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第3章 オード・トゥ・フレンドシップ
47 聞きたくない言葉
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二人でみんながいる三階に戻って、しばらく四人でゆっくりとした時間を過ごした。
平和な時間はあっという間に過ぎていってしまう。
そろそろ日も落ち始めただろうという頃、私たちは廃ビルを後にすることにした。
ずっとここに潜んでいれば、もしかしたらカルマちゃんの襲撃をしのげるかもしれない。
でもそうとは断言できない。実際、みんなには話していないけれどカルマちゃんは現れたわけだし。
ならやっぱり、他の人の迷惑にならない所で迎え撃った方がいい。
夜子さんには一夜の宿を提供してもらったし、本来は無関係なんだからこれ以上甘えられない。
一度みんなで四階まで挨拶に行ったけれど、夜子さんは特に興味がなさそうに適当にあしらうだけだった。
私たちの生死に興味がないのか、それとも私たちなら負けないと思ってくれているのか。
後者であってくれたらと思う反面、夜子さんなら前者だろうなぁと思ってしまう。
千鳥ちゃんはまだ眠っていてお礼を言えなかった。
朝方に寝たからもう半日くらいは寝ているはずなんだけれど、ぐっすりと眠り込んでいる千鳥ちゃんは起きる気配を見せなかった。
まぁ、ちゃんと生きて帰ればいつでもお礼を言う機会はあるよね。
そうして廃ビルを出てみれば、まだ夕日のオレンジ色の光がうっすらと残っていた。
廃ビルは全ての窓が完全に塞がれているから、外の具合が伺えないのが不便だ。
でも日が完全に落ちきるのも時間の問題だし、カルマちゃんが指定した夜というのはあまりにもざっくりしている。
場所を整えるにしてもちょうどいい時間だとは思う。
カルマちゃんを迎え撃つにあたってどこで待ち受けるべきかと話ながら、私たちはしばらく歩いた。
まくらちゃんはカノンさんにべったりとくっついて、氷室さんも既に警戒をしているのか私の腕を握っている。
これだけ見ると仲良し女子四人組みたい。本当にただそれだけだったらよかったんだけど。
でもいつか本当に、ただみんなで楽しい時間を過ごせるようになるためにも、これは避けては通れない戦いだ。
まくらちゃんを長い間付け回して、その周囲の人間を殺し続け、そして私の命と力を狙うカルマちゃん。
彼女を倒さずして私たちに平穏は訪れない。
「いやぁ、やっぱ流石だわ。ここまでさっぱり感知できなかったもんね」
それは唐突に現れた。
もちろん警戒をしていなかったわけじゃない。
けれど私たちにとっての当面の敵はやっぱりカルマちゃんだったから、少なからず不意を突かれた気分にはなった。
廃ビルからしばらく歩いたであろう頃。
けれどまだ人気があるような場所じゃなくて、街外れの建物も少ない辺り。
長い間人が立ち入っていないような古い建物や、とりあえず建て壊されてできたであろう空き地ばかり。
そんな静かな道の真ん中で、霞んだ夕日を背にして私たちを待ち受けている人の姿があった。
プラチナブロンドのショートヘアが、オレンジ色の光に照らされてキラキラ輝いている。
露出の多い透き通るような白い肌もまた、夕日の光を吸収して綺麗な色を煌めかせて。
彼女が身にまとう赤いレザージャケットだけが、光に反発して存在感を放っていた。
アゲハさんは、まるで雑誌のモデルのように夕日をバックに優雅に佇んでいた。
ちらほらと少ない街灯がつき始める頃。
少し逆光気味だったけれど、アゲハさんがこちらに微笑みかけていることが見て取れた。
「ついでに真宵田 夜子の居場所も探ってやろうと思ってアリスをほっぽいたのに、失敗。流石は真宵田 夜子の結界か。こんな広範囲で認識齟齬を起こさせるなんてさ。アンタたちが出てきてやっとその存在を感知できた」
アゲハさんは一人楽しそうに言った。
「こんなことならあの時サクッとやっとくんだったなぁ。欲張ろうとしてお仲間付いてきちゃったし」
やれやれと嘆息するアゲハさん。
つまりあの時、アゲハさんは私を帰すことで夜子さんの居場所を掴もうとしていたってこと?
