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第3章 オード・トゥ・フレンドシップ
51 力の差
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「カノンちゃん!」
空中で突如爆破され、力なく落下するカノンさんの元へ、まくらちゃんが駆け寄ろうとした。
けれどそんな危ない真似はさせられない。私は慌ててまくらちゃんを後ろから抱き締めて押し留めた。
「カノンちゃんが! カノンちゃんが……!」
「大丈夫。カノンさんなら大丈夫だから!」
不安げに声を上げるまくらちゃんをぎゅっと強く抱き締めた。
今までカノンさんに守られてきたとはいっても、きっとそのほとんどは、まくらちゃんが寝ている時のこと。
まくらちゃんが慌てるのも無理はなかった。
まくらちゃんを私が止めている間に氷室さんが前に出た。
カノンさんの落下地点に透明の網のよなものを張って、衝撃を緩和させて受け止める。
「すまねぇ霰。油断した」
無事に地面に降り立ったカノンさんは、爆発でボロボロになりながらもまだ体から力が抜けてはいなかった。
苦々しい顔をしてアゲハさんを見上げる。対するアゲハさんは、余裕の面持ちで楽しそうにこちらを見下ろしていた。
「やっぱ魔女狩りとはいっても大したことないか。私の敵じゃないって感じ」
「安心しろ。てめぇはアタシがぶっ飛ばしてやる」
「どうだか。この間だって私にボコボコにされたくせにさ」
大きな蝶の羽を優雅に揺らして、アゲハさんは嘲るように笑った。
本来なら立場は逆のはずなんだ。魔法使いこそが魔女を圧倒して嘲笑する。
けれどあの禍々しい羽を生やしたアゲハさんの前には、魔法使いであるはずのカノンさんも遅れをとっているのが事実だった。
「私はさぁ、どうせなら霰と遊んでみたいんだよねー。C9とは前にやっちゃったし、底は知れてるからさ」
「ナメた口ききやがって……! てめぇなんかアタシ一人で────」
アゲハさんの挑発にカノンさんが吠えた瞬間だった。気がつけば、氷室さんの姿はそこにはなかった。
アゲハさんとカノンさんが言い合っている間に、氷室さんの姿は既に上空にあった。
「……!」
アゲハさんが気がついた時にはもう遅い。
氷室さんは完全にアゲハさんに背後をとっていた。
いつも通りのクールなポーカーフェイス。
暗い空の中で、僅かに煌めくのスカイブルーの瞳が綺麗だった。
それはまさに瞬きの間だった。
絶えず目を向けていたはずなのに、気がついた時にはアゲハさんの周囲一帯は凍結していた。
アゲハさんがいたであろう場所を中心に、氷の棘が無数に伸びている。
球状の針山のように、その空間一帯が氷に覆われていた。
アゲハさんに抵抗する暇はなかったように見える。
あれではアゲハさんは全身氷漬けになっているはずだ。
けれど空中に咲いた氷の針山は、バキンと重い音を立てていとも簡単に砕け散った。
その中心からは傷一つ負っていないアゲハさんの姿が現れる。
優雅に着地して自身の氷が砕かれる様を無表情で見上げている氷室さんに対し、アゲハさんはニッコリと微笑んだ。
「これ、お返しね」
そう、まるでプレゼントのお返しを渡すような気軽さでアゲハさんが言った時だった。
砕け散った氷一つひとつが空中で静止して、それが一斉に向きを変えて氷室さん目掛けて放たれた。
大小様々な氷の礫が、まるで弾丸の雨のように降り注ぐ。
「こっちだ!」
いち早く反応したのはカノンさんだった。
物凄い速さで横に大きく飛びながら私の首根っこを掴んだ。
首が締まるかと思う程に勢いよく引っ張られて、実際一瞬息が止まりかけた。
けれどそれでもぎゅっとまくらちゃんを抱き締めて放さず、二人まとめてカノンさんに連れられ脇にある空き地に退避した。
「氷室さん!」
ザクザクと降り注ぐ氷の雨が、地面に突き刺さり割れていく。
見えるのはただその光景だけ。氷の雨が視界を埋め尽くして、その先を見ることができない。
砕け散った氷の礫が全て降り注ぎきった頃だった。
突如として轟々とした火柱が上がって、その中心から氷室さんが現れた。
その体に目立った傷は見当たらない。相変わらずの冷静な面持ちで、さっと火柱を消して静かにアゲハさんを見上げた。
「やっるー! 流石はあれね、『寵愛』ってやつ? 並みの魔女ならぐちゃぐちゃになってたはずなのに。お姫様に気に入られてるだけで、私の魔法に耐えられるだけの力が出せるなんて。憎いなぁ」
ニヤリと意地悪く不穏な笑みを浮かべるアゲハさん。
その姿からはただただ重圧を感じるけれど、彼女の強さの底は全く見て取れない。
「アタシもいるってこと、忘れてんじゃねぇよ!」
