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第0.5章 まほうつかいの国のアリス
33 わがままな女王様9
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「あー考えててもわかんねぇ!」
みんなでうーんと考え込んでる中、レオがわっと声を上げた。
赤い頭をガシャガシャかきむしってからため息をつく。
「アリスに何か特別な力があるのは間違いねぇだろうけど、ここで考えててもオレらじゃわかんねぇ。とりあえず今は、やるべきことをやろうぜ」
「やるべきことって?」
「そりゃもちろん、女王陛下から逃げてアリスを元の世界に帰すんだよ」
首をかしげたアリアに、レオがハッキリと言った。
「今は一旦巻けたみたいだけどよ、あの女王陛下のことだ。アリスを殺すまで気が治らない可能性だってある」
「あの女王様、そこまで『しゅーねんぶかい』の?」
わたしが聞いてみると、レオとアリアは困ったような顔をしてから、おもーいため息をついた。
その『ふんいき』はとっても暗くって、女王様がよっぽどよく思われてないんだってことがよくわかった。
「執念深いというか、そもそもわがままで自分勝手な人なの。自分の気に食わない人、自分に逆らった人、思い通りにならない人はみんな処刑してきた。だから、アリスのことも簡単には諦めない……かも」
「え、えぇ……」
アリアがものすごくションボリした顔で、おっかなびっくり言った。
そんな人が女王様で、この国は大丈夫なのかなぁ。
「国中の贅沢は全部自分のものにして、気に食わないことには癇癪を起こして。女王陛下がそんなだから、今この国はとっても貧しくて、国民みんなが辛い思いをしてるんだ。でも自分勝手な女王陛下は、そんなこと気にしちゃいない」
「だから、この町の『ふんいき』もなんとなく暗かったんだね」
わがままな女王陛下が好き勝手に振る舞っているせいで、国民が、町の人たちがとっても苦しい生活になっちゃってたんだ。
魔法にあふれたこんなにステキな世界なのに、そんなきびしい状態だったなんて……。
「オレたち魔法使いの家は、それでもある程度は裕福だからまだ余裕はあるけどよ、それ以外の普通の国民の生活は大分ギリギリだ。それにいつ、さっきみたいに急に女王陛下がやってきて、何を不快に思われて殺されるかもわかんねぇ。この国は今、そんな国なんだよ」
「先代の時は、とってもいい国だったみたいなんだけどね。今の女王陛下になってからは、こんな感じ。結婚して婿入りした王様も、喧嘩して女王陛下に処刑されちゃって。もう誰も、止める人がいないんだって」
レオもアリアもとってもションボリして下を向いてしまった。
不思議なことに満ちたわくわくの世界だと思ってたわたしにとっても、それはとってもショックだった。
ここは何でもかんでも楽しくて夢のような国かなって思ってたけど、それが『かすんで』しまうくらい大変な国だったんだ。
「元気出して二人とも。わたしに、何かできることはないかな?」
「ありがとうアリス。でも大丈夫。これはこの世界のわたしたちの問題だから。それに、また無茶したらさっきみたいなことになっちゃうよ?」
わたしが二人の手を握りながら言うと、アリアはふふっと微笑んだ。
わたしに心配させないようにしているんだろうけど、自分でもできるだけ明るくしようとしてるんだと思う。
アリアが優しく微笑みながらわたしの頭をなでてくれている横で、レオもうなずいた。
「アリスが気にすることじゃねぇよ。お前は自分ちに帰ることを考えとけ。大丈夫だ。オレたちがちゃんと、お前を元の世界に帰してやる」
「う、うん。でも、わたしどうやって帰ればいいんだろう……」
ニカッと笑って言うレオ。
でも帰り方は結局今もわからなくて、どうすればいいかわからない。
こまってションボリしたわたしに、レオはサラッと続けた。
「オレ思ったんだけどよ。西の花畑に行ってみるのがいいんじゃないか?」
「に、西のお花畑!? でも、あそこは禁域なんだよ!?」
「だからこそだ。王家があそこを禁域にしたってことは、きっとなにかがあるってことだ。ならもしかしたら、アリスが元の世界に帰る手がかりがあるかもしれねぇだろ?」
