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6 王家の禁呪
しおりを挟む結局、エルンストが王太子に留まる事は無かった。
エルンストは学校を卒業して、王位継承権を返上して公爵となり、領地を与えられた。少しお腹の大きくなったアメリアを連れて、新婚旅行と称して、リゾート地に出発した。
* * *
王宮のテラスで、噴水を眺めながらユリウスが言う。
「検査だけど、兄上には逃げられたよ。私は大丈夫だったから、心配ない」
シビラはユリウスの言葉に真剣に頷く。
「兄上の廃嫡は、アメリア嬢を選んだ時点で仕方がない事だ」
「さようですか。エルンスト殿下がアメリア様を選ばれた時、わたくしは修道院に行かねばならないと思っておりましたの」
シビラの言葉に、ユリウスは少し笑んで首を横に振った。
「シビラは何も悪くない。そうでなくとも私は引き留めるよ」
ユリウスはシビラの前に跪き、その手を取った。
「私は、私の事だけを愛し、私もその方だけを愛したい。そのような方と婚姻したいと思っている」
「……ユリウス様?」
「私はシビラの笑顔が好きだ。貴女がいつも笑って側にいてくれるように──」
シビラの手に、そっと口付けた。
「頑張るよ」
シビラは少し小首を傾げ、ゆっくりとその人形のような顔を綻ばせた。
それは今まで見たこともない、愛し愛される喜びと自信に満ち溢れた少女の笑顔だった。
可愛い。きっとシビラは素晴らしいレディになるだろう。
ユリウスはもう一度、自分の心に頑張らねばと誓った。
* * *
王家には禁呪がある。王家に仇なす者を排除する魔法である。
このあたりの大国小国の王家で密約を交わした。秀でた魔術師や魔導士、錬金術師が集まって、練り上げた魔法で、神に通じる裁きの間に至るという。
この度の騒動で国王は密約を結んだ国々に諮り、禁呪が発動されることになった。
エルンストとアメリアは船でリゾート地に着いた。
べったりとくっ付きながら船を降りると、警備兵が待っていて、二人は一般人とは別の通路に案内され、その先の部屋に通された。
何もない部屋だった。驚いて二人が見回していると、部屋の床が光った。転移の魔法陣が発動したのだ。部屋から部屋へと二度ほど魔法陣が発動し、灰色の無機質な部屋に着いた。
両開きのドアがシュンと開いて、灰色の服を着た男たちが出迎える。
「これはどういう事だ。訳を説明しろ」
「逆らっても無駄でございます。エルンスト様」
男達に連行されて部屋を出ると、アメリアは別の通路に連れて行かれる。
「何故名前を、アメリアはどこに」
「あの女は一級国際犯で、これからの研究対象となります」
「子供がいるんだぞ」
「貴方のお子ではありません。ご安心ください。子供も研究の対象になります」
「何だとそんな馬鹿な事が……」
灰色の四角い部屋に案内される。真ん中にグレーのイスとテーブルがある。男がひとり、部屋で待ち構えていた。灰色の無機質な衣装を着ている。
エルンストが部屋に入ると、シュンと勝手にドアが閉まった。
「お座りください」と椅子をすすめられた。
「貴方には別の生が与えられます。こちらの世界ではございません。平民ばかりの国で、自由に生きてゆくことになろうかと思います」
テーブルに小瓶が置かれた。
「もう決まっているのか」
「はい」
「シビラは」
思わず前の婚約者の名前が出た。
「あなたの事は忘れ去られることに。こちらが薬になります」
手で押しやられて、呆然と小瓶を見ながら聞く。
「信じられないのだが」
「では、取り調べの模様を」
灰色の部屋の一方が、スクリーンになった。
そこには椅子に座ったアメリアが居た。
男はテーブルの上に顕微鏡を置いた。
「貴方の子種です」
「この生きているものが少ないと、妊娠いたしません」
「こちらが普通の方のもの。お分かりいただけますか」
「私の人生は何だったんだ」
「お気の毒としか。しかし気の毒な方は、掃いて捨てるほどいます。貴方は責任を放棄されたのですから」
取調室のアメリアの様子が聞こえてくる。
「なぜこんなことを? 殿下を騙して誘惑して、誠に手の込んだ罠でしたが」
何やらチラチラと光る、四角い器具を操作している取調官は、こちらの部屋にいる無機質な衣装をまとった男と、同じ格好をしていた。
「エルンスト殿下が王位を継ぐと思ったのに、シビラを悪役令嬢に出来なかったわ。どうして……、上手く行ったと、思っていたのに」
「これからどうするつもりでした」
「子供を産んで、王家乗っ取りをするのよ。ユリウス殿下を殺せば、あの国に継承者はいない。私の子供が王になるのよ」
ポロポロと喋るのは自白剤の所為だろうか。少し気怠そうに喋っているが。
「エルンスト殿下のお子ではありませんね」
「別にいいじゃない。あの方より頭のいい方は、いっぱいいるのよ」
「犯人の名前をお聞きしても──」
「もういい」
エルンストは薬を取った。
「何か望みはありますか?」
少し考えてエルンストは答える。
「子種は欲しいな、それと髪は真っ直ぐの方がいい」
そう言って、さっさと薬を飲み干した。
終
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ほかの女にうつつを抜かして断罪されると相談したのに、すっかり忘れ果てて、そのまんま騙されるなんて。そんな王太子では国が潰れますなぁって。なかなか読み応えあって面白かったー😊次作も期待します☺️
感想をありがとうございます~。
わはは……、ホント潰れますね。強引な展開をよくしちゃうので気を付けないと。
読んで下さってありがとうございました~。