俺の学園ラブコメのヒロインは世界滅亡を目論むラスボスだった〜美少女たちによるハーレム異能恋愛バトル〜

セカイ

文字の大きさ
20 / 72
第1章『多角的落恋地点の収束』

第20話 多角的落恋地点の収束 ② 45901

しおりを挟む
 時を巻き戻す。そんな荒唐無稽な話を、今なら信じられてしまう。
感傷的心象エモーショナルの影響力・エフェクト』という特殊能力が、それを可能にしているんだと。

 思えば、色々と不可解な点はあったんだ。
 聞いたはずのことを覚えていない、聞いたことがないことを覚えている
 ここ数日の記憶があやふやだったり、そもそも未琴先輩にキスされた時のことが夢の様に朧げだったり。
 全部、繰り返される時間の中で、現実や記憶が入り乱れた結果なんだ。

 順番が前後するけれど、時間を巻き戻されたと確信することで、今までの違和感に納得がいった。
 自分がすっとぼけているんだと感じていたこと、その全てがその超常現象の結果なんだと。

 受け入れたくなくても、信じたくなくても、もう俺はそれを肌で感じてしまって。
 これをおこなってきた違和感の根源が、この未琴先輩にあることもわかってしまっていて。
 だから俺は、この手を放すことができなかった。

「教えてください、未琴先輩。どうしてこんなことをしていたのか。何が、どうなっているのか」
「うん」

 緊張しながら促すと、未琴先輩は案外あっさりと頷いた。
 俺のことを真っ直ぐに見返しながら、普段通りに。
 けれどどことなく、ションボリしているような気がしなくなかった。

たけるくんの言う通り、私はずっと、世界の時間を巻き戻し続けてきた。何度も何度もやり直して、その度に失敗してきた」
「いつから……いつまでを……」
「いつまでかはその時々だけど、最長で今日まで。リターンポイントは、君とキスをした翌日」
「っ…………」

 大人しく淡々と問い掛けに答える未琴先輩の言葉に、俺は小さく息を飲んだ。
 前に聞いた話によれば、俺たちが初めて出会ってキスをしたのは今週の月曜日の放課後のこと。
 その翌日、今日から三日前の火曜日に俺は未琴先輩に呼び出された。
 何かあったらその日に戻って、金曜日の今日まで進んで。この四日間を繰り返してきた……?

「どうして、何でそんなことを。未琴先輩は、何をそんなにやり直したかったんですか」
「君に、私を受け入れてほしかった。でもいつも邪魔が入って君の心を乱す。だからその度に、私はリセットしてきたの」
「邪魔って、もしかして有友や安食あじきちゃん、姫野先輩たちのこと……?」
「そう。君に余計なことを吹き込んで、彼女たちはいつも誰かが私の邪魔をしてきたの」

 未琴先輩は静かに頷く。
 その声色には憎しみこそ浮かんでいなかったけど、微かな苛立ちを孕んでいた。
 小さく、その綺麗な眉が寄る。

「最初は一人だけだった。それが君の不和になったから、やり直して君がその子に話されない様にした。でもそしたら違う子が。それに対策したらまた別の子が。やり直す度に入れ替わり立ち替わり、時と場所が変わっても、必ず君の耳に彼女たちの何れかの話が入った」
「…………」
「最近気付いてきたの。やり直す度に、どんどん私にとっての状況が悪くなってるって。三人全員に関わることも多くなったし。今回もそうだったでしょ?」
「………………」

 色んな記憶がパチパチと点滅する中で、記憶の整合性が合わなかった覚えがあったことを思い起こす。
 あれは、色んな時間軸でのことが入り乱れ始めていた故の感覚だったのか。

「それに、私が何度も時間を巻き戻して同じ期間を繰り返すことで、君にも違和感を悟られちゃった。こうしてバレちゃったのもそのせい。普通の人の君はそうそう勘付かないはずなのに、かなりの違和感を抱いたでしょ?」
「ここ数日の記憶の混濁は、未琴先輩が時間を繰り返していた弊害、だったんですね」

