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04 冒険ギルド
しおりを挟む昼間眠っていた毛虫は夜になると起き出した。
寝ているレティシアの耳の近くで『オイ、起きるのだ』と喋るものだから、手でパッと毛虫を叩いた。毛虫はぴょんと身軽くベッドの端まで飛んだ。
「夜中に何の用ですか」
『僕の食べる植物を採って来い』
「何で夜中に」
『つべこべ言わんと支度しろ』
「支度って」
『冒険者ギルドへ行く、動きやすい恰好がよい』
どうして公爵家のご令嬢のレティシアが、冒険者ギルドに行かなければならないのだ。それも動きやすい恰好でとは何をさせる気か。こんな毛虫に命令されるのも業腹だ。聞きたい事も突っ込みたい事もあるが今は夜中である。
「嫌よ、私はもう寝るわ」
結局、断りの言葉を吐いて上掛けを頭から被った。
『起きろ』
「おやすみなさい」
『くそ、起きるのだ。それとも干からびて死にたいか』
毛虫と言い合ったが、毛虫が触手をうねうねと身体から出して来たので「分かったわよ」とベッドから飛び起きた。
諦めて、渋々ワードローブから乗馬服と靴を出して着替える。
『窓から出るぞ』
窓を開けるとここは三階である。落ちたら怪我をするか最悪死ぬ。
『早く下りろ』
毛虫はもたもたするレティシアの背中に『風の衝撃』と呪文をぶつけた。あっと思う間もなく窓から真っ逆さまに落ちた。悲鳴を上げる暇もなく地上に着く。
『風の緩衝』
地面に着く前にぽうんと跳ねた。それから地面にぽとりと落ちる。
「何をするのよ、死ぬじゃない」
『お前がもたもたするから風の魔法を使った。大事な宿主だ、死なせはせぬ』
「風の魔法?」
『そうだ早く行くぞ』
毛虫が急かす。行く道が暗闇の中に薄明るくぼんやりと浮かび上がった。
『走れ』
「私は走れません」
『走れる靴を買っておけ』
(何でこんな毛虫にいちいち命令されなきゃいけないのよ!)
心の中で悪態を吐きながらレティシアは足を動かした。
酷い道中だった。植木の間を抜け、屋敷の壁をよじ登り、暗い街路を走り、冒険者ギルドに辿り着いた。ギルドは夜遅くまで仕事をしているようで建物に灯りが点いている。両開きの扉を押して中に入ると室内は広くて、夜中なので人はあまりいない。そして探すまでもなく、目の前に受付があった。
『冒険者登録しろ』
ムッとしたが諦めて、言われるままに受付に行って登録する。
「いらっしゃいませ、登録ですか。お名前と年齢を──」
ギルドの職員は夜間のせいか男性で体格も良い。
「名前はオディル。十七歳」
『オディル。お前の名前か』
(本を読んで空想で付けた自分の名前よ)
「オディルさん、水晶に手を置いて下さい」
受付職員に言われて、慌てて半円の水晶に手を置く。水晶が光った。
「これで登録完了です。こちらが初心者の鉄のカードです。無くさないように、再発行はできません、最初からやり直しになります。ギルドでお金を預かることもできますが、ギルドカードがないと下ろせません」
真新しいカードと首から下げる鎖と一緒に、小さな冊子を受付職員は目の前に揃えて当たり前のように言う。
「登録料が小銀貨一枚になります」
(お金を持ってきていないわ)
『ほら』
毛虫がレティシアの手に小銀貨を落してくれた。それを渡すと、受付職員は小銀貨を引っ繰り返して見ている。
「これは東側の国の硬貨ですね」
『問題なかろう』毛虫は平然としている。
「ああ、はい。家が商家でして」
西側の大陸の銀貨ではなかったようで慌てて言い訳をする。東側の大陸にも国が幾つもあるのだ。王宮で見た人々は西側の人間とそう変わりがないように見えた。
レティシアの家は公爵家で、買い物は商人が屋敷に来て、支払いはサインで済む。学校でもサインで済んで、レティシアは硬貨を使ったことがない。
「分かりました。ではこちらをどうぞ。これはギルド冒険者用のパンフレットです。ご一読ください」
お金を払ってギルド登録証を貰う。何だかいっぱしの冒険者になった気分だ。何より公爵令嬢とか王太子の婚約者という身分ではなく、何の身分も柵もない素の自分が生まれた。ここから違う人間になれるかもしれない。
『ボケッとするな、依頼を受けるんだ』
毛虫はレティシアを急かして掲示板に行く。
『ココルナック草の花とエプト川の水、そしてシノニムの卵だ』
毛虫の要求は初心者用の依頼ボードにあった。どれも常時依頼として出ている。ココルナック草の花は薬の素材でエプト川の水は植物の肥料に混ぜる。シノニムは蝶の卵で毛虫の餌になるという。
「今から行くの?」
『もちろんだ』
「エプト川は王都の外にあるわ」
『王都の地下用水路がある。そこに全部ある』
「そうなの」
『こっちだ』
レティシアは考えるのを放棄して、毛虫の言うままにギルドの外に出た。
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