学校帰りに待っていた変態オヤジが俺のことを婚約者だという

拓海のり

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6 変態オヤジそろそろ

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 屋敷に戻ると藤原が待っていた。
「今日はプレゼントがあるんですよ。一緒に食事に行きましょう」
 さっきまでの昴との経緯も知らぬげに、のほほんと構えてそう言った。

 親父とお袋と武兄ちゃんが頑張っているのなら、俺も頑張らなければ。俺は唇を噛み締めてオヤジを相手に身構えた。

 藤原は別に気にした様子もなく、大きなビルの最上階にある高級レストランに俺を連れて行った。レストランの支配人が出てきて個室に案内される。高い天井から下がったシャンデリア。窓の外に広がる夜景。少し照明を落とした部屋の中、グラスに灯した明かりがゆらゆら揺れる。

 俺が美人でグラマラスなお姉さんならこんな所も似合うだろうが、あいにく俺はチビでチンクシャな男のガキだ。目の前の男の趣味を疑うぜ。

 ゾロゾロとテーブルに入れ替わり出てくる料理の品々を、腹が減っては戦にならないとどんどん平らげた。藤原はそれを嬉しそうに眺めていたがデザートになって話し始めた。

「私は仕事をしているので、時々は一緒に居れない時もあるでしょう。寂しいでしょうが我慢してくださいね」
(寂しくない、ない)

「そうそう、渉君が寂しくないようにいいモノを作りました。はい、これが私の人形です。カバンに提げておいて下さい」

 手のひらサイズの小さな人形を渡された。よくよく見ると、その人形はきっちり後ろに髪をなでつけ、黒っぽい背広を着ていて、にかりと笑っている。目の前にいるオヤジにそっくりだった。俺が藤原と人形を交互に見ていると、さらに何かを取り出した。

「これは携帯用のストラップです。それからこれは、財布に入れておく写真です。時々キスくらいして下さいね」
 小さな陶製の藤原人形が付いたストラップと藤原の写真を渡されて固まっている俺に、更にオヤジは丸めた紙を取り出した。

「これは私のポスターです。机の前に飾ってくださいね」
 広げて見せたそれは、藤原のにっこり笑った上半身が写ったポスターだった。
「それから──」
(まだ、あるのか……?)

 押し付けられたそれらを手にげんなりと見る俺の前に、横長の箱を取り出して蓋を開けた。

「身体が寂しいときは、この私のバイブレーター」
「えっ?」
 オヤジが箱から取り出したものは、取っ手というか握りのところがオヤジに模してあって、頭のところから先がちょっと膨れたノズルというか突起がついたシロモノで、スイッチのようなものが付いていた。

「これをどういう風に使うかちょっと教えてあげましょうか」
 藤原の手が伸びてきて、俺は慌ててガタガタと椅子を引き摺って逃げた。
「やっ、やっ、やっ、いいやいっ!!」

 冗談じゃなかった。俺が喚くとオヤジは残念そうに取り出したものを暫らく眺めていたが、やがて箱に収めながら言う。
「そうですか。いずれ使うようになるんですよ。練習しておいた方がいいですよ」
「俺、嫌だよっ!!」
(この変態オヤジ!!)

 俺は平然とそんなモノを見せる藤原を睨み付けた。オヤジはソロソロその本性を現してきたようだ。
(しまった、昴を味方につけて対策を練ればよかったのに。俺ってバカだ)

「渉君は綺麗で可愛い三毛猫なんですよ。オスは滅多に居ないし、こんなに毛並みのいい手触りの良いオスは更に居ません。大事に大切に育ててあげますからね」
(こんな変態オヤジに育てられて変態になんかなりたくないぜ)

 オヤジはそんなにしつこくしないで、その後は俺の学校の様子やら好きなこととかを聞いて食事は終わった。

 藤原はまだ仕事があるとかで俺だけ先に帰る事になって、緊張していた俺はやれやれと脱力して屋敷に帰ったんだが──。


 部屋のドアを開けた途端、藤原の声が『お帰りなさい』と言った。俺はギョッと飛び上がって、慌てて部屋の内外を調べたが、何処にも藤原の姿はない。

 改めて部屋の中を見ると、壁には所狭しと藤原のポスターが貼られていた。机やら衣装ダンスやらベッドの枕元には、大小さまざまな藤原のぬいぐるみの人形がどっさり。そしてベッドには何と、等身大の藤原の人形が──。

(あンの変態クソオヤジ!!)
 人形を蹴飛ばしてぐったりとベッドに座ると、藤原の声が『お休みなさい』と言って、俺はもう一度飛び上がらねばならなかった。

 もちろん俺は抗議をしようとしたが、次の日、藤原はいなくて、伊東という執事には俺の抗議は無視されてしまった。しかも、どういう訳か人形は日増しに増えていったのだ。
 なんつー変態のクソオヤジなんだーーー!!!



 藤原は髪をオールバックにしてきっちりと背広を着た、外見は何処からどう見ても紳士なオヤジだった。それが何処をどう間違ったらこんな変態になるかな。

 俺は部屋の中に溢れかえった藤原人形をげんなりと見回した。そりゃあ、慣れるちゃあ、慣れるけどさ。今ここに藤原が居たって人形に紛れて見分けが付かないぜ、きっと。

「渉君、食事に行きませんか」
「ギョッ!!」
 人形の一人がいきなり口を利いたようで俺は飛び上がった。振り向くと壁に貼られたポスターとそっくり同じ顔が、にっこり笑って部屋の入り口に立っている。

「あんた、そういう顔でいきなり現れんなよっ!!」
「でも渉君。私にはこういう顔しかありませんが」
 藤原はそう言って部屋の中に入り、自分の人形を一つ取上げてフムという風に見た。

「まだ私の顔に慣れていただけませんか。毎日一緒に居れば少しは親近感が沸くかと」
「いー加減にしろよ。俺が実物より人形の方がよくなったらどうするんだ」
「それは困ります」
 藤原は本当に困ったように首を傾げて人形をソファの上に置いた。


 広い二間続きの部屋を宛がわれてここに住むうちに、増えたのは人形ばかりではなかった。部屋の壁にはテレビやらオーディオ機器にゲーム機がきっちりと嵌め込まれ、広いデスクにはパソコンがあり、後ろには書棚が二つ並んでいる。ベッドルームは毛足の長い絨毯、大理石のテーブルやら英国調のソファ、彫刻の施された大きな鏡、マホガニー製の広いダブルベッド。クローゼットの中の衣類も増殖する人形と同じように増え続けている。

 俺ん家は昔は少しは羽振りもよかったから、そういう物の価値も少しは知っているが、藤原が俺に買ってくれるものはかなり上等の部類に入るものばかりなんだ。そういうものって、俺を縛る道具だよな。逃げられないのかな、この変態オヤジから……。

 チラッとまたあの王子さまの顔が浮かんだ。どうしたんだろう、俺。この前からあいつの顔が時々浮かぶが。

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