 あったことがなくて、なかったことがあって。
 繋がるはずのないものが繋がって、繋がっているはずのものが途切れて。
 そうして俺の、ここ数日の不調ができあがっていたんだ。

 だとすれば、俺が月曜日の出会いを朧げに感じてしまうのも、そのせいかもしれない。
 未琴先輩のリターンポイントが火曜日なら、あの月曜日は一度しか訪れていない。
 俺の体感としては四日前のことでも、ぐるぐると繰り返してきた絶対値を測れば、きっと遥か彼方のような距離があるんだ。
 だから、リターンポイントの向こう側が不鮮明に感じる様になってきた。そういうことかもしれない。

「……一体、何回こんなことを。何回、未琴先輩はやり直してきたんですか」
「四万五千九百と一回」
「────────」

 もはやスケールの実感が湧かない途方もない数字に、俺は絶句した。
 精々数回、多くて数十回だと思っていた。
 四日間とはいえ、それだけの回数を繰り返すなんて、体感は何百年単位になるんじゃないのか。
 そんなこと、いくら時間が巻き戻るといっても、到底耐えられるとは思えない。

 固まる俺に、未琴先輩は小さく微笑んだ。

「笑っちゃうでしょ。私はそれだけ失敗して、それだけ君に振られてきた。自分でも下手すぎると思うんだけど、言った通り繰り返す度に状況が悪くなるから、もうどうにもできなくなってきて。だから繰り返し過ぎて、違和感を隠しようがなくなっちゃった」

 一度や二度なら、未琴先輩は誰にも気付かれることなく時間を巻き戻して、完全にやり直せたんだ。
 でもあまりにも同じ時を重ね過ぎて、凡人の俺でも違和感を覚えてしまう、そんな不和ができてしまった。

 そこまでして、未琴先輩は俺を求めていたんだ。
 何度受け入れられなくても、何度横槍が入って失敗しても、何回だって同じ時を繰り返して。
 たった一度の、遥か彼方の出会いに縋って、何度も俺を迎えに来ていたんだ。

「────俺には、自分にそこまでする価値があるとは思えません」
「あるよ。私にはある。あると思った。だから足掻いてみているの」

 未琴先輩は決然とそう言う。
 時の牢獄に自ら囚われながらも、俺が必要なんだと。
 その美しくも恐ろしい瞳で、俺を見つめながら。

「けど、もう潮時なのかな。ここまでしてもダメなら、私と君は交わらないなのかもしれない」

 だというのに、未琴先輩はそう言った。

「君も知っての通り、私はゆくゆくこの世界を滅ぼす。滅ぼさなきゃいけないの。そんな私はやっぱり、君みたいな子と結ばれちゃいけないのかもしれない」
「なっ────」

 さらりと打ち明けられた言葉。
 それは、今まで聞いてきた話が全て本当だと、そう裏付けるのに十分なもので。
 俺はもう、その荒唐無稽な電波話を信じるしかなかった。

 時を巻き戻すなんて、そんな漫画みたいなことができる時点で否定はできなかったけど。
 でも、『感傷的心象エモーショナルの影響力・エフェクト』も、『インフルエンサー』も、そして人類最後の敵であるラスボスも、全て実在する。
 未琴先輩は、世界を滅ぼそうとしている。

 それは紛れもない事実だったんだ。

「何でそんなこと言うんですか!」

 でも、だから何だって言うんだ。

「そんなこと、俺には関係ありません。未琴先輩がラスボスだろうが、悪魔だろうが魔王だろうが、俺にとって未琴先輩は未琴先輩です。何一つ変わらない!」

 ようやく実感が追い付いてきた今も、だからって未琴先輩の印象は全く変わらない。
 息を飲むほど綺麗で、ちょっぴり怖くもあって、でも健気で優しくて、とても俺じゃあ敵わない年上の女の子。
 俺にとっての未琴先輩は、前も今もずっとそのままだ。

