死が二人を分かたない世界

ASK.R

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魔界編:第13章

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 体が動かない。

 二人で布団の上に寝転んだまま、ずっとユキから頭を撫でられ続けていて気持ちいい。
 けど、僕はもう指先一つも動かしたくないくらい、体を動かす事が億劫だった。

「ごめん、休みの最後の日なのに」
「元々こうなる想定の三日目だ、二日間俺の魔力を受け止め続けたんだ」
 ユキが頭を撫でていた手で、髪に指を滑らせてくる。
「足の指から髪の先まで、全部俺に染まったな」
「もっ、元々ユキの魔力で満ちてるよ?」
 恥ずかしくて、動揺して声がうわずった! 顔も熱い! ユキはただただ嬉しそうに、愛しそうに僕の横で寝転んだまま頭を撫でているだけなのに。

 前日の夜から抱かれて、一日目もお昼からだけど何度もしたし、昨日は一日中ユキが僕の中にいて、ずっと繋がっていたから……。
「どこも痛いところはないな?」
 ユキが首のあたりや鎖骨を撫でていくのは、昨日噛まれた場所だ。
「うん、ないよ」
 本当は噛まれた跡を残しておきたかったんだけど、ユキに消されてしまった。僕を傷つけたみたいで胸が痛むらしい。僕からして欲しいって頼んだんだから、気にしなくていいのに……。

「まだ足りないか? 欲しそうな匂いがする」
 ユキが覆いかぶさった陰で視界が暗くなる。目の前に愛しい人がいると思ったら、反射的にその体に腕を回した。
 ユキはキスしたり触り合ったりしたそうだったけど、引き寄せて強引に肌を密着させると、体重を預けてくれるのが心地いい。

「欲情の匂いがするのに、それよりダルいが上回ってるって感じだな」
「でもユキとは触れ合っていたいよ」
「じゃあ触っていようかな」
 首筋にキスをしてくるユキと、クスクス笑いながら戯れていると、ユキが何かに気づくように視線を上げた。

「あの梅の木、なんか大きくなってないか」
「うん、今まで気づかなかった?」
 一日目の夜に僕の目の前で大きくなったけど、ユキは背を向けてたから気付かなかったのか。
 ユキが体を起こして、僕を膝に抱くようにして梅の木を眺める。

 ユキから何かを解析するような魔力を感じて、それはここに来てから何度も感じたものだったけど、僕は別段気にしていなかった。
 意識をこっちに向けて欲しくて、背中に体重を預けるとまた後ろからあちこちキスされて嬉しくなる。
 邪魔したいわけじゃないんだけど、構ってほしいって欲求を満たされるのはたまらなく幸せだ。

「ユキは後ろから触られるのは苦手なのに、触るのは好きだよね?」
「真里が俺の腕の中に居ることが重要なんだよ」
 ユキの前後どちらにいるかって事なのかな。
 後ろを振り返ると、油断していたのかユキの表情は浮かないような複雑な顔に見えて、僕の視線に気づいて急いで作り笑いをする。

 何となくだけど、ユキはまだ僕に隠し事があるのが気になるのか、それに罪悪感なんかが残ってるのか気まずそうだ。
 でもそれは僕も同じで、ユキが隠しておきたいと思っていた過去を菖寿丸から引き出したんだ。
 お互いなんだが妙な間が生まれて、居心地が悪い。せっかくの二人きりでいられる最終日なのに、こんなぎこちない空気のまま終わるのは嫌だ、絶対に嫌だ!

 気だるい体を動かしてユキと向かい合わせに座った。
 ふぅーと息を吐いて気合いを入れたけど、ユキの目を見たら少し躊躇してしまう。
 けど、今を逃したらきっとまたユキは誤魔化し続けるから……。

「ユキ、ごめん……! 僕は君に謝らなきゃいけない」
 ユキの両手を取ってから、その目を見た。向かい合ったその表情は明らかに戸惑っている。
「ユキが僕に隠しておきたいこと、僕は菖寿丸の記憶を見たから知っているんだ……」
「は……なに……」
 その瞳がいっそう動揺して揺れる、逃げたい、聞きたくない、そんなユキの感情が手に取るようにわかった。
 だから、逃げて欲しくなくて、その手を強く握る。

「ユキに何も言わずに、勝手に詮索してごめん」
 ユキは戸惑って何も言わない、やっぱり僕から目を逸らして、逃げたそうにしていた。
「菖寿丸の記憶を見たから、僕は君が傷ついたこともちゃんと分かったんだ。一番辛かった時に、居なくなって本当にごめん……あんな顔させてたなんて思わなくて……」
 菖寿丸に僕と会えないと言った時の、見たことも無いような悲しい表情を思い出したら、胸が苦しくて目頭が熱くなる。

「ごめん……本当に、ごめん」
「や……真里は死んでしまったんだし、仕方なかっ」
「仕方なくない! 仕方なくなんて……ないんだ! ユキはもっとちゃんと僕に怒って! 僕はユキがずっと抱いた本音が知りたい……隠さないで、なんでも聞きたいんだ」
「あっ……」
 ユキから恨めしく思ったこともあるって言葉は聞いていたから、だから僕に言いたいことはたくさんあるはずなんだ。
 でも、ユキはそれを仕方なかったって済ませて、心を押し殺してる。きっとそれも僕に対する罪悪感につながってるんだ。