レイくんも私が夜子さんと繋がっていることを知っていたし、状況が切迫すれば私が夜子さんを頼ると踏んで、あの時は敢えて私を見逃したんだ。
でも、ワルプルギスが夜子さんを探る理由は何なんだろう。
あの人は基本傍観者で積極的に行動するような人じゃないし、ワルプルギスに力を貸すことも、逆に邪魔をすることもしなさそうだけれど。
「私を、殺しに来たんですか……?」
「そゆこと。ま、厳密に言えばアリスが力を目覚めさせるように、死なない程度に殺そうって感じだけど。ほら、漫画とかでよくあるじゃん。ピンチの時に眠っていた力が目覚める!みたいな?」
楽しそうに話すアゲハさん。
アゲハさんにはもう、ワルプルギスの基本方針であるはずの静観の考えはない。
私を揺さぶって強引に力を引き出す。もうそれしか気にしていないようだった。
「カルマもまだ出てきてないみたいだしさ、今のうちにサクッとやっちゃおうかと思って」
艶っぽい笑みを浮かべて、カノンさんの背中に隠れるまくらちゃんに目をやるアゲハさん。
この人はどこまで知っているんだろう。
「おい、ちょっと待て! お前が、アゲハなのか……!」
まくらちゃんを庇うように立つカノンさんが、信じられないものを見る目でアゲハさんを見た。
対するアゲハさんもカノンさんのことをまじまじと見て、パッと笑った。
「なになに? 何でアンタがこんなトコにいんの? マジウケる」
「カノンさん、アゲハさんのこと知ってたの?」
「……あぁ、そうなるな。アイツはさっき話した、アタシが以前追っていた魔女の一人だ。名前までは知らなかったが、まさかアイツだとはな」
「…………!」
それはつまり、まくらちゃんと出会う前に戦っていたという魔女。
カノンさんはその人たちにやられて、命からがら森に逃げ込んだって言っていた。
「いやぁこういうこともあんのね。まさかこんなトコでまた会うなんてさ。てか、何でそっちにいるわけ? アンタがそこにいる意味がさっぱりなんだけど。いちゃダメでしょ、アンタは」
「うっせーな。そんなことどうでもいいだろうが。アリスたちはアタシのダチだ。コイツらを狙うってんなら、アタシがてめぇをぶっ飛ばす」
「はぁ!? なにそれ、超ウケる!」
アゲハさんはお腹を抱えて笑い始めた。
こんな可笑しなことはないという風に。
端的に言えば大爆笑だった。
「いやいやありえないっしょ。普通に考えてさ。いやーホント超ウケるわぁ」
「うっせぇ! てめぇには関係ねぇだろ!」
「まぁ確かに関係はないけどさぁ。でもやっぱり変だって。アンタも変だし、受け入れてる奴らも変」
「アゲハさん、何を言ってるの!?」
カノンさんが私たちといることが、どうしてそこまで変なんだろう。
カノンさんは私たちの友達で、一緒に戦ってくれている仲間。
一緒にいることに何一つとして違和感はないのに。
「あれ? もしかしてアリス気付いてないの? あー、もしかして私、悪いことしちゃったかな?」
私の反応を見てそう言うアゲハさんにカノンさんは舌打ちした。
気付いてないって、一体何に?
