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拠点にて/レベル上げ
しおりを挟む=== 拠点/再 ===
ダンジョン攻略へのファーストアタック翌日。
昼過ぎに起きたカズヤは、パソコンの前にいた。
濁った目で、暗い顔で。
だが。
名無しの勇者:ファーストアタックで第三階層!? マジかよ有望じゃん!
ベテラン勇者LV.1:昨日のテイマー勇者か
仮免勇者:ダンジョンの入り口を見つめて三日が経ちました。俺、勇者やめようかなって
自宅警備員X:焦らない焦らない。人は人で俺は俺
名無しの勇者:いろんな勇者がいていいんだって。みんな勇者なんだって
名無しの勇者:ダンジョン第二階層から第八階層までは落とし穴で一直線でした。すぐ帰ったけど
犬好き勇者:ハス美かわいかったなあ
かませ勇者B:おうおう、やるじゃねえか新人勇者。あん時は絡んで悪かったな
かませ勇者A:お前はまだ二階層止まりだもんな! 新人勇者に先越されてんぞ?
ベテラン勇者LV.1:いいか新人、できなかったことよりできたことに目を向けろ。ダンジョンじゃ前向いてないと死ぬからな
(自称)陽キャ勇者:だから死なないけどね! あっでも後ろ向きすぎると死にそうな気がする
掲示板にダンジョン攻略の結果を報告すると、カズヤは褒め称えられた。
最初の攻略でフィールド型の階層まで到達したのは誇れることだったらしい。
“お前ら優しすぎかよ。ちょっと元気でてきた”
かませ勇者A:はっ、これだから新人勇者はよォ。いいか、出るのは元気じゃねえ、勇気だ
かませ勇者B:俺たちは勇者だからな!
名無しの勇者:かませ勇者がなんか言ってる。ねえそのロールプレイ疲れない?
犬好き勇者:いいからはよハス美うつせ! 毎秒アップしろ!
カズヤの口に笑みが浮かぶ。
同類で同志の勇者たちはどこまでも優しく、どこまでもふざけている。
まるで、自分もそうされることを求めているかのように。
“ありがとうお前ら”
そう書き込んだカズヤの目は潤んでいた。
人は強い心を持つから勇者になるのではない。
勇者になったから強くなるのだ。
戦うことなく逃げ出したモンスターの姿がカズヤの頭をよぎる。
薄暗いダンジョンで明かりに照らされたモンスターは、シワが深く、目尻を下げて、立ち去るカズヤをしょんぼりと見送った。
その姿は、記憶にあるより小さく思えて。
“俺、もうちょっとがんばってみるわ”
ファーストアタックと報告を終えて、カズヤは決意を新たにした。
ダンジョン攻略に向けた、カズヤの特訓がはじまる。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
真の勇者08:まずは目的地を見定めろ。話はそれからだ
“ファミ○……おっと、ダンジョンの最深部は、ウチから行ける距離に二つあるんだ”
かませ勇者A:マッピングは終わってるだと!? やるじゃねえか新人勇者!
かませ勇者B:おいおいおい、こりゃあマジで先を越されるかもなあ
“片方は歩いて30分。でも都市型ダンジョンでモンスターの数が多い”
雪国勇者:難易度はそこまで高くないけど、低いわけでもないね
名無しの勇者:馬車や二輪車も使えないとなるとなあ。夜は数が減るけど最悪なモンスターがうろついてるし
“もう一つは片道一時間弱だけど、モンスターが少ない農地だらけのフィールド型ダンジョン。ただ、途中でモンスターの巣がいくつかあるんだ”
名無しの勇者:モンスターの……巣……?
(自称)陽キャ勇者:郊外都市、農地のあたりに存在する巣。そうか、工場、おっと、モンスターの巣ね!
名無しの勇者:もうちょっとうまい言い換えありそう
ベテラン勇者LV.1:そのタイプの巣は活動時間以外は静かなはずだ。そっちがいいんじゃないか?
