はい、こちら伝言課

かみくら+

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プロローグ

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 俺の知っている限りでは、お役所勤めでしかも三十にもなって部署異動をさせられるのは“めっちゃ良い事をした”または“めっちゃ悪い事をした”の2択である。

 
 俺は元々市民課に所属していて、新卒で入ってから8年間ずっとそこで頑張ってきた(つもりである)。
 住民からのクレームであったり、大変なことも少なからずあったけど、自分なりにまあまあ満足のいく仕事だった。
 だが、今日出勤一番に俺に言い渡されたものは「辞令」という名の“左遷のお知らせ”であった。


「一ノ瀬くん。君には今日から“伝言課”に移ってもらうことになったから」

「…え?いや、急すぎるっていうか…まだ先週立案したあの企画書、昨日渡した時『じゃあ、これで進めて』って課長仰ってましたよね?」

「ああ、確かに言ったな」

「ああ…って。じゃあ、その件はパァですか!?」

 俺、あの企画書二徹して書き上げたのにぃ!!

「いやいや、それはもちろん進めるよ?アレ結構良く出来てたから、佐田くんに引き継いでもらえるように頼んどいたから」

「(ああ、良かった!佐田なら大丈夫)…って、いや、そうじゃなくてですね?」

「じゃ、そういう事だから。デスク移動に午前中使っちゃっていいからね」


それじゃ、と言って課長は自分の席にさっさと戻って行ってしまった。

「ああ、課長!…っくそ、異動の理由を言ってくれよ。聞けずじまいじゃないか…」

 別に俺は企画の心配だけをしてるわけじゃないんだけど!?

 まあ上の決定でこうなってしまった以上、仕事であるからウダウダしていても仕方ない。(こうしてキッパリと割り切れる所は彼の長所である)
デスクの移動のために、俺は段ボールに荷物を詰めて着々と準備を進めることにした。



「はぁ…」

 あれから小一時間ほどで荷造りが終わったので、出来上がった2箱の段ボールを抱えて配属先である「伝言課」の扉の前に来たものの。

(“伝言課”ってロクな噂がないんだよなあ…)

 大体、この扉から人が出入りしているのを見たことがない。人が常にいないような課であるか、はたまた廃人同様な出来損ないがいるかのどちらかであろう。
 俺はどちらかというと前者に賭ける(というか、そうであって欲しい)。

 こうして居ても俺の腕が痺れるだけであろうから、決心して、扉をノックした。

コンコンコン… 

「失礼します。今日から配属になりました。元市民課の一ノ瀬です…」


 こうして俺は、『伝言課』という名の未知の扉を開いたのだった。
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