甘い世界

白川ゆい

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甘い世界の向こう側

翔さんが怒る理由2

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 翔さんは自他共に認めるくらい私に甘甘で、私がきっとどんなわがままを言ったり普通なら怒らせるようなことをしても怒らない。と、思う。私が告白されたり他の男の人に迫られたり触られたりしても、特に怒らない。それどころか「すずちゃん可愛いもんね。分かるよ」と共感を示したりする。翔さんはいつも穏やかでイライラしたりもしない。
 でも、一つだけ。翔さんの機嫌が目に見えて悪くなることがある。それは。

「すずちゃん、これどうしたの?」

 いつもみたいに一緒にお風呂に入った時。翔さんが私の腕の青痣を見て不機嫌そうに目を細めた。慌てて腕を引いたのもいけなかった。翔さんは私の体をしっかりと抱き締め固定する。そして腕を掴んだ。
 そう、翔さんは。私の体に傷や痣が出来ることを極端に嫌がる。

「うっ、いや、あの、」

 口ごもる私に翔さんは更に不機嫌になって、その綺麗な顔に不釣合いな眉間の皺を作った。翔さんは私を抱きあげ浴槽の淵に座らせる。冷たい壁が体温を奪ってぶるりと震えた。

「……他は?」

 背中、腕、脚。明るいところでじっくりと体を見られるのはとても恥ずかしい。翔さんにそんな気がなくても、羞恥から体が火照ってくる。さっき翔さんに見つかった腕と、右の脛。二つの痣に、翔さんは慈しむようなキスを落とした。

「これ、どうしたの?」

 さっきと同じ質問だけれど、今回は誤魔化すことを許さない厳しさを持っていた。脚に口付けながら私を見つめる翔さんのまっすぐな視線に負けて、私は正直に話した。

「今日……、バイト行く途中で、囲まれて……」
「女の子?」

 コクンと頷く。それで翔さんは全てを察したらしい。今度は泣きそうに顔を歪ませて私の頬を撫でた。

「……ごめん」

 翔さんが悪いんじゃないのに。
 数人の女の人に囲まれた時、すぐに分かった。お店によく来る常連さんばかりで、翔さんのことをあからさまに好きな人たちだったから。

「あそこで働いてるだけで翔くんに近付きすぎ」

 私と翔さんの関係には気付いていないようだった。いや、違う。翔さんが私みたいなのに本気になるわけがないって、決めつけているようだった。

「好きになっても報われるわけないんだし、諦めれば?」

 でも、何を言われても平気だった。前なら落ち込んで自信をなくしてやっぱり翔さんと付き合うなんて無理だと思っていたかもしれない。けれど今の私には翔さんがいる。
 突き飛ばされてハイヒールで蹴られた。痛かった、けど。
 私は俯く翔さんの頬に触れた。すべすべした肌は優しく甘い体温を持っていて。私はこの体温があれば何を言われても平気。

「翔さん、ずっと私といてくれるよね?」

 私の言葉に、翔さんは弾かれたように顔を上げた。そして、泣きそうな、でも嬉しそうな顔で微笑んだ。

「……当たり前。すずちゃんは?」
「うん。私、翔さんがいれば何もいらない」

 引き寄せられるように抱き合い、唇を重ねた。唇を割り、舌が入ってくる。私はその舌に吸い付き、絡めて深く深く翔さんを求めた。
 翔さんの手が胸に触れる。ピクンと反応した私の体を更にきつく抱き締め、翔さんは唇を離した。

「……ね、すずちゃん。試してみたいことがあるんだけど、いい?」

 甘い微笑みは麻薬のよう。中毒になってしまった私にはもう、抗うことなどできない。
 お風呂から上がって、体を拭くとお互い裸のまま抱きあげられた。どこに向かっているかなんて考えなくても分かる。抱き合いながら何度もキスをして、翔さんは寝室のベッドに私を寝かせた。

「すずちゃん、痛い?」

 腕と、脚。痣ができているところを、翔さんは何度も舐め上げる。痛みはない。今あるのは痛みではなく、疼くような快感だ。

「んんっ」

 それに気付いているはずなのに、翔さんはいつまでも脚を舐め続ける。甘い声を洩らしてしまう私の中心は熱くなって、濡れているのが自分でも分かるほど。もじもじと脚を動かしていると、翔さんは私を見上げてふっと笑った。

「自分で触ってみて?」
「……っ」

 そんなの、恥ずかしくてできない。そう思ったのに、私の手は無意識のうちに胸と秘部に向かっていた。

「んっ」

 そこに触れただけで、ピクンと体が跳ねる。一度触れたら、もうそれからは止まらなかった。自分の気持ちいいように指を動かし、喘いでしまう。

「あっ、んんっ、あ」
「気持ちいい?」

 隣に寝転んだ翔さんが私の顔をじっと見ながら微笑む。翔さんに見ながらこんなことするなんて、恥ずかしいのに……止まらない。乳首を摘まんだり弾いたりしながら気持ちいい突起を弄って。横にいた翔さんが体を起こして少し離れ、戻ってきた時には前にすこし使ったおもちゃを持っていた。

