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三章 聖女見習いアデリナの事情
23 上映会再び
しおりを挟む「では、話を聞きましょうか」
そう言ったのは、一昨日ギルドから出た時にすれ違った大商会の偉いさんと思しき人物だった。彼はどうも金髪が好みらしい。アデリナを見る目付きが違う。
「ありがとうございます。お許し下さるならば、わたくしは神殿を出て、里で両親を弔って生きたいと思います」
アデリナの言葉に宗主カルロ・マデルノが異論を唱える。
「アデリナ、聖女一人では負担が大きいのですよ。これまでもみなで仲良く過ごして来たではありませんか、我が儘を言ってはなりません」
「申し訳ありません。でもわたくし一人の力は取るに足りないものでございます。どうか、神殿を出ることをお許し下さいませ」
「一人の力は小さくても皆が集まれば大きくなるのです。誰も欠かせないのですよ。あなたはまだ若いのですし」
宗主カルロ・マデルノが諄々とアデリナを説く。自信に満ちた朗々とした声で。こんな小娘相手に、教会で、神殿で大勢を相手に説教をするよりも容易い事だ。お偉方が頷いている。
アデリナは追い詰められて、唇を噛んで下を向いた。
「発言をお許しいただけますか」
勝利を確信していた大人衆は、私の横槍に皆不快な顔を見せた。
こいつらの根性が透けて見える。
「何かな、手短にお願いしたい」
「ありがとうございます。アデリナ様は神殿を出たいとおっしゃっているのです。引き留める訳をお聞かせください」
私の発言に、不快さを隠しもしないで掃き捨てる。
「わざわざ時間を取ってやっているのに、小娘がつけ上がりおって」
最早、話し合う気もないという事か。
「始めよう」
アルトの掛け声にアデリナが頷く。
「では、ミモお願い」
私は肩に乗っていたミモをそっとアデリナの頭に乗せた。
「警備兵を呼べ!」
捕まる前に頑張るのよ、ミモ。アデリナの頭で翼を広げる。辺りが暗闇になる。視点が固定される。
さあ見せてアデリナ、あなたの見てきたことを。
◇◇
怪我をして泣いている子供。その子に『ヒール』を使う。
「何と、回復魔法が」
アデリナの家に聖職者らしき男が来て言う。
「この子は聖女の候補として神殿が預かることになりました」
「アデリナ、お前の護衛騎士だ」
父のフレンツェル伯爵がアデリナを執務室に呼んだ。
「何かあれば頼るとよい」
茶色っぽい赤毛に茶色の瞳のがっしりした体躯の騎士がアデリナの前に立つ。
「護衛のスヴェンです。よろしくお願いします」
「アデリナです。こちらこそどうぞよろしく」
一緒に大聖堂を見上げるふたり。山の中腹に建つ尖塔を二つ従えた立派な大聖堂。
「フレンツェル伯爵令嬢アデリナ。そなたは聖魔法が使える故、聖女見習いとして神殿に仕えよ」
アデリナは拝跪して手を組み誓いの言葉を述べる。
「わたくしは宗主カルロ・マデルノ様の為に、生涯力を尽くしお仕えする事を誓います」
違う。
アデリナの瞳が揺れる。
わたくしは宗主カルロ・マデルノではなくて、元々のこの教団の主旨である、過去の聖女様たちの素晴らしい功績を是とした宗教に入信した。
そのような方に憧れて、聖魔法が発現した時、少しでも聖女様に近付けたらと。
わたくしは及ばないながらも頑張ろうと──。
「こちらは聖女見習いの皆さまです」
「よろしくお願いします」
十人余りの少女がいる。
聖なる泉に浸かって、祈りを捧げて、奉仕活動をして、
毎日繰り返し。
ある日、聖堂に白銀の髪、金の瞳の美しい女性が現れた。
「ジュヌヴィエーヴ様。さあこちらへ」
司祭が手を差し伸べて壇上にエスコートする。そこにはすでに宗主カルロ・マデルノがいて、威厳を持ってジュヌヴィエーヴを迎えた。
「お美しい方ね」
「あの方が聖女だそうですわ」
彼女は美しい笑みを浮かべて、ゆっくりと壇上に歩く。
宗主の前で両膝を付き手を組んで頭を下げ祈りを捧げる。
「我が宗主カルロ・マデルノ様に感謝の気持ちを持って祈りの言葉を捧げます。我が心も身もすべてを捧げ、お仕えする覚悟でございます」
これによって誰よりも宗主が尊いと知らしめる為に。
「立つがよい、聖女ジュヌヴィエーヴ。我らが聖女よ」
宗主カルロ・マデルノがジュヌヴィエーヴを聖女と呼ぶ。
これによってジュヌヴィエーヴは聖女と認定される。
「おお、宗主様がジュヌヴィエーヴ様を聖女と認定された」
「宗主様」
「宗主様」
そこに居た皆が宗主カルロ・マデルノに跪く。
「わたくしはいつでもあなた様の為に跪きますわ」
光輝くように美しい乙女が手を組み宗主カルロ・マデルノを見る。宗主が乙女の手を取り皆に向き直る。皆が額づく中でふたりだけが立ち上がり周りを見渡す。
「聖女様がいらっしゃったので、わたくしたちはもういいのでは」
「神に、宗主様に仕えるのだ」
「神殿を出たいのです」
「そんな事は許されません」
「でももう、素晴らしい聖女様がいらっしゃるのですし」
「聖女の補佐をするのがあなたたちの務め」
「よろしくお願いします」
新しい聖女見習いの方がいらっしゃった。一緒に願い出た聖女見習いの何人かはいなくなっているし、許されて出ていかれたのだろうか。
「お母さんが亡くなったの。私母一人子一人なのよ。帰りたい」
そう言っていた方も居なくなった。
ある日、実家の使用人だった男が神殿に来た。
「お父様とお母様が──!?」
「はい、街道が崖崩れで、ちょうど通りかかった馬車が下敷きになって」
「帰りたい、せめてお葬式だけでも」
人が入れ替わっているんだもの、
きっと、許されて帰る人もいる筈だわ。
「どなたに言えばいいでしょうか」
「宗主様にお願いしてみましょうか」
ふらふらと歩いて神殿の奥に行くアデリナ。
ここは何処でしょう、ずいぶんと奥に、知らない所に。
「宗主様は人払いをしておられる」
誰かが話している。ならば、お願いをするのに丁度良いかも。
奥まった誰も知らないような中庭に出た。
声が聞こえる。何の──。
低い所に窓がある。唐草模様の鉄格子が装飾された低い窓だ。
鉄格子の向こうに見えたものは──。
「ふふ……」
「ああん……」
聖女と睦み合う宗主カルロ・マデルノ。薄絹だけのふたり。
ふたりの薄絹には赤い花の模様がある。いや、模様ではない……。
聖女の白い手にも、宗主のはだけた胸にも赤い花が流れている。
「この子はあまり良くないわ。今度は金髪のあの子がいいわ……」
「アデリナか……、アレはゲルハールトが執心しておるが……」
「ふふ……まあ、抜け目のない下衆が。ベッドに並べたいのかしら」
上から赤いものがぽたりぽたりと……。
視線を上げると、逆さづりの聖女見習いの首の辺りから血が流れている。
『ひっ!』
この子、知っている。片親がこの前亡くなったと泣いていた。
血がぽたりぽたり……。
「んふふ……」
「ああ……、はあ……」
流れる血の中で睦み合うふたり。
悲鳴が出ないのが不思議だった。
逃げて。逃げるのよ。足よ動いて。お願い。
「スヴェン、ああ、スヴェン」
「どうなさいました、アデリナ様」
「ここに居たら殺されてしまうの。わたくしは怖い」
「逃げましょう」
「逃げられるの?」
「はい。早い方がいい」
夜の森だ。
「いたぞー」
「こっちだ」
見つかって追手がかかる。
立ち塞がる兵士たちの前に、
突然大きな熊の魔獣が二頭現れて襲い掛かった。
一頭を倒したその時に、もう一頭が襲い掛かる。
「ぐぁ!」
「ああ、スヴェン、ごめんなさい」
「アデリナ様」
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