普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

文字の大きさ
709 / 984
第7章 リアリスティック・ドリームワールド

140 心変わり

しおりを挟む
「ありもしない幻想を。夢物語の様な繋がりを。あなたは…………」
「………………」

 その憎々しげな表情とは裏腹に、ドルミーレの言葉はやけに寂しげだった。
 今目にしたものを否定しようとして、けれどしきれないのがもどかしい様な。

「……大切なのは、信じることだと、私は思う」

 手を伸ばし、今にも消えそうな光を掬い取りながら私は言った。

「何があっても信じる心、信じ続ける心が、強い繋がりを生むんだよ。相手を信じる心は想いになって、お互いを強く結ぶから」
「………………例えそうだとしても、私は信じない。それは、あなただから得たもの。それこそ、夢の中にしかあり得ない幻なのよ」
「そんなことは…………」

 ないと、強く言い切ってやりたかった。実際そう思うから。
 けれど確かに、どうしようもないすれ違いや、ぶつかり合いというものはある。
 恐らくそれの最たるものを経験したであろう彼女に、私の立場で押し付けるのは酷なんじゃないかと、そう思ってしまった。

 私はドルミーレが見ている夢。
 そんな私が彼女とはあまりにも正反対の存在である理由。
 私が私という自我を確立して、こういうふうに育った理由は、きっとあるはずだから。
 何故だか、今唐突にそう思ってしまった。

「────まぁいいわ。何だか興が削がれたし。あなたの相手は、いつも疲れるのよ」
「え…………?」

 ドルミーレは大きな溜息をつくと、急に肩を落として椅子の上で姿勢を崩した。
 唐突な意志の変化に戸惑っていると、ドルミーレはうざったそうに唸った。

「私はもう少しだけ眠ることにするわ。あなたは好きになさい」
「でも、それでいいの……? あなたは、もう目を覚まそうとしたんじゃ……」
「元々今ではなかったのよ。あなたの馬鹿みたいな感情を向けられ続けるのもうんざりするし、それに……あなたは一応だもの。もう少しだけ様子を見ていてあげるわ」
「………………?」

 唐突の心境の変化についていけず、私は思いっきり戸惑ってしまった。
 彼女の頑なさからすれば、私が多少抵抗を見せたところでそれを嬉々として覆してきそうなものなのに。
 それとも、繋がりを持って抗ったことを証明したから、許してくれた……?
 いや、ドルミーレに限ってそんな甘くはないと思うけれど。

「それでも、僕は殺さないと気が済まないんだろ? 僕だけ残るのが、アリスちゃんを見逃す条件かい?」
「…………」

 手のひらで弱く輝く晴香の光を胸に抱きながら頭を巡らせていると、レイくんが張り詰めた表情で尋ねた。
 しかし対するドルミーレはさして興味なさそうな視線を返す。

「レイ。あなたの狼藉を許すつもりはないわ。けれど今ここであなたに手を出せば、その子は黙っていないでしょう。相手をするのは面倒だから、もういいわ」

 あまりの無気力っぷりに、私とレイくんは驚きを隠せなかった。
 プライドが高く怒りを決して躊躇わない彼女が、そこまで譲歩するなんて。
 それほどまでに、先ほど晴香が見せた覚悟が彼女に何かを思わせたの、かな……?

『帰りましょう』

 戸惑いを覚えつつもこれ以上の諍いがないことに安堵していると、青い光が私の周りを包む様に回りながら言った。

『私が、この領域の外まで誘導するから。あなたは、現実に戻って、目を覚まして』
「うん、わかった。ありがとう」

 私のお礼に青い光は微笑む様に瞬いて、私とレイくんをその輝きで強く包み込んだ。
 ドルミーレには聞きたいこと、話したいことは沢山あるし、それにケリだってつけなきゃけない。
 けれど今はそれよりも、早く目覚めて現実のことを済ませないといけない。
 氷室さんのことも心配だし、それにまだ魔女と魔法使いの戦いは続いているはずだ。

 不安も疑問も残るけれど、やっぱりドルミーレとは全ての問題を片付けてから向き合わないと。
 今は自分自身の問題よりも、守らなくちゃいけないものが多すぎる。
 だから今は、レイくんと無事に現実へ戻ることを優先しよう。

「少し待ちなさい」

 そう思って青い光に身を委ねていると、ドルミーレが静かに呼び止めてきた。
 大きな黒い椅子に浅く座り、肘置きに頬杖をついた気怠そうな様子で。

「その子は預かりましょう」
「あっ……!」

 ドルミーレがスッと手を伸ばした瞬間、晴香の微かな輝きが私の手の中からふわりとこぼれた。
 それはまるで風に拐われたかの様に不規則に揺らめいて宙を流れ、そしてドルミーレの手元に行き着いた。

「晴香を返して!」
「ダメよ。面白そうだから少し観察させてもらうわ。返して欲しかったら、もっと強くなることね」
「な、何を────!」

 晴香の輝きを手の中で転がしながら、ドルミーレはコロコロと笑う。
 頭に血が上った私は彼女に飛びかかろうと身を乗り出したけれど、青い光の輝きがそれを阻んだ。
 今行けば消されると、そう言わんばかりに。

「心配しなくても、取って食ったりはしないわ。あなたとの繋がりとやらを観察させてもらうだけよ」
「っ………………」
「その間は大人しく眠っていてあげる。力も好きな様に使えばいいわ。邪魔はしない。だから精々足掻きなさい。混沌には、あなたが立ち向かうのよ。私は御免」

 今すぐドルミーレの手から晴香を奪い返したい。
 けれどそれをしようとしればきっと、彼女は嘲笑と共に私をいとも簡単に踏み潰すんだろう。
 それは決して誰も望まない結末だ。私も、みんなも、そして彼女も。
 だから私はせめてもの反抗として、彼女の言葉に無言で返した。

『行きましょう』

 そんな私に冷たい笑みで返すドルミーレの視線を受けながら、青い光が促した。
 その輝きが私たちを優しく包み、そしてふわりと持ち上げる。
 漆黒に塗れた暗闇の森の中で、光は闇を掻き分けて上へと目指していく。

 そんな中、私はドルミーレから決して目を離さなかった。
 しかし対する彼女は私のことなんて興味がないとでいうように、既に視線を下ろしていて。
 私は感情が暴れそうになるのを必死で堪えながら、暗闇の中に埋もれていくその姿を見続けた。

『大丈夫、だから……』

 暗闇を登っていく中で、青い光が優しく言った。

『あなたのことは、私が、守る。あなたが大切にしているものも……。だから、私を感じ続けて、ほしい。どこにいても、現実でも、夢でも。私はいつも、側にいるから……』
「……うん。ありがとう」

 優しい心に包まれながら私は噛み締める様に頷いて、身を委ねた。
 多くの問題を残しながらも、前に進むために。
 いつの日か必ず、ドルミーレと決着をつけるために。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...