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第8章 私の一番大切なもの
68 再び王都へ
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私たちは魔女たちの回復を少し待ってから、魔女狩りと合流するべく王都を目指すことにした。
あんまり時間がないから、みんなが万全の状態になるまで待つことはできなかったけれど、みんなで力を合わせて救護に回ったお陰か、協力してくれる意志のある人たちは大分動けるようになった。
元々戦う意志がない人、あちらの世界から連れてこられただけの事情がわかっていない人なんかは、もちろん神殿に残ってもらうことにして。
それでもレイくん指揮の元、多くの魔女たちが私たちに協力してくれることになった。
今回の目的は、決して戦うことじゃない。
もちろんそれは魔法使い相手でもそうだし、クリアちゃんに対してだって、みんなで寄ってたかって倒すことが目的じゃない。
危険が伴うことではあるけれど、飽くまでこの世界の平和のための行動だから、協力に意欲的な魔女たちが多かった。
元から好戦的だったり、強行的な人たちももちろんいるんだろうけれど。
でもきっと魔女の多くは、進んで戦ったり、誰かを傷付けたいだなんて思っていないんだ。
ただ、少しでも長く生き残るためには、自分が苦しまないためには、戦うしか手段がなかっただけで。
けれどそれは、予定通り魔女狩りの人たちが魔女に敵対しないでくれることが前提のこと。
ロード・スクルドは任せて欲しいと言っていたし、彼自身魔女の協力が最早不可欠だってことは理解してた。
ここは彼の手腕を信じるしかないけれど、でもいきなり魔女たちを王都に向かわせることに、ほんの少しだけ不安があった。
だから、本当は今すぐ氷室さんの捜索をしたいところだったんだけれど、私が一度王都に連れていくことにした。
自分自身の目で魔女狩りの状況を見て、そしてロード・スクルドに引き合わせることが、一番確実で安心できると思ったから。
それに、やっぱりお互いに根本的な苦手意識があるだろうから、私が表立って仲を繋ぐのが一番スムーズだろうし。
王都へは、私が全員まとめて空間転移をしてくことになった。
空を飛ぶ魔法はそれなりに難しいらしくって、みんながみんなできるわけじゃないみたいだし。
数十人を一斉に移動させる手段としては、それが一番手っ取り早かった。
レイくんの指示で、有力な魔女に数人残ってもらって、まだ傷ついている人や、戦えない人を神殿で守ってもらうことにした。
念のため、私は『魔女の森』に自らの領域を制定して、外敵が侵入できないように防御を張った。
「皆さんにお願いしたいのは、クリアランス・デフェリアの捜索です。危険が伴うことですので、くれぐれも気をつけてください」
崩れ去った神殿前の広場で、私を見つめる沢山の魔女に向けて、私は言った。
なんの疑いもなく、真っ直ぐに向けられる視線を少しむず痒く感じながらも、私はハッキリとした態度で臨んだ。
その信頼と尊敬を、裏切るわけにはいかないから。
「基本的に戦う必要はありません。見つけ次第、すぐに伝えてください。それと、今回魔法使いは、魔女狩りは敵ではありません。複雑だとは思いますが、同じ目的を持つ同志として、協力してくれると嬉しいです」
「まぁ無理に仲良くする必要はないけど、目的の妨げになるような諍いは避けてね。物事が進まなくなるし、何よりアリスちゃんが困っちゃうからさ」
私の横に立つレイくんが、そう軽やかに付け足した。
うんうんと頷く魔女たちを見てから、横目でパチリとウィンクしてくる。
協力してくれる魔女たちは穏健派が多いみたいだから、話がスムーズで助かる。
それに、ワルプルギスの思想からか私のことを慕ってくれている、というのも大きい。
レイくんが言った、私が困るという言葉が一番効いているみたいだった。
私は正直、魔女の人たちにしてあげられることなんて何もないのに。
それでも、私を魔女の先に立つお姫様としてみんなは見てくれているのだから、なるべくその期待を裏切らないようにしないと。
ワルプルギスが夢見ていたもの、真奈実さんが示していたものを打ち砕いたのは私なのだから、彼女たちを救うのは私の義務だ。
「それでは皆さん、よろしくお願いします。この国の平和のために、みんなの平和のために」
慣れない演説の真似事を切り上げて、私は空間転移の準備にとりかかった。
魔女狩りの本拠地に直行しないで、一旦別のところに向かって、状況を確認してからの合流がいいだろうということで、行き先は王都に詳しいレオとアリアに任せている。
私はみんなで移動する魔法の術そのものを起こして、移動先の場所は二人の意思に任せるようなやり方だ。
思っていた通り、レオとアリアには来てもらってよかった。
国のことに関して私や魔女たちよりも詳しいこともそうだし、それにやっぱり二人の存在が、魔女たちの警戒心を弱めてくれただろうから。
