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二章 精霊のおもてなし術

11 貴族なら、友達ができるんじゃない?

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「さて、と。今日も友達作りをがんばるわよ!」

 精霊視点の意見で、私が伸びしろたっぷりと分かって、やる気に満ちていた。

 今なら友達の一人や二人……もしかして百人くらいできてしまうかも。

 いったん部屋に戻った私が、さっそく帽子を手に取って出かけようとすると、ガーネストに止められた。

「待て待て」
「なんで邪魔するのよ」

 廊下に出ると、ふわーっと宙をすべってきたガーネストが立ちふさがった。

「アイリス、お前は公爵家の娘だろう。どこで友人を作る気だ」
「どこってもちろん、お忍びで庶民の子と……」
「屋敷の者の反応からすると、いまだに精霊信仰が強いだろう、この土地」

 ガーネストの指摘に、私はこくりと頷く。

「それじゃあ、駄目だ。どうせ、生き神扱いで拝まれて、友じゃなくて下僕げぼくができる」
「げ、下僕~!?」

 あんまりな表現に、私はのけぞった。ガーネストは大真面目だ。

「敬虔な神のしもべってやつだ」
「そ……! そんなことはある……かもしれないわね」

 否定できなかった。
 この地の人々は、熱心な信仰者が多い。石を投げたら、必ず精霊教ガチ勢に当たるだろう。

「狙うなら、貴族のほうが、まだ勝率がある。しかし、どうしてまた、公爵家の令嬢なんてハイスペックで、貴族の友ができないんだ? 普通なら放っておいても、あっちから群がって、お前をボスにした派閥になるだろ」

「いや、そんな野生動物の群れみたいに言わないでくれる?」

 わらわらと集まる犬の群れを思い浮かべながら、私は呆れ顔をした。

「しかたないでしょ。私は〈精霊視〉を持つ一族なのに、精霊が見えない落ちこぼれなんですもの」

 自分が不出来だと話すのは嫌だが、相手が精霊王なので、誤魔化してもしかたがない。

「つまりね、私は魔法を使うのも下手なの」

 魔法を使うには、精霊の協力が欠かせない。
 実は精霊が見えなくても、魔法自体は使える。魔力を供物として、呪文で命令することで術が形になるのだ。

 精霊使いは、精霊と契約し、親交を深めることで強力な術を使う。

 例えるなら、魔法使いが精霊とビジネスをするなら、精霊使いは親友と協力技をしている感じだ。
 当然、親友のお願いのほうが力を入れるものだ。
 だから、精霊使いは少ない魔力でも、強力な術を使える。

 他にも、魔法使いにはできない、前もって精霊のお願いを叶えることで、いざという時の術の予約もできる。精霊は嘘をつかず、約束は必ず守る。

 これはすごいことだ。魔法使いは自分で判断して術を使うが、精霊との約束だと、こういう状況になったら精霊が魔法を使うと決めているので、死にそうな状況をくつがえすこともできる。
 もちろん、精霊を見る能力者は希少なので、精霊使いの数は多くない。
 危険視されて、迫害されている国もあるほどだ。

「だから、アイリスは魔力の多さを自覚していないのか。なんって危険なものを放置しているんだよ。火薬庫にろうそくを持ち込むようなものだぞ」

 私の言い訳を聞いて、ガーネストは呆れたっぷりの顔をしたが、すぐににやりと悪い笑みを浮かべた。

「僕と契約したからには、アイリスには世界一の精霊使いくらいにはなってもらわないとな」
「世界一!?」

 突然放り投げられたプレッシャーに私は目を丸くしたが、それほど期待してくれているのかと感動で胸を熱くする。

「そうよね、やるなら一番を目指さなきゃ!」

 ガーネストの力強い言葉にのせられた私が調子に乗ると、リニーが割り込んだ。

「いけませんっ!」

 普段、優しくて大人しいリニーの大きな声に、私だけでなくガーネストまでビクッと震える。
 リニーはすごい剣幕で、ガーネストをにらむ。

「ぶ、無礼な……」

 ガーネストは及び腰で、最後まで言い切らずに口を閉じた。

「お嬢様はまだ十歳です。お体の成長に合わせて、魔法を身に着けるべきですわ。世界一ですって? そんな強大な魔法で負担をかけるなんてとんでもない! お嬢様を殺す気ですか?」

「そ、そういうわけでは」

 ガーネストはたじたじになっている。

(あちゃあ。リニーは私のことが大好きだから、とんでも発言に切れちゃったわ)

 こんなに怖い顔をしたリニーを見るのは初めてだが、私への心配から来ている怒りだと感じ取って、私はリニーの気持ちに感激した。

(なんですか、ガネスってば。その助けを求める目は。嫌ですよ、こんなリニーに反論するの)

 怖いので、私は大人しく見守ることにした。

「魔法についての教育は、このリニーにお任せくださいますように!」
「ハイッ」

 精霊王が負けた。
 約束を取り付けたリニーは、嘘みたいな穏やかさを取り戻す。私のほうを見て、にっこりと微笑んだ。

「お嬢様、貴族のご友人をお作りになるのは、良いことだと思いますよ。社交界での味方作りのためにも」
「え、ええ、そうね、リニー」

 この優しい世話人を怒らせないようにしよう。
 私は固く心に誓った。
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