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第3章 オード・トゥ・フレンドシップ
36 守りたい笑顔
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「じゃあまくらちゃん、魔法使いは知ってる?」
「それは知ってる! 魔法使いはね、すっごい魔法を使うんだよ!」
代わりに尋ねてみれば、まくらちゃんはまるで小さい子供のように目をキラキラさせて答えた。
『まほうつかいの国』の住人にとっても、魔法使い以外の人からしてみればそれはとてもすごいことなんだろう。
まさに奇跡や神秘みたいなもの。常識や認知として存在すると知っていたとしても、自分自身が使えないのならばそういう認識になるのかもしれない。
「カノンちゃんもね、いっつもすごい魔法を見せてくれるの。カノンちゃんはすごい魔法使いなんだよ」
「そうなんだ。かっこいいね」
一瞬え?っと固まってしましそうになったけれど、、笑顔で相槌を打った。
きっとカノンさんは、魔女の存在を知らないまくらちゃんにそういう風に説明しているんだろうと、遅れて納得した。
まくらちゃんは小さい頃から森に捨てられて、常識のような知識が足りていないように見えるし、それにその幼さも外界を知らないからだと思う。
そんなまくらちゃんの純粋さを傷つけないように、カノンさんも色々考えているのかもしれない。
魔女のことを教えてあげた方が良かったんじゃないかとも思ったけれど、まくらちゃんがそれを知ってしまったら、自分がどうして置き去りにされたのか、そして自分が捨てられたという事実を知ってしまう。
それは確かに残酷なことだ。多分カノンさんはそれを考えて教えなかったんだろう。
「そう、カノンちゃんはかっこいいの。いつもはこう、ぎゅーっと怖い顔してるけど」
まくらちゃんはそう言って、カノンさんの真似をして眉間にシワを寄せてみた。
けれどまくらちゃんがそれをしてもただただ可愛いだけで、とても微笑ましい。
「でもね、カノンちゃんは優しいんだよ? いつも怖い顔してるけど、でも優しいの。まくらが寝る時はいつも手を繋いでてくれるし、起きた時は頭を撫でてくれるし。まくらはカノンちゃんが大好きだよ」
「人は見かけによらないよね」
私だってカノンさんの第一印象は決して良くなかった。
見た目は完全に不良そのものだし、実際顔は怖いし言葉遣いも悪い。
けれど話してみれば悪い人じゃないことはすぐにわかったし、まくらちゃんを守りたいという気持ちの真っ直ぐさは伝わってきた。
「カノンさんとはどうやって出会ったの?」
「えーっとねぇ」
まくらちゃんは思い出そうと宙に目をやった。
話を聞くに、ここ一ヶ月近くの話だろうからそんなに昔のことじゃないだろうに。
「まくらもちゃんとわかんないの。起きたらカノンちゃんがいてね、『これからはアタシが一緒にいてやるから安心しろ』って」
「そ、そうなんだ……」
起きたら知らない人がいて、いきなりそんなこと言われたら結構怖いと思うけどな。
でもまくらちゃんの境遇を考えれば、相手が誰であれ好意的に接してくる人にはついて行きたくなるのかもしれない。
ずっと一人ぼっちで寂しい思いをしてきたまくらちゃんにとっては、一緒にいてくれるという言葉は何よりも必要としている言葉だったろうから。
「怪我とかしてボロボロだったし、顔は怖かったし逃げようとしたんだけどね」
「あ、逃げたんだ」
「だって怖かったもん。血いっぱい出てたし、目もすごく怖かった。でも捕まっちゃって。食べられちゃうと思ったら怖くて泣いちゃった」
「流石のカノンさんも、女の子を取って食ったりはしないと思うけどね」
一応人だし。でも見ず知らずの血まみれで怖い顔した人が寝起きに現れたら、流石に私も泣くかもしれない。
森の中で一人で寝ていたのだとしたら尚更。
「でもね、カノンちゃんは魔法で美味しい食べ物をいっぱい用意してくれたの。『アタシはすごい魔法使いだから、もう食べるのにも困らないし怖い思いも寂しい思いもさせない』って。だからまくらはカノンちゃんと一緒にいることにしたの」
ちょっと即物的な気もしたけれど、一人森の中で寂しく生き抜いてきたのだから、助けの手に縋ってしまうのは仕方ないのかもしれない。
「でもまくらちゃん、それまでは食べ物どうしてたの?」
「木の実とか果物とか、かなぁ。寝て起きたら、大体近くに食べられそうなものがあったの。でもカノンちゃんはちゃんとご飯用意してくれるからそっちの方が好き!」
寝て起きたら食べ物意があるって、そんな都合のいいことあるのかな?
