俺の学園ラブコメのヒロインは世界滅亡を目論むラスボスだった〜美少女たちによるハーレム異能恋愛バトル〜

セカイ

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第3章『全てを許す慈愛の抱擁』

第6話 水着姿の美少女たち ❶

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たけるくん、そろそろ着くよ」

 囁くような柔らかな声が耳元で響いて、俺は束の間の眠りからひっぱり起こされた。
 海へと向かう電車はもう最寄駅構内に差し掛かっていて、徐々にそのスピードを緩めている。
 どうやら俺は、いつの間にか居眠りをこいていたらしい。

「なんだ。夢、か……」

 目をしばたかせながら、さっきまで巡っていた光景を思い出す。
 煌びやかなみんなの水着姿は、どうやら俺の妄想の産物だったようだ。
 みんなと海で遊んだり、安食あじきちゃんと昼飯を大量に買い込んだ光景が鮮烈に頭の中に残っているけれど。でも海はこれからだ。

「どうしたの? 寝ぼけてる?」
「あ! す、すみませんッ……!」

 もう一度、囁き声が俺の耳をくすぐる。
 どうやら俺は未琴先輩の肩に寄りかかって眠っていたようで、間近に彼女の顔があった。
 俺が慌てて飛び退くと、落ち着いた微笑みが返ってきた。

「ほら、もう降りないと。楽しみだね、海」

 そんな彼女に先導されながらみんなでわらわらと下車をして、駅から歩いてすぐのところにビーチがあった。
 早く来た甲斐もあってまだ人は少なく、俺たちはスムーズに場所を確保してシートを敷くことができたのだった。

 先に水着へと着替えを済ませた女子陣と入れ替わるように俺も着替えに向かい戻ってみると、シートには未琴先輩の姿しかなった。
 少し遠くに目を向けてみれば、あさひと安食ちゃんと姫野先輩の三人が一足先に海に繰り出しているのが見えた。
 まぁ着替え終わった状態で海を目の前にしていつまでのお預けなのも可哀想だし、待ちきれなかったのは仕方ないだろう。
 未琴先輩は一人、俺の戻りを待つ役を買って出てくれたのかもしれない。

「お待たせしました。俺たちも海の方行きましょうか」
「うーん。私はここでいいよ」

 声をかけると、未琴先輩は俺のことをゆっくりと仰ぎ見てからのんびりとそう言った。
 思わず首を傾げる俺を、下から上へと舐め回すように眺めてくる。

「尊くん、脱ぐとそんな感じなんだね」
「う。特に鍛えたりしてないみすぼらしい体なので、あんまりジロジロ見ないでください……」
「別に恥ずかしがらなくてもいいのに。男の子って感じだよ」

 咄嗟に腹回りを隠してしまった俺に、未琴先輩は小さく微笑む。
 特別太っているつもりはないれど、メリハリのない自分の体にはあんまり自信が持てない。
 そりゃできることなら筋肉がくっきりとした肉体になりたいとは思うけれど、筋トレはおろかスポーツと無縁な俺にはただ言っているだけの空虚な理想だ。

 麗しい肌と肉体を惜しげもなく晒している未琴先輩と並ぶと、余計に俺の平凡さが目立って恥ずかしくなる。
 けれど当の未琴先輩は全く気にするそぶりを見せず、むしろそんな俺を興味深そうに眺めてくる。
 そのほのかな笑みと、しっとり淡々とした視線は、どこか視姦されているような気分にならないでもなかった。

「未琴先輩、海行かなくていいんですか? せっかくここまで来たのに」

 あんまり俺のみすぼらしい体の話題を続けたくなかったから、俺は話を始めに戻した。
 それでも未琴先輩は俺を見る目を変えず、しかし普通な様子でうんと頷いた。

「私、海に入れないからね」
「もしかして未琴先輩、泳げないとか……?」
「違うよ。むしろ泳ぐのは得意かな。単純に海に入れないだけ」

 ようやく俺から視線を外した未琴先輩は、みんながはしゃいで水を掛け合っている様子を眺めながら膝を抱えた。
 サラサラと軽やかなパレオがシュルッと滑り落ちて、白い脚が露わになる。

「そうだったんですか。だったら言ってくれれば、みんなも行き先変えたでしょうに」
「別に海が嫌いなわけじゃないし、むしろこの雰囲気は好きだよ。こうやって砂浜で寛ぐのも気持ちいいしね。私はこれで十分だよ」

 何も気にしていない様子でそう言う未琴先輩からは、何かを憂う気配は全く感じられなかった。
 泳げないわけでもなく、海が嫌いなわけでもないのに、入れないってどういう意味なんだろう。
 海水がベタつくから嫌だとか? でもそれなら、潮風の時点でもうダメな気がするし。

 それとも波に揺られるのが苦手なんだろうか。すぐ酔っちゃう、みたいない。
 もしそうだとしたら普段の悠然とした態度からは想像つかないし、なかなかのギャップで可愛らしいな。
 いやでも、未琴先輩が酔って気持ち悪くなっているところはどうしても想像できないから、それも違うんだろうな。

「そうですか……じゃあ、俺もしばらくはのんびりしましょうかね。まだ薄っすら眠いですし」

 いくら未琴先輩が自分はいいと言っても、せっかくみんなで来ている合宿なのに一人ぼっちにしてしまうのは可哀想だ。
 そう思って俺がシートの上に腰掛けると、未琴先輩は目を細めてこちらを流し見てきた。

「あれ、可愛い水着の女の子たちのところに混じりに行かなくてもいいの?」
「幸い、可愛い水着の女の子はここにもいますので」
「へぇ」

 なんだか試されている気がしたから頑張って答えてみると、未琴先輩は口の端を僅かに上げた。
 どうやら俺の回答がお気に召したご様子だ。

「つまり、私の水着姿が一番だったってことかな?」
「……未琴先輩が最高だってことは確かですよ」
「またそうやって君ははぐらかす。まぁ、こうやってそばにいてくれるだけでも嬉しいけれど」

 とても答えにくい話題へ無難に返した俺に、未琴先輩は僅かに眉を寄せた。
 けれど特に不満に思っているわけではないようで、むしろ声色はどことなく軽やかだ。
 みんなと誰が一番かなんて話になったのは、確かさっき見た夢の中でだったか。正夢にならなくて一安心だ。

「仕方ないから、私が尊くんの水着姿について語ろうかな」
「何がどうなったらそうなるんですか。ってか、俺の水着姿に語るところなんて一ミリもありませんよ」
「だって私が一番だって言ってくれないってことは、不平等だからとか言ってあんまり褒めてくれないでしょ? だから今回は私が君にコメントしてあげる」

 未琴先輩はそう言うと、脚を伸ばしてからこちらに向けてやや体を乗り出してきた。
 その理屈は意味不明だけれど、結局のところ俺をからかって遊びたいんだろう。
 メリハリのない平凡な体型に、中学生の頃に買ったトランクスタイプの水着というパッとしない今の俺を、一体どうコメントするというのだろうか。

 けれど未琴先輩はとても自信満々といった雰囲気で、俺のことをまじまじと見つめて放さない。
 そのいつも通りのささやかな笑みはとってもお美しいのだけれど、でもなんだか嫌な予感がした。

 すぐ隣に座っている未琴先輩の顔がすーっとこちらに近づいてくる。
 並んだ肩は思わず触れてしまいそうだし、隣り合うことはそれなりに慣れているはずなのに、水着という薄着を意識するだけで普段よりも遥かに緊張させられる。
 けれど未琴先輩はそんな俺の動揺なんて全く意に介さず、その白魚のような指をそっと俺の胸に沿わせた。

「こうやって触ってみると、見かけによらず逞しい感じがするね。男の子の固さだ」
「えっと、未琴先輩……? 一体、何を……」
「何って、コメントをするためには君を色々知っておかないとと思って」

 不意のボディタッチにしどろもどろになる俺に、未琴先輩は平然とそう返す。
 細い指先で胸の中心をそーっと撫でてから、ゆっくりと平坦な胸筋をなぞる様に這わせていく。
 ただ触られているだけなのに、そのこそばゆい感覚に妙な気持ちがざわざわと掻き立てられた。

 今まで何度か触れたことのある彼女の指が、今は俺の体を撫で回している。
 手を繋いだりするだけでも、その滑らかさや柔らかさにはドギマギしたものだけれど。
 こうして一方的に触れられている今、そのあでやかな繊細さが余計に感じられて、心地よさと共に背徳的な羞恥心が俺を満たした。

「あ、あの……別に触らなくても、見た感じの感想で良かったのでは……?」
「でも、触ったって良いでしょう? せっかくこうやってお互いに肌を晒しているんだし」

 そのソフトタッチが与えるイケナイ心地よさを必死で堪えながら疑問を呈しても、未琴先輩はよくわらない理屈でのらりくらりとかわしてしまう。
 その指は胸から脇の下を通って降下し、肋をなぞって腹筋へと流れていく。
 シックスパックなんて夢のまた夢である俺のメリハリのない腹を、しかしその下の筋肉の形をなぞるように未琴先輩は指を滑らせる。