アドバイスに従って、目指す最深部を見定める。
○ァミマへのルートを調べる。
カズヤが住む実家から、徒歩で行けるファ○マは二つだ。
一方は新興住宅地の中を30分ほど歩いた先に、もう一方は田畑の隙間を抜けて工場がちらほら建つエリアを一時間ほど行った先にある。
セブン○レブンであれば歩いて10分ほどで、すぐに真の勇者になれたものだが。
初期設定の妙である。ちなみにローソ○は徒歩圏内に存在しない。マチカフェぇ……。
“時間よりモンスターの方が怖いからなあ。遠いけどそっちにする”
かませ勇者B:はっ、まあ戦い慣れてねえ新人勇者にはいいんじゃねえか?:
ベテラン勇者LV.1:テイムしたモンスターがいるなら対抗手段になるだろう。それに、遠くても支えになってくれるはずだ
犬好き勇者:うらやましい。俺にもハス美を!
真の勇者17:遠いのか。ならば体を鍛えるべきだろう。行き倒れては話にならない
(自称)陽キャ勇者:あとは装備も整えないとね! かっちり系より動きやすい装備を!
目標を決めたら、あとはそこに向かって突き進むだけだ。
勇者たちのアドバイスに従って、カズヤは行動をはじめた。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「よし、これで二往復。……けっこうキツイな」
階段を上がると、途中でカズヤを追い抜いたハス美が待っていた。うえであそぶ? ハス美とあそぶ? とカズヤの足にまとわりつく。
昼間、モンスターが出払ったダンジョンで、第一階層と第二階層を結ぶ階段を昇り降りする。
運動らしい運動を何年もしてこなかったカズヤはそれだけで息が上がる。
「はは、遊んでるわけじゃないんだ」
カズヤの言葉がわかったのかわかってないのか、ハス美はたたーっと階段を下りていった。
階段の下でカズヤを見上げる。
「……もう一往復するか」
テイムしたモンスター以外のモンスターがいない日に限ってだが、カズヤは毎日のように階段昇降を繰り返した。
勇者の基本である、足腰を鍛えるために。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「これはまだ着れるかなあ? どうなんだろ、みんなに聞いてみるか」
がさごそとクローゼットを漁って装備を探す。
装備というか服を探す。
あと中学のジャージは外に着ていけない。聞くまでもない。
先輩風勇者:そんな装備で大丈夫じゃない。ほかにないのか?
ベテラン勇者LV.1:たしか新人勇者は宝箱に食料やポーションがあったり、回復の泉に着替えがあったりしたな
自宅警備員X:あー、そういうタイプか。ならなんとかなるんじゃない?
かませ勇者A:けっ、テイマー勇者は甘ちゃん勇者かよ。恵まれた環境はちゃんと活かすんだぞ?
“え? どういうこと?”
(自称)陽キャ勇者:ダンジョンの第一階層や第二階層に出現するモンスターには複数のタイプがある。中には、モンスターからサポートNPCに変貌を遂げるタイプも存在するんだ!
冷やかし勇者:NPCて
名無しの勇者:ノンプレイヤーじゃないから。せめてサポートキャラって言ってください
“それは……その……”
ベテラン勇者LV.1:何、すぐに変わるわけじゃない。まずはフラグを立てないとな
「それはちょっと無理かもなあ。あ、ネット注文して受け取りと支払いをお願いするぐらいならなんとか……? 手紙だっていいんだし……」
拠点にある装備ではダンジョン最深部に挑めない。
頭を抱えたカズヤに提示されたのは、新たな装備の入手方法だった。
けっきょく頭を抱えているようだが。
ともあれ。
目標を定めてダンジョンを調べ、真面目に訓練に取り組み、装備に頭を悩ませて。
ダンジョン攻略に向けて、勇者カズヤは一歩一歩前に進んでいた。
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