「ま、まぁ確かにそうもしれないけど……」
レオの言葉にビクッと声を上げたアリアだったけれど、説明を聞いて渋々って感じでうなずいた。
「アリスに西の花畑に行けって言ったやつが何者かは知らねーけど、意味があって言ったはずだ。行く価値はあるんじゃねぇか?」
「わたしにそう言ったの、夜子さんだよ。ほら、さっき助けてくれた人!」
わたしが付け加えると、レオは一回首をかしげてからすぐにガバッと飛び上がった。
なんだかとっても驚いてるみたいで、顔が真っ赤になってる。
「さ、さっきのって、ナイトウォーカーのことか!? この国最強の魔法使い、イヴニング・プリムローズ・ナイトウォーカーと、お前知り合いなのかよ! なんでアリスを助けたんだとは思ってたけど、そういうことか……!」
「……? よくわかんかいけど、あの人とは『魔女の森』で会って、帰り道を聞いたら西に行きなさいって」
「ますますめちゃくちゃな話だ……」
どっひゃーと驚くレオは、わたしの話を聞いてますます驚いていた。
夜子さん、なんだかすごい人だったんだなぁ。
あの女王様とも『たいとう』な感じで話してたし、もしかしてとってもエラい人なのかなぁ。
「でも確かに、ナイトウォーカーさんほどの人がお花畑に行けって言ったんなら、何かあるかもしれないね。この国一番のすっごい魔法使いだもん。意味のないことなんて言わないよ」
「そう、だといいんだけどなぁ」
アリアはパァっと明るい顔をして言う。
わたしとしては、夜子さんの話のほとんどは意味がわからなかったから、アリアの言う通りなのかはちょっとわかんない。
でもやっぱり、お花畑に行った方がいいのはまちがいないみたい。
「だな。よし、そうと決まれば早く行こうぜ。西の花畑は結構遠いし、それに女王陛下からも逃げなきゃなんねぇ。動き出すなら早い方がいい」
「え……?」
アリアにうなずいたレオは、元気よく立ち上がってそう言った。
わたしはそんなレオのこと、思わずポカンと見上げてしまった。
「二人とも、わたしと一緒に行ってくれるの?」
「おいおい、今更何言ってんだよ。お前をうちに帰してやるって言ったろ? ここまできたら、最後まで面倒見てやる」
「で、でも、二人のおうちはこの町でしょ? わたしと、そんなところまで行っちゃうなんて……」
「オレらも女王陛下に顔見られてるから、しばらくはこの街にいるのは『とくさく』じゃねぇ。どっちにしろ、ほとぼりが冷めるまでは隠れてなきゃ殺されちまうし、ちょーどいいさ」
おっかなびっくり聞くわたしに、レオはニカッと笑って答える。
まるで何にも気にすることなんてない、当たり前のことみたいに。
ドンと構えるレオの姿とその笑顔は、なんだかとっても頼もしくて。
わたしは、心がじんわりと熱くなるのを感じた。
「そうだよアリス。わたしたち、ちゃんとおうちに帰してあげるって、助けてあげるって約束したでしょ? だから、わたしたちにできること、最後までさせて?」
「でも『めいわく』じゃない? 大変じゃない……?」
「まぁ、大変かもしれないけどね。でも、わたしたちはアリスのこと助けたいって、そう思ってるから。優しくて真っ直ぐで、思いやりのあるアリスを、わたしたちは助けたいの。だってわたしたち、もう友達でしょ?」
「アリア……レオ……」
わたしの手を両手であったかく包んで、優しい声で言うアリア。
お姉さんみたいに、ふんわりと柔らかく包まくんでくれるアリアの笑顔は、思わず甘えたくなっちゃう。
二人の優しさが、温かさがじんわりと心に染みこんで、わたしは涙を止めることができなかった。
ポロポロこぼれる涙をふくことできないまま、わたしは二人の顔を見上げる。
二人にとってわたしなんて、ヘンテコでわけのわからない変な子なはずなのに。
何も知らずに飛び出しちゃったわたしのせいで、大変なことに巻き込んじゃったのに。
それなのに、わたしにこんなに優しくしてくれる。
とっても、とってもうれしい。
二人のこと、大好きだよ……。
「ほーら泣かないの。大丈夫、アリスは一人じゃないよ。わたしたちがついてるから、頑張ろう?」
「まぁなんとかなるさ。気楽に行こうぜ」
