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本編
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しおりを挟む宰相が信頼している医師は、以前もルシアンナを診察してくれた初老の男だった。
「後遺症を残さないためにも、しっかり決まりは守ってください」
ルシアンナの体調を念入りに診てから、医師はそう切り出した。侍女のメイベルも真剣に注意を聞く。
メモは取れない。万が一、誰かに見られたら、処刑台が近づくせいだ。
帰り際、ラドヴィックが応接室で待っていた。
「かなり薄めた毒でも、本当は君に飲んで欲しくない。精神的な問題で食が細いせいで、ルーシーは虚弱体質なんだそうだ。だから慎重にならなくては駄目だよ」
「ええ、分かっていますわ。健康と引き換えに望む未来を勝ち取っても仕方ありませんもの。わたくしのわがままを助けてくれてありがとう、ラド」
「メイベル、しっかりサポートを頼んだぞ」
ラドヴィックが声をかけると、メイベルはしっかり頷く。
「もちろんですわ、大事なお嬢様のことですもの」
「心配しないで、成功を祈っていて。今晩から始めるわ」
怖くないと言えば嘘になる。彼も危ない橋を渡るのだから、ルシアンナだって身を張らなくてはならない。
ルシアンナは思わず微笑んでいた。
「どうして嬉しそうにするんだ? こっちは心配でたまらないのに」
不服そうなラドヴィックに、ルシアンナは正直な胸の内をさらす。
「仲間がいて良かったと思いましたの。これまで味方はメイベルだけで、一人で踏ん張っていたわ。友人がついていると思うだけで、こんなに勇気が出るのね。知らなかったわ」
「俺は友人で終わるつもりはないけどね」
ラドヴィックがあっさり返す。ルシアンナは返事に困った。
「刺繍入りのハンカチは、ちゃんと差し上げますから……」
「ごめんごめん。俺、ルーシーを困らせたくなっちゃうんだよな。そしたら、俺のことで頭がいっぱいになるだろ?」
「う……」
あっけらかんと口説かれると、ルシアンナの無表情な顔に朱がさす。
「アーヘン様、そこまでですわ」
メイベルが釘を刺し、ラドヴィックは面白くなさそうにする。
「本当に君って、侍女として有能だね」
「お目付け役も兼ねておりますから、当然でしょう」
「と、とにかく!」
二人のにらみあいをさえぎり、ルシアンナは強引に話を変える。
「まずは一手、進めますから。ラドも準備していてくださいね。王妃様に呼び出されるやも」
「任せておいてくれ。ルーシーこそ、母親には気を付けるんだぞ。困ったら、うちに逃げておいで」
「できるだけ、わたくしで努力しますわ。でも、本当にどうしようもなくなったら、頼りにするかも……」
「殿下やメアリじゃなくて、一番に俺だからな。絶対だ!」
「メアリもいけませんの?」
ラドヴィックの主張にたじたじになりつつ、ルシアンナは素朴な疑問をぶつける。
「そうだよ。恋人はまだ仕方ないとしても、一番の共犯者の位置はゆずれないね」
「変な方。分かりましたわ、あなたに最初に相談します。指切りしましょ」
「何それ」
うっかり前世の記憶がこぼれたが、説明するとラドヴィックは納得した。
「針を千本飲むなんて怖いなあ」
「例えですわ。はい、指切りげんまん、嘘ついたら、針千本のーますっ。指切った。判子も押します?」
ふと思い出して親指をちょんと合わせると、ラドヴィックは急に真顔になる。
「よく分からないけど、可愛い。それに今、すごくいちゃいちゃしてる気がする」
「残念でしたわね、アーヘン様。指切りはわたくしのほうがお嬢様と何度もしていますのよ」
すかさず、メイベルがどや顔で自慢して、ラドヴィックが悔しそうにうなった。
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