて、本当か確認したくなってしまった。

 前を向くとユキは高揚したように笑っていて、ゾクっとした……。

「いい顔だ、真里が俺のためにこんなに魂を汚してる……ゾクゾクするな」
「なっ……!」
「もっとだ、真里……」
 グッと腰を抱き寄せられて、首の後ろを掴まれて逃げられない状態でキスされた。
 一瞬驚いて無抵抗で受け入れてしまったけど、人前だという事を思い出して、その腕から抜け出そうとした。
 なのに、ユキは舌の側面を舐めながら奥まで差し込んできて……!
「ンッ……んうぅ!?」
 腕を強化してまで僕を逃すまいと抱きしめてきて、一方的に口内を貪られる。

「んううう!! ……っあ、なにを!」
 やっと解放してくれたかと思ったら、僕もユキもはぁはぁと息が上がっていた。
 うぅ……まずい……人前なのに、僕もユキもちょっと反応しちゃってる。

 そうだ人前ッ!! バッと独房に視線を向けると、二人はポカンと口を開けたまま呆然とこちらを見ていた。
「あっ、あの……いや……」
 な、なんでガン見して……! せめて見ないふりくらいしてくれたっていいじゃないか!!

「落ち着いたな」
「なっ……!」
 ユキが僕を抱きしめたまま、ニコッと悪い表情を含ませて笑った。純粋な笑顔だったかもしれないけど、僕にはそう見えた。

「人前でこんな……!」
「見せつけてるからな、ここに来る前に真里の魔力をたっぷり付けてきたのはなんでだと思ってるんだ?」
 まさか、覇戸部への当てつけの為に……!?

「俺はこのまま続けても構わない」
 僕の目の前にユキが首元を差し出してきて、ユキが感じるその傷跡を目の前に、ゴクリと喉が鳴った。
「また新しい印……つけるか?」
 そのあまりの艶かしさに、頭がくらくらした。僕の恋人、こんなにも妖艶だっただろうか……!

 あわあわと僕が狼狽していると、独房の冷たい床にパタパタと水滴が落ちる音が聞こえた。
 我に返ってそちらを向くと、こちらを見たまま涙を流す覇戸部がいた。

 なっ、泣いてる――!!!!
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