地味な僕が女の子になれる皮を手に入れたら、大学のイケメンな先輩に本気で恋されてしまって正体がバレないか不安です

ひびきの

文字の大きさ
17 / 19

第十七話 偽りのままで、あなたを求めて

しおりを挟む
結月として過ごした休日は、僕の心に確かな温もりを残してくれた。月曜日からの大学生活も、以前のような灰色一色ではなくなっている。この心の平穏が、僕が嘘の代償に手に入れた、かけがえのない宝物だった。

その平穏が、木曜日の夜、唐突に破られた。

僕は自室で「相沢悠真」として、模型雑誌をぼんやりと眺めていた。無防備で、完全に油断しきっていた、そんな時だった。枕元に置いていた結月用のスマートフォンが、けたたましい着信音と共に激しく震えだした。画面に表示された名前は、『小野寺 陽翔』。

陽翔とは、あのカフェでの出会い以来、たまにメッセージを交わす程度の、付かず離れずの関係が続いていた。最近は少し疎遠になっていて、このまま関係が薄れていってしまうのではないかと、漠然とした不安を抱くこともあった。当たり障りのない会話は、僕にとって心地よい刺激ではあったけれど、それ以上のものではなかったはずだ。

心臓が、喉から飛び出るかと思った。

僕は震える指で着信を切り、代わりにメッセージアプリを起動した。

『ごめんなさい、今ちょっと声が出せない状況で…。メッセージでもいいですか?』

すぐに既読がつき、『そっか、ごめん、急に。大丈夫?』と、彼の優しさが伝わってくる返信が来る。

『大丈夫です。何か急な用事でしたか?』

『ううん、急ぎじゃないんだけど…。でも、どうしても結月ちゃんに伝えておきたいことがあって』

彼のメッセージは、いつもより少しだけ、硬い気がした。

『初めてカフェで会った時から、ずっと考えてた。結月ちゃんのこと、もっと知りたいって。君は、他の誰とも違う特別な何かを持ってる。俺は、多分…』

その言葉の先を、僕は見たくなかった。でも、見ずにはいられなかった。告げられる。僕が「女」として、この学園の王子様に、求められる。その倒錯した事実に、身体の奥が疼く。

だが、僕が固唾を飲んで次の言葉を待っていた、その時だった。

『ごめん!今、ゼミの仲間から緊急の呼び出しが…!本当にごめん、また改めて連絡する!』

一方的なメッセージを最後に、陽翔からの連絡は途絶えた。

後に残されたのは、「告白未遂」という生々しい余韻と、激しい混乱だけだった。僕はスマートフォンを握りしめたまま、ベッドに倒れ込む。ゼミの呼び出しを盾に、僕はとっさに陽翔の告白を遮ってしまった。それは、この関係を終わらせたくないという無意識の抵抗だったのか、それとも、この嘘が暴かれることへの恐怖だったのか。どちらにせよ、僕は彼からの大切な言葉を、自分の手で遠ざけてしまったのだ。

もし、あの時ゼミの呼び出しがなかったら?陽翔は、僕に何と告げるつもりだったのだろう?

瞼を閉じると、甘い妄想が勝手に立ち上る。

---

夕暮れのキャンパス。人気のない中庭。陽翔が真剣な顔で僕の華奢な手首を掴む。少しだけ汗ばんだ彼の指先の熱が、僕の皮膚を通して、直接神経を焼くようだった。

「好きだ。俺と、付き合ってほしい」

まっすぐな瞳で告げられ、僕は驚いて言葉を失う。その沈黙を肯定と受け取ったのか、彼はたまらないといった様子で、僕の身体をぐっと引き寄せた。僕の腰に回された彼の腕は、思ったよりもずっと骨張っていて、男の人のものなのだと生々しく実感させられる。

ふわりと香る、彼の清潔なシャツの匂いと、微かに混じる甘いコロンの香り。それが僕の理性を麻痺させていく。彼の広い胸板に、結月の柔らかい胸が押し付けられ、その感触に僕の中の「相沢悠真」が昂っていくのが分かった。

「返事、聞かせてくれるまで離さない」

耳元で囁かれた、少しだけ掠れた甘い声。彼の吐息が耳にかかり、ぞくりと背筋が震える。僕の長い髪を、彼のごつごつとした指が優しく梳いていく。その男らしい指と、僕の女の髪との倒錯的な組み合わせが、僕の下腹部に鈍い熱を灯らせた。

彼の顔が、ゆっくりと近づいてくる。閉じられた瞼、長い睫毛。その唇が、僕のそれに触れる、寸前――。

---

ハッと我に返ると、そこは殺風景な自分の部屋。腕にあるのは陽翔の温もりではなく、ゴワついたスウェットの感触。鏡に映る無骨な男の自分。「相沢悠真」である現実が、甘い妄想を打ち砕く。

僕は、陽翔に女として求められることに、これほどまでに心を揺さぶられている自分に気づく。彼からのメッセージは、僕が「結月」として過ごす日常に、抗いがたい引力を与えていた。それは単なる友情や憧れではない。女として、彼に触れてほしい、愛されたいと願う、抗いがたい熱だった。この嘘の先に、どんな未来が待っているのか分からない。それでも、陽翔からのその甘い誘惑を、僕はもう拒絶できないと感じていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

白雪様とふたりぐらし

南條 綾
恋愛
高校1年生の紫微綾は、生きることに疲れ、雪の山で自らの命を終えようとしたその瞬間―― 美しい御小女郎姿の少女・白雪が現れ、優しく彼女を救う。 白雪は実は古の仏神・ダキニ天の化身。暇つぶしに人間界に降りた彼女は、綾に「一緒に暮らそう」と提案し……? 銀髪の少女と神様の、甘く温かなふたりぐらしが始まる。 【注意事項】 本作はフィクションです。 実在の人物・団体・宗教・儀礼・場所・出来事とは一切関係ありません。 作中で登場する神仏や信仰に関する表現は、物語の雰囲気づくりを目的とした創作によるものであり、特定の宗教や思想を推進・否定する意図は一切ございません。 純粋なエンターテイメントとしてお楽しみいただければ幸いです。

幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに

家紋武範
恋愛
 となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。  ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました

ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。 意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。 しかし返ってきたのは―― 「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。 完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。 その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...