25 / 42
三章 聖女見習いアデリナの事情
22 お風呂でシャワー
しおりを挟む夜になってミモがお散歩に出て、アルトが言った。
「あのシャワー浴びたい」
「バブルミスト?」
「それ」
季節は夏だけど、全部脱ぐのは不味いだろうし水着は無いの?
うーん、何で【救急箱】に《水着》が入っているんだろう。女性用と男性用だし。
という訳でアルトに水着を渡して説明する。私も着替えてお風呂に行くとアルトが頬に手を当てて口に手を当てて「うわぉ!」と騒ぐ。
アルトはサーフパンツだし私はセパレーツだし、そんなに露出は多くないけど、足も出してはいけない令嬢がこんなはしたない格好をしてはいけない。
でも水遊びって楽しいのだ、開放的だし。
アルトは自分でシャワーと言ったくせに、最初は恥ずかしがっていたけど、私が必死になってシャワーの調整を始めるとじっと見ていて、調整が済むとお水をお湯に変えた。
「出来た、全面シャワー」
天井一面からミストが降りかかる。
「うわー! すっごく気持ちいい」
「すごい、溜まった汚れが奥から全部洗い流される感じ」
バブルミストの効果は凄い。
「ミストジェット噴射行け!」
「わっ!」
ミストジェットがアルトの頭を直撃。
「よーし、横から回転行け!」
「きゃあ!」
ミストジェットがぐりぐり回りながら顔やら胸やら腕に当たる。
「斜め噴射レーザー!」
「うっぷ!」
真っ直ぐのミストがキンキンと突き刺さる。
「下から噴水噴射!」
「きゃゎゎ!」
お風呂の中ではしゃぎ回った。
「メリー、そのペンダントってロケットじゃないの?」
アルトが私のペンダントに目を留めて聞く。
「え」
遊んでたら窮屈な水着の胸からこぼれ出た。
祖父から貰ったペンダントは、金細工で楕円形の精密な装飾の施されたペンダントだ。真ん中に五つの宝石があしらわれていて、宝石を並べて頭文字で色々な言葉を表すのだ。
「開けられるのかしら」
私たちはシャワーを終えて着替えてベッドに並んで座った。
「此処がトリガーだと思う。魔法で封じてある」
楕円形のロケットを調べていたアルトが、左の宝石の下に小さな金具があるのを教えてくれた。
「此処を持って、開けって言えばいいのかしら」
ぱかん。
「えっ?」
「はぁ?」
いや、簡単に開き過ぎよね。
貝のように両側に開いて中に紙きれが入っていた。
「何だろうこれ、名前だわ?」
「知ってる人?」
「うーん。多分あの人だと思うけど、祖父の友人で弁護士というか公証人というか、王都に住んでいる方なんだけど」
厳格で祖父といい勝負だった男を思い出す。
「遺言かなんかじゃないの? 会いに行った方がいいと思うけど」
「捕まるんじゃない?」
「だろうね」
私たちは顔を見合わせて溜息を吐いた。
王都にいる祖父の公証人なら領地を引き継ぐ為に父は必ず会いに行くだろう。祖父の友人なら父に好意的ではないかもしれない。話も縺れているかもしれない。
私がこうやって色々考えている間も、他の人も色々考える訳だった。
◇◇
「取引をしようメリザンド。俺は情報を提供する。だからお前は俺のものになれ。
領地の事が気になるだろう。俺なら手伝ってやれる。そのまま統治できるぞ」
オクターヴはそんな事を考えたか。
「いいえ。結構だわ」
「即答するか?」
「だって、領地は私のものではないわ。戻らないのよ」
「取り戻せばいい。今あすこでは独立しようとしている」
「何ですって!」
「今の侯爵や王子にめちゃくちゃにされるのが嫌なんだろう。お前が行けば住民は受け入れるだろう」
「はあ、それでも私にはどうしようもないわ」
今度こそ捕まって処刑される。私は兵士を殺してしまったんだもの、領地に行けば王国軍が来たりするかもしれないのだ。紛争や内戦になって領地の人が傷付くのは嫌だ。気にはなっているのだ、逃げてばかりではいけないと思うけれど、私には何もない。
ノアはやっぱりコルディエ王国に行ったんだな。何でだろう。
「ねえ、メリー。おいら、明日はちょっと遅くなるけど行けると思うの」
「そうなの? ノアがいてくれると心強いわ」
ノアは嬉しそうに笑う。暇を見つけて来てくれるんだけど、どうしてオクターヴと一緒に来るのか分からない。
◇◇
翌日、
街の大人衆から迎えの馬車が来て、お屋敷に連れて行かれる。
お屋敷はさらに街の奥の防壁の中にあった。
慇懃無礼か、それとも帝国に売り渡されるか、それとも排除されるか。
お屋敷の防壁の外で、私たちがアデリナに付き添うのにひと悶着あった。外で待てと言われたって待てるものではない。大体ミモが出せない。
私たちはアデリナを囲み、アデリナは結界を張った。
「一緒にお願いします」
「怪我をする人が増えても」
「何故怪我をするのでしょう?」
アデリナはまっすぐ前を向いていた。手は祈りの形に組み合わされ、唇は引き結ばれている。スヴェンはアデリナの側に控えているが今日は帯剣していない。
街の大人衆はやはり聖女が気になるようで、しかもこちらが少人数で年端も行かかない子供な事もあって、おまけに忙しい方々が集まるせっかく設けた機会なので、面会することに決めたようだ。
建物の中の迷路のような通路の奥に重厚な扉があった。
扉が開けられると、皆キラキラしくて威圧感半端ない面々がずらりと並ぶ。一癖も二癖もありそうな顔をその表情に隠している。
街の大人衆の顔ぶれは、商会の会頭ゲルハールト氏。ギルドのギルマス、ジャック・マルケ。ウェイデン伯爵。帝国の軍人フッガー将軍。真教国の宗主様カルロ・マデルノ。
これってヤバいよね。捕まって神殿に送り返される、そして投獄されて軟禁される未来しか見えない。
一応、こういう席を設けてくれたって事が救いかな。
話し合いはするんだろう。
一応話をしましたという、格好だけの場合も多いが。
テーブルの下で手を握って取引をしている様子も垣間見えるような気がするが、考え過ぎだろうか。
45
あなたにおすすめの小説
【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる