地味な僕が女の子になれる皮を手に入れたら、大学のイケメンな先輩に本気で恋されてしまって正体がバレないか不安です

ひびきの

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第十五話 甘い毒と親友の誓い

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夕暮れの空を見上げながら、僕は固く唇を噛み締めた。
この嘘がどんな結末を迎えようとも、僕はまたこの皮を被り、彼女の前に立つだろう。その笑顔が見られるなら、どんな罪でも背負ってやる。
その決意は、奇妙なほどに僕の心をすっきりとさせた。罪悪感の沼の底で、一つの光を見つけたような感覚。行き先が地獄であろうとも、進むべき道が定まったことで、僕の足取りには力が戻っていた。

自室に戻り、ずるりと「皮」を脱ぐ。鏡に映る無骨な「相沢悠真」の顔。以前なら目を背けていたその男の姿を、僕はまっすぐに見つめた。こいつは、千紗の隣に立つための「結月」を維持するための器だ。そう割り切ると、あれほど苛まれていた自己嫌悪が、少しだけ薄れていく気がした。
その夜、千紗からの映画の誘いに、僕は震える指で『ぜひ行こう!』と返信した。すぐに弾むような喜びのメッセージが返ってくる。その温かいやり取りが、僕の決意をさらに固くさせた。
約束の土曜日、僕はいつも以上に時間をかけて「結月」になっていた。

待ち合わせ場所の駅前に着くと、少しだけそわそわした様子の千紗が立っていた。白いブラウスにふわりとした花柄のスカート。大学で見るよりもずっと女の子らしいその姿に、僕は思わず見惚れてしまう。

「結月ちゃん!ごめん、待った?」

「ううん、私も今来たとこ」

駆け寄ってくる千紗の笑顔は太陽のように眩しくて、僕は目を細めた。映画館へ向かう雑踏の中、千紗が「はぐれないようにね」と悪戯っぽく笑い、僕の腕にそっと自分の腕を絡めてきた。

「……っ!」

柔らかな感触と温もりが、薄いブラウス越しにダイレクトに伝わってくる。腕に押し付けられる胸の膨らみを意識してしまい、僕は息を呑んだ。男の身体が、この無防備なスキンシップに反応しかけているのを、必死で理性で押さえつける。

映画は評判通りのラブストーリーだったが、僕は隣にいる千紗の存在が気になって、物語に集中できなかった。クライマックスの感動的なシーン、場内からすすり泣きが聞こえ始めた時、不意に肩に重みを感じた。見ると、千紗が僕の肩に、こてん、と頭を預けていたのだ。

暗闇の中、すぐそばで感じる千紗の体温と、甘いシャンプーの香り。その無防備な姿に、僕の胸は締め付けられた。守ってやりたい。この温もりを、誰にも渡したくない。そんな独占欲が、男としての本能が、僕の心の奥底で静かに鎌首をもたげていた。



映画が終わって近くのカフェに入ると、千紗は興奮冷めやらぬ様子で感想を語り続けた。

「あのシーン、本当に泣けたよね!主人公の男の子、かっこよかったー!」

そのキラキラした表情を見ているだけで、僕の心は満たされていくようだった。しばらくして、千紗は楽しそうに頬杖をつくと、僕の顔をじっと見つめた。

「ねえ、結月ちゃんってさ、本当に話しやすいな。なんだか、他の子と話すのとはちょっと違うっていうか…特別な感じがするんだ」

真剣なその声に、僕は言葉を失った。千紗は続ける。

「あーあ、もし結月ちゃんが男の子だったら、絶対あの映画の主人公みたいにモテモテだっただろうなー。そしたら私、一番に好きになっちゃうのに!」

冗談めかした口調。だが、その瞳は笑っていなかった。僕の心臓に、氷の杭が打ち込まれたような衝撃が走った。それは、この上なく甘美で、同時に残酷すぎる「もしも」の話だった。

「お泊り会の時も思ったんだけど、結月ちゃんといると、すごく安心するの。だから、これからも、私の…一番の親友でいてほしいな」

「親友」という言葉。それは、今の爆弾発言を隠すためのカモフラージュか。それとも、決して越えられない壁を示す最後通牒か。彼女の信頼しきった眼差しは、僕の罪悪感を麻痺させるには十分すぎるほどの力を持っていた。

「…うん。もちろん」

そう答えるのが、精一杯だった。
カフェを出ると、外はすっかり夜の帳が下りていた。駅までの道を二人で並んで歩く。人混みを避けた拍子に、千紗の手が僕の手に、かすかに触れた。僕がびくりと手を引こうとするより先に、千紗の指が、まるで確かめるように、するりと絡んでくる。一瞬だけのことだったが、その熱は僕の全身を駆け巡った。
帰り道、駅の改札で別れる時だった。

