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草野瀬津璃

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連載 / 第二部 塔群編

 05

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 宿で一泊した翌日、りあ達はさっそくユーノリアの家にやって来た。

「ここがユーノリアの家。なんか家っていうより塔みたいね」

 二階建ての建物は、四角柱のようだ。広い敷地を高い塀が囲んでいる。庭があるが草木は植えられておらず、地面を苔がびっしりと覆っていた。
 〈塔群〉のどこの建物でもそうだが、出入り口には階段がついている。一階の床が地面より高いのだ。雨が多いから、水避けなんだろう。

『ユーノリアしゃま、そこの魔法陣に手をかざしてください。防犯魔法がかかっていますので、そうしないと攻撃魔法が作動します』

 ふわふわと横に浮かんだエディが鉄扉を示して言った。

「攻撃魔法? 物騒ね」
『雷で気絶するくらいです』
「いや、充分に脅威よ……」
『魔法使いは皆、警戒心が強いんです。どこから研究が盗まれるか分かりませんから、住まいには特に気を遣います。白の番人に選ばれたユーノリア様なら尚更です』

 エディの言うことはもっともだが、それでも物騒で怖い。
 りあは恐る恐る門扉の魔法陣に右手をかざす。一瞬、青く光ったので思わず頭をかばった。

「ひえっ」
「大丈夫だよ、リア。扉が開いた」

 アネッサに肩を叩かれ、りあは気を取り直す。そして、敷石を踏んで、玄関まで行く。こちらも同じ形式の鍵がついていた。
 白く塗られた玄関扉を開けると、中へ入る。埃っぽくてカビたにおいがした。
 ハナが飛んで行き、壁の魔法陣に触れる。パッと魔法の明かりが灯った。
 しゃれた洋館の玄関ホールといった雰囲気だ。シャンデリアが綺麗である。玄関脇には振り子時計が置いてあったが、随分前に止まったきりのようだ。

「流石に汚いな」
「掃除してないんですから、仕方ないですよ」

 レクスとラピスは口々に言い、勝手に部屋を歩き始める。

「こっちは居間だな。へえ、流石にしっかりしたメカマジがある」

 レクスはあちこち見回して、感心したように呟いた。

「でも、魔虹石まこうせきのエネルギーが切れてますね」

 台所に勝手に入り、ラピスが残念そうに言う。メカマジは魔虹石燃料を動力にしているので、魔力の入った魔虹石でないと道具が動かない。

「キノコが生えてないのが不思議だぜ。まだ恵緑けいりょくの月だってのに、もう潤青じゅんしょうの月みたいだ」
『ここは季節なんてありませんよ。年がら年中、雨ばっかり。毎日が雨季です』

 悪態をつくレクスに、ハナが苦笑交じりに言う。
 この世界では、一年が六百日あり、月は四つに分かれている。一月は百五十日で、それぞれ恵緑の月、潤青の月、豊赤ほうせきの月、癒白ゆはくの月と呼ばれていた。春、雨季、夏、冬で一巡りする。

「日本の梅雨ほど、鬱陶しくないからマシね。じめじめと湿気しけて暑いから苦手なのよ」

 りあは玄関からそう返して、マントを脱いで、玄関に置かれたマント掛けに引っ掛ける。雨ばかりだが、涼しいので過ごしやすい。
 玄関ホールからは二階に続く階段があり、その脇からアネッサが顔を出す。

「こっちは風呂とトイレだね。この街は下水道が整備されてるから助かるよ。しかも浄化魔法付だからにおわない」
「こんな気候で、よく工事できるわ」
「魔法使いは仕事が早いからね。土木をかじってる人なら、あっという間に物を造ってしまうよ。問題は整備と修理だよね……。魔の沼地から上がってくるから、水道にも魔物が出るって噂だ」
「下水道はちょっとかわいそう」

 りあの感想を、アネッサは笑う。

「まさか! 不浄なものが好きな奴らは、糞尿を食うって話だよ。案外、魔物ってのは環境保全に役立つのではないかっていう論文もあるくらい。そういう役立ちそうだったり、どうでもいいことだったり、色々を研究してる魔法使いが集まってるのがこの街なんだ」

 アネッサはそこで肩をすくめる。

「憧れてて、一度は来てみたかったけど、実際に来たら息が詰まって嫌になったよ。秘密主義で、余所者は皆、泥棒だとでも思ってそうでさ」
「へえ、シビアなのね」
「まあね。魔法の研究は名誉にもなるし、金にもなるから。神経質になるのは仕方ないんだけど、苦手なのに代わりない」

 りあもすでに苦手意識が生まれているので、アネッサが嫌がるのも理解できる。りあは二階へ続く階段を見上げた。

「禁断の魔法なんて、かなりヤバイわよね。家にあるかしら?」
「無かったら、アジト探しからしないといけねえな。どっちにしろ、何か手がかりくらいあるだろ」

 居間から戻ってきたレクスが、のんきに言った。

「とりあえず居間や台所は物がほとんどないので、あるとしたら他の部屋でしょうな」

 好奇心で歩き回っていたのかと思えば、調べていたらしい。ラピスの言葉に、りあは少し驚いた。

『ユーノリアしゃま、こっちです』
「ええ」

 先導するエディに続いて、りあは期待を抱えて階段へと踏み出した。


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