「これ使っていいよ」

 翔さんはピンク色の機械のスイッチを入れ、私の胸に近付ける。そして。

「ああっ、ん!」

 絶妙な振動に、体が跳ねた。色の変わっている部分をなぞり、そして乳首を掠めて。翔さんが指先に塗りつけた唾液を乳首につけ、そこに機械を押し当てる。えっちで、気持ちよくて、息もできない。

「今日はね、もう一個も使ってみよっか」

 それを胸に押し当てたまま、翔さんはもう一つの機械を私に見せる。そして、私の脚を大きく開かせて。

「こんなに濡れてるなら、慣らさなくてもいいか」

 翔さんの微笑みだけで興奮するようになってしまった私の体は、これからどうなってしまうのだろう。口が勝手に空いて塞がらない。ずぷり、と。卑猥な音を立てて入ってきたそれは、ゆっくりと確実に私の中を犯していった。

「うっ、か、けるさ、」
「大丈夫。怖くないからね。すずちゃん、俺のこと見てて?」

 涙が滲む視界に、翔さんが映る。翔さんは私をまっすぐと見つめて、そしてスイッチを押した。

「んんんっ、あっ、ああっ、翔さ、」

 内側から襲う快感に体を震わせる。抜いたり挿したりされる度、尿意に似た感覚が押し寄せてきて。

「あっ、やだ、出ちゃう……!」
「ん、見せて」

 翔さんが機械のないほうの乳首をペロリと舐めた瞬間。堰を切ったように液体が噴き出した。同時にイッてしまった私は、ガクガクと震え体を強張らせる。
 そんな私の体をうつ伏せにし、翔さんはまた抜き差しを再開した。ベッドに突っ伏し、シーツを掴んで快感に耐える。その間も液体が噴き出し、シーツを濡らしていった。剥き出しのお尻を翔さんは舐め、そして機械が入っていない穴も舐めた。お風呂で洗ったとは言え、恥ずかしくて。でも翔さんは抵抗する私の体をゆっくりと撫で、嫌がる私に言うことを聞かせてしまう。機械が刺さったまま、翔さんの指がもう一つの穴に入ってくる。勝手に声が洩れる。生理的に滲んだ涙が頬を伝う。秘部から溢れてくる蜜を指に塗り付け、翔さんは入れる指を増やして。私は目を見開いてイッた。

「気持ちよさそうだね」

 私の体勢はそのままに、翔さんは私の顔の横に移動した。目の前に来た翔さんのそれは大きく固く天井を向いていて、先端から溢れる液体を塗りつけるように翔さんは自分の手でそれを扱いた。目の前で、更に大きくなっていくそれに私はゴクリと息を呑む。刺さったままの機械を締め付けるのが分かった。お腹の奥が疼いてたまらない。

「っ、はぁ、」

 翔さんの口から零れる吐息は甘くて。私は思わずそれに手を伸ばしていた。翔さんが手をどける。私はそれを扱き、口に含んだ。大きくて、顎が痛い。でも、気持ちいい。翔さんの大きな手が頭を撫でてくれる。嬉しくて見上げれば、翔さんは上気した顔で私を見下した。その顔が色っぽくて、胸がきゅうんと疼く。

「すずちゃん、気持ちい」

 翔さんはそう言って体を倒した。必然的に更に奥までそれが来て、喉を突く。緩く腰を振る翔さんに、喉まで犯されて。私はそれだけでイキそうになってしまう。同時に、お尻にまた指を入れられて。色々なところを一気に攻められて、私は簡単にイッてしまった。翔さんは私の痙攣する体をそのままに、機械を抜き取る。ふるりと震えた体を押さえ付け、次は翔さんのそれが一気に入ってきた。

「っ、は、」

 息苦しくて声も出ない。握っているシーツがぐちゃぐちゃになる。ぱちゅん、ぱちゅん、と卑猥な音を立てて翔さんは腰を打ち付けて。また後ろに指を入れてくる。

「ね、今度こっちに入れてみる?」

 耳元で囁かれて、ゾクゾクと体が震えて。翔さんは「楽しみだね」と笑った。

「っ、う、翔、さ、」
「ん?」
「ぎゅってして……」
「……いいよ、おいで」

 一旦抜いて、翔さんが座ったところに跨る。また入ってきたそれに背を仰け反らせたまま、翔さんに抱き締められた。

「……すずちゃん」
「んっ、ん」
「俺、決めたよ。就職して落ち着くの待とうと思ってたけど、もう結婚しよっか」
「っ、え、」
「俺にはすずちゃんだけだって知ったら、みんなすずちゃんに酷いことしないでしょ?」

 目の前の翔さんが、泣きそうな顔で微笑む。私の体に傷や痣ができた時に翔さんが不機嫌になるのは、怒っているのではなく、悲しんでいるのだと。そう気付く。もし翔さんを好きな人にやられたのではなく、自分で怪我をしても翔さんは悲しむのだろう。

「っ、私、ずっと翔さんのそばにいたい」
「……すずちゃん」
「絶対に、翔さんを一人にしないから」

 翔さんは目を瞬かせて、嬉しそうに笑った。

「……やっぱり、俺にはすずちゃんだけだよ。毎日思う。こんなに愛しい子、他にはいないって」

 抱き合って、何度もキスをして。私たちは一晩中体を重ねていた。
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