 そりゃ、世界を滅ぼすとか言われるのはおっかないけど。
 でも未琴先輩が俺に向けてくれている気持ちは本物で、だから俺にとってはそれが全てなんだ。
 未だに気持ちには応えきれない俺だけど、でも、未琴先輩がいればそれでいいと、思ってしまっている自分がいる。

「こんな情けない俺ですけど、俺は今だって未琴先輩のことをもっと知りたいと思ってる。世界を滅ぼせる特殊能力とか、そんなのどうでもいい。俺は、ここにいる未琴先輩と一緒にいたいんです」
「尊、くん……」
「俺は未琴先輩の正体が何だろうと気にしない。向き合うことを諦めたりなんてしない。だから未琴先輩、あなたも諦めたりなんてしないでください。諦めて、全部無しにしてやり直そうなんて、もうしないでくださいよ……!」

 無意識に未琴先輩の手を握る力が強くなってしまう。
 それでも彼女は顔を歪めることなく、俺を切に見つめてきていた。

「リセットすればやり直せるかもしれない。でも、今の俺たちが培ってきたものは、なくなってしまうんです。それはある意味、もう世界を壊してるのと同じだ。未琴先輩は、俺とあなたの世界を、もう何度も壊してる。俺は嫌ですよ。未琴先輩しか知らないことがあるなんて。俺は、未琴先輩と同じ時間を生きたい……!」

 気持ちに応えないでおいて、何を調子の良いことを言ってるんだろう。
 でも気持ちがグラグラと沸き立って、普段ならとてもじゃないけど言えないことが、洪水の様に溢れ出る。

「だから未琴先輩、お願いです。いつか世界を滅ぼすのはともかくとして。俺のことを好きだと言ってくれるのなら、今はもう、俺たちの時間を大切にしてください」
「…………」

 何万回と繰り返してきた中にいた全ての俺が、そう言っている様な気がした。
 それらが今、俺の感情を更に掻き立てている。
 だから切に、必死に、俺は目の前の一人の女の子に訴えかけた。

 不器用でも下手くそでも、このまま一緒に行こうと。

「………………」

 しばらく、未琴先輩は何も答えなかった。
 その深淵の様な瞳を、ただただまっすぐ俺に向けてくるだけ。
 その見目麗しい相貌には一ミリの狂いもなく、彫刻の様に微動だにせず、彼女は俺を眺めていた。

 どのくらいそうやって見つめ合っていたのかわからない。
 そんな悠久の沈黙の果てに、未琴先輩は、小さく頷いた。

「────わかった。もう、やり直すのはやめる」

 そう言って、俺に手を握られたまま自らの髪から指を放す。

「どんなに上手くいかなくても、ダメだと思っても、確かに尊くんは私を拒絶したことはなかった。私が勝手に諦めていただけだった。それなのに小さな積み重ねを繰り返して、間違いも繰り返してきたんだね、私は」

 ささやかに口の端が緩む。
 同時に彼女の緊迫した雰囲気が解けた。

「恋って、難しいね。でももっと、君としたくなった」
「はい。世界を終わらせるのなんて、その後で、一回だけでいいです」

 この先俺が、未琴先輩と上手くやっていけるかなんてわからない。
 心の底から好きになれそうな気もするし、でもそうならないかもしれない。
 恋なんて、人の気持ちなんていつどうなるかななんてわからない。
 でも少なくとも今は、この人と真剣に向き合いたいと思った。
 未琴先輩もきっと、同じことを思ってくれているはずだ。

 ピッタリと合った目が、そう心を交わせている気がした。
 手を繋いだまま、しばらくそうやって見つめ合っていた、その時。

「ギリギリセーフッ! やーっとここに辿り着けたぁー!」

 騒がしい叫び声と共に、誰かが屋上に雪崩れ込んできた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...