『まほうつかいの国』というくらいだから森とかには妖精みたいのがいて、可哀想なまくらちゃんに食べ物を恵んでくれていたとか? それはちょっとお伽話っぽすぎるかな?
「カノンちゃんはまくらの話聞いてくれてね、一緒にお父さんたちを探してくれるって言ってくれたの。でも全然見つからなくてね。まぁまくらはもうカノンちゃんがいてくれればいいんだけど」
「……本当にまくらちゃんは、カノンさんのことが大好きなんだね」
「うん! 大好き!」
まくらちゃんに魔女の事実を伝えない以上、そういう話になるのかもしれない。
それに聞いた感じでは、まくらちゃんはこっちの世界に移動してきていることにすら気づいていないように思えた。
カノンさんとしては、カルマちゃんの魔の手から逃れる方がよっぽど重要だったんだろうし。
それにまくらちゃんは魔女である以上、家族の元に返すことはできない。
これから二人は、見つけてはいけない家族を探すために旅をするのかな。
それともまくらちゃんもこう言ってるし、二人で生きていく場所を探すのかもしれない。
もし私が『魔女ウィルス』をどうにかできれば、まくらちゃんは家族の元に帰れるのかな。
なんにしてもカノンさんと出会ったことで、まくらちゃんの日々は一変して、今はとても楽しそうだった。
その先のことをカノンさんがどう考えているのかはわからないけれど、今はまくらちゃんをカルマちゃんの魔の手から守り抜くことこそが先決だ。
この純真な笑顔を見ていると私の心も和む。
カノンさんだってまくらちゃんのこの笑顔に救われている部分はきっと多い。
この笑顔を守るためにも、私たちはカルマちゃんとケリをつけないといけないんだ。
カルマちゃんの優先順位が私に向いているなら好都合。そのまま負かして、もう二度と私たちに近寄らないようにさせてやるんだ。
だから絶対に負けるわけにはいかない。誰一人としてカルマちゃんの犠牲にさせるわけにはいかない。
私たちは全員で生き残って、この純粋無垢な笑顔を守るんだ。
そう改めて決意してまくらちゃんの頭を撫でると、まくらちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
「それは知ってる! 魔法使いはね、すっごい魔法を使うんだよ!」
代わりに尋ねてみれば、まくらちゃんはまるで小さい子供のように目をキラキラさせて答えた。
『まほうつかいの国』の住人にとっても、魔法使い以外の人からしてみればそれはとてもすごいことなんだろう。
まさに奇跡や神秘みたいなもの。常識や認知として存在すると知っていたとしても、自分自身が使えないのならばそういう認識になるのかもしれない。
「カノンちゃんもね、いっつもすごい魔法を見せてくれるの。カノンちゃんはすごい魔法使いなんだよ」
「そうなんだ。かっこいいね」
一瞬え?っと固まってしましそうになったけれど、、笑顔で相槌を打った。
きっとカノンさんは、魔女の存在を知らないまくらちゃんにそういう風に説明しているんだろうと、遅れて納得した。
まくらちゃんは小さい頃から森に捨てられて、常識のような知識が足りていないように見えるし、それにその幼さも外界を知らないからだと思う。
そんなまくらちゃんの純粋さを傷つけないように、カノンさんも色々考えているのかもしれない。
魔女のことを教えてあげた方が良かったんじゃないかとも思ったけれど、まくらちゃんがそれを知ってしまったら、自分がどうして置き去りにされたのか、そして自分が捨てられたという事実を知ってしまう。
それは確かに残酷なことだ。多分カノンさんはそれを考えて教えなかったんだろう。
「そう、カノンちゃんはかっこいいの。いつもはこう、ぎゅーっと怖い顔してるけど」
まくらちゃんはそう言って、カノンさんの真似をして眉間にシワを寄せてみた。
けれどまくらちゃんがそれをしてもただただ可愛いだけで、とても微笑ましい。
「でもね、カノンちゃんは優しいんだよ? いつも怖い顔してるけど、でも優しいの。まくらが寝る時はいつも手を繋いでてくれるし、起きた時は頭を撫でてくれるし。まくらはカノンちゃんが大好きだよ」
「人は見かけによらないよね」
私だってカノンさんの第一印象は決して良くなかった。
見た目は完全に不良そのものだし、実際顔は怖いし言葉遣いも悪い。
けれど話してみれば悪い人じゃないことはすぐにわかったし、まくらちゃんを守りたいという気持ちの真っ直ぐさは伝わってきた。
