6 / 6
6 王家の禁呪
結局、エルンストが王太子に留まる事は無かった。
エルンストは学校を卒業して、王位継承権を返上して公爵となり、領地を与えられた。少しお腹の大きくなったアメリアを連れて、新婚旅行と称して、リゾート地に出発した。
* * *
王宮のテラスで、噴水を眺めながらユリウスが言う。
「検査だけど、兄上には逃げられたよ。私は大丈夫だったから、心配ない」
シビラはユリウスの言葉に真剣に頷く。
「兄上の廃嫡は、アメリア嬢を選んだ時点で仕方がない事だ」
「さようですか。エルンスト殿下がアメリア様を選ばれた時、わたくしは修道院に行かねばならないと思っておりましたの」
シビラの言葉に、ユリウスは少し笑んで首を横に振った。
「シビラは何も悪くない。そうでなくとも私は引き留めるよ」
ユリウスはシビラの前に跪き、その手を取った。
「私は、私の事だけを愛し、私もその方だけを愛したい。そのような方と婚姻したいと思っている」
「……ユリウス様?」
「私はシビラの笑顔が好きだ。貴女がいつも笑って側にいてくれるように──」
シビラの手に、そっと口付けた。
「頑張るよ」
シビラは少し小首を傾げ、ゆっくりとその人形のような顔を綻ばせた。
それは今まで見たこともない、愛し愛される喜びと自信に満ち溢れた少女の笑顔だった。
可愛い。きっとシビラは素晴らしいレディになるだろう。
ユリウスはもう一度、自分の心に頑張らねばと誓った。
* * *
王家には禁呪がある。王家に仇なす者を排除する魔法である。
このあたりの大国小国の王家で密約を交わした。秀でた魔術師や魔導士、錬金術師が集まって、練り上げた魔法で、神に通じる裁きの間に至るという。
この度の騒動で国王は密約を結んだ国々に諮り、禁呪が発動されることになった。
エルンストとアメリアは船でリゾート地に着いた。
べったりとくっ付きながら船を降りると、警備兵が待っていて、二人は一般人とは別の通路に案内され、その先の部屋に通された。
何もない部屋だった。驚いて二人が見回していると、部屋の床が光った。転移の魔法陣が発動したのだ。部屋から部屋へと二度ほど魔法陣が発動し、灰色の無機質な部屋に着いた。
両開きのドアがシュンと開いて、灰色の服を着た男たちが出迎える。
「これはどういう事だ。訳を説明しろ」
「逆らっても無駄でございます。エルンスト様」
男達に連行されて部屋を出ると、アメリアは別の通路に連れて行かれる。
「何故名前を、アメリアはどこに」
「あの女は一級国際犯で、これからの研究対象となります」
「子供がいるんだぞ」
「貴方のお子ではありません。ご安心ください。子供も研究の対象になります」
「何だとそんな馬鹿な事が……」
灰色の四角い部屋に案内される。真ん中にグレーのイスとテーブルがある。男がひとり、部屋で待ち構えていた。灰色の無機質な衣装を着ている。
エルンストが部屋に入ると、シュンと勝手にドアが閉まった。
「お座りください」と椅子をすすめられた。
「貴方には別の生が与えられます。こちらの世界ではございません。平民ばかりの国で、自由に生きてゆくことになろうかと思います」
テーブルに小瓶が置かれた。
「もう決まっているのか」
「はい」
「シビラは」
思わず前の婚約者の名前が出た。
「あなたの事は忘れ去られることに。こちらが薬になります」
手で押しやられて、呆然と小瓶を見ながら聞く。
「信じられないのだが」
「では、取り調べの模様を」
灰色の部屋の一方が、スクリーンになった。
そこには椅子に座ったアメリアが居た。
男はテーブルの上に顕微鏡を置いた。
「貴方の子種です」
「この生きているものが少ないと、妊娠いたしません」
「こちらが普通の方のもの。お分かりいただけますか」
「私の人生は何だったんだ」
「お気の毒としか。しかし気の毒な方は、掃いて捨てるほどいます。貴方は責任を放棄されたのですから」
取調室のアメリアの様子が聞こえてくる。
「なぜこんなことを? 殿下を騙して誘惑して、誠に手の込んだ罠でしたが」
何やらチラチラと光る、四角い器具を操作している取調官は、こちらの部屋にいる無機質な衣装をまとった男と、同じ格好をしていた。
「エルンスト殿下が王位を継ぐと思ったのに、シビラを悪役令嬢に出来なかったわ。どうして……、上手く行ったと、思っていたのに」
「これからどうするつもりでした」
「子供を産んで、王家乗っ取りをするのよ。ユリウス殿下を殺せば、あの国に継承者はいない。私の子供が王になるのよ」
ポロポロと喋るのは自白剤の所為だろうか。少し気怠そうに喋っているが。
「エルンスト殿下のお子ではありませんね」
「別にいいじゃない。あの方より頭のいい方は、いっぱいいるのよ」
「犯人の名前をお聞きしても──」
「もういい」
エルンストは薬を取った。
「何か望みはありますか?」
少し考えてエルンストは答える。
「子種は欲しいな、それと髪は真っ直ぐの方がいい」
そう言って、さっさと薬を飲み干した。
終
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
公爵令嬢の苦難
桜木弥生
恋愛
公然の場で王太子ジオルドに婚約破棄をされた公爵令嬢ロベリア。
「わたくしと婚約破棄をしたら、後ろ楯が無くなる事はご承知?わたくしに言うことがあるのではございませんこと?」
(王太子の座から下ろされちゃうから、私に言ってくれれば国王陛下に私から頼んだことにするわ。そうすれば、王太子のままでいられるかも…!)
「だから!お嬢様はちゃんと言わないと周りはわからないんですって!」
緊張すると悪役っぽくなってしまう令嬢と、その令嬢を叱る侍女のお話。
そして、国王である父から叱られる王子様のお話。
ただの婚約破棄なんてため息しか出ませんわ
アキナヌカ
恋愛
私、ユディリーア・パヴォーネ・スカラバイオスは、金の髪に美しい蒼い瞳を持つ公爵令嬢だ。だが今は通っていた学園の最後になる記念の舞踏会、そこで暇を持て余して公爵令嬢であるのに壁の花となっていた。それもこれも私の婚約者である第一王子が私を放っておいたからだった、そして遅れてやってきたヴァイン様は私との婚約破棄を言いだした、その傍には男爵令嬢がくっついていた、だが私はそんな宣言にため息をつくことしかできなかった。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
婚約破棄された悪役令嬢ですが、すべて計算通りですのでご安心を
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、息が詰まるほどの静寂に包まれていた。
煌びやかなシャンデリアの下、貴族たちが息を潜めて見守る中――。
「リリアーナ・フォン・エルヴァルト! お前との婚約を、ここに破棄する!」
第一王子アルベルト殿下の声が、高らかに響き渡った。
【短編】その婚約破棄、本当に大丈夫ですか?
佐倉穂波
恋愛
「僕は“真実の愛”を見つけたんだ。意地悪をするような君との婚約は破棄する!」
テンプレートのような婚約破棄のセリフを聞いたフェリスの反応は?
よくある「婚約破棄」のお話。
勢いのまま書いた短い物語です。
カテゴリーを児童書にしていたのですが、投稿ガイドラインを確認したら「婚約破棄」はカテゴリーエラーと記載されていたので、恋愛に変更しました。
すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜
まりー
恋愛
ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。
でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。
ほかの女にうつつを抜かして断罪されると相談したのに、すっかり忘れ果てて、そのまんま騙されるなんて。そんな王太子では国が潰れますなぁって。なかなか読み応えあって面白かったー😊次作も期待します☺️
感想をありがとうございます~。
わはは……、ホント潰れますね。強引な展開をよくしちゃうので気を付けないと。
読んで下さってありがとうございました~。