「うん……うん! ありがとう、レオ、アリア!」
明るくて優しい笑顔の二人に引っ張り起こされて、わたしは立ち上がる。
こわいこと、ふあんなことはたくさんあるけれど。
でも、二人と一緒ならきっとなんとかなるって、そう思えた。
みんなでうーんと考え込んでる中、レオがわっと声を上げた。
赤い頭をガシャガシャかきむしってからため息をつく。
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「やるべきことって?」
「そりゃもちろん、女王陛下から逃げてアリスを元の世界に帰すんだよ」
首をかしげたアリアに、レオがハッキリと言った。
「今は一旦巻けたみたいだけどよ、あの女王陛下のことだ。アリスを殺すまで気が治らない可能性だってある」
「あの女王様、そこまで『しゅーねんぶかい』の?」
わたしが聞いてみると、レオとアリアは困ったような顔をしてから、おもーいため息をついた。
その『ふんいき』はとっても暗くって、女王様がよっぽどよく思われてないんだってことがよくわかった。
「執念深いというか、そもそもわがままで自分勝手な人なの。自分の気に食わない人、自分に逆らった人、思い通りにならない人はみんな処刑してきた。だから、アリスのことも簡単には諦めない……かも」
「え、えぇ……」
アリアがものすごくションボリした顔で、おっかなびっくり言った。
そんな人が女王様で、この国は大丈夫なのかなぁ。
「国中の贅沢は全部自分のものにして、気に食わないことには癇癪を起こして。女王陛下がそんなだから、今この国はとっても貧しくて、国民みんなが辛い思いをしてるんだ。でも自分勝手な女王陛下は、そんなこと気にしちゃいない」
「だから、この町の『ふんいき』もなんとなく暗かったんだね」
わがままな女王陛下が好き勝手に振る舞っているせいで、国民が、町の人たちがとっても苦しい生活になっちゃってたんだ。
魔法にあふれたこんなにステキな世界なのに、そんなきびしい状態だったなんて……。
「オレたち魔法使いの家は、それでもある程度は裕福だからまだ余裕はあるけどよ、それ以外の普通の国民の生活は大分ギリギリだ。それにいつ、さっきみたいに急に女王陛下がやってきて、何を不快に思われて殺されるかもわかんねぇ。この国は今、そんな国なんだよ」
「先代の時は、とってもいい国だったみたいなんだけどね。今の女王陛下になってからは、こんな感じ。結婚して婿入りした王様も、喧嘩して女王陛下に処刑されちゃって。もう誰も、止める人がいないんだって」
レオもアリアもとってもションボリして下を向いてしまった。
不思議なことに満ちたわくわくの世界だと思ってたわたしにとっても、それはとってもショックだった。
ここは何でもかんでも楽しくて夢のような国かなって思ってたけど、それが『かすんで』しまうくらい大変な国だったんだ。
「元気出して二人とも。わたしに、何かできることはないかな?」
「ありがとうアリス。でも大丈夫。これはこの世界のわたしたちの問題だから。それに、また無茶したらさっきみたいなことになっちゃうよ?」
わたしが二人の手を握りながら言うと、アリアはふふっと微笑んだ。
わたしに心配させないようにしているんだろうけど、自分でもできるだけ明るくしようとしてるんだと思う。
アリアが優しく微笑みながらわたしの頭をなでてくれている横で、レオもうなずいた。
「アリスが気にすることじゃねぇよ。お前は自分ちに帰ることを考えとけ。大丈夫だ。オレたちがちゃんと、お前を元の世界に帰してやる」
「う、うん。でも、わたしどうやって帰ればいいんだろう……」
ニカッと笑って言うレオ。
でも帰り方は結局今もわからなくて、どうすればいいかわからない。
こまってションボリしたわたしに、レオはサラッと続けた。
「オレ思ったんだけどよ。西の花畑に行ってみるのがいいんじゃないか?」
「に、西のお花畑!? でも、あそこは禁域なんだよ!?」
「だからこそだ。王家があそこを禁域にしたってことは、きっとなにかがあるってことだ。ならもしかしたら、アリスが元の世界に帰る手がかりがあるかもしれねぇだろ?」
「ま、まぁ確かにそうもしれないけど……」
レオの言葉にビクッと声を上げたアリアだったけれど、説明を聞いて渋々って感じでうなずいた。
「アリスに西の花畑に行けって言ったやつが何者かは知らねーけど、意味があって言ったはずだ。行く価値はあるんじゃねぇか?」
「わたしにそう言ったの、夜子さんだよ。ほら、さっき助けてくれた人!」
わたしが付け加えると、レオは一回首をかしげてからすぐにガバッと飛び上がった。
なんだかとっても驚いてるみたいで、顔が真っ赤になってる。
「さ、さっきのって、ナイトウォーカーのことか!? この国最強の魔法使い、イヴニング・プリムローズ・ナイトウォーカーと、お前知り合いなのかよ! なんでアリスを助けたんだとは思ってたけど、そういうことか……!」
「……? よくわかんかいけど、あの人とは『魔女の森』で会って、帰り道を聞いたら西に行きなさいって」
「ますますめちゃくちゃな話だ……」
どっひゃーと驚くレオは、わたしの話を聞いてますます驚いていた。
夜子さん、なんだかすごい人だったんだなぁ。
あの女王様とも『たいとう』な感じで話してたし、もしかしてとってもエラい人なのかなぁ。
「でも確かに、ナイトウォーカーさんほどの人がお花畑に行けって言ったんなら、何かあるかもしれないね。この国一番のすっごい魔法使いだもん。意味のないことなんて言わないよ」
「そう、だといいんだけどなぁ」
アリアはパァっと明るい顔をして言う。
わたしとしては、夜子さんの話のほとんどは意味がわからなかったから、アリアの言う通りなのかはちょっとわかんない。
でもやっぱり、お花畑に行った方がいいのはまちがいないみたい。
「だな。よし、そうと決まれば早く行こうぜ。西の花畑は結構遠いし、それに女王陛下からも逃げなきゃなんねぇ。動き出すなら早い方がいい」
「え……?」
アリアにうなずいたレオは、元気よく立ち上がってそう言った。
わたしはそんなレオのこと、思わずポカンと見上げてしまった。
「二人とも、わたしと一緒に行ってくれるの?」
「おいおい、今更何言ってんだよ。お前をうちに帰してやるって言ったろ? ここまできたら、最後まで面倒見てやる」
「で、でも、二人のおうちはこの町でしょ? わたしと、そんなところまで行っちゃうなんて……」
「オレらも女王陛下に顔見られてるから、しばらくはこの街にいるのは『とくさく』じゃねぇ。どっちにしろ、ほとぼりが冷めるまでは隠れてなきゃ殺されちまうし、ちょーどいいさ」
おっかなびっくり聞くわたしに、レオはニカッと笑って答える。
まるで何にも気にすることなんてない、当たり前のことみたいに。
ドンと構えるレオの姿とその笑顔は、なんだかとっても頼もしくて。
わたしは、心がじんわりと熱くなるのを感じた。
「そうだよアリス。わたしたち、ちゃんとおうちに帰してあげるって、助けてあげるって約束したでしょ? だから、わたしたちにできること、最後までさせて?」
「でも『めいわく』じゃない? 大変じゃない……?」
「まぁ、大変かもしれないけどね。でも、わたしたちはアリスのこと助けたいって、そう思ってるから。優しくて真っ直ぐで、思いやりのあるアリスを、わたしたちは助けたいの。だってわたしたち、もう友達でしょ?」
「アリア……レオ……」
わたしの手を両手であったかく包んで、優しい声で言うアリア。
お姉さんみたいに、ふんわりと柔らかく包まくんでくれるアリアの笑顔は、思わず甘えたくなっちゃう。
二人の優しさが、温かさがじんわりと心に染みこんで、わたしは涙を止めることができなかった。
ポロポロこぼれる涙をふくことできないまま、わたしは二人の顔を見上げる。
二人にとってわたしなんて、ヘンテコでわけのわからない変な子なはずなのに。
何も知らずに飛び出しちゃったわたしのせいで、大変なことに巻き込んじゃったのに。
それなのに、わたしにこんなに優しくしてくれる。
とっても、とってもうれしい。
二人のこと、大好きだよ……。
「ほーら泣かないの。大丈夫、アリスは一人じゃないよ。わたしたちがついてるから、頑張ろう?」
「まぁなんとかなるさ。気楽に行こうぜ」
「うん……うん! ありがとう、レオ、アリア!」
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