異世界転移したら断罪の現場でした。頼る人が婚約破棄した王子しかいません

拓海のり

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四章 無鉄砲王子と魔王様

17 片道切符と魔王様

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 クリス王子は、襲撃の後片付けをシドニーとジョサイアに任せて、リナの後を追って飛んだ。リナの居る場所の近くに飛べるように、転移魔法を組んでピアスに忍ばせたのだ。

 現場に飛べば、すでに熱量が上がり過ぎていて、梨奈を引き留める暇もなく放たれてしまった。魔族は地上に墜落して、影も形もない。

「リナ」
「私、殺しちゃった」
 慰める言葉もなくクリス王子はその身体を抱く。女神の筈の少女はあっさりさっぱりした性格だが、怒ると火の玉みたいになる。震える身体は王子の腕の中にすっぽりと収まる程なのに、あの熱量は何だ。それこそ女神だからか。
「どうしよう……」
「あいつは私にとっても、国にとっても、敵だ。それよりここは何処だ?」
「魔領……とか言ってたような」
『ここは魔領でーす』
 いつの間に来たのか、梨奈の熱気でへたっていたジェリーが、顔だけ出して説明する。
『ここは不毛の大地といってー、外から転移する時に使うんだ―』
 相変わらず緊張感のない話し方だが、のんびりしている暇はなかった。

「困った、帰れないぞ」
「え、何で?」
「魔領と我々の国々とは繋がっていない。ゲートというものがあるらしいが、我が国はまだ魔族と協定を結んでいないのだ」
「えっ? でもクリス殿下、ここに来たじゃない?」
「ピアスに転移魔法を仕込んだのだが、こんな所に来るとは──」
 どうも片道切符のようだ。無鉄砲王子だろうか。

「魔領とか想定していなかったの?」
「想定外だ、おまけにあの女を滅ぼしてしまったからな」
「あいつが私のこと取って食べるって言ったのよ! 正当防衛だわ」
 そこまで言ってハッと梨奈は気付いた。
「ちょっと待って──、ジジが転移してここに来たんだし、ジジが召喚してこの世界に来たんだったら、ジジがいなくなったら私元の世界に帰れないんじゃないの」
(うわーーーーん!! どうしよう。私のアホーーー!!)
「ジェリー、何とかならんのか」
「ジェリー、何とかして!」
 二人でジェリーに縋る。しかし、スライムの返事は無情なものだった。
『もう遅いー、見つかった―』

 散らばっていた魔族たちが戻って来たのだ。
 先頭に、先ほどとは違って、かなり強そうなお歴々がいる。

「彼奴は、我ら魔族四天王の最弱」
「魔族の面汚しよ」

「なんで? なんでこんな時に、ソレなの!?」

(私、脱力してもいいかしら)

 しかし、脱力している暇はなかったのだ。
「すごい熱量であったな」
 低い、寂のあるいい声が響いた。背の高い黒髪の男が現れた。
 四天王とその配下は彼に道を開けて跪く。
 クリスティアン王子が梨奈を背後に庇い、男を睨んだ。

 満を持して登場した男は、ラスボスだろうか。
 長い真っ直ぐの黒髪、立派な角、赤い瞳、薄い紫の肌、額にある模様も彼の端正で美しい顔を妨げることはない。
 おまけに、溢れるほどの威圧感があった。
 後ろに強そうな魔族の赤青二人の護衛を従えている。

 男は梨奈を見た。梨奈も男を見た。
 角とか、赤い瞳とか、薄い紫の肌とか魔族そのものに見えるのに、優美に小首を傾げるその様は艶やかに色気もあって、十二分にイケメンであった。

 低い寂のある声で「女神……、なのか。さもありなん」じっと梨奈を見透かすように目を細める。
「何と、美しい。流れ落ちる栗色の髪、魔族にふさわしいその榛色の瞳、何より、そのアラバスターの肌が……そそる……」

