公爵令嬢は愛に生きたい

拓海のり

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4 婚約解消

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 人形のようなシビラに比べて、アメリアは生き生きとして、肉感的で、蠱惑的だった。
 眩しいアメリア。すんなり伸びた手足。均整のとれた身体。すべすべの肌。笑顔が可愛い。目が合うと頬を染めて目をそらす。

 生徒会のサマーキャンプを、王家の避暑地の別荘で行うことにした。
 こじんまりとしたその別荘は、生徒会の人数で丁度良かった。
 近くに湖があり、ボート小屋にボートがある。桟橋から降ろして、何人かに分かれて乗り込んで水遊びを楽しんだ。


 最終日の前日、アメリアが居なくなった。もう暗くなって雨まで降っていた。皆で手分けして探したが見つからない。
 濡れそぼって震える皆を別荘に帰して、エルンストはもう一度探しに出かけた。

 ボート小屋にアメリアはいた。複数の男に襲われていた。アメリアの白い身体が夜目にも白く浮かび上がる。
「何をしている!」
 男たちを追い払って、声をかけた。アメリアは泣きじゃくった。
 何処からともなく漂う甘い香り
 泣きじゃくるアメリアの白い背中。太もも。胸。
 アメリアはエルンストにしがみ付いた。

「お願い……」
 エルンストはアメリアを抱いた。
 アメリアは処女だった。未遂だったのだ。


 夏が終わってアメリアは妊娠した。

「違う、殿下のお子ではありません」
 アメリアは否定したけれど、相手は自分しかいない。
「では誰の」
「違います。違う。うっ」
「アメリアの子は、私の子供だ」


   * * *

 シビラは王宮に呼び出され、エルンストの執務室で人払いをして告げられた。
「アメリアが私の子供を身籠った。君には申し訳ないが、婚約を解消したい」
 エルンストはシビラに謝罪して、婚約解消を申し出た。それは仕方のない事であった。それでも、シビラは聞かずにおれない。

「あの方に殿下のお子が出来たのですか。何かの間違いではございませんの?」
「間違いない」
 エルンストの自信のある顔を見ると、分からなくなる。
「それとも、愛し合っていたら出来るのかしら」
 シビラの自信のない言葉はあっさり流された。
「シビラはまだ子供だね」
 エルンストは軽く笑って言った。
「何時か君も、愛を知る大人になるだろう」

「わたくしは殿下をずっと、お側でお支えしたかったのでございます」
「すまない、シビラ」
 シビラはしばらく俯いていた。やがて息を吐いてかぶりを振った。
「分かりましたわ。わたくしから、もう何もいう事はございません。殿下のお心のままに」

 シビラは去って行った。


 しばらくして、ドアをノックして、ユリウスが入って来た。
「兄上、国王陛下がお呼びでございます」
「そうか」
「私はシビラ嬢の幸せを願っておりました」
「ユリウス、もう言うな」
 出て行こうとするエルンストに、尚もユリウスは言う。
「いえ、誤解をしておいでの様ですから申し上げます。彼女はあなたを愛しておりました。しかし、もう、元に戻る事はないでしょう。ですから、私が、幸せにいたします」

 ユリウスがシビラに興味を持っていたのは分かっていた。
 しかし、これまた、はっきりと言ってくれたものだ。
「兄上に言いたいことは、それだけです」
「そうかい、じゃあ頼んだ」
 馬鹿にしたようにエルンストは言う。
「あんな人形のどこがいいのか」
 それは本音か嫌味か、恐らくどちらもだろう。
 エルンストは、そのままスタスタと国王の執務室に向かう。
 ユリウスはその後姿を黙って見送った。


   * * *

 エルンストはアメリアと結婚することになった。
 しかし、それ以外の事は、卒業を待って決めるという。

「私が男爵の娘で、元は平民であることがいけないのかしら」
「もしかして、シビラ様が何か仰っているのかしら」
「貴族と平民の間で、亀裂が入っているんじゃないの」
「この婚姻は、貴族であるシビラ様と、平民である私の戦いね」
 アメリアは勇ましい言葉を吐く。
 婚姻までにもっとシビラを追い詰めて、追い落として──。

「私は奪ったんだわ。あなたからすべて。だから私のすべてをかけて、あなたを幸せにするわ」
 何処までも勇ましい。
 王位をあなたの手に──。

 そんな時、姉のフランセスからエルンストに手紙が来た。
「あなたは王家を潰すつもりか、乗っ取るつもりか」と容赦がない。
「こちらの方まで、不穏な動きが出てきて、困っている」

 言われてみればその通りだった。エルンストはアメリアの言動を、閨の睦言程度にしか聞いていなかった。
 姉に急かされて、アメリアに言った。
「いい加減にしないと結婚しない。子供も認知しない」
 エルンストの言葉は効果があった。アメリアはその性格に似ず、黙り込んでしまった。

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