 その指使いだけ見れば、まるでピアノの鍵盤の上を滑らせているような優雅さだ。
 けれどその下に敷かれたいるのは俺のパッとしない肉体だから、気品も何もあったものではないんだけれど。

 未琴先輩はそうやって俺の体を好き勝手撫で回しながら、その静かな瞳をしっとりと向けてくる。

「尊くんだって、別に私の体を好きなように触ってみたって良いんだよ。それで、感想を聞かせてくれるなら」
「いやぁ……未琴先輩の肌に触れたら、水着の感想どころじゃなくなりますよ……」
「なら、水着の上から触ればいいんだよ」
「!?」

 さらっととんでもないことを言ってのけた未琴先輩に、俺は思わずカッと目を見開いてしまった。
 明らかに動揺し、しかも下心丸見えのリアクションをしてしまった自覚はあるけれど、これは仕方ないだろう。
 だって水着というのは、女性の隠さなきゃいけないところにしか覆われていないのだから。
 つまり水着の上からその体を触ろうとしたら、触っちゃいけないところしか触ることができないんだから。
 それこそ水着の感想なんて言ってる場合じゃなくなるんだから……!

 いや、これはきっと未琴先輩の罠なんだ。
 こうやって動揺する俺を見て楽しんだり、あるいは触らせることでもっと自分を意識させようとしているんだ。
 許されているんだから触ってもいいんだろうけれど、いや今の俺の立場で軽率に触れていいとは思えない。

「うん、それがいいね。私だけ触っているのもなんだし」
「い、いや……そこまでしなくても俺、未琴先輩の水着姿の魅力と感想、しばらく語れるので……!」
「じゃあ、もっと知ったらもっと言えるようになるね」

 そう言うや否や未琴先輩は手を俺の腕まで伸ばして、上腕からツーっと指を這わせてから、その細腕からは想像できないくらいしっかりと手首を握ってきた。
 そして有無を言わさず腕を引いて、自らの方に引き寄せる。

 今や、そもそもどうして俺じゃなく未琴先輩が水着の感想を言うことになったのかなんて全く関係ない。
 いや既に最初から、彼女がお触り始めた時点から関係ないし、未だに感想らしき言葉はもらっていない。
 結局全ては俺を引き込もうとする算段だったということなんだろうか。
 元々積極的な未琴先輩ではあるけれど、水着を着て更に開放的になっているんだろうか。

 眩しいくらいお美しいそんな姿で誘惑されたら、抗えるわけがない。
 理性ではそんな軽率なことをしてはいけないとわかっているけれど、本能ではその艶っぽい肌に触れてみたくてたまらないんだから。
 だから腕を引かれている俺は、微妙に抵抗し切ることができなかった。
 未琴先輩にさせられているという言い訳に、甘んじようとしている自分がいる。

 そんな俺を見透かしているような未琴先輩の瞳は、静謐で妖艶な色を放っている。
 暑い夏の日差しも、ビーチの騒がしさも、波のさざめきも。その全てをかき消して飲み込むような、恐ろしまでの魅力がそこにはあって。
 俺はまるで夢の中に引き摺り込まれているような、そんな幻惑的な没入感に見舞われながら、その瞳と手の行先を交互に見遣った。

 俺の手が未琴先輩の下半身へ向けて引き下ろされて。
 そして、パレオに包まれた太ももにふわっと乗せられる。

「……!」
「あれ、どこを触らされると思ったの?」

 未琴先輩が俺の顔を覗き込むように見据えながら、囁くように言った。
 胸とかもっといけないところに持って行かれるのではないかと期待して────じゃなくて危惧していたこともまた見透かしたような言いようだ。

 いや別に、期待外れとかじゃない。脚フェチの俺としては極上の体験だ。それに、胸などよりも背徳感は少ないし。
 俺はブンブンと首を振って邪な思いはないのだと否定しながら、しかし神経は手に集中し切っていた。

 レース生地の滑らかなパレオ越しに、未琴先輩の柔らかな太ももの感触が手のひら全体に広がっている。
 その柔肌を直接触るのとはまた違う、ハリと艶やかさを伴った絶妙の手触りが極上だ。

 これはこれで絵としてはかなりヤバいけれど、それでもこの感覚に浸らないことはできなくて。
 そんな俺に、未琴先輩は静かに微笑んだ。

「他のところも触りたかったら、あとはお好きにどうぞ」

 試されている。けれど、それ以上なんてできるわけがなく。
 結局俺たちは、互いの水着姿の感想をろくに口にしなかった。
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