もう一度

拓海のり

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 母親に家を出るというと、どうしてと詰め寄ってきた。
「いや、友達と一緒に住もうかって話になって」
「友達って? 女の子じゃないでしょうね」
「いや、女じゃないよ。折田って奴だよ。中学のときの同級生」
 そう言いながらもやましさが込み上げる。

 一緒に住む相手は折田という同級生の男だ。僕と折田は男同士だがそういう関係があるが、もちろん親には何も話していない。
 折田に誘われて一緒に住もうかという話になったんだが、親元を離れて身体を壊してしまった前歴がある僕なので母はなかなか頷かない。

「どういう子だったかしら。一度連れていらっしゃいな」
 女じゃあるまいしと思ったが仕方が無い。


 折田に会ったときにその話をすると、茫洋とした顔で頷いた。
 分かっているんだろうか、こいつは。まさか尻尾を出したりはしないと思うが。男同士で付き合っているなんて誰にも言えないことだ。

 しかし、当日やって来た折田はいつもの作業着姿ではなかった。
 きちんと背広を着てネクタイを締めている。いつもボサボサだった髪に櫛まで入っている。格好だけ見れば真面目なサラリーマンってとこだ。

 応対に出た母も、折田の見目形に少し見惚れている。これなら騙くらかされてくれるかなと思った。
 しかし、甘かったのだ。

 折田はリビングに通されると、母を前にしてガバと両手を付き宣言してくれたのだ。
「優君をください。きっと、幸せにします」
 何の勘違いをしているんだ。

 母は呆然と折田と僕の顔を見て、それから急に真っ赤になって怒り出した。
「な、な、な、優!! どういうことなのっ!!」
 今度は折田が呆然としている。
「優ッ!!」
 まだ喚く母親をほっぽらかして、僕は折田の手を引っ掴んで家から飛び出した。

 そのまま折田が乗ってきたワゴンに乗り込んで、しばらく口も利かずに車を走らせる。
 やがてワゴンはいつかの浜辺へと着いた。

 ひと気のない浜辺に車を止めて、折田がボソリと言う。
「怒らしたかな」
「怒らしたかなじゃないっ!!」
 僕らの関係がばれてしまった。母に白を切り通す事なんか出来ない。僕はもう家に帰れない。

 ため息を吐いて、ふと折田の目と合った。
「あんた、全然嬉しそうじゃねえな」
「よ、喜べるのか!? これがっ!!」
 僕が噛み付くと、折田はぷいと向こうを向いた。狭いワゴンの中に気まずい沈黙が訪れた。

 折田は僕の母親に両手を付いて僕をくださいって言ったんだ。そのお陰でカミングアウトしてしまって慌てたけれど、折田にとっては一世一代の告白だったかもしれない。

「ごめん。僕はびっくりして」
「あんたは親の方が大事なんだ」
 折田はすねたように向こうを向いたままだ。その広い背中に頬を寄せた。
「僕、はじめて見たけど、折田、背広似合っている」
「……」
「惚れ直した」
「今頃、機嫌取ったって……」
 ボソッと低い声。
「もう、帰れない」
「……」
 返事は無かったけれど、ゆっくりと僕の方に顔を向けた。

「末永く、よろしくお願いします」
 折田は鼻の横をこすってコクンと頷いた。
 そのまま手を伸ばしてくる。キスは盛り上がったけれど、それだけでは終わらなくてシートを倒して伸し掛かってきた。

 こんなところでするのか!?
 待て、と引き止めようとしたけれど、男の勢いは止まらない。ズボンを中途半端に下ろし、足を抱え上げて挿入してきた。
 きつい。狭い車の中で嵐のように突き上げる。揉みくちゃにされる。

 シートベルトと男の腕にしがみ付いて、嵐の収まるのを待った。
 嵐の去った車の中で、男が僕を抱きしめて言う。
「大事にする。一生食いっぱぐれないように、頑張って働くから」

 まるで女にするようなプロポーズをしてくれる。僕は男だぞと思ったけれど、いつになく真摯な顔で僕を見る瞳に絆されて、黙って頷いた。

 折田は嬉しそうな顔をして、僕にキスをよこした。
 ネクタイも上着も車の中に置いたまま、ワゴンの外に出る。薄闇の海岸を手を繋いで歩いた。
 ちょうど引き潮で、あの入江へ行く岩穴が口を開けていた。小さな小さな岩穴を並んで潜る。入江はもう暗くて、岩に弾ける波だけが白く見えた。

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