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第2章 正しさの在り方
11 聞かなければならないこと
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私の知っている金盛 善子という人は、誰よりも優しくて気遣いができる、頼もしい先輩だった。
私が知り合ったのは、中学に入学して半年くらい経った頃のこと。
そのくらいの頃から、今まで続く正くんの私への絡みが始まっていた。
今となってはある程度慣れたから、面倒臭いとは思いつつそこまで気にしなくなったけれど、最初の頃は大分うんざりしていた。
そんな私に声を掛けてくれた所から、私たちはよくお話するようになった。
善子さんはいつも全面的に私を慰めてくれて、時には一緒に正くんの愚痴を言い合ったり。常に私の気持ちを汲んでくれる人。
だからついついその優しさと包容力に甘えてしまったりして。
そんな善子さんが、私は好きだった。
誰にだって善子さんはそうだった。
正くん絡みじゃなかったとしても、善子さんは色んな人に手を差し伸べていて、みんなから慕われていた。
正義の味方、というのは少し過剰な表現だとしても。みんなにとって善子さんは癒しの存在であり、時には救いでもあった。
善子さんが楽しくにこやかに話しかけてくれることそのものが、気持ちを楽にさせてくれる。
私だって善子さんに声を掛けてもらっていなかったら、正くんへの不満はとっくの昔に爆発していたと思う。
だから幼い頃の正くんが善子さんに憧れを抱いて、一種の神聖化をしていたことはわからなくはない。
小さい頃から身近にあんな人がいたら、きっと誰だって憧れる。あんな風になれたら、なんて。
でもそれが転じて、憎しみや嫌悪に変わってしまうというのは、とても悲しいことだと思う。
だって変わったのは善子さんじゃない。変わったのは、善子さんを見る正くんの目なんだから。
それを今、私が言ったところでもう仕方ないのかもしれないけど。
「すっかり話が脱線したね、ごめんごめん。正のことなんて、今はどうでもよかった」
あははと、苦笑いする善子さん。
無駄だとは思わなかった。確かにその話を聞いて、少し正くんの見方は変わった気がする。
だからといって、普段の正くんのダル絡みに好感が持てるかというと、別の話だけど。
「そろそろちゃんと話さなきゃ。私が魔女になった話を。っていうか、どうして私がレイを目の敵にしてるのかって話をね」
「別に無理にしなくてもいいですよ? レイくんに気をつけろって話はよくわかりましたし」
「いや、アリスちゃんにはある程度話しておきたいって、私のわがまま。お友達だしさ!」
さっきの話を聞く限り、あんま穏やかではなさそうだった。
それでもこうやって毎日朗らかに過ごしているのは、偏に元来のその明るさ故だろうから。
「まぁさっきも言ったけど、全部を話すと私のあの夏の一大事を、大ボリュームで語り聞かせることになっちゃうからさ。まぁ掻い摘んで」
校庭から聞こえてくる歓声はもう完全に外のもので、二人だけしかいないこの空き教室は、とても静かなものだった。
「レイには、親友を殺された」
不意に放たれた言葉に、私は完全にフリーズしてしまった。
全く想像していなかった。そういう話になるとは、思ってすらいなかったから。
「私が魔女になってしまったのは、そもそもレイにホイホイついて行ってしまったから。そこで私は魔女たちが起こした騒動に巻き込まれて、いつしか私も『魔女ウィルス』に感染してた」
「でも、レイくんが人殺しって……」
「するんだよ、平然とね。何にも関係なかったあの子を、レイは殺した。ずっと私のことを守ってくれたあの子を。レイに付いて行って魔女に関わってしまった私を、必死で引き離そうとしてくれていたのに」
「その人も魔女、だったんですか?」
善子さんは頷いた。
「中学に入ってから仲良くなった子だった。気がつけば間に仲良くなってて、数ヶ月の付き合いしかなかったけど、でも親友って呼べるほどの友達。その時までは、魔女ってことは流石に知らなかったけどね」
その人をレイくんが殺した。
今日私が会ったレイくんが、人殺しをしたなんて信じられなかったけれど。
でも善子さんがそう言うのなら、きっと……。
「レイに関わってしまったから魔女になってしまったとか、そんなことはどうでもいいの。私は、あの子を殺したアイツが許せない」
いつも明るく朗らかな善子さんの目には、静かに揺らめくものがあった。
善子さんのこんな顔を見る日が来るなんて。
でも、誰にだって暗い一面はある。それは何もおかしい事じゃないんだ。
「善子さんは、その人の仇を討ちたいんですか?」
「うーん。復讐したいとかいう気持ちはない。でも問い正したい。どうしてあの子を殺したのか。それをアイツは一言も言わなかったから」
「なんだ。よかったぁ」
私がホッと胸を撫で下ろすと、善子さんはキョトンした顔を向けた。
「善子さんがもし仇を討ちたい、復讐したいって言ったらどうしようって思ってました。私、そんな善子さん見たくないから」
「ごめんごめん、心配させちゃったね。大丈夫。そういう暗い気持ちはないんだ。でも一回清算しなきゃいけないって、そう思ってるのは本当」
少し曇り気味だった顔に、明るさが戻ってきた。
私の頭を優しく撫でながら、善子さんは少し微笑んだ。
「なんかちゃんと話さなくてごめんね。自分から話すって言ったのに」
「大丈夫です。それより善子さんの意外な一面が見られて、ちょっと嬉しかったり」
「ちょっと、人が真剣に話してるってのにー!」
そうやって私の頬を優しくつねる。
それは紛れもなく、いつも通りの優しい善子さんだった。
「だからまぁ、レイには十分気をつけて。無害な顔して、何をしてくるかわかったもんじゃない。私はアリスちゃんが傷つくところなんて見たくないよ」
多分レイくんはまた会いに来る。その時、私に何ができるのかな。
それはきっと、私の今後にも大きく関わってくるんだと思う。
私が知り合ったのは、中学に入学して半年くらい経った頃のこと。
そのくらいの頃から、今まで続く正くんの私への絡みが始まっていた。
今となってはある程度慣れたから、面倒臭いとは思いつつそこまで気にしなくなったけれど、最初の頃は大分うんざりしていた。
そんな私に声を掛けてくれた所から、私たちはよくお話するようになった。
善子さんはいつも全面的に私を慰めてくれて、時には一緒に正くんの愚痴を言い合ったり。常に私の気持ちを汲んでくれる人。
だからついついその優しさと包容力に甘えてしまったりして。
そんな善子さんが、私は好きだった。
誰にだって善子さんはそうだった。
正くん絡みじゃなかったとしても、善子さんは色んな人に手を差し伸べていて、みんなから慕われていた。
正義の味方、というのは少し過剰な表現だとしても。みんなにとって善子さんは癒しの存在であり、時には救いでもあった。
善子さんが楽しくにこやかに話しかけてくれることそのものが、気持ちを楽にさせてくれる。
私だって善子さんに声を掛けてもらっていなかったら、正くんへの不満はとっくの昔に爆発していたと思う。
だから幼い頃の正くんが善子さんに憧れを抱いて、一種の神聖化をしていたことはわからなくはない。
小さい頃から身近にあんな人がいたら、きっと誰だって憧れる。あんな風になれたら、なんて。
でもそれが転じて、憎しみや嫌悪に変わってしまうというのは、とても悲しいことだと思う。
だって変わったのは善子さんじゃない。変わったのは、善子さんを見る正くんの目なんだから。
それを今、私が言ったところでもう仕方ないのかもしれないけど。
「すっかり話が脱線したね、ごめんごめん。正のことなんて、今はどうでもよかった」
あははと、苦笑いする善子さん。
