普通のJK、実は異世界最強のお姫様でした〜みんなが私を殺したいくらい大好きすぎる〜

セカイ

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第8章 私の一番大切なもの

69 信じてくれるなら

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 周囲の建物の上から、裏路地にある狭い道から、魔法使いたちが次々と迫ってくる。
 その目は全て私へと向けられていて、敵意に満ちた眼差しが突き刺さってきた。

 突然の状況に全く理解が追いつかなかったけれど、敵襲を受けている事実は変わらない。
 私は慌てて周囲に障壁を張ってみんなを包み込んだ。
 突撃ざまに放たれた大量の魔法が、障壁の全方位に叩きつけられて、鈍い振動が内側に響く。

「ど、どうして!? ロード・スクルドは、みんなを説得してくれなかったの!?」

 鬼気迫る勢いで攻撃を仕掛けてくる魔法使いを見ながら、私は戸惑いの声をあげるしかなかった。
 何かの勘違いや、手違いの類とはとても思えない。
 彼らは明確な意思を持って、私や魔女たちを敵と認識して襲って来ている。

「いや、よく見ろアリス! こいつら、ロード・ケインのところの奴らだ!」
「え!?」

 素早く両手に双剣を構えたレオが、吠えるようにそう言った。
 確かによく見てみれば、黒尽くめのスーツに身を包んだ、ロード・ケインの部下だと思われる魔女狩りが大多数だ。
 そしてそれ以外の魔法使いは、魔女狩りの装いをしていない人たちばかりだということがわかった。

「ど、どういこと!? 魔女狩りじゃない魔法使いの人たちが、どうして私たちを……!?」
「わからないけど、でも、これはまずいよアリス! 魔女狩り以外の、非戦闘員の魔法使いまで駆り出されてるってことは、王族特務からの指示の可能性がある!」

 襲いかかってくる周囲の魔法使いを見回して、アリアが焦りの声を上げた。

「事情はわからないけど、今私たちは、国から狙われてるのかも!」
「そんな!」

 どうしてこうなっているのか、まったく検討がつかない。
 魔法使いが私を敵視する理由も、現存する魔女狩りたちではなく、その他の魔法使いたちが動いていることも。
 そして、ロード・ケインが連れて行ったはずの、彼の部下たちが王都でこんなことをしているわけも。

「アリスちゃん!」

 理解不能で頭がいっぱいになりそうな中、レイくんが私の手首をぎゅっと握った。
 この事態に驚きつつも、冷静さを保った瞳が私を強く見つめる。

「ごめん、レイくん。こんなことになるとは思わなくて……」
「大丈夫、君が悪いとは思ってないよ。でも、これからどうするか考えないと」

 私が渾身の力で張った障壁は、大勢の魔法使いたちの攻撃を受けても、そうそう壊れるものではない。
 けれどうかうかしていられないのも確かで、レイくんはテキパキと言った。

「元々の話と違って、魔法使いたちが僕達を、主に君を狙ってる。この状況でもアリスちゃんは、予定通りクリアちゃんの捜索をするかい?」
「……安全をとるなら一回退却した方がいいのは、わかってる。でもこれにロード・ケインが関わってるなら、ジャバウォックを呼び寄せるまでの時間稼ぎかもしれないし……。でも、あまりにもみんなが危険すぎるし……」
「アリスちゃん、余計なことは考えなくていいよ。君が今、何をすべきだと思っているのかを、僕は教えて欲しいんだ」

 咄嗟に判断しあぐねる私に、レイくんはそうきっぱりと言った。
 少し強い言い方だったけれど、でも優しげな笑みを浮かべてくれている。

 危険だとかリスクがあるとか、そういうことではなくて、今一番しなくちゃいけないことは何か。
 不足の事態に陥った今でも、何を優先して事を進めるのか。
 今判断しなきゃいけないことは、それなんだ。

「……魔法使いの全員が敵じゃないと思う。少なくとも、ロード・スクルドが指揮してくれている、残りの魔女狩りたちは味方のはずだから。だから……予定通り、みんなにはクリアちゃんを探して欲しい。魔女狩りと協力して、なんとかこの局面を乗り越えて……!」
「わかった。それならそのように、僕は全力で力を貸そう」

 意を決して思いを伝えると、レイくんはしっかりと頷いた。
 そして私から手を放すと、魔法使いたちの襲撃に戸惑う魔女たちに向かった。

「みんな、状況は想定とは大きく異なる。けれどこれは、決してアリスちゃんたちが僕らを謀ったわけじゃない。僕ら魔女を敵視しない魔女狩りも、確かにいる。だから僕らは、予定通りクリアちゃんの探索を行う!」

 障壁の外では様々な魔法が炸裂し、閃光が瞬き激音が轟いている。
 今のところ問題のない障壁だけれど、攻撃が断続的に浴びせられることで、みんなの不安を募らせている。
 そんな中でレイくんは、とても澄んだ凛々しい声で、みんなに向かって叫んだ。

「けれど、当初の想定よりもかなりの危険が伴う。見ての通り、一部の魔法使いからの襲撃は避けられない。だから、逃げたい子は逃げて構わない。決して責めはしないし、森に安全に送り返す。無理強いはしない」

 レイくんのまっすぐな言葉に、全員が目を向けている。
 息を飲みながら身を寄せ合って、レイくんと、そしてその奥の私を見る。

「けれど、それでもまだ勇気がある子がいるのなら、アリスちゃんと僕を信じてくれるのならば、一緒に戦って欲しい! アリスちゃんに力を貸して欲しい! 僕たちが味わってきた苦しみを、もう誰にも味わせないために!」

 レイくんの叫びは、襲撃を掻き消すかのように力強くて。
 その言葉を聞いた魔女は、一人残らず雄叫びのような歓声を上げた。
 勇気を抱き、決意に満ちた力強い叫びは、決して引かないという意思に溢れていて。
 この場に来てくれた全ての魔女が、戦う意思を示してくれた。

「ありがとう! みんな、ありがとう……!」

 胸がぐっと熱くなって、私は深く頭を下げた。
 話が違うと、そんな危ないことはできないと、全員に背を向けられてもおかしくないとおもったけれど。
 でも誰もそんなことは言わず、私の言葉と目指すものを信じてついて来てくれる。それが堪らなく嬉しかった。

「よし、じゃあ閉じこもってても仕方ねぇ。ここを突破するぞ」

 私の肩をポンと叩いて、レオがどっしりとそう言った。
 ニカッと頼もしい笑みを浮かべている彼は、レイくんのことを見直したとでもいうようにチラリと伺っている。

「うん。とりあえず、障壁を解くのに合わせて私がみんなを吹き飛ばす。あとは各個で切り抜けてもらうことになるけど、なるべく私が戦闘不能にさせるよ」
「ううん、アリスは真っ先にここを突破して、ロード・スクルドのところに行った方がいい。一番狙われてるのはアリスだし、現状を確認しないと」

 私の思いつきに、アリアが大きく首を振った。
 その言葉にレイくんが同意する。

「その通りだね。魔女のみんなが分散できるまで、ここの対処は僕が受け持とう。アリスちゃんは、お友達と一緒にここを離脱するんだ」
「でも、レイくんだけで大丈夫? レイくんが強いのはわかってるけど、大勢の魔法使いを相手にみんなを守りながらじゃ……」
「余裕だよ。それに時間稼ぎを主点に置けば、そんな苦労もない。様子を見て僕も離脱して捜索に回るから、君は心配しなくていいよ」

 レイくんが浮かべる笑みは爽やかで、とても強がりには見えなかった。
 むしろ余裕すら窺えるほどで、心配しているこっちがおかしいんじゃないかと思わせる。
 それでも全く心配しないことはできないけれど、でも信じて託すことも重要だ。

 私がお願いねと言うと、レイくんはニコリと微笑んで、被っていたニット帽を脱いだ。
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