特に、傷ついた彼女たちを一緒に助けて回ってくれたことが、いい印象を与えたんだと思う。
レオとアリアの行き先決定に合わせて、私はレイくんと数十人の魔女を、全て一気に空間転移させた。
普段は行きたいところを思い浮かべて、そこにパッと移動する感じだけれど、今回はその決定権を二人に、主にアリアに委ねる感じだから、いつもと少し違う感覚だった。
けれどその辺りの受け渡しはとてもスムーズで、行き先に迷うことなく、空間の移り変わりは滞りなく行われた。
空間が瞬間的に歪み、そしてすぐさま元の形へと戻っていく。
ぐにゃりと捻れるような感覚と、宙に放られるような感覚はほんの一瞬で、すぐさま別の地面の感覚が足にやってきた。
今までいた土の柔らかなものとは違う、石畳のような硬い感覚が足裏に響く。
それを合図に瞬きをすると、景色は一変し、巨大な木々の天井の代わりに青い空が広がっていた。
すぐに周りを見ていれば、みんなも同じように周囲にいてくれて、大勢での空間転移が成功したことがわかった。
そこは、どうやら王都の外れにある、路地裏の空き地だった。
アリアによれば、王都の中でも寂れた一角だそうで、一時的に身を潜めるには適しているとか。
確かに、聞こえてくる物音は活気に満ち溢れているというよりは、静かで穏やかな印象だ。
レオとアリアと三人で、表の方に出て街の様子を窺ってみる。
何か騒ぎが起きている様子はないし、至って平和な雰囲気だった。
けれど魔女狩りの人たちが所々に見受けられて、ロード・スクルドの指示でクリアちゃんの捜索が行われているのだろうということが窺えた。
捜索が開始されているということは、魔女狩りの人たちの説得ができている、と見ていいかもしれない。
それに、魔女が王都内に大勢現れたのに、それに敵意を見せる様子もない。
私たたは安全だろうと判断して、レイくんたちが待つ路地裏へと戻った。
魔女狩りの本拠地で顔を合わせるのは、現在の事実的なリーダーであるレイくんだけでいいだろうということになって、他のみんなには早速クリアちゃんの探索に回ってもらうことにした。
大勢で押しかけても魔女狩りを驚かせるだけだろうし、それに少しでも早くクリアちゃんを見つけたい。
レイくんがみんなに指示を出して、いくつかのチームに分かれた魔女たちがそれぞれ捜索に向かおうとした、その時。
「いたぞ、姫君だ! 魔女といるぞ! やはり、あの話は本当だったんだ!」
「────え?」
突然方々から魔法使いが現れて、それぞれガヤガヤと騒ぎ出した。
その数はどんどん増えていき、あっという間に私たちを取り囲む。
「姫君はこの国を裏切った! 魔女を排除し、姫君を捕らえるんだ!」
誰かが高らかにそう叫び、魔法使いたちが一斉に飛びかかってきた。
あんまり時間がないから、みんなが万全の状態になるまで待つことはできなかったけれど、みんなで力を合わせて救護に回ったお陰か、協力してくれる意志のある人たちは大分動けるようになった。
元々戦う意志がない人、あちらの世界から連れてこられただけの事情がわかっていない人なんかは、もちろん神殿に残ってもらうことにして。
それでもレイくん指揮の元、多くの魔女たちが私たちに協力してくれることになった。
今回の目的は、決して戦うことじゃない。
もちろんそれは魔法使い相手でもそうだし、クリアちゃんに対してだって、みんなで寄ってたかって倒すことが目的じゃない。
危険が伴うことではあるけれど、飽くまでこの世界の平和のための行動だから、協力に意欲的な魔女たちが多かった。
元から好戦的だったり、強行的な人たちももちろんいるんだろうけれど。
でもきっと魔女の多くは、進んで戦ったり、誰かを傷付けたいだなんて思っていないんだ。
ただ、少しでも長く生き残るためには、自分が苦しまないためには、戦うしか手段がなかっただけで。
けれどそれは、予定通り魔女狩りの人たちが魔女に敵対しないでくれることが前提のこと。
ロード・スクルドは任せて欲しいと言っていたし、彼自身魔女の協力が最早不可欠だってことは理解してた。
ここは彼の手腕を信じるしかないけれど、でもいきなり魔女たちを王都に向かわせることに、ほんの少しだけ不安があった。
だから、本当は今すぐ氷室さんの捜索をしたいところだったんだけれど、私が一度王都に連れていくことにした。
自分自身の目で魔女狩りの状況を見て、そしてロード・スクルドに引き合わせることが、一番確実で安心できると思ったから。
それに、やっぱりお互いに根本的な苦手意識があるだろうから、私が表立って仲を繋ぐのが一番スムーズだろうし。
王都へは、私が全員まとめて空間転移をしてくことになった。
空を飛ぶ魔法はそれなりに難しいらしくって、みんながみんなできるわけじゃないみたいだし。
数十人を一斉に移動させる手段としては、それが一番手っ取り早かった。
レイくんの指示で、有力な魔女に数人残ってもらって、まだ傷ついている人や、戦えない人を神殿で守ってもらうことにした。
念のため、私は『魔女の森』に自らの領域を制定して、外敵が侵入できないように防御を張った。