「認識阻害が効いていない」
 クリス王子が呟く。
『魔王様だよーー』
 能天気なジェリーの声。
「当たり前だ、余を誰だと思っている。余のような高位魔族に、そのような物が効く訳があるまい」

 何で、そんなのが出てくるの? もう終わりなの? ここで終わるの?
 短かった異世界ライフ、サヨナラ。
 案外短かったな。

 魔王は気軽に梨奈にすたすたと近付いて来た。
「娘、名は何と申す」
「あ、梨奈です」
 魔王が手を取ろうとして、何かに弾かれた様にその手を止める。
「男除けか、無粋な」
 クリス王子を睨んだ。

 クリス王子は梨奈を背に庇ったまま、魔王と対峙する。
「その娘を置いて行かぬか」
「だめだ」
「どうあっても」
「くどい」

 何処かで聞いたセリフだわ、と梨奈は思った。目の前で交わされている会話がまるで現実味がなくて、迫力のある美形二人の映画でも見ているようだ。
「では、戦うか」
「望むところだ」
 周りの魔族たちがザワリと蠢く。
「そなたたちは手を出すな。あの女のようになりたくなければ、控えていろ」
 跡形もなくなった女。またザワリと周りが騒めく。
「待って、ジジを殺したのは私だから……」
「リナ、下がって。そういう事じゃないから」
「下がっていよ」
 二人の圧に押し負けて、少し下がってしまう。

「その依怙贔屓なスキル、無しでは戦えぬか」
 魔王の言葉にクリス王子の頬が染まる。
「リナ、祝福を解いて」
「え」
「解いて、リナ」
 もう一度促される。
 殿下って熱血漢なの? 意地っ張りなの? 負けず嫌い?
 やっぱり無鉄砲王子だ。
 その顔を見上げて、その身体に腕を回して、願いを解く。
 一瞬クリス殿下の身体が淡く輝いて光が散って消えてゆく。
「ありがとう」
 殿下は頷いて魔王に向き直る。
 二人の周りに結界が張り巡らされた。


 結界の中で二人、剣を抜いて向かい合う。
 戦いは、そりゃもう魔王の方が圧倒的に強い。
 今代の魔王は強いとか言っていたけど、
 だてに魔王を名乗っている訳じゃあない。
 辛うじて剣を合わせても弾き飛ばされる。

 戦っている、無我夢中で。
 吹っ飛ばされて、傷を負って、転がっても、起き上がって、
 無様でも、ボロボロでも、剣をついて立ち上がる、金色の王子様。
 

 梨奈は泣き虫なのだ。
 ちょっと嬉しくても、悲しくても、腹が立っても、悔しくても、歯がゆくても、感動しても、人が泣いてるの見たって、涙がポロポロ出ちゃうんだ。
 だから泣いてもいいよね。

 こんなにボロボロになっても向って行く。
 一生懸命で、無我夢中で、
 それは多分誰かの為とかでなく、戦いが好きとかでもなく、何かよく分からないけど、多分何もかも無視して、度外視して、戦わなくちゃいけない時があって、
 でも何で、負けてボロボロなのに嬉しそうなんだろう。

 ちょっと胸がキュンとしちゃうんだけど。

 やがて、クリス王子は二合三合と打ち合えるようになったけれど、後が続かなくて魔王に吹っ飛ばされて剣を突き付けられ、そこで戦いは終わった。
 梨奈は結界の中に飛び込んで、王子に祝福をかけ直した。

「あの魔紋の除外対象に、余も入れよ」
 魔王様は試合の勝利者として、クリス殿下に何かの権利を求め、殿下はしぶしぶ了承したようだ。
「これでも余は譲歩している」
 と、ドヤ顔で言う。この魔王様の方が可愛いんじゃないの?
 ちょろっと梨奈はそう思った。

 その後は魔族の王都に行って、どういう訳か宴会になった。
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