「忘れてないけどさー、だってつまんないじゃん」
カノンさんは地面に転がっている氷を拾い上げて宙に放ると、まるで野球のノックのように木刀でその氷を打ち抜いた。
けれどノックなんて生易しいものじゃない。カノンさんの魔力を込められて打たれたそれは、砲丸を打ち込んだかのような重みを持って放たれた。
けれどアゲハさんはそれをいとも容易く、障壁を張って防いだ。
手当たり次第に氷を拾い上げて同じように打ち込むカノンさん。
けれどそれはことごとく障壁に阻まれてアゲハさんには届かない。
更に細かく砕け散った氷は、パラパラと粉のように暗い夜の空に散った。
「アンタ攻撃が安っぽいんだもん。直情的な戦い方って私嫌いなの」
「抜かせ!」
退屈そうに空中で脚を組んで溜息をつくアゲハさん。
その姿はどこか艶めかしく、人のそれとは違う妖しげな色気を感じさせる。
対するカノンさんは荒々しく、まるで獣のようだった。
「生憎アタシは突っ走るしか脳がないんでな! 付き合ってもらうぜ!」
そう言って、カノンさんは手にしていた木刀を一直線にアゲハさん目掛けて投げつけた。
まるで槍の投擲のように放たれた木刀は、アゲハさんに風穴を開けんとばかりに突き進む。
まさかアゲハさんも手持ちの武器を投げるとは思っていなかったのか、少し対処が遅れた。
けれどあくまで冷静に、身を翻すことでその攻撃をかわそうとした。
「馬鹿め!」
カノンさんがそう叫んだのは、木刀がアゲハさんの脇を通り抜けようとした時だった。
ひょいと身をかわしたアゲハさんのちょうど真横で木刀が静止する。
真っ直ぐに突き抜けると思われた木刀は急激に空中で静止すると、その木刀を中心として球状の眩い電撃が網のように展開された。
「────っ!!!」
雷が弾けたかのような閃光と乾いた音が広がった。
完全に気を抜いていたアゲハさんは、木刀から発せられた電気の網に囚われて一瞬身を捩って動きを止めた。
その隙をカノンさんは逃さなかった。
アゲハさんが木刀に気を取られているうちに、再び上空まで跳び上がって、カノンさんは完全に背後を取った。
既に電気の網は収まっていたけれど、感電して動きが鈍ったアゲハさんはカノンさんの動きについていけていない。
縦に一閃。
新しい木刀を手にしたカノンさんの一撃が、アゲハさんの肩に振り下ろされた。
ぐしゃっと鈍い音がしてから、アゲハさんは無抵抗に地面に叩きつけられるように落下した。
空中で突如爆破され、力なく落下するカノンさんの元へ、まくらちゃんが駆け寄ろうとした。
けれどそんな危ない真似はさせられない。私は慌ててまくらちゃんを後ろから抱き締めて押し留めた。
「カノンちゃんが! カノンちゃんが……!」
「大丈夫。カノンさんなら大丈夫だから!」
不安げに声を上げるまくらちゃんをぎゅっと強く抱き締めた。
今までカノンさんに守られてきたとはいっても、きっとそのほとんどは、まくらちゃんが寝ている時のこと。
まくらちゃんが慌てるのも無理はなかった。
まくらちゃんを私が止めている間に氷室さんが前に出た。
カノンさんの落下地点に透明の網のよなものを張って、衝撃を緩和させて受け止める。
「すまねぇ霰。油断した」
無事に地面に降り立ったカノンさんは、爆発でボロボロになりながらもまだ体から力が抜けてはいなかった。
苦々しい顔をしてアゲハさんを見上げる。対するアゲハさんは、余裕の面持ちで楽しそうにこちらを見下ろしていた。
「やっぱ魔女狩りとはいっても大したことないか。私の敵じゃないって感じ」
「安心しろ。てめぇはアタシがぶっ飛ばしてやる」
「どうだか。この間だって私にボコボコにされたくせにさ」
大きな蝶の羽を優雅に揺らして、アゲハさんは嘲るように笑った。
本来なら立場は逆のはずなんだ。魔法使いこそが魔女を圧倒して嘲笑する。
けれどあの禍々しい羽を生やしたアゲハさんの前には、魔法使いであるはずのカノンさんも遅れをとっているのが事実だった。
「私はさぁ、どうせなら霰と遊んでみたいんだよねー。C9とは前にやっちゃったし、底は知れてるからさ」
「ナメた口ききやがって……! てめぇなんかアタシ一人で────」
アゲハさんの挑発にカノンさんが吠えた瞬間だった。気がつけば、氷室さんの姿はそこにはなかった。
アゲハさんとカノンさんが言い合っている間に、氷室さんの姿は既に上空にあった。
「……!」
アゲハさんが気がついた時にはもう遅い。
氷室さんは完全にアゲハさんに背後をとっていた。
いつも通りのクールなポーカーフェイス。
暗い空の中で、僅かに煌めくのスカイブルーの瞳が綺麗だった。
それはまさに瞬きの間だった。
絶えず目を向けていたはずなのに、気がついた時にはアゲハさんの周囲一帯は凍結していた。
