女王様は十五歳 お忍び世直し奮闘記

佐倉じゅうがつ

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六章 公爵の孫娘

女王様のメイドはいたずら好きでいらっしゃる

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 話をしていくうちに自然といつもの雰囲気がもどってきた。
 この先いさかいと別れがあっても、自分たちなら乗り越えていける。そしてより強く結びつくと思えた。

 そして『いつも』にはもうひとり、欠かせぬ者がいる。女王は天井に向かって呼びかけた。

「ルネ、そろそろ入ってきていいですよ」



『かしこまりましたー』



 一枚の天井板がずらされ、ルネの頭がひょっこりと姿をあらわした。

「あらためまして……お嬢様、ヒノさん。おひさしぶりですー」

「うおっ! 姐さん、天井裏におったんか!?」

 数日ぶりに再会したメイドは、口元をあげてほほえみながら、ヒラリと着地した。

「にししっ。ソニアちゃんの追手を足止めしてからすぐここに。むしろお嬢様たちより早く着いちゃってたりしまして」

「ならば宿屋の前で待っていてもいいと思いますが……ルネらしいですね」

 ルネは幼少のころからいたずら好きだった。今は場をわきまえるようになったものの、遊び心をいつも忍ばせている。
 旅ではいつも楽しそうにふるまって周囲をなごませてきた。



「先ほどは一本とられましたが、これで返しましたよ」

「んー『孤児院』と聞いたとき、思わずガタっとやっちゃいましたからねー……おあいこってことにしましょうか」



 女王は、広場でルネがあらわれるまで気づかなかった。
 ルネは、『孤児院』と聞いて音をたてて気づかれた。

 ふたりが主従であるかぎり、このようなやりとりがこれからも続くだろう。

「なあソニア……物音、聞こえたか?」
「あたしは他を気にする余裕なんてなくて……」
「ウチも同じや……」
「天井からメイドさんが出てきたり、もうなにがなんだか……」



 ひそひそと話す声が聞こえるのはさておき、女王は尋ねた。

「ルネ、あなたが反応した理由……教えてもらえますか?」



 ルネが語った孤児院の情報は、聞き捨てならないものばかりだった。

 ひとつ、人身売買を行っていること。『商品』はもちろん子供たちだ。
 ふたつ、設立にかかわったのがソモンという名の男であること。
 みっつ、おそらくバレンノース公はこの事実を知らないであろうこと。

 そして――

「わたしもあそこで育ったんですよねー……子供心にあやしすぎて逃げちゃいましたけど」

「そうだったのですか……」

「で、幼いながらもたくましく生きてきた盗賊が『お城』に忍びこんだところ……耳の良いお方に見つかっちゃったわけです」

「ははーんなるほど。姐さんの実力のワケがやっとわかったで」



「ちょっと待って! あたし、子供を売ってたなんて知らないよ!?」

 ソニアが声をあげた。

「院長先生だってやさしい人だし、とても信じられないよ……それって昔の話なんじゃないの、証拠はあるの?」

「残念ですけど、これはわたしの記憶だけじゃありません。別件の調査で、証拠が出てきたんですよ」



 別件とはコルン地方でのできごと。貴族の男が欲望のために女性をさらおうとした事件だ。

「あの男の口ぶりは初犯のものでないと思っていましたが……まさか『買って』いたのですか?」

「はい。『将来有望』な子を見つくろい、屋敷で『育成』していました」

「なんてこと……」

「メイドさん、買われた子ってもしかして……三人いる? 連れていかれてから五年くらいたってる?」

「……はい」

 そう聞いたソニアはへたりこんでしまった。彼女が受けた衝撃はいかほどのものか……察するにあまりある。



「……許せへんな。特にソモンっちゅうやつ、やっていい商売とわるい商売があるってもんや!」

「ヒノカの言うとおりです。バレンノース公のためにも対処しなくては」



 ヒノカをバレンノース公のもとへ送る。ソモンの悪行を裁く。
 ふたつとも必ずやり遂げねばならない。さらにどこかでル・ハイドの罠が待ち受けているだろう……

 旅のなかで幾度となく世直しをしてきた女王だが、これがもっとも困難なものになりそうだった。





 夕方になり、女王とルネは孤児院へ向かった。
 ソモンの所業を知る証人として、院長を確保するためだ。

 この作戦はふたりだけで行うものではない。援軍のあてがあった。

「調査隊が来る時間にまちがいはありませんね?」
「はい。まじめなコルン公の家来らしい、しっかりした人たちですから」

 人身売買が明らかになり、コルン公は調査隊の派遣を決めていた。
 ルネも彼らとともにこの町へはいる予定だったが、報告のために先行してきたのである。

「おっ、きたきた。お嬢様、きましたよ」



 やってきた調査隊は、待っていたルネに礼をした。

「ルネ様。われら一同、到着いたしました!」
「ご苦労さまですー。さっそくですけど、やっちゃいますか」

「はっ!」

 最初は自分に任せてほしい、と願い出たルネがさっそく扉をたたいた。



「……なんだね君たちは?」

 扉を開けて出てきたのは白髪まじりの男。
 孤児院側には事前通知をしていない。相手からみれば抜き打ちという形。

 とつぜん訪れた者たちにおどろいているようだ。



「おひさしぶりですね、院長先生」
「……どこかで会ったかな?」

「以前ここで暮らしていたルネです。覚えてませんか?」

 男はしばし考えるしぐさを見せたが、すぐに首をふった。

「なにを言うかと思えば……どれだけの子供がいると思っているんだね。いちいち覚えているわけがないだろう」

「記憶にひっかかるものもありませんか?」

「くどいね君は。用がないなら子供たちの迷惑だ、帰ってくれ」



「……そうですか」

 ため息をついたルネは懐から書状をとりだし、院長に見せつけた。

「コルン地方の公爵の命により、ここの調査に来ました。おとなしく協力してください」

「なにっ!?」

「さっきの答え次第ではやさしくしてあげようかと思いましたけど。なしですね!」



 彼女はふっきれたように晴れやかに、そしていたずらっぽく笑った。





 こうして孤児院に強制調査がはいり、不相応な大金や契約書、顧客の一覧表などが見つかった。



 証拠はそろった。
 残る課題はすべてバレンノース城で解決するだろう。

 決戦のときが近づいていた。
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