もう一度

拓海のり

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 街で折田と出会ってから、また僕たちは話をするようになった。高校入試が近付いてきて、僕は折田に誘われるままに参考書を持って折田の家に行った。
 家には誰もいなかった。父親は仕事で遅く、折田は食事のときだけ祖父母の家に通っているという。

 僕は折田に勉強を教え、折田は奥手だった僕にその手のことを教えた。
 二人っきりの部屋で、大きな男は身体を折り曲げるようにして、僕のすぐ側に座る。大きな手と意外と長い睫と通った鼻筋と。前髪に半分隠れた顔は、まあ整っている。それだから女にもてるんだろうか。

 一足早く大人になった奴が何となく悔しかった。
 勉強はあまり出来なくて、そのことで僕は少し憂さを晴らした。
 折田は「わからねえ」とシャーペンを放り、ジュースとせんべいを持ってきた。

「俺、あんまり頭良くないし、宮原と高校は別々だよな」
 折田は僕の方をチラと流し見る。僕は全然別の事を聞いた。
「お前、女、何人くらい経験したの?」
 折田は読めない表情で僕を見ていたが「あんた、やったことねえのか」と、反対に聞いてきた。
「ないよ。悪かったな」
 経験のありそうな奴に嘘を言ってもすぐばれるし、張り合うつもりも無くてさっさと白状する。

 僕の返事を聞いて、折田は居間にあるテレビの横のビデオラックを漁っていたが、
「宮原、こんなの見たことあるか?」
 とアダルトビデオを何本か取り出した。僕が目を丸くして首を横に振ると、折田はその中の一本を無造作にプレーヤーに放り込んだ。

 それは、僕がそれまで女の子に抱いていた憧れや夢を一瞬で吹き飛ばすようなシロモノだった。粗い画面の中で蠢く白い体は地中に棲む蟲のようで、暴き出された局部は恐ろしいものに見えた。

「何かショックだ」
 そう言う僕に折田は「宮原が経験したことがないからだ」と嗤った。
「してみない?」と誘った。
「お前とか?」
 折田が僕を引き寄せてくるのでそう聞く。
「お前キスもしたことないだろ」
 図星を指されてカッとなった。
「うるさいな。キスくらい、どうって事ない」
 折田が得たりと僕の顎を掴んで唇を寄せてくる。
 その時はまだ興味本位だった。折田は軽く唇を触れさせただけだった。

  ◇◇

「キツー。あんた、俺以外の奴とヤってないのか?」
 折田の怒張したモノが僕の身体をこじ開けて侵入してくる。あの日のキスとは比べ物にならないくらい濃厚なキスをかましながら。
 忘れようとして忘れられなかった感覚が甦ってくる。


 折田とのキスはエスカレートして行った。一緒にビデオを見ながらキスをする。
「興奮している」
 折田は僕の股間に手を這わせて囁いた。
「人の手の方が興奮するぞ」
 巧みに誘われて互いのモノに手を這わすようになった。
「男同士のやり方を知っているか? 宮原。ここ使うんだって」
 いつものようにイカされて弛緩した僕の身体をうつ伏せに横たえて、折田はとんでもない所を探った。

「何するんだよ」
 驚いて起き上がろうとした僕を背後から押さえつけて、濡れた指が後孔を出入りする。
「や、止めろ」
 藻掻く僕を押さえつけて力ずくで犯した。
 今と同じように助けてと伸ばした僕の手を握り、熱く滾ったもので僕の身体を貫いた。
「痛い! や、止めてっ!!」
 快感なんか欠片も無い。ただ痛さと苦しさに呻く。
 しかし、それだけでは終わらなかったのだ。

 折田は秘所に挿入したまま、後ろから僕の身体に手を這わせた。折田の手で弄られている内に、僕のものがまた力を取り戻す。
 折田はゆっくりと僕の身体を揺さぶりながら、前に回した手で僕を煽った。
 痛みより別の感覚が次第に僕を犯していく。
「すっげ、宮原」
 折田が背後から耳に唇を寄せて囁く。それさえも僕の身体を煽った。
 抱き締められて何度も突き上げられる。
 結局僕は折田に犯されながら、またイッてしまった。
 僕の身体が気に入ったのか、行為の終わった部屋で折田は僕に囁いた。
「また来いよ」
 折田の気持ちなんか分からなかった。女に飽きたから僕を抱いたんだろうか。もう嫌だと言いたかったけれど、折田の目が脅しているようで何も言えなかった。

 けれどもう折田の家に行こうとは思わなかったんだ。でも、金曜日になると折田は僕を誘いに来た。僕は断ることも出来ず、家畜のように引かれて折田の家に連れて行かれる。
 僕が行くと、折田は必ず僕を抱いて男同士の快感を僕の身体に刻み込んだ。若い身体は速やかに快感を覚えてゆく。それは別々の高校に通うようになっても密かに続いた。

 この雑然とした部屋で何度も交渉を持った。
 大学入試を機に僕が逃げ出して自然消滅するまで。

  ◇◇

「明日は貝掘りに行こう。潮がいいんだ」
 行為の終わった部屋で、僕に背中を向けたまま折田はボソッと呟くように言った。
 僕は苦しくなると、いつもあの時の岩場を思い浮かべた。きっと何かがある筈だと。
 でも、何も見つけられなかった。疲れ果てて今、僕はこの部屋に横たわっている。


 次の日、折田は白いワゴンで僕を迎えに来た。
 無口で無愛想で、大柄な男は、昨日と同じシャツ一枚に下は作業着のようなベージュのズボン姿。地元で父親がやっている内装工事の手伝いをしているという。

 大きな川の河口に繰り出すと、シャベルと塩を取り出し、ほらと僕に帽子を寄越した。
「何掘るんだよ。アサリじゃないのか」
「マテ貝」
 ボソッと答えた男は真新しいシャベルを僕に渡し、バケツを持ってとっとと先に河口に下りてゆく。

 砂を掘って穴の開いているところに塩を振り掛けると貝が出てくる。そこを上手く捕まえるわけで、マテ貝掘りというのは少々コツがあるが面白い。
 漁った貝を見て「コイツ、いやらしいカタチしてるな」と、呟いた。隣で折田は知らん顔をして砂を掘っている。

 しばらくして「嫁さんは?」と聞いてきた。
「まだ。お前は?」
「そんなのいねえよ」
 思い出したようにボソッと返事が来た。
「僕、こっちに帰ろうかな」
「仕事のあてあるのかよ」
「当分はお前が養ってくれるんだろ?」
 無口で無愛想な男は怒り出すかと思ったが、少し頬を染めただけだった。
 どこまでも明るい陽射しの中で、そいつの顔を横目に見ながら、僕はあの日と同じように思った。
 もしかしたらそこには、期待したものがあるんじゃないかと──。

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