「今日は本当にありがとう!すっごく楽しかった!」

千紗が満面の笑みでそう言うと、次の瞬間、不意にその腕を広げ、僕の身体をぎゅっと抱きしめた。



「――!?」

完全に不意を突かれ、僕は硬直した。全身で感じる千紗の体のライン、耳元にかかる温かい吐息。そして、囁くような声が僕の鼓膜を震わせた。

「大好きだよ、結月ちゃん」

僕の頭が真っ白になる。「もしも」の言葉、絡められた指先、そしてこの抱擁。友情の証だと頭では分かっている。でも、この温もりと「大好き」という言葉を、男である自分が、どう受け止めればいい?

すぐに体を離した千紗は、少し照れたように「じゃあね!」と手を振り、改札の向こうへと消えていった。

一人残された僕は、しばらくその場から動けなかった。
自室に戻っても、今日の出来事の熱が身体から抜けず、僕は「結月」の姿のまま、ただ呆然と立ち尽くしていた。千紗の温もり、耳の奥で反響する「大好き」という囁き。この「皮」を脱いでしまったら、今日の出来事がすべて、ただの「相沢悠真」の汚い妄想に成り下がってしまう気がしたからだ。

水色のリボンタイ付きシフォンブラウスと、紺色のプリーツスカート。今日のために選んだこの服を、今は脱ぐ気になれなかった。

僕はゆっくりと姿見の前に立つ。そこに映るのは、パールカチューシャをつけた、僕ではない誰か――「桜井結月」。だが、この女の皮膚の下で疼く熱と高鳴る鼓動は、紛れもなく男のものだった。

千紗の言葉が、脳内で何度もリフレインする。
『もし結月ちゃんが男の子だったら…そしたら私、一番に好きになっちゃうのに!』
冗談だ。そう頭では分かっている。でも、もし、万が一。その淡く危険な期待が、身体の芯にじわじわと熱を灯していく。

僕は無意識に、千紗が腕を絡めてきた自分の左腕を、右手でそっとなぞった。彼女の胸の柔らかさ、体温。記憶が皮膚感覚として鮮明に蘇り、ぞくりと背筋が震える。鏡の中の結月が、僕の欲望を映し出すかのように、妖艶に微笑んだように見えた。
もう、抗えなかった。

僕はゆっくりと、スカートの裾を握りしめたまま、ベッドにうつ伏せになる。枕に顔をうずめると、千紗の甘い匂いがまだ残っているような錯覚に陥った。



下着越しに、クッションの角を秘部に押し当てる。男としてのやり方ではない、どこかで聞きかじっただけの、女の子の慰め方。最初は戸惑うように、ぎこちなく腰を揺らし始める。布と布が擦れる音さえ、千紗の衣擦れの音のように聞こえてくる。直接的ではない鈍い刺激が、じわりじわりと背徳感を煽った。



瞼を閉じる。暗闇の奥から浮かび上がるのは、僕の肩に頭を預けてきた千紗の無防備な横顔。カフェで僕をじっと見つめていた、あの真剣な瞳。人混みで絡められた指先の熱。そして最後に僕を抱きしめた、華奢な腕の感触。

『大好きだよ、結月ちゃん』

その声が、引き金だった。
腰の動きが、記憶をなぞるように熱を帯びていく。これは千紗に触れられている感覚の再現。女の身体で、女として与えられた愛撫を反芻しながら、男として快感を得ようとしている。このねじれが、どうしようもなく甘美だった。

「ん…っ、ふぅ……ぁ…」

「…ちさ…っ」

腰の動きが激しくなり、思考が真っ白に塗りつぶされる。全身が弓なりに強張り、喉の奥から引き攣ったような甲高い息が漏れた。びくびくと全身が痙攣し、熱い痺れが背筋を駆け上がっていく。



痙攣が収まった後、僕は脱力したままシーツに沈み込んだ。スカートや下着が、じっとりと湿っている。虚ろな目で鏡を見つめると、そこには頬を上気させ、乱れた髪のままぐったりとしている結月の顔があった。



絶頂の後に訪れたのは、深い虚無感と、さらに濃くなった罪悪感。彼女の純粋な好意を、こんな形で汚してしまった。

それでも、今日の記憶は、また次の夜も、僕をこの倒錯した儀式へと誘うだろう。僕はもう、この甘美な地獄から、抜け出すことなんてできそうになかった。
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