「皆さんにお願いしたいのは、クリアランス・デフェリアの捜索です。危険が伴うことですので、くれぐれも気をつけてください」
崩れ去った神殿前の広場で、私を見つめる沢山の魔女に向けて、私は言った。
なんの疑いもなく、真っ直ぐに向けられる視線を少しむず痒く感じながらも、私はハッキリとした態度で臨んだ。
その信頼と尊敬を、裏切るわけにはいかないから。
「基本的に戦う必要はありません。見つけ次第、すぐに伝えてください。それと、今回魔法使いは、魔女狩りは敵ではありません。複雑だとは思いますが、同じ目的を持つ同志として、協力してくれると嬉しいです」
「まぁ無理に仲良くする必要はないけど、目的の妨げになるような諍いは避けてね。物事が進まなくなるし、何よりアリスちゃんが困っちゃうからさ」
私の横に立つレイくんが、そう軽やかに付け足した。
うんうんと頷く魔女たちを見てから、横目でパチリとウィンクしてくる。
協力してくれる魔女たちは穏健派が多いみたいだから、話がスムーズで助かる。
それに、ワルプルギスの思想からか私のことを慕ってくれている、というのも大きい。
レイくんが言った、私が困るという言葉が一番効いているみたいだった。
私は正直、魔女の人たちにしてあげられることなんて何もないのに。
それでも、私を魔女の先に立つお姫様としてみんなは見てくれているのだから、なるべくその期待を裏切らないようにしないと。
ワルプルギスが夢見ていたもの、真奈実さんが示していたものを打ち砕いたのは私なのだから、彼女たちを救うのは私の義務だ。
「それでは皆さん、よろしくお願いします。この国の平和のために、みんなの平和のために」
慣れない演説の真似事を切り上げて、私は空間転移の準備にとりかかった。
魔女狩りの本拠地に直行しないで、一旦別のところに向かって、状況を確認してからの合流がいいだろうということで、行き先は王都に詳しいレオとアリアに任せている。
私はみんなで移動する魔法の術そのものを起こして、移動先の場所は二人の意思に任せるようなやり方だ。
思っていた通り、レオとアリアには来てもらってよかった。
国のことに関して私や魔女たちよりも詳しいこともそうだし、それにやっぱり二人の存在が、魔女たちの警戒心を弱めてくれただろうから。
特に、傷ついた彼女たちを一緒に助けて回ってくれたことが、いい印象を与えたんだと思う。
レオとアリアの行き先決定に合わせて、私はレイくんと数十人の魔女を、全て一気に空間転移させた。
普段は行きたいところを思い浮かべて、そこにパッと移動する感じだけれど、今回はその決定権を二人に、主にアリアに委ねる感じだから、いつもと少し違う感覚だった。
けれどその辺りの受け渡しはとてもスムーズで、行き先に迷うことなく、空間の移り変わりは滞りなく行われた。
空間が瞬間的に歪み、そしてすぐさま元の形へと戻っていく。
ぐにゃりと捻れるような感覚と、宙に放られるような感覚はほんの一瞬で、すぐさま別の地面の感覚が足にやってきた。
今までいた土の柔らかなものとは違う、石畳のような硬い感覚が足裏に響く。
それを合図に瞬きをすると、景色は一変し、巨大な木々の天井の代わりに青い空が広がっていた。
すぐに周りを見ていれば、みんなも同じように周囲にいてくれて、大勢での空間転移が成功したことがわかった。
そこは、どうやら王都の外れにある、路地裏の空き地だった。
アリアによれば、王都の中でも寂れた一角だそうで、一時的に身を潜めるには適しているとか。
確かに、聞こえてくる物音は活気に満ち溢れているというよりは、静かで穏やかな印象だ。
レオとアリアと三人で、表の方に出て街の様子を窺ってみる。
何か騒ぎが起きている様子はないし、至って平和な雰囲気だった。
けれど魔女狩りの人たちが所々に見受けられて、ロード・スクルドの指示でクリアちゃんの捜索が行われているのだろうということが窺えた。
捜索が開始されているということは、魔女狩りの人たちの説得ができている、と見ていいかもしれない。
それに、魔女が王都内に大勢現れたのに、それに敵意を見せる様子もない。
私たたは安全だろうと判断して、レイくんたちが待つ路地裏へと戻った。
魔女狩りの本拠地で顔を合わせるのは、現在の事実的なリーダーであるレイくんだけでいいだろうということになって、他のみんなには早速クリアちゃんの探索に回ってもらうことにした。
大勢で押しかけても魔女狩りを驚かせるだけだろうし、それに少しでも早くクリアちゃんを見つけたい。
レイくんがみんなに指示を出して、いくつかのチームに分かれた魔女たちがそれぞれ捜索に向かおうとした、その時。
「いたぞ、姫君だ! 魔女といるぞ! やはり、あの話は本当だったんだ!」
「────え?」
突然方々から魔法使いが現れて、それぞれガヤガヤと騒ぎ出した。
その数はどんどん増えていき、あっという間に私たちを取り囲む。
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