無駄だとは思わなかった。確かにその話を聞いて、少し正くんの見方は変わった気がする。
だからといって、普段の正くんのダル絡みに好感が持てるかというと、別の話だけど。
「そろそろちゃんと話さなきゃ。私が魔女になった話を。っていうか、どうして私がレイを目の敵にしてるのかって話をね」
「別に無理にしなくてもいいですよ? レイくんに気をつけろって話はよくわかりましたし」
「いや、アリスちゃんにはある程度話しておきたいって、私のわがまま。お友達だしさ!」
さっきの話を聞く限り、あんま穏やかではなさそうだった。
それでもこうやって毎日朗らかに過ごしているのは、偏に元来のその明るさ故だろうから。
「まぁさっきも言ったけど、全部を話すと私のあの夏の一大事を、大ボリュームで語り聞かせることになっちゃうからさ。まぁ掻い摘んで」
校庭から聞こえてくる歓声はもう完全に外のもので、二人だけしかいないこの空き教室は、とても静かなものだった。
「レイには、親友を殺された」
不意に放たれた言葉に、私は完全にフリーズしてしまった。
全く想像していなかった。そういう話になるとは、思ってすらいなかったから。
「私が魔女になってしまったのは、そもそもレイにホイホイついて行ってしまったから。そこで私は魔女たちが起こした騒動に巻き込まれて、いつしか私も『魔女ウィルス』に感染してた」
「でも、レイくんが人殺しって……」
「するんだよ、平然とね。何にも関係なかったあの子を、レイは殺した。ずっと私のことを守ってくれたあの子を。レイに付いて行って魔女に関わってしまった私を、必死で引き離そうとしてくれていたのに」
「その人も魔女、だったんですか?」
善子さんは頷いた。
「中学に入ってから仲良くなった子だった。気がつけば間に仲良くなってて、数ヶ月の付き合いしかなかったけど、でも親友って呼べるほどの友達。その時までは、魔女ってことは流石に知らなかったけどね」
その人をレイくんが殺した。
今日私が会ったレイくんが、人殺しをしたなんて信じられなかったけれど。
でも善子さんがそう言うのなら、きっと……。
「レイに関わってしまったから魔女になってしまったとか、そんなことはどうでもいいの。私は、あの子を殺したアイツが許せない」
いつも明るく朗らかな善子さんの目には、静かに揺らめくものがあった。
善子さんのこんな顔を見る日が来るなんて。
でも、誰にだって暗い一面はある。それは何もおかしい事じゃないんだ。
「善子さんは、その人の仇を討ちたいんですか?」
「うーん。復讐したいとかいう気持ちはない。でも問い正したい。どうしてあの子を殺したのか。それをアイツは一言も言わなかったから」
「なんだ。よかったぁ」
私がホッと胸を撫で下ろすと、善子さんはキョトンした顔を向けた。
「善子さんがもし仇を討ちたい、復讐したいって言ったらどうしようって思ってました。私、そんな善子さん見たくないから」
「ごめんごめん、心配させちゃったね。大丈夫。そういう暗い気持ちはないんだ。でも一回清算しなきゃいけないって、そう思ってるのは本当」
少し曇り気味だった顔に、明るさが戻ってきた。
私の頭を優しく撫でながら、善子さんは少し微笑んだ。
「なんかちゃんと話さなくてごめんね。自分から話すって言ったのに」
「大丈夫です。それより善子さんの意外な一面が見られて、ちょっと嬉しかったり」
「ちょっと、人が真剣に話してるってのにー!」
そうやって私の頬を優しくつねる。
それは紛れもなく、いつも通りの優しい善子さんだった。
「だからまぁ、レイには十分気をつけて。無害な顔して、何をしてくるかわかったもんじゃない。私はアリスちゃんが傷つくところなんて見たくないよ」
多分レイくんはまた会いに来る。その時、私に何ができるのかな。
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