「カノンさんとはどうやって出会ったの?」
「えーっとねぇ」
まくらちゃんは思い出そうと宙に目をやった。
話を聞くに、ここ一ヶ月近くの話だろうからそんなに昔のことじゃないだろうに。
「まくらもちゃんとわかんないの。起きたらカノンちゃんがいてね、『これからはアタシが一緒にいてやるから安心しろ』って」
「そ、そうなんだ……」
起きたら知らない人がいて、いきなりそんなこと言われたら結構怖いと思うけどな。
でもまくらちゃんの境遇を考えれば、相手が誰であれ好意的に接してくる人にはついて行きたくなるのかもしれない。
ずっと一人ぼっちで寂しい思いをしてきたまくらちゃんにとっては、一緒にいてくれるという言葉は何よりも必要としている言葉だったろうから。
「怪我とかしてボロボロだったし、顔は怖かったし逃げようとしたんだけどね」
「あ、逃げたんだ」
「だって怖かったもん。血いっぱい出てたし、目もすごく怖かった。でも捕まっちゃって。食べられちゃうと思ったら怖くて泣いちゃった」
「流石のカノンさんも、女の子を取って食ったりはしないと思うけどね」
一応人だし。でも見ず知らずの血まみれで怖い顔した人が寝起きに現れたら、流石に私も泣くかもしれない。
森の中で一人で寝ていたのだとしたら尚更。
「でもね、カノンちゃんは魔法で美味しい食べ物をいっぱい用意してくれたの。『アタシはすごい魔法使いだから、もう食べるのにも困らないし怖い思いも寂しい思いもさせない』って。だからまくらはカノンちゃんと一緒にいることにしたの」
ちょっと即物的な気もしたけれど、一人森の中で寂しく生き抜いてきたのだから、助けの手に縋ってしまうのは仕方ないのかもしれない。
「でもまくらちゃん、それまでは食べ物どうしてたの?」
「木の実とか果物とか、かなぁ。寝て起きたら、大体近くに食べられそうなものがあったの。でもカノンちゃんはちゃんとご飯用意してくれるからそっちの方が好き!」
寝て起きたら食べ物意があるって、そんな都合のいいことあるのかな?
『まほうつかいの国』というくらいだから森とかには妖精みたいのがいて、可哀想なまくらちゃんに食べ物を恵んでくれていたとか? それはちょっとお伽話っぽすぎるかな?
「カノンちゃんはまくらの話聞いてくれてね、一緒にお父さんたちを探してくれるって言ってくれたの。でも全然見つからなくてね。まぁまくらはもうカノンちゃんがいてくれればいいんだけど」
「……本当にまくらちゃんは、カノンさんのことが大好きなんだね」
「うん! 大好き!」
まくらちゃんに魔女の事実を伝えない以上、そういう話になるのかもしれない。
それに聞いた感じでは、まくらちゃんはこっちの世界に移動してきていることにすら気づいていないように思えた。
カノンさんとしては、カルマちゃんの魔の手から逃れる方がよっぽど重要だったんだろうし。
それにまくらちゃんは魔女である以上、家族の元に返すことはできない。
これから二人は、見つけてはいけない家族を探すために旅をするのかな。
それともまくらちゃんもこう言ってるし、二人で生きていく場所を探すのかもしれない。
もし私が『魔女ウィルス』をどうにかできれば、まくらちゃんは家族の元に帰れるのかな。
なんにしてもカノンさんと出会ったことで、まくらちゃんの日々は一変して、今はとても楽しそうだった。
その先のことをカノンさんがどう考えているのかはわからないけれど、今はまくらちゃんをカルマちゃんの魔の手から守り抜くことこそが先決だ。
この純真な笑顔を見ていると私の心も和む。
カノンさんだってまくらちゃんのこの笑顔に救われている部分はきっと多い。
この笑顔を守るためにも、私たちはカルマちゃんとケリをつけないといけないんだ。
カルマちゃんの優先順位が私に向いているなら好都合。そのまま負かして、もう二度と私たちに近寄らないようにさせてやるんだ。
だから絶対に負けるわけにはいかない。誰一人としてカルマちゃんの犠牲にさせるわけにはいかない。
私たちは全員で生き残って、この純粋無垢な笑顔を守るんだ。
そう改めて決意してまくらちゃんの頭を撫でると、まくらちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
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