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第0.5章 まほうつかいの国のアリス

5 普通の女の子5

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「実はね、僕はアリスちゃんを迎えにきたんだよ」

 わたしの手を優しく握ったまま、レイくんはニッコリと笑って言った。
 その意味がよくわからなかったわたしが首をかしげると、レイくんは一人楽しそうに目を細くした。

「是非、君の力を僕に貸して欲しいんだ。どうかな?」
「えーっと、よくわかんないよ。わたしに何かできるの?」
「できるとも。むしろ君にしかできないことだ」

 ニコニコと微笑んでいるレイくんから、悪い気は感じなかった。
 とってもいい人そうなことだけが伝わってくるから、言っていることに嘘はないと思うんだけど。
 でもわからないことだらけで、わたしはなんて返事をすればいいのか困ってしまった。

「でもわたし、普通だよ? 普通の小学生で、普通のただのアリスだよ?」
「それは君がまだ、自分が何者かをわかっていないからさ。アリスちゃん、君は特別な女の子なんだよ」
「…………?」

 言っていることがいまいちピンとこない。
 わたしって、何か特別なことあったかなぁ。

 普通のおうちで育って、特別得意なことがあるわけでも、特別不得意なことがあるわけでもない。
 本を読むのが好きで、友達といるのが好きで、お母さんが大好きで。
 そんな、どこにでもいそうな普通の女の子でしかないと、思うんだけどなぁ。

 ニコニコ笑顔を見ながらうーんと悩んでいると、レイくんは可笑しそうに笑った。

「今そんなに深く考える必要はないよ。時間が経てば、きっと自然に自覚できる」
「でも、自分で自分のことがわからなきゃ、レイくんの力にはなれないでしょ?」
「いずれはそうだけれど、でもそうだとは限らないさ。まずは、僕と一緒に国に帰ってくれれば良い。それだけで、僕はとっても嬉しいんだ」
「国? どこ? ここから近い?」

 わたしが質問すると、レイくんはくしゃっと笑った。

「『まほうつかいの国』さ。近いよ。すぐに
「『まほうつかいの国』!? そんなところあるの!? でもわたし、聞いたことない!」
「あるよ、あるともさ。君の知らないことというのは、まだまだ沢山あるんだよ」

 魔法使いという単語に、わたしは食いついてしまった。
 レイくんの口ぶりは嘘を付いているようには聞こえなくて、まるで本当に魔法使いがいるような言い方だったから。

 もし本当に魔法使いという人たちがいて、その人たちが住む国があるんだとしたら。
 そんなもの、『ぜひ』とも行ってみたいに決まってる。

「『まほうつかいの国』には、魔法使いがいるの?」
「ああ、もちろん。魔法使いも魔女もいるよ」
「じゃあじゃあ! 魔法があるってこと!?」
「あるよ。なんたって僕は魔法を使ってここまで来たんだからね」
「うわぁー!」

 わくわくを隠しきれないわたしを、レイくんはとっても優しい笑顔で眺めてくる。
 魔法が本当にあると聞かされて、わたしは飛び上がりそうなほど興奮してしまった。

「『まほうつかいの国』には沢山の不思議なことがあるよ。きっと君も気に入る。とっても楽しいと思うよ」
「そこに行ったら、わたしも魔法が使えるようになるかなぁ?」
「きっとなれるよ。君にはその素質がある。なんてったって特別だからね」
「じゃあ行ってみたい!」

 わたしが魔法を使えるようになれるなんて夢みたい。
 うれしくてわたしは思わずぴょんぴょんと飛び跳ねてしまう。

「それはよかった。君が乗り気になってくれて嬉しいよ。でも一応聞くけど、良いのかい? 僕なんかのお願いを聞いちゃって」
「え? どうして?」
「だって僕と君は初対面だし。僕のこと、怪しいと思わないの?」
「うーん」

 嬉しそうに笑いながら、レイくんは不思議そうに首を傾けた。
 そんなレイくんに、わたしはなんて言ったら良いか考えてから、パッと笑って答えた。

「よくわかんないけど、レイくんはわたしに力を貸して欲しいんでしょ。わたしお母さんにいつも、困ってる人は助けてあげなさいって言われてるもん。それにレイくんはわたしとお友達になりに来てくれたんでしょ? だったら知らない人じゃないし、大丈夫だよ!」

 わたしが言うと、レイくんは目をまん丸にしてしばらく見つめてきた。
 びっくりした感じであんまりにも見つめてくるから、なんか変なこと言っちゃったのかなって心配になる。
 ただ思ったことを言っただけなんだけどなぁ。

「えっと、わたしなんか、おかしなこと言っちゃった……?」
「……いや、ううん。おかしいなんてとんでもない。ただちょっと驚いちゃってね」

 不安になって言うと、レイくんはあわてて首を横に振った。
 それからまた優しい笑顔になって、わたしの頭をそっと撫でてくれた。

「とっても、とっても優しい子だねアリスちゃんは。僕なんかにそんなに優しくしてくれるなんて……やっぱり君は……」
「だってレイくんはもう、わたしのお友達でしょ? 友達に優しくするのは当たり前だよ」
「……ありがとう。ありがとうアリスちゃん。君は僕のことを、友達だって思ってくれるんだね」

 レイくんはちょっぴりくもった声でそう言うと、わたしのことをきゅっと抱きしめた。
 突然のことでびっくりしてしまったけれど、でも全然悪い気はしなかった。
 むしろとっても優しくて柔らかい感触と、お花みたいな良い匂いに包まれてとっても嬉しい気持ちになった。

「ありがとう、僕は嬉しいよ。優しくされるのって、こんなに嬉しいんだね……」
「レイくん……?」
「あぁ、ごめんごめん。嬉しくってついね」

 レイくんは一度強めにぎゅっとわたしを抱きしめてから、そっと腕を放して立ち上がった。
 すらっとしたその姿はとっても大人っぽくって、優しい月明かりと合わさってとってもカッコいい。

 長くて細い腕をわたしに伸ばして、そっとその手を差し出してきた。

「さあ、行こうか。僕たちの国へ」

 まるで恋人に向けるように、とっても優しい笑顔で言うレイくん。
 その表情も声も、なんだかとってもロマンチックで、まるで物語のできごとのようだった。
 そんなステキな姿に、わたしはすっかり気持ちを持ってかれちゃって。

 まるでおとぎ話のお姫様になった気分で、差し出された手を握った。
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