アゲハさんがいたであろう場所を中心に、氷の棘が無数に伸びている。
球状の針山のように、その空間一帯が氷に覆われていた。
アゲハさんに抵抗する暇はなかったように見える。
あれではアゲハさんは全身氷漬けになっているはずだ。
けれど空中に咲いた氷の針山は、バキンと重い音を立てていとも簡単に砕け散った。
その中心からは傷一つ負っていないアゲハさんの姿が現れる。
優雅に着地して自身の氷が砕かれる様を無表情で見上げている氷室さんに対し、アゲハさんはニッコリと微笑んだ。
「これ、お返しね」
そう、まるでプレゼントのお返しを渡すような気軽さでアゲハさんが言った時だった。
砕け散った氷一つひとつが空中で静止して、それが一斉に向きを変えて氷室さん目掛けて放たれた。
大小様々な氷の礫が、まるで弾丸の雨のように降り注ぐ。
「こっちだ!」
いち早く反応したのはカノンさんだった。
物凄い速さで横に大きく飛びながら私の首根っこを掴んだ。
首が締まるかと思う程に勢いよく引っ張られて、実際一瞬息が止まりかけた。
けれどそれでもぎゅっとまくらちゃんを抱き締めて放さず、二人まとめてカノンさんに連れられ脇にある空き地に退避した。
「氷室さん!」
ザクザクと降り注ぐ氷の雨が、地面に突き刺さり割れていく。
見えるのはただその光景だけ。氷の雨が視界を埋め尽くして、その先を見ることができない。
砕け散った氷の礫が全て降り注ぎきった頃だった。
突如として轟々とした火柱が上がって、その中心から氷室さんが現れた。
その体に目立った傷は見当たらない。相変わらずの冷静な面持ちで、さっと火柱を消して静かにアゲハさんを見上げた。
「やっるー! 流石はあれね、『寵愛』ってやつ? 並みの魔女ならぐちゃぐちゃになってたはずなのに。お姫様に気に入られてるだけで、私の魔法に耐えられるだけの力が出せるなんて。憎いなぁ」
ニヤリと意地悪く不穏な笑みを浮かべるアゲハさん。
その姿からはただただ重圧を感じるけれど、彼女の強さの底は全く見て取れない。
「アタシもいるってこと、忘れてんじゃねぇよ!」
「忘れてないけどさー、だってつまんないじゃん」
カノンさんは地面に転がっている氷を拾い上げて宙に放ると、まるで野球のノックのように木刀でその氷を打ち抜いた。
けれどノックなんて生易しいものじゃない。カノンさんの魔力を込められて打たれたそれは、砲丸を打ち込んだかのような重みを持って放たれた。
けれどアゲハさんはそれをいとも容易く、障壁を張って防いだ。
手当たり次第に氷を拾い上げて同じように打ち込むカノンさん。
けれどそれはことごとく障壁に阻まれてアゲハさんには届かない。
更に細かく砕け散った氷は、パラパラと粉のように暗い夜の空に散った。
「アンタ攻撃が安っぽいんだもん。直情的な戦い方って私嫌いなの」
「抜かせ!」
退屈そうに空中で脚を組んで溜息をつくアゲハさん。
その姿はどこか艶めかしく、人のそれとは違う妖しげな色気を感じさせる。
対するカノンさんは荒々しく、まるで獣のようだった。
「生憎アタシは突っ走るしか脳がないんでな! 付き合ってもらうぜ!」
そう言って、カノンさんは手にしていた木刀を一直線にアゲハさん目掛けて投げつけた。
まるで槍の投擲のように放たれた木刀は、アゲハさんに風穴を開けんとばかりに突き進む。
まさかアゲハさんも手持ちの武器を投げるとは思っていなかったのか、少し対処が遅れた。
けれどあくまで冷静に、身を翻すことでその攻撃をかわそうとした。
「馬鹿め!」
カノンさんがそう叫んだのは、木刀がアゲハさんの脇を通り抜けようとした時だった。
ひょいと身をかわしたアゲハさんのちょうど真横で木刀が静止する。
真っ直ぐに突き抜けると思われた木刀は急激に空中で静止すると、その木刀を中心として球状の眩い電撃が網のように展開された。
「────っ!!!」
雷が弾けたかのような閃光と乾いた音が広がった。
完全に気を抜いていたアゲハさんは、木刀から発せられた電気の網に囚われて一瞬身を捩って動きを止めた。
その隙をカノンさんは逃さなかった。
アゲハさんが木刀に気を取られているうちに、再び上空まで跳び上がって、カノンさんは完全に背後を取った。
既に電気の網は収まっていたけれど、感電して動きが鈍ったアゲハさんはカノンさんの動きについていけていない。
縦に一閃。
新しい木刀を手にしたカノンさんの一撃が、アゲハさんの肩に振り下ろされた。
ぐしゃっと鈍い音がしてから、アゲハさんは無抵抗に地面に叩きつけられるように落下した。
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