ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり

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21 時ならぬお茶会

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「すみませーん、誰かいますか?」
 保健室に着いて、ドアを開くと「──っ!」「ひっ」溜め息とか喘ぎ声的な物音が聞こえて、仕切りの向こうから女生徒がひとり転がり出た。乱れていた胸元のボタンを留めながら私の横をすり抜けて走って行く。不味い所に行き合わせたようだ。どうしよう。

 ドアを開いたまま突っ立っていると保健室の先生が戻ってきた。
「どうしたの」
 四十年配の黒髪の女性である。
「お水を浴びたので、風邪を引いたらいけないから休ませていただこうと思ったんですけど、お取込み中だったようなので──」後は察して欲しい。
「あらまあ」教師は呆れた顔をして「こんな所に立っていないで……」と言いかけて私の横から保健室の中を覗く。

 そこにさっきの女生徒の相手らしき男子生徒が出て来て、不貞腐れたように舌打ちをすると脇をすり抜けて悠々と歩いて行った。あの二人どこかで見たような気がするけれど、何処でだっけ。
「こんな所で盛って欲しくないのだけれどねえ」
「そうですわねえ」
 先生は溜め息を吐いて、中に招じ入れてくれる。そして制服を『ドライ』で軽く乾かしてくれたのだ。
「お水を浴びたのなら、熱いお茶をいかがかしら?」
「はい、ありがとうございます」

 時ならぬ保健室でお茶会が始まった。
「私はここに勤務するグレータ・ルックナーですわ」
「私はエマ・フォン・ハルデンベルクです」
「あの……、よろしければいつでもおいでになってくださいな、お茶の一杯程度でございますが」
 それはとても嬉しい申し出であった。
「最近は近隣諸国も色々ありまして、その所為で学内も雰囲気が荒れておりまして」
「そうなのですか」
 戦争はまだ続いているのだろうか。

 ルックナー先生が続けようとした時、ノックの音がして先程の女生徒がおずおずと入って来た。
「あの……、先ほどはありがとうございました。それに──」
 茶色の髪、茶色の瞳の大人し気な少女だ。手を組んで必死になって告げる。

「この前の図書館でも助けていただいて、わたくし、お礼も言えず……。あの方に妾になれと言い寄られて、でももうお断りします。いいえ、お断りしたかったのですわ。ここで助けていただいたのは神様のお導きかと存じました」
 ああ、思い出した。図書館で会ったんだった。あれから会っていないからすっかり忘れていたわ。妾の話は断ることにされたのか、大変そうだけれど大丈夫なのかな。

「あの、あなたは」
「わたくしはコルフ伯爵が娘レギーナと申します」
「レギーナ様、私でできる事でしたら何でも仰ってくださいな。あまり役に立ちませんけれど」
「勿体無い事でございます」

 ラッキーだわ。サボってお茶をする場所とお友達が二人もできた。


  ◇◇

 しかし、自分の事も何とかしないといけない。受け身だとどんどんエスカレートするし、反撃すればこちらの所為にされるし。何しろ令嬢方は私を平民と見做しているのだ。
 私は【アイテムボックス】を漁った。皮の水袋を見つけた。
「これ、睡眠薬が入っている奴やん」使えるかな? お水入れて水増ししとこう。そういや下剤の入ったお茶もあったっけ。ある物は使わないとね。

 スキル『決め台詞二』はかなり使えて快適になった。
 令嬢の足を引っ掛け攻撃、私はパッと避けた。
 ドレスを踏んずけ攻撃、直前のドレス捌きでスイスイ行く。
 囲んで文句を浴びせ甚振り攻撃、囲まれる時に「無礼者!」と言えば、ズサーと引き下がって簡単に逃げられた。
 噴水に落とされ攻撃、直前で警報が鳴って、方向転換して回避。

 そろそろ階段落とし攻撃が来るだろうか。何処の階段で落とされるのだろう。痛いのは嫌だし、令嬢を身代わりに落とす訳にもいかないし──。

 そう思い悩んでいたら、まさかの教室閉じ込めがきた。
 公爵令嬢に呼び出されて予備教室に行ったのだ。ジリジリジリと警報が鳴るのだけれど、直談判のチャンスと思ったのだ。しかし教室には誰も居なくて出ようとしたら、後から男子生徒がぞろぞろ入って来た。

「おっと何処に行くんですか」
 教室を出ようとする私を身体で引き留める大柄な男子生徒。どこかで見たような男子生徒もいると思ったら、レギーナ様を妾にしようとした男だ。
「俺たち、あんたにちょっと用事があるんだ」
 にゃにやといやらしい笑いを浮かべる数人の男たち。集団レイプをする気か。冗談じゃないんですが。
 もし私が見た目通りの十五の小娘だったら怯えて抵抗どころではないだろう。口も利けないかもしれない。だが生憎私の中身はオバサンなのだ。

 ここはもう遠慮せず、久々の決め台詞を連発、全開炸裂でお見舞いする。
「何すんねん!」
「無礼者! 許しませんぞ!」
「女王様とお呼び!」
 結構威力が上がっていて、男たちは立ち止まったまま何もできないでいる。
 そして水袋、強力な睡眠薬が入っているのに水を入れて容量マシにしたのを彼らに投げつける。
「もったいない! 皆で、残さず食べなさい!」と、アレンジバージョンを試すと、何と彼らは水を分け合って飲んだのだ。アレンジ成功。
 
 最後に「無礼者! 名を名乗れ」をお見舞いして、寝る前に全員の名前を聞いてさっさと教室を逃げ出した。これでレギーナ様を襲った相手が分かった。バウディシン侯爵子息クレメンスだ。

 バウディシン侯爵は穏健派でその一門のレギーナ様のコルフ伯爵家も穏健派だが、最近フェルデンツ公爵が自分の陣営に引き入れようと画策しているらしい。子息から先に取り込んだのか。

 私は逃げる一方なのだけど、これ以上エスカレートしたらどうなるんだろう。通学の馬車を襲われるとか、ないよね。あるかな。逃げるばかりではいけないのかな。でもどうしたらいいのか。何をすればいいのか。

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