王子様の憂鬱

白川ゆい

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本編

私の告白のお話

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 先輩と女の人の会話を聞いて、頭が真っ白になった。先輩はそんなことしない。そう思いたくても、実際にこの耳で聞いてしまった。
 先輩から何度も電話を貰っても、ショックで放心状態だった私は何もする気が起きなかったのだ。
 彼女は「自分は特別だと思っていた」と言っていた。先輩が今までくれた言葉を信じたいと思っている時にその言葉は重かった。

「もしかして軽蔑された、とか……?」

 先輩が恐る恐る聞いてくる。先輩と目を合わせる勇気はない。
 軽蔑?先輩の言葉を反芻してみる。それは少し違う気がする。男の人にそういう欲が女性よりたくさんあって時にそれは抑えきれないものだというのは知っているつもりだ。
 思ったのは、私に好きだと言っていたのに先輩の欲が他の人に向けられたこと。だって、だって。

「私には、あの日から触ってくれなかったのに」
「……え」
「あれから先輩、私に触らなかった。好きだって言われてそれがすごく幸せで心地よくて、でも求められないから私に飽きたのかなとか他の人で発散してるのかなとか。いっぱい悩んでたからああ、やっぱり他の人に行ったんだ、私じゃダメだったんだって」
「ちょ、ちょっと待って奈々美ちゃん」

 先輩と一線を越えそうになった日。私は先輩が無理やりにでも関係を進めてくれることを望んでいた。例えそうならなくても、一歩踏み込んだ関係になれたと思っていた。
 でも、でも。私は。

「自分の気持ちも分からないのに、先輩が他の人のところ行くのやだって、先輩のこと独り占めしたいって、そんな勝手なことばっかり……」
「お、おお、落ち着いて、奈々美ちゃん。何個か誤解があって」
「え?」
「まず、あの女の子のことだけど、俺はあの子のこと知らない。相川が……、あ、相川って俺とよく一緒にコンビニに行く奴だけど、アイツが遊んだ子なんだ。相川が逃げるからよく一緒にいる俺に言ったんだと思う。伝えて欲しくて」

 先輩じゃ、なかったんだ。勝手に思い込んで誤解した申し訳なさと、心の中を埋め尽くしていく安堵。

「あと、あれから奈々美ちゃんに触れなかったのは、あの……、俺この前鼻血出したから。情けなくて。ちょっとまだそれで立ち直れなかっただけで、奈々美ちゃんに飽きたとか他の子に行ったとかそんなことは絶対にない」
「そんな……、全然気にしてなかったのに」
「うん、奈々美ちゃんはそうだよね」

 優しい声に顔を上げると、先輩は驚くほど優しく微笑んでいた。ううん、驚くほどじゃない。よく考えたら先輩はいつもこんな顔で私を見ていた。優しくて、穏やかで、特別な。胸がいっぱいになる。幸せな気持ちが身体中を満たしていく。

「あ、それで、勘違いじゃなければ、だけど」
「はい」
「奈々美ちゃん、俺のこと、好き?」

 先輩の言葉に思考が止まる。好き。好き?その言葉を頭の中で繰り返しているうちに、何故か顔が熱くなっていく。

「さっきから、好きって言われてる気がしてならないんだけど……」

 自分の言ったことを思い返そうとしたけれど、恥ずかしすぎてやめた。とんでもないことを言った。でも、でも。
 先輩は、本当に嬉しそうな顔をしている。私の言葉で、それだけでこの人は幸せになってくれるのかなって。少しだけ自惚れて。

「好き、です」

 その言葉はしっくりとパズルみたいに綺麗にはまったのだ。私の心の一番奥に。
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