「僕はユキを不安にさせたことを謝りたいんだ」
「ッ……あぁ、不安だった、真里が殺されたんじゃないかって不安で……でも、本当は俺に呆れて嫌われたんじゃないか、見捨てられたんじゃないかって……思って、俺は汚いから」
 以前にも僕はユキに聞いたことがあったけど、その時は僕の質問にただ頷くだけだったユキから、直接言葉にされるのはやっぱり堪える。
 ユキの手が震えて、目を赤くして涙を堪えようとしている表情は、夢で見た雪景と重なった。

「汚くなんか……! 君が汚いなんてことあるわけない!」
「それは真里が、知らないから」
「知ってる! 知ってても、君を綺麗だと思ってる!」
 ユキの息が詰まる声がした。顔は真っ青で、短く息を吐いて、胸が痛くなるほど悲痛な顔をしていた。
「知ってる……?」
「知っていても、僕が君を想う気持ちになんの支障もない」
 その頬に触れようとすれば、ビクッと体が跳ねた。
 でも、指先でそっと触れると嫌がらずに触れさせてくれる。

「気持ち悪く……ないのか?」
「あるわけない、僕が逆の立場だとしてユキはど……」
 そこまで口にして、ニュースで流れてきたあの女の顔が浮かんで吐き気がした。
「うっ……自分で言って気持ちが悪かった……ごめん、ユキの気持ちがわかったよ」
 憎悪している相手となれば尚更、ユキは自分自身に嫌悪感を抱き続けてきたんだろう。

 本気で気色悪いと思って吐き気を抑えるために口元に手を当てれば、ユキがフッと笑った声が聞こえた。
「なんだそりゃ、気持ち悪いのか悪くないのかどっちなんだ?」
「僕は何があっても君を愛してるってことだよ」
 もう片方の手もユキの頬に当てて、その額にキスした。

「その少し照れた顔も、僕にしか見せないから大好き! 何を言われても手放す気なんてないから、もっと罵倒してくれてもいいんだけど」
「なんでそんなに罵倒されたいんだ?」
 ユキは照れる表情のまま、クスクスと堪えるように笑っている。
「だってその方がスッキリするでしょ!」
「じゃあ、もう俺を置いてどっかに行くな、ばーか」
 今度はユキから鼻をぐりぐりされて、でも、ばーかって言うユキの表情が可愛すぎて、全然罵られてる気がしない!

「もっと言ってください」
「コラコラ、勝手に新しい扉を開くな」
 ユキに抱き寄せられて、二人でケタケタ笑った。
「まったく、勝手に人の過去を覗いてくるなんて」
……真里の夢は本当に厄介だ」
 ユキが僕を抱きしめたまま、肩に顎を乗せてくるのが愛おしい。

「僕は君に出会えたこの能力に感謝してるよ……でも、知ってるのは菖寿丸との会話だけだから」
「そうか……」
「だから、ユキがされると嫌なこと、怖いこと……全部教えて欲しい。絶対に嫌なことなんて思い出させないように、君に触れたいんだ」
 こめかみから綺麗な黒髪に指を通すと、ユキは少しだけ困った表情を見せた。

「体に触れる時は前からにして欲しい……あと、ここは真里のだから、離さないでくれ」
 ユキが僕の手を取って、硬く熱いところに導かれる。
「僕のだから……」
「そう、真里のだから」
 そう言われると照れくさくて、恥ずかしいし……なんでもう臨戦体制なのかなんて色々思ったりもしたけど……でも、一番に頭に響いたのは、ユキの『離さないで』って言葉だった。

 僕がユキに触れたあの時も、この言葉を言われてた……なのに、僕はその手を離してしまってたんだって気付いてしまった。本当に僕はダメダメだったんじゃないか……!
「あと、気持ちいいか聞かないでくれ」
「っ……分かった!」
 その要望も、うっかりやっちゃいそうで……気をつけなきゃ! 男心として、やっぱり最中気持ちいいかどうかって言うのは、どっちをしてたとしても聞きたくなるんだけど……!

「……真里に触れられて気持ちよくないわけないし、ちゃんと態度で示すから」
 これは心底恥ずかしかったのか、ユキは僕の鎖骨あたりまで額を落として、表情を隠した。
 そんな仕草でさえ愛らしくて、愛おしいのに……態度で気持ちいいなんて示されたら、僕の心臓は保つのだろうか……?

 ドギマギしている心臓を落ち着かせて、できるだけ冷静な声を出すように努めた。
「ユキ、嫌な時は我慢せずに全部言ってね」
「あぁ」
「ゆっくりでいいから、ユキの嫌だった思い出……全部僕で上書きさせてね」
「嫉妬か?」
 僕の首元から顔を上げたユキはニヤッと笑っていた。

「嫉妬だよ、他の奴の事なんて絶対に忘れさせるから」
 今はその恥ずかしそうに照れた顔で満足しておくから、いつか全部僕で染めさせてね。
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