6 / 19
第六話 嘘と、初めてのデート
しおりを挟む
あの夜、勢いで陽翔とのデートを承諾してからの数日間、僕の心は地獄と天国を高速で往復していた。
平日の昼間、「相沢悠真」として大学の講義を受けている時、ふとした瞬間に陽翔の姿が視界に入るだけで、心臓が凍りつくような恐怖に襲われた。
もし彼に「週末、楽しみだね」なんて話しかけられたら?僕(相沢悠真)が、彼と約束した「結月」と同一人物であるはずがない。その絶対的な矛盾が、僕の喉元に突きつけられたナイフのように、常に冷たい光を放っていた。
だが、夜。自室のベッドの中で、彼とのメッセージ履歴を読み返す時間は、何よりも甘美な毒だった。『楽しみだね!』という彼の言葉が、僕の胸を焦がす。彼は「結月」に会えることを、心から楽しみにしてくれている。その事実が、僕の罪悪感を麻痺させ、週末への期待感を膨らませていく。
そして、運命の土曜日がやってきた。
これは、ただの逢瀬じゃない。僕が「結月」として、現実の世界で一人の男性と対峙する、初めての舞台だ。SNSの投稿とはわけが違う。誤魔化しは効かない。完璧でなければならない。
僕は鏡の前で、いつも以上に時間をかけて「結月」を創り上げていく。皮を装着する際の、あの脳を焼くような快感さえ、今日はこれから始まる戦いのための儀式のように感じられた。
まず、下着を選ぶ。引き出しから取り出したのは、勝負のために新調した、少し大人っぽい黒のレース。その繊細な布地を指でなぞりながら、ふと、あり得ないはずの光景が頭をよぎった。
――陽翔の部屋で、僕がこの服を脱がされて……。
その妄想はあまりに突飛で、僕は自分の思考回路に混乱しながらも、頬が熱くなるのを止められなかった。
そんな倒錯した想像が、今日一日、僕の背徳感を静かに煽り続けることになる。
次に、服装を選ぶ。彼に嫌われたくない。その一心で、僕はクローゼットの中の服を吟味した。
派手なものはダメだ。
露出が多すぎるのも、きっと引かれる。
僕が選んだのは、オフショルダーの白いブラウスと、上品な淡い紫色のフレアスカート。
誰からも好感を持たれるであろう、無難で、清楚で、可愛い服装。僕の個性ではなく、ただ「嫌われないための結月」を、僕は必死に作り上げていく。
待ち合わせ場所の駅前広場。僕がそこに立つと、無数の視線が突き刺さる。だが、もう恐怖はない。むしろ、この視線の一つ一つが、僕が「特別な女の子」であることの証明のように感じられ、僕の背筋を伸ばさせた。
「結月さん、ごめん、待った?」
振り返ると、そこにいたのは私服姿の陽翔だった。
シンプルなシャツにジャケットを羽織っただけのラフな格好なのに、彼の存在感は圧倒的だった。その爽やかな笑顔に、僕は練習してきたはずのセリフを忘れ、ただ頷くことしかできなかった。
「よかった。その服、すごく似合ってるね。なんだか、雰囲気もちょっと違って見える」
「あ……ありがとうございます。陽翔くんも、その……かっこいいです」
ぎこちなく返すと、彼は「ほんと?よかった」と嬉しそうに笑った。
「じゃあ、行こっか。映画館、こっちで合ってるかな?」
陽翔はごく自然に僕に話しかけ、歩き出す。雑踏の中、彼はさりげなく僕を車道側から庇ってくれた。
「結月さんって、普段、映画とかよく観るの?」
「いえ、あまり……。でも、観るのは好きです」
「そっか。俺も、映画館で観るのは久しぶりかも。なんか、特別感あっていいよね」
なんてことのない会話。でも、その一つ一つが僕の心臓をぎこちなく揺らす。
「陽翔くんは、お休みの日って、いつも何してるんですか?」
「うーん、特に決まってないかな。友達と遊ぶか、家でゴロゴロしてるか……。あ、でも最近、料理にハマっててさ」
「お料理、ですか?」
「そう。この前ナポリタン作ったら、見た目が壊滅的でさ。味は普通だったんだけど」
そう言って照れくさそうに笑う彼の横顔は、僕の知らない、年相応の男の子の顔だった。
映画館のロビーに着くと、陽翔は「俺、チケット買ってくるよ」とスマートに言ってくれた。
彼がカウンターに並ぶ後ろ姿を眺めながら、僕は自分が本当に「女の子」としてデートに来ているのだと実感する。
戻ってきた彼が「何か飲む?ポップコーンはキャラメルと塩、どっち派?」と屈託なく尋ねてきた。
「え、えっと……キャラメル、が好きです」
「お、俺も。じゃあ、キャラメルポップコーンと……飲み物はどうしようか。コーラでいい?」
「はい、大丈夫です」
そのありふれたやり取りが、僕にはあまりにも新鮮で、眩しかった。
二人でポップコーンとドリンクを持ち、薄暗いシアターの通路を歩く。指定された席に座ると、隣り合う肩の距離の近さに、改めて心臓が大きく跳ねた。やがて照明が落ち、予告編が始まる。その瞬間、僕は高揚と緊張で息をすることさえ忘れそうだった。
物語のクライマックス、僕たちの間にあるポップコーンを取ろうとした彼の手が、僕の手に偶然触れた。
「……っ!」
触れたのはほんの一瞬。それでも、僕の身体は雷に打たれたように硬直し、心臓の音が、彼に聞こえてしまうのではないかと本気で思った。
映画の後、僕たちはオープンカフェに入った。
「いやー、面白かったな。あのラストシーン、どう思った?」
「あ……すごく、感動しました。主人公の気持ちを考えると、切なくて……」
「分かる。俺も、あそこはぐっときちゃったな。結月さん、感受性豊かなんだね」
悪戯っぽく笑う陽翔に、僕はどう返せばいいのか分からず、ただ頬を赤らめることしかできなかった。
「そういえば、結月さんって甘いもの好き?ここのパンケーキ、有名らしいよ」
「え、あ、はい、好きです」
「じゃあ、それ頼んでみようか」
そんな風に、彼は僕の反応を見ながら、ごく自然に会話を繋いでくれる。
「結月さんって、本当にミステリアスだよね。SNSもやってないみたいだし、普段は何してるの?サークルとか、バイトとか」
核心に触れる質問に、僕は用意していた嘘を並べる。手芸サークルに入っていること、カフェでたまに手伝いをしていること。僕が言葉を紡ぐたび、陽翔は「そうなんだ、似合うね。手芸って、何作ってるの?」と興味深そうに尋ねる。
僕は必死に頭を回転させ、「マフラーとか、簡単なものです」と嘘を重ねた。その笑顔が、僕の罪悪感を深く、深くえぐっていく。
会話が途切れた瞬間だった。陽翔が、ふと真剣な表情で僕を見つめた。
「あのさ、失礼なこと聞くけど……結月さんって、すごく綺麗で、優しいんだけど……なんていうか、時々、すごく儚げで、触れたら壊れちゃいそうに感じるんだ。何か、抱えてることとか、ある?」
時が、止まった。
彼の真っ直ぐな瞳が、僕の嘘をすべて見透かしているようだった。
頭が真っ白になり、指先が急速に冷えていく。まずい、これは練習していない。
「……ごめんなさい」
僕の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。それは演技なんかじゃない、恐怖と自己嫌悪から流れ出た、本物の涙だった。
「私……人に、言えないことが、多くて……」
それ以上は、言葉にならなかった。
「あ、ごめん!本当にごめん!変なこと聞いたよな。泣かせるつもりじゃ、全然なくて……!」
僕の涙を見た陽翔は、心底慌てていた。彼はテーブル越しにそっと手を伸ばし、僕の手に触れるか触れないかのところで、躊躇うように指を止めた。
「無理に聞こうとしたわけじゃないんだ。ただ、もっと結月さんのことを知りたいなって思っただけで……。ゆっくりでいいから。いつか、話したいって思ってくれた時に、話してくれたら嬉しい」
彼の優しさが、鋭い刃物のように僕の心を切り裂いた。どうして、この人はこんなに優しいんだ。僕が、こんな汚い嘘をついているのに。
デートの帰り道、陽翔は僕を家の近くまで送ってくれた。
「今日は、本当に楽しかった。……また、会ってくれる?」
別れ際、彼は少し不安そうな顔でそう尋ねた。僕に頷く以外の選択肢など、あるはずもなかった。
一人、自分の部屋に戻り、乱暴に服を脱ぎ捨て、皮を剥がす。鏡に映るのは、情けない顔で立ち尽くす、「相沢悠真」の姿。床に散らばった結月の抜け殻が、僕の犯した罪の大きさを物語っているようだった。
陽翔の優しさに触れるたび、僕は確かに彼に惹かれていく。
「デート」は、心の底から楽しかった。彼ともっと一緒にいたい。その感情は、紛れもなく本物だった。
しかし、その楽しさが大きければ大きいほど、僕が決して彼とは結ばれてはいけない存在だという事実が、残酷なまでに突きつけてくる。
もうやめよう。そう思うのに、ポケットの中で震えるスマートフォンを手に取ると、そこには陽翔からのメッセージが届いていた。
『今日は本当にありがとう。泣かせちゃってごめん。でも、少しだけ君のことを知れた気がして、嬉しかった。よかったら、また来週も会えないかな?』
その文面が、甘い毒のように僕の心を蝕んでいく。
どうすればいい?この嘘を、今すぐ終わらせるべきなのか?
でも、そうしたら、この胸を焦がすような甘い時間は、すべて幻のように消えてしまう。陽翔の隣にいられる喜びを、僕はもう手放せる自信がない。
僕は、スマホを握りしめたまま、その場に崩れ落ちた。
答えなんて、どこにもなかった。ただ、混乱した頭の中で、楽しかったデートの記憶と、どうしようもない罪悪感が、ぐちゃぐちゃに混ざり合っていくだけだった。
平日の昼間、「相沢悠真」として大学の講義を受けている時、ふとした瞬間に陽翔の姿が視界に入るだけで、心臓が凍りつくような恐怖に襲われた。
もし彼に「週末、楽しみだね」なんて話しかけられたら?僕(相沢悠真)が、彼と約束した「結月」と同一人物であるはずがない。その絶対的な矛盾が、僕の喉元に突きつけられたナイフのように、常に冷たい光を放っていた。
だが、夜。自室のベッドの中で、彼とのメッセージ履歴を読み返す時間は、何よりも甘美な毒だった。『楽しみだね!』という彼の言葉が、僕の胸を焦がす。彼は「結月」に会えることを、心から楽しみにしてくれている。その事実が、僕の罪悪感を麻痺させ、週末への期待感を膨らませていく。
そして、運命の土曜日がやってきた。
これは、ただの逢瀬じゃない。僕が「結月」として、現実の世界で一人の男性と対峙する、初めての舞台だ。SNSの投稿とはわけが違う。誤魔化しは効かない。完璧でなければならない。
僕は鏡の前で、いつも以上に時間をかけて「結月」を創り上げていく。皮を装着する際の、あの脳を焼くような快感さえ、今日はこれから始まる戦いのための儀式のように感じられた。
まず、下着を選ぶ。引き出しから取り出したのは、勝負のために新調した、少し大人っぽい黒のレース。その繊細な布地を指でなぞりながら、ふと、あり得ないはずの光景が頭をよぎった。
――陽翔の部屋で、僕がこの服を脱がされて……。
その妄想はあまりに突飛で、僕は自分の思考回路に混乱しながらも、頬が熱くなるのを止められなかった。
そんな倒錯した想像が、今日一日、僕の背徳感を静かに煽り続けることになる。
次に、服装を選ぶ。彼に嫌われたくない。その一心で、僕はクローゼットの中の服を吟味した。
派手なものはダメだ。
露出が多すぎるのも、きっと引かれる。
僕が選んだのは、オフショルダーの白いブラウスと、上品な淡い紫色のフレアスカート。
誰からも好感を持たれるであろう、無難で、清楚で、可愛い服装。僕の個性ではなく、ただ「嫌われないための結月」を、僕は必死に作り上げていく。
待ち合わせ場所の駅前広場。僕がそこに立つと、無数の視線が突き刺さる。だが、もう恐怖はない。むしろ、この視線の一つ一つが、僕が「特別な女の子」であることの証明のように感じられ、僕の背筋を伸ばさせた。
「結月さん、ごめん、待った?」
振り返ると、そこにいたのは私服姿の陽翔だった。
シンプルなシャツにジャケットを羽織っただけのラフな格好なのに、彼の存在感は圧倒的だった。その爽やかな笑顔に、僕は練習してきたはずのセリフを忘れ、ただ頷くことしかできなかった。
「よかった。その服、すごく似合ってるね。なんだか、雰囲気もちょっと違って見える」
「あ……ありがとうございます。陽翔くんも、その……かっこいいです」
ぎこちなく返すと、彼は「ほんと?よかった」と嬉しそうに笑った。
「じゃあ、行こっか。映画館、こっちで合ってるかな?」
陽翔はごく自然に僕に話しかけ、歩き出す。雑踏の中、彼はさりげなく僕を車道側から庇ってくれた。
「結月さんって、普段、映画とかよく観るの?」
「いえ、あまり……。でも、観るのは好きです」
「そっか。俺も、映画館で観るのは久しぶりかも。なんか、特別感あっていいよね」
なんてことのない会話。でも、その一つ一つが僕の心臓をぎこちなく揺らす。
「陽翔くんは、お休みの日って、いつも何してるんですか?」
「うーん、特に決まってないかな。友達と遊ぶか、家でゴロゴロしてるか……。あ、でも最近、料理にハマっててさ」
「お料理、ですか?」
「そう。この前ナポリタン作ったら、見た目が壊滅的でさ。味は普通だったんだけど」
そう言って照れくさそうに笑う彼の横顔は、僕の知らない、年相応の男の子の顔だった。
映画館のロビーに着くと、陽翔は「俺、チケット買ってくるよ」とスマートに言ってくれた。
彼がカウンターに並ぶ後ろ姿を眺めながら、僕は自分が本当に「女の子」としてデートに来ているのだと実感する。
戻ってきた彼が「何か飲む?ポップコーンはキャラメルと塩、どっち派?」と屈託なく尋ねてきた。
「え、えっと……キャラメル、が好きです」
「お、俺も。じゃあ、キャラメルポップコーンと……飲み物はどうしようか。コーラでいい?」
「はい、大丈夫です」
そのありふれたやり取りが、僕にはあまりにも新鮮で、眩しかった。
二人でポップコーンとドリンクを持ち、薄暗いシアターの通路を歩く。指定された席に座ると、隣り合う肩の距離の近さに、改めて心臓が大きく跳ねた。やがて照明が落ち、予告編が始まる。その瞬間、僕は高揚と緊張で息をすることさえ忘れそうだった。
物語のクライマックス、僕たちの間にあるポップコーンを取ろうとした彼の手が、僕の手に偶然触れた。
「……っ!」
触れたのはほんの一瞬。それでも、僕の身体は雷に打たれたように硬直し、心臓の音が、彼に聞こえてしまうのではないかと本気で思った。
映画の後、僕たちはオープンカフェに入った。
「いやー、面白かったな。あのラストシーン、どう思った?」
「あ……すごく、感動しました。主人公の気持ちを考えると、切なくて……」
「分かる。俺も、あそこはぐっときちゃったな。結月さん、感受性豊かなんだね」
悪戯っぽく笑う陽翔に、僕はどう返せばいいのか分からず、ただ頬を赤らめることしかできなかった。
「そういえば、結月さんって甘いもの好き?ここのパンケーキ、有名らしいよ」
「え、あ、はい、好きです」
「じゃあ、それ頼んでみようか」
そんな風に、彼は僕の反応を見ながら、ごく自然に会話を繋いでくれる。
「結月さんって、本当にミステリアスだよね。SNSもやってないみたいだし、普段は何してるの?サークルとか、バイトとか」
核心に触れる質問に、僕は用意していた嘘を並べる。手芸サークルに入っていること、カフェでたまに手伝いをしていること。僕が言葉を紡ぐたび、陽翔は「そうなんだ、似合うね。手芸って、何作ってるの?」と興味深そうに尋ねる。
僕は必死に頭を回転させ、「マフラーとか、簡単なものです」と嘘を重ねた。その笑顔が、僕の罪悪感を深く、深くえぐっていく。
会話が途切れた瞬間だった。陽翔が、ふと真剣な表情で僕を見つめた。
「あのさ、失礼なこと聞くけど……結月さんって、すごく綺麗で、優しいんだけど……なんていうか、時々、すごく儚げで、触れたら壊れちゃいそうに感じるんだ。何か、抱えてることとか、ある?」
時が、止まった。
彼の真っ直ぐな瞳が、僕の嘘をすべて見透かしているようだった。
頭が真っ白になり、指先が急速に冷えていく。まずい、これは練習していない。
「……ごめんなさい」
僕の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。それは演技なんかじゃない、恐怖と自己嫌悪から流れ出た、本物の涙だった。
「私……人に、言えないことが、多くて……」
それ以上は、言葉にならなかった。
「あ、ごめん!本当にごめん!変なこと聞いたよな。泣かせるつもりじゃ、全然なくて……!」
僕の涙を見た陽翔は、心底慌てていた。彼はテーブル越しにそっと手を伸ばし、僕の手に触れるか触れないかのところで、躊躇うように指を止めた。
「無理に聞こうとしたわけじゃないんだ。ただ、もっと結月さんのことを知りたいなって思っただけで……。ゆっくりでいいから。いつか、話したいって思ってくれた時に、話してくれたら嬉しい」
彼の優しさが、鋭い刃物のように僕の心を切り裂いた。どうして、この人はこんなに優しいんだ。僕が、こんな汚い嘘をついているのに。
デートの帰り道、陽翔は僕を家の近くまで送ってくれた。
「今日は、本当に楽しかった。……また、会ってくれる?」
別れ際、彼は少し不安そうな顔でそう尋ねた。僕に頷く以外の選択肢など、あるはずもなかった。
一人、自分の部屋に戻り、乱暴に服を脱ぎ捨て、皮を剥がす。鏡に映るのは、情けない顔で立ち尽くす、「相沢悠真」の姿。床に散らばった結月の抜け殻が、僕の犯した罪の大きさを物語っているようだった。
陽翔の優しさに触れるたび、僕は確かに彼に惹かれていく。
「デート」は、心の底から楽しかった。彼ともっと一緒にいたい。その感情は、紛れもなく本物だった。
しかし、その楽しさが大きければ大きいほど、僕が決して彼とは結ばれてはいけない存在だという事実が、残酷なまでに突きつけてくる。
もうやめよう。そう思うのに、ポケットの中で震えるスマートフォンを手に取ると、そこには陽翔からのメッセージが届いていた。
『今日は本当にありがとう。泣かせちゃってごめん。でも、少しだけ君のことを知れた気がして、嬉しかった。よかったら、また来週も会えないかな?』
その文面が、甘い毒のように僕の心を蝕んでいく。
どうすればいい?この嘘を、今すぐ終わらせるべきなのか?
でも、そうしたら、この胸を焦がすような甘い時間は、すべて幻のように消えてしまう。陽翔の隣にいられる喜びを、僕はもう手放せる自信がない。
僕は、スマホを握りしめたまま、その場に崩れ落ちた。
答えなんて、どこにもなかった。ただ、混乱した頭の中で、楽しかったデートの記憶と、どうしようもない罪悪感が、ぐちゃぐちゃに混ざり合っていくだけだった。
10
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
白雪様とふたりぐらし
南條 綾
恋愛
高校1年生の紫微綾は、生きることに疲れ、雪の山で自らの命を終えようとしたその瞬間――
美しい御小女郎姿の少女・白雪が現れ、優しく彼女を救う。
白雪は実は古の仏神・ダキニ天の化身。暇つぶしに人間界に降りた彼女は、綾に「一緒に暮らそう」と提案し……?
銀髪の少女と神様の、甘く温かなふたりぐらしが始まる。
【注意事項】
本作はフィクションです。
実在の人物・団体・宗教・儀礼・場所・出来事とは一切関係ありません。 作中で登場する神仏や信仰に関する表現は、物語の雰囲気づくりを目的とした創作によるものであり、特定の宗教や思想を推進・否定する意図は一切ございません。
純粋なエンターテイメントとしてお楽しみいただければ幸いです。
幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに
家紋武範
恋愛
となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。
ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。
俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました
ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。
意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。
しかし返ってきたのは――
「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。
完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。
その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる







