落ちこぼれ公女さまは、精霊王の溺愛より、友達が欲しい

草野瀬津璃

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<大人編>四章 婚約の打診

27 アイリスなりの戦略

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(それにしても、どうやって王太子殿下に、『こいつは王妃とか無いわ~』と思ってもらおうかしら)

 屋敷に帰るなり、私の頭はこの問題でいっぱいになっていた。

(まずは敵を知るところから始めなきゃ!)

 思い立ったが吉日。
 私はさっそく家令に命じて、アルディレイドの情報を集めさせた。
 公爵家の情報網をもってすれば、三日もすれば、山のような書類が届けられた。私はたじろいだものの、アルディレイドから婚約破棄を宣言されるためだと気合を入れる。
 三十分もしないうちに、私は机に突っ伏した。

「駄目だわー! なんって完璧な王子なの!」

 妹の悪評と反比例して、良い噂ばっかりだ。多少、俺様な態度はあるものの、それすらもさすがは王族だと格付けされている。

「使用人のミスを笑って許した。寛容な方だ」

 書類をめくり、次に行く。

「料理に虫が入っていたが、『虫が飛び込みたくなるほど美味いのだなと、片付けた』良い人だわ!」

 はい、次。

「『分からないことがあれば、素直に教えを乞う』うわああ、なんってできた方なのー!」

 本当に傲慢な者には、素直さが足りないらしい。善き王に必要なのはリーダーシップではなく、分け隔てなく声を聞く耳である。変にプライドがあると、分からないことを認めるのが難しい。
 アルディレイドは誇り高くも、素直な性格の持ち主のようだ。

「性格から攻めるのは無理そうね。王族相手に下手なことはできないし……ん?」

 私は書類を手にして、椅子を立つ。

「これだわ! 私にできて、性格の不一致並みに威力があるもの!」

 私が一人で喜んでいると、部屋の扉がノックされた。

「どうぞ」
「何を一人で騒いでいるんだ、アイリス」

 ガーネストがいぶかしげに顔をのぞかせる。

「ガネス、見て見て、殿下の情報を集めていたの」
「アイリス、そういうのはストーカーというんだろ。犯罪に走るのは良くない」
「ストーカーって失礼ね! そんなんじゃないわよ。情報は、戦でも重要だったんだから!」

 ロマンス小説より、戦記物のほうが好きだ。おかげで、お茶会に行くと、令嬢達と話が合わないのが困る。読書クラブに潜り込もうにも、ああいった所は、紳士のみの会員制だから私は入り込めない。しかたがないので、従者に潜入させて、雑誌を毎号、買ってこさせている。

「なんだ、軍師ごっこでもしているのか? まあ、敵を仕留めるには、弱点を知るべきだな。何かあったのか」
「そうなの! 見て! 嫌いな食べ物リストよ!」

 私は目を輝かせ、リストを見せびらかす。

「性格の不一致以外に、食べ物の好みが同じかどうかって大事だと思うの。嫌いなものを作りまくって、殿下に嫌われてみせる!」
「王族を粗末にしてはいけないと怒るくせに、そういう調べればすぐに分かるようなことで嫌がらせをして大丈夫なのか?」

 私の案に、ガーネストは不安そうに眉を寄せる。

「ふふふ。そこで私がずれまくった行動をすれば、『社交音痴を王妃にはできない』って思うんじゃない?」

「なるほどな。アイリスの評判だけ落ちて、家には影響がないのか。だが、あんな奴のためにお前が悪く言われるのは、僕には我慢ならないが」

「味方が分かっていてくれれば、私はそれでいいの。ガネスと結婚するかはさておき、王家に嫁入りなんてごめんだわ! 市場散策も、食べ歩きもできなくなるじゃないの!」

「立派な料理オタクに育ったなあ」

 ガーネストは呆れを混ぜて、ぽつりとつぶやく。

「もしかして、僕の求婚を受け入れないのは、自由がなくなるからか? 僕はアイリスを精霊界に閉じ込めるなんて、一言も言っていないが」
「でも、精霊はそういうものなんでしょ?」

「全員がそうじゃない。でなかったら、フォーレンハイト家の始祖のように、精霊と人間の間の子どもが、人間界で生きているはずがないだろ」

「それじゃあ、なんでそれが普通みたいに言われているのよ」
「寿命の差じゃないか? いずれ問題が出てくる。お前だって、いつまでも先祖に口出しされたらうっとうしいだろ」

 想像してみると、かなりわずらわしいだろうと予想できた。

「アイリスが望むなら、世界中を一緒に旅したっていいんだ。食べ歩きの旅だよ」

 なんて楽しそうな旅だ。かなり心が揺れたが、私はぶんぶんと首を振る。

「とにかく! 今は殿下のほうが大事よ。弟に迷惑をかけるわけにいかないわ!」

 今年で八歳になる弟は、それは素直で可愛らしい。大人しいので、部屋でまったり過ごしていることが多く、本や画集ばかり見ている。勉強が好きなようだし、飲み込みも早いので、公爵家の将来は安泰だ。

「王家と親密になりすぎると、敵が増えるから怖いしね」
「ふーん。まあ、あいつを振るつもりなら、僕はそれで構わないが。僕のデザートのことは忘れないでくれよ」

 私の料理が好きなガーネストは念押しする。

「はいはい、まったく、困った精霊様ね」

 私は書類の上に文鎮をのせてから、部屋を出る。

「さっそく料理をするわ。まずはガネスの好きなベリーパイね」
「それでこそ僕のアイリスだ!」

 ガーネストは分かりやすく笑みを浮かべた。
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