「まぁいっか。普通隠せるもんじゃないし、アンタも隠してるわけじゃなかったでしょ? この子が気づかなかっただけでさ。ちょうどいいから私から教えてあげるよ」
「てめぇ余計なことを……!」
「だって自分でちゃんと説明してないのが悪いんでしょ? ちゃんと教えてあげないとアリスが可哀想じゃん。ダメだって、友達は大切にしないとさ」
何だかはわからなかったけれど、どうしようもなくその言葉を聞きたくなかった。
私の腕を握る氷室さんの手の力が強まった気がして、より不安が増す。
けれどそんな私の気持ちを他所に、アゲハさんはポロリと簡単にそれを口にした。
「ソイツはC9。魔法使いで、魔女狩りよ」
平和な時間はあっという間に過ぎていってしまう。
そろそろ日も落ち始めただろうという頃、私たちは廃ビルを後にすることにした。
ずっとここに潜んでいれば、もしかしたらカルマちゃんの襲撃をしのげるかもしれない。
でもそうとは断言できない。実際、みんなには話していないけれどカルマちゃんは現れたわけだし。
ならやっぱり、他の人の迷惑にならない所で迎え撃った方がいい。
夜子さんには一夜の宿を提供してもらったし、本来は無関係なんだからこれ以上甘えられない。
一度みんなで四階まで挨拶に行ったけれど、夜子さんは特に興味がなさそうに適当にあしらうだけだった。
私たちの生死に興味がないのか、それとも私たちなら負けないと思ってくれているのか。
後者であってくれたらと思う反面、夜子さんなら前者だろうなぁと思ってしまう。
千鳥ちゃんはまだ眠っていてお礼を言えなかった。
朝方に寝たからもう半日くらいは寝ているはずなんだけれど、ぐっすりと眠り込んでいる千鳥ちゃんは起きる気配を見せなかった。
まぁ、ちゃんと生きて帰ればいつでもお礼を言う機会はあるよね。
そうして廃ビルを出てみれば、まだ夕日のオレンジ色の光がうっすらと残っていた。
廃ビルは全ての窓が完全に塞がれているから、外の具合が伺えないのが不便だ。
でも日が完全に落ちきるのも時間の問題だし、カルマちゃんが指定した夜というのはあまりにもざっくりしている。
場所を整えるにしてもちょうどいい時間だとは思う。
カルマちゃんを迎え撃つにあたってどこで待ち受けるべきかと話ながら、私たちはしばらく歩いた。
まくらちゃんはカノンさんにべったりとくっついて、氷室さんも既に警戒をしているのか私の腕を握っている。
これだけ見ると仲良し女子四人組みたい。本当にただそれだけだったらよかったんだけど。
でもいつか本当に、ただみんなで楽しい時間を過ごせるようになるためにも、これは避けては通れない戦いだ。
まくらちゃんを長い間付け回して、その周囲の人間を殺し続け、そして私の命と力を狙うカルマちゃん。
彼女を倒さずして私たちに平穏は訪れない。
「いやぁ、やっぱ流石だわ。ここまでさっぱり感知できなかったもんね」
それは唐突に現れた。
もちろん警戒をしていなかったわけじゃない。
けれど私たちにとっての当面の敵はやっぱりカルマちゃんだったから、少なからず不意を突かれた気分にはなった。
廃ビルからしばらく歩いたであろう頃。
けれどまだ人気があるような場所じゃなくて、街外れの建物も少ない辺り。
長い間人が立ち入っていないような古い建物や、とりあえず建て壊されてできたであろう空き地ばかり。
そんな静かな道の真ん中で、霞んだ夕日を背にして私たちを待ち受けている人の姿があった。
プラチナブロンドのショートヘアが、オレンジ色の光に照らされてキラキラ輝いている。
露出の多い透き通るような白い肌もまた、夕日の光を吸収して綺麗な色を煌めかせて。
彼女が身にまとう赤いレザージャケットだけが、光に反発して存在感を放っていた。
アゲハさんは、まるで雑誌のモデルのように夕日をバックに優雅に佇んでいた。
ちらほらと少ない街灯がつき始める頃。
少し逆光気味だったけれど、アゲハさんがこちらに微笑みかけていることが見て取れた。
「ついでに真宵田 夜子の居場所も探ってやろうと思ってアリスをほっぽいたのに、失敗。流石は真宵田 夜子の結界か。こんな広範囲で認識齟齬を起こさせるなんてさ。アンタたちが出てきてやっとその存在を感知できた」
アゲハさんは一人楽しそうに言った。
「こんなことならあの時サクッとやっとくんだったなぁ。欲張ろうとしてお仲間付いてきちゃったし」
やれやれと嘆息するアゲハさん。
つまりあの時、アゲハさんは私を帰すことで夜子さんの居場所を掴もうとしていたってこと?
レイくんも私が夜子さんと繋がっていることを知っていたし、状況が切迫すれば私が夜子さんを頼ると踏んで、あの時は敢えて私を見逃したんだ。
でも、ワルプルギスが夜子さんを探る理由は何なんだろう。
あの人は基本傍観者で積極的に行動するような人じゃないし、ワルプルギスに力を貸すことも、逆に邪魔をすることもしなさそうだけれど。
「私を、殺しに来たんですか……?」
「そゆこと。ま、厳密に言えばアリスが力を目覚めさせるように、死なない程度に殺そうって感じだけど。ほら、漫画とかでよくあるじゃん。ピンチの時に眠っていた力が目覚める!みたいな?」
楽しそうに話すアゲハさん。
アゲハさんにはもう、ワルプルギスの基本方針であるはずの静観の考えはない。
私を揺さぶって強引に力を引き出す。もうそれしか気にしていないようだった。
「カルマもまだ出てきてないみたいだしさ、今のうちにサクッとやっちゃおうかと思って」
艶っぽい笑みを浮かべて、カノンさんの背中に隠れるまくらちゃんに目をやるアゲハさん。
この人はどこまで知っているんだろう。
「おい、ちょっと待て! お前が、アゲハなのか……!」
まくらちゃんを庇うように立つカノンさんが、信じられないものを見る目でアゲハさんを見た。
対するアゲハさんもカノンさんのことをまじまじと見て、パッと笑った。
「なになに? 何でアンタがこんなトコにいんの? マジウケる」
「カノンさん、アゲハさんのこと知ってたの?」
「……あぁ、そうなるな。アイツはさっき話した、アタシが以前追っていた魔女の一人だ。名前までは知らなかったが、まさかアイツだとはな」
「…………!」
それはつまり、まくらちゃんと出会う前に戦っていたという魔女。
カノンさんはその人たちにやられて、命からがら森に逃げ込んだって言っていた。
「いやぁこういうこともあんのね。まさかこんなトコでまた会うなんてさ。てか、何でそっちにいるわけ? アンタがそこにいる意味がさっぱりなんだけど。いちゃダメでしょ、アンタは」
「うっせーな。そんなことどうでもいいだろうが。アリスたちはアタシのダチだ。コイツらを狙うってんなら、アタシがてめぇをぶっ飛ばす」
「はぁ!? なにそれ、超ウケる!」
アゲハさんはお腹を抱えて笑い始めた。
こんな可笑しなことはないという風に。
端的に言えば大爆笑だった。
「いやいやありえないっしょ。普通に考えてさ。いやーホント超ウケるわぁ」
「うっせぇ! てめぇには関係ねぇだろ!」
「まぁ確かに関係はないけどさぁ。でもやっぱり変だって。アンタも変だし、受け入れてる奴らも変」
「アゲハさん、何を言ってるの!?」
カノンさんが私たちといることが、どうしてそこまで変なんだろう。
カノンさんは私たちの友達で、一緒に戦ってくれている仲間。
一緒にいることに何一つとして違和感はないのに。
「あれ? もしかしてアリス気付いてないの? あー、もしかして私、悪いことしちゃったかな?」
私の反応を見てそう言うアゲハさんにカノンさんは舌打ちした。
気付いてないって、一体何に?
「まぁいっか。普通隠せるもんじゃないし、アンタも隠してるわけじゃなかったでしょ? この子が気づかなかっただけでさ。ちょうどいいから私から教えてあげるよ」
「てめぇ余計なことを……!」
「だって自分でちゃんと説明してないのが悪いんでしょ? ちゃんと教えてあげないとアリスが可哀想じゃん。ダメだって、友達は大切にしないとさ」
何だかはわからなかったけれど、どうしようもなくその言葉を聞きたくなかった。
私の腕を握る氷室さんの手の力が強まった気がして、より不安が増す。
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