公爵令嬢は愛に生きたい

拓海のり

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5 シビラの告解

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 学園の図書室で、久しぶりにユリウスに会ったシビラは、前より痩せて儚げになっていた。
「やっぱり、わたくしは悪役令嬢なのかしら」
 隣に座った彼は、ただ緩く微笑んだだけだ。
「ユリウス殿下は、わたくしでよろしいの?」
「もちろん、貴女が私の方を向いてくださるのを、待っていました」

 姉のフランセスに手紙を書いて、大げさに現状を知らせたのも、国王陛下と公爵家をせっついて、シビラとの婚約を決めたのもユリウスであった。
 生徒会役員の親に知らせて、子供の監視を強化させたのも、ユリウスが手を回したからだ。
 もちろん、ユリウスはそんな事をシビラに言うつもりはない。


「そう言えば前にここで、何か言いかけてましたね。あれは何だったのですか? 今、お聞きしても?」
 ユリウスの問いに、シビラは少し目を見張って、コクンと唾を飲み込んだ。

「わたくし、大変な罪を犯しましたの」
 ユリウスは黙って続きを促す。
「わたくし、あの方に病をうつしましたの。あの方、来ないでくださいと、お手紙をいたしましたのにお見舞いにいらっしゃって、わたくしの風邪がうつって、それが風邪ではなくて、とても高い熱が出て───」
 シビラは胸に手を当て、少し震えた。

「お医者様がおっしゃったの。軽い熱ですぐに治ってよかったと。高い熱が出て、なかなか治らないようだと、子種が無くなる病だと」
 ユリウスは目を見開いた。
「わたくし、あの方に病をうつしてしまって、だから、何があっても婚姻して、お子が出来なくても……、あの方をお支えせねばと」
「それがシビラの愛なのか?」
 ユリウスに言われて、シビラは少し考えた。

「愛ではありませんわね。わたくし罪悪感に苛まれて、ずっと。贖罪をするつもりでございました。王族は跡継ぎが全てでございますから」
「そうか……」
 シビラはほうっと息を吐いてからユリウスを見る。聖職者に罪を告解して身が軽くなったような表情であった。

「それは、いつ頃のことだろうか?」
「婚約してすぐの冬ですわ」
「八歳の頃か」
 あの頃流行っていた風邪といえば、頬が膨れて熱が出るムンプス風邪だ。直ぐに治る者もいるが高熱が出てしばらく寝込む者もいる。エルンストは暫く寝込んで、ユリウスは別宮に隔離された。

「あの時の風邪なら私も罹ったよ。両頬が膨らんだけどすぐに治った。あの時は流行っていたからね、周りの連中が皆かかって、私はひとりで遊んでいたな」
 ユリウスは遠い目をした。その表情が少し引き締まる。

「その時、兄上はずっと君の所に居たの?」
「いえ、すぐにお帰りになって、ホッとした記憶がございます」
「じゃあ、シビラがうつした訳じゃ無いよね」
「そうなのですか」
 シビラの瞳に生気が宿る。
「あの時は流行っていたからね、誰でも罹る可能性があったんだ。実際私も罹った訳だし。もっと早くに聞けば良かったな」
 ユリウスは腕を組んで考え込んでしまった。

「まあ一応、子種の件は調べた方がいいかもしれないね。兄上も調べた方がいいか」
「あの、アメリア様にお子が出来たので、エルンスト殿下には子種がお有りなのですよね」
 シビラは不安そうに顔を曇らせた。どうしてだろうと、ユリウスは考える。

「その、アメリア嬢のお子が、兄上のお子じゃないとしても、シビラはもう私の婚約者だよ?」
 シビラは目を見開いてユリウスの顔を見る。
「本当にそうなのですか? わたくしがエルンスト殿下に病をうつしたのであっても、よろしいのでしょうか?」
「シビラは兄上に病をうつしていない。あの時は流行っていたから。シビラは私が婚約者じゃ、嫌なのか?」

 ユリウスの言葉は、最後は問い質すようになったが、シビラはじっとユリウスを見たままだ。やがてポツリと言った。

「わたくしだけが幸せになっても、よろしいの……?」
「え……? いやあの、どういう……」
 シビラの頬が少し染まる。
 ユリウスの手が伸びてシビラの手を掴んだ。逃がしたくないという、ただそれだけの気持ちだったが、シビラの顔が真っ赤に染まって、ユリウスは正解を掴んだと思った。

 ユリウスはシビラの手を両手で包んで囁いた。
「大丈夫だよ。シビラはもう私の婚約者だから、私が守ってあげる」
「わたくし、ユリウス様に子種が無くても、嫁いでお支えしたいと思いますわ」
 いかにもシビラらしい返事であったけれど、その表情は真剣である。
「嬉しいよ。結果を待っていておくれ」
「はい」


   * * *

 アルシュテット国王はエルンストの行状に苦い思いをした。エルンストの出来が良くて、優秀であると放任していれば、この所業であった。
 男爵令嬢、しかも養女だとすれば、おいそれと許すわけにもいかない。どこの回し者か分からないのだ。しかも、子供が出来ているとなると──。

 王は決断を引き延ばした。エルンストが卒業するまで待って決める、それまでは何も決めない、決められない。
 エルンストの婚約者シビラの事は、ユリウスが願い出て、ヴァランティ公爵も承諾した。ユリウスに対しては目を見張る思いであった。
 予備の筈の第二王子は非常に辛抱強く、しかし事に当たっての対処は、的確で素早かった。

 そんな状況下での、シビラの告白であった。王家の影が報告し、ユリウスもすぐさま報告に来た。
 アルシュテット国王は決断した。

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