婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり

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05 小屋の持ち主

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「私はエルダーリンディアという」
 その人は小屋の中に落ち着いて自己紹介した。
 お茶は彼が入れてくれて私は恐縮するばかりだが、ここにはお茶の葉とかティーセットは無かったような気がする。何処から出したのかしら。

「エルダーリンディア様……」
「エルダーでよい」
「エルダー様」
 男は面白そうに私の顔を見ながら言った。
「私の名前も星だ、ステラ」
 ああ、そうか、星繋がりなのか、と私は納得した。ステラは星だとお母様が言っていた。

『星があなたを導き、あなたが星を導くの』
 だからここに導いてくれたんだろう。きっと。
(星に感謝を、ありがとう──)

 この小屋はエルダー様の拠点のひとつで、移動の際に時々寄るくらいだという。
「ここに居るのは構わないが、君のような人がどうしてこんな所に?」
 ここは境界の森サイアーズのポツンと一軒、小屋だ。そんな所に迷い込んだ私。
 彼の質問は尤もだったので、エルダー様に掻い摘んで私の事情(婚約破棄され、婚家を追い出された。もちろん王太子とかは言わないが)を話す。

 小屋で向かい合ってお茶を飲んでいる、私の神。
(神よ。私の、と所有格を付けることをお許しください)
 ──の前で、私の頬は染まったままだ。

 彼は濃いグリーンのローブを纏い、黒のトラウザーズにロングブーツを履いて長い足を組んでいる。腰に細身の剣、白いシャツにカーキのベスト、カップを持った手には指輪が幾つか嵌められている。魔道具だろうか。

 ──ていうか、この人って魔術師だ。それもかなりの高位の──。

 長い指でカップを持って、長い金の睫毛が高い鼻梁に影を落として──。
 ああ、私の思考はまたどこかに行ってしまう。

 すると、いきなり私の顎を持ち上げたエルダー様が言うのだ。
「君は、毒に侵されているようだが──」
「へっ、あっ、はっ──、えええっ??」

 突然の言葉が理解できない。いやその前に、テーブル越しに見つめ合うその体勢が──。
「それだけの毒を体内に入れて、よく無事だったね。君の体質か、魔法によるものかな」
 ワタワタしている私に、エルダー様はもう決めてしまった事のように告げる。
「毒を抜いてもいいかな」
 そして、私に呪文を唱えてくれたのだ。

「毒を纏いし者よ、我が魔力により毒素を抜き去れ『デ・ザントキシ』」

 清涼な風が吹いて、身体に纏う鉛のような澱のようなモノが吹き払われて行く。
 コトンとテーブルの上に小さな瓶を置いた。私の身体から吹き払われたモノが、その瓶の中にサラサラと流れ込む。白色の粉だ。
「これは毒砂だな。大量に飲めばすぐ死に至る。君は長い間、少量ずつ飲まされたようだね。体内に溜まった毒素が臓器を侵し、やがて病気と思われて死ぬ」
 恐ろしい事をサラリと告げて私の顔を覗き込む。

「どう?」
 瓶の蓋を締めた男は首を傾げて無邪気に聞いた。
 今まで私に覆い被さっていた重石のような物が、きれいに無くなった。
「全て無くなりましたっ!」
 思わず叫ぶとニコリとまたあの笑顔で微笑んだ。
「うん、外見も綺麗になった」
「え??」

 エルダー様は手の中から魔術のように鏡を取り出した。そして私の前に立てかける。目の前に立てかけられた鏡を見た。


 私の髪、瞳、姿が──。
 自然に手が伸びて鏡に触れる。それから髪、頬、覗き込んで瞳の色を確認する。

 銀の髪、アイスブルーの瞳、小さな頃の私。
 まだ痩せて頬もそげているけれど、顔色が良くなって、身体も凄く軽い。今すぐ踊りだしたいくらいに。何処までも飛んで行けそうなぐらいに。

(ちょっと待って! 毒? 毒って言いましたわね、エルダー様。毒の所為だったのーー!?)
 やけに身体が重たくて、頭が重たくて、顔色も髪も瞳も酷くて、死にそうなくらい辛かったのが──、全部毒の所為だったのかーーー!!!
(何て事! 許せないわ、誰が私に毒を──!!)


 エルダー様は鏡の前で顔を捻って百面相をして、立って走りだしそうな私を真面目な顔付で「落ち着け」と引き止める。
「そうか、毒素を髪とか外見とか外に押し出して、体内に留めないようにしたんだな。でも重かっただろう」
「はい!」
 エルダー様の言葉に私は深く頷いたのだ。そう、とても重くて辛かった。他の余計な事は何一つ考えられないくらいに。ここまで来て身体が少し軽く感じたのは、追放されて暫らく毒を飲んでいないからか。気の所為じゃなかったのだ。

 だが感慨にふける暇もなく、彼は直ぐに立ち上がると言ったのだ。
「今から近くの村に連れて行ってあげよう」
「はっ?」
「私はね、ちょっと保護者気分なんだ。同じ星同士だしね『ソ・サ・エセル』」
 そう言って私の腕を掴まえて飛んだ。

 いや、飛べるんだな。転移の魔法だな。空間魔法とかの上級魔法だよね。商工ギルドで様々な物を製作する人が、たまに覚える上級魔法だ。
 ──と、私は埒もなく考えた。

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