ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり

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14 第二王子アンドレアス殿下

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 王宮はとても広く立派で装飾が眩い。通されたサロンは中庭に向かって開け放たれたテラスから綺麗に整備され手入れされた美しい庭園が見える。
 部屋に入ってすぐ王妃様がおいでになった。金髪碧眼のよく手入れされた美しい方だ。侯爵夫人と同じくらいの年齢だろうか。どちらも若くて綺麗だ。

「よくいらっしゃったわ、お久しぶりね」
「王妃殿下にはご機嫌麗しゅう存じ上げます。この子がわたくしたちの娘になったマティルデ・ルドヴィカ・エマですの」
 ハルデンベルク侯爵夫人に紹介をいただく。
 一体誰の名前じゃ……、と突っ込みを入れたいところだが、エマだけじゃ侯爵家ご令嬢の名前として貫禄が足りない、それで女の子が生まれたら付けようと思っていたというお貴族っぽい名前をいただいた。

「お初にお目にかかれて光栄です、王妃殿下にご挨拶申し上げます。この度、縁あってハルデンベルク侯爵家に引き取られましたマティルデ──」
 私の覚えたての長口上を王妃様がニコニコと遮る。
「実はね、わたくしたちは学友なの。とてっも仲が良かったのよ、ね。それでわたくしの息子もあなたの学友であるらしいし紹介しようと思ってね」

 王妃殿下が呼ぶと第二王子アンドレアス殿下がサロンに入って来られる。
「母上、お呼びでしょうか」
 金のサラサラの髪と青い瞳のものすごく綺麗な王子様だ。その顔でにっこりと微笑みかけてくれると、いやー、可愛い子だねー眼福眼福、と思ってしまうオバサンな私。一応侯爵令嬢だが、元は平民だし、王子様は義務感バリバリの模様だが。

 ラーニングで得た知識に貴族関係というのがある。非常にややこしいし、顔と名前が一致しない内は封印していたのだが、学校に通い出したので、ラーニングも織り交ぜながら、知識として蓄えている。
 確か第二王子アンドレアス殿下には婚約者がいらした筈だ。フェルデンツ公爵家のご令嬢ゾフィーア様という。二人とも十七歳で最上級生である。

 顔合わせは無事に済んで屋敷に帰る。馬車の中で侯爵夫人が聞いて来た。
「アンドレアス殿下はいかがでした」
「ええと、無邪気で素直で天真爛漫なお方かと……」
 私は婉曲な言い回しを探しつつ答える。

「まあ、おほほ……」
 侯爵夫人は笑ってしまった。これは、もうちょっと言い回しを勉強しないといけないな。しかし、私の中身はオバサンなんですよ、十代とか無理です。
「そうね、婚約者もいらっしゃるし、といってもまだ候補者なのですけれどね」
 そうなのか。まあどっちでもいいけれど。


 しかし、多分王宮でアンドレアス殿下にお会いしたのが広まったのだろう。次の日、学校に行くと結構な騒ぎになっていた。

 高等部四年五年六年のクラスは、上位貴族と下位貴族及び平民のクラスとに分かれていて、三階建ての校舎の三階に六年、二階に五年、一階に四年の教室がある。手前の階段の脇を通って教室に行こうとすれば、階段の上り口にいる冷たい瞳のゾフィーア様とその取り巻きにばったり出くわした。怖い。

 今までどちらにも学校で面と向かって会った事はなかったのに、怖い。遠回りをしてでも、こちら側の廊下は歩くまいと心に誓う。


 その日の授業は歴史であった。先生はいきなり選帝侯の話から始められた。歴史の一部を切り取って話されても、前後の流れを知らなければ訳が分からない。
 自分でちゃんと調べた方がいいだろうか。この国の歴史をちゃんと知った方がいい。お昼の休憩時間はボッチで暇だし、学校の図書館に行って勉強しよう。ついでに昔の物語を幾つか借りよう。そうしよう。
 で、お昼の休憩時間に図書館に行って勉強を開始した。


  ◇◇

 キリルが森で話してくれたが、この世界にはかつて魔法があって、強力な魔法を操る魔術師がいた。やがて膨大な魔力を持った者がとんでもない強力な魔術を使い、魔人と魔物を配下に従え人々を滅ぼそうとした。彼は魔王と呼ばれた。
 この大難に多くの聖職者が一丸となって神に祈り神託が降りた。それが異世界の人間を召喚することで、召還した人間と、この世界の人々が力を合わせてやっと魔王を斃したと聞いた。

 大地は裂けそこから次元の裂け目ができ、大勢の人が落ちたと言われる。
 私も生まれる前に落ちて、前の世界で生まれたのかしら。


 この世界は魔王が出現して斃されるまでを先史と定め、それ以降を時代毎に区切って呼ぶ。

 先史以降、この辺りは小さな国々の集まる小国家群であった。しかし周辺諸国が力を付けてこの地域に何度か攻め入って来た。この出来事で、小さな王国の統治者たちの中で危機感を持って剣を取り皆を纏め対処した国王が、この地域を束ねて帝国と成した。
 これが前期帝国時代である。

 周りを囲む勢力は強かったが、それに打ち勝ち帝国は栄えていた。ところが皇帝の血筋が絶えたのだ。それからは皇帝のいない空白の時代、国々は諸侯が勝手に統治し四分五裂に別れて相争い、近隣諸国の餌食になった。
 これを暗黒時代という。

 やがてこれではいけないと弱小王国は寄り集まって、諸国を纏め上げ統治する者を決めた。王に選ばれし皇帝である。皇帝を選ぶ有力者を選帝侯といった。選帝侯はこの地でも実力者の国王や辺境伯や教会の大司教らがなる。皇帝の血が絶えれば新たな皇帝を選ぶ。

 アルンシュタット国王もこの選帝侯のひとりなのだ。
 そして、帝国の名をエストマルク帝国という。
 これが今の時代で、